2話(前編) しっかり仕切り直して『力が欲しいか』をやり直す
僕の本格的な『力が欲しいか』ライフ。
その出だしは、失敗に終わった。
魔物に襲われている冒険者に、付与魔法で力を与えようとしたが……相手に余裕が全くないため、話を聞いてくれなかったのである。
だが僕はくじけない。それからも魔物に襲われている冒険者を見つけ、語りかけた。
「力が……欲しいか……」
「うああああああああ!」
ぐしゃー、と魔物に殺される冒険者。
さらに別の、襲われてる冒険者に話しかけても、
「力が……欲しいか……」
「うああああ!」
ぐしゃー。
この繰り返し。話しかけては無視される。ダメな客引きみたいである。
(こりゃダメだ。いちど仕切り直そう)
問題点を整理してみる。
(襲われてるやつに、話しかけるのはいいんだ。でも説明する前に殺されてしまう)
では、どうすべきか……あ、そうだ。
(時間を止めよう)
これなら『力が欲しいか』と語りかけても、相手が魔物に殺されない。完璧な理論だ。
で、その方法だが……僕が修行してきた時魔法には、
【停止】
というものがある。文字通り、時間を止める魔法だ。
ただこれは非常に難しく、超ハイレベルな魔導士がやっても0,5秒程しか止められない。僕でも2秒くらいだ。
(だが修行次第で、止まる時間を延ばせるだろ)
それから僕は1日あたり20時間を、【停止】の時間を延ばすための瞑想に当てた。これまで16時間しか瞑想しておらず、サボり気味だと思ってたので丁度いい。
前世に行った『千日回峰行』(1日48キロ走るのを、千日間行う)のおかげで、大抵の修行はぬるま湯に思えるのだ。
時間停止の修行と並行し、『力が欲しいか』をする時の服装も考える。やっぱ見た目って大事だからね。
(よし——『コードギアス』のゼロみたいな恰好にしよう)
燕尾服、襟の立ったマントを着ることにする。あと仮面もつけよう。正体不明の方がかっこいいし。
(燕尾服とか、どうやって作ろうかな)
仕立屋などに頼むわけにはいかない。そこから足がつき、僕の正体がバレる恐れがある。
ならば……
僕は広間で刺繍をしている母に抱きつき、
「ママー! 裁縫おしえて!」
「あらあらアルドちゃん。興味があるの?」
「うん!!」
ちなみにアルドとは、僕のこの世界での名前だ。
母から、針への糸の通し方を教わっていると……僕より6つ上の姉・アンジェラが顔を出した。
『この街一番』と評判の、美女である。
剣が得意で、よく稽古に付き合わされる。僕は手を抜きまくって力を隠しているが。
「こら、またアルドは母様に甘えて。この愚弟! 男らしく強くなりなさい!」
「ふぇええ!! ママー! 姉上がいじめるー!」
姉にちょいちょい邪魔されながらも。
それから僕は母上に裁縫を教わり、なんとか燕尾服などを作れた。
僕には、いくら感謝しても足りない相手が二人いる。
付与魔法などを教えてくれた母上……そして僕を殺し、異世界に送ってくれたヤンデレ『サキ』だ。
『力が欲しいか』のため、改善する所はまだある。
(声も、なんとかしないと)
いくら超越者っぽい恰好をしても、子供の声で『力が欲しいか』と言っては、説得力に欠ける。
聞くだけで畏怖されるような……声優の、大塚明夫さんのような声を出したい。
僕は夜中に屋敷を抜け出し、街の外で発声練習を行った。
「あーあー、ああああああー。『ククク……力が……欲しいか』……」
それに、風魔法の練習もした。
マントをカッコよく靡かせたり、超越者っぽく空に浮いたりするためである。
理想の『力が欲しいか』をやるため、一切の妥協はしないのだ。
そして、五年の時が過ぎた。
(後編に続く ※投稿済みです)
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