1章 使えないやつだな 1話 糖尿病には気を付けて
毎日の残業で真夜中に家へと向かう途中で堂園啓介は頭をバッドで殴られたような激痛で街灯もろくにない細い道で倒れた。
次の瞬間目を開けると、まばゆい光にあふれる純白の空間にいた。何がどうしたのか理解できずに周りを見渡していると1人の女性に声をかけられる。
「堂園啓介さん、あなたは糖尿病からの脳梗塞で亡くなりました」
「は?」
「ですから堂園啓介さん、あなたは糖尿病からの脳梗塞で亡くなりました」
俺はようやく俺のみに何があったのかがわかってきた。
あの時の痛みはバッドで殴られたのではなく脳梗塞だったのか。今までに首を切ったやつに殴られたのかと思った。
「そうですか。まあ、食事制限もろくにしていませんでしたからね」
「あなたには天界で安らかに眠ってもらいます」
「はい」
しばらく気まずい沈黙の時が流れる。なんだというのか早く送るなら送ってくれればいいのに。
「早く天界に行ってもらえませんか?」
送ってくれないのか。自分で行くタイプなのか。
と言われても周りを見渡してもどこにも展開のような場所は見当たらない。
「女神さま、天界ってどっちに行けばたどり着けますか?」
「正確には私は女神ではありません。そして天界には安らかな気持ちを抱けば行くことができます。過去などを振り返って安らかな気分になってください」
なんだその胡散臭い行き方は。
女神っぽい人の言う通りに過去を振り返ろうとするとなぜかイライラするようなことばかり思い出す。使えない部下そして過剰な仕事を与えてくる部長、その2つに板挟みにされどれほど腹が立ったことか。
まだ部下を本気で叱ってないし、部長にも反抗したことがない。死ぬ前にやってやればよかった。
「あの、そんなにイライラしていると天界に行けませんよ」
ふと思った疑問を聞いてみる。
「天界に行けなかったら私はどうなるんですか?」
「どうにもなりません。ずっとこのままです」
「このままあなたと2人きりですか? 送ってくれることはできないんですか?」
若くてかわいい女神っぽいのがいるならずっとこのままというのも悪くない。むしろそれがいい。
「私は女神ではないのでできることが制限されていて送ることができないのでこのままだと私と2人きりです」
「天界はどんなところなのですか?」
「何もないところです。心穏やかに過ごしてもらいます」
じゃあ、頑張って天界に行く必要なんてないじゃないか。そう思ってその場で胡坐をかいて
「お茶もらえる?喉乾いたから」
と堂々と要求していく。
あいつは俺を天界に送れないし、俺もイライラしていて天界に行けないんだからお茶でも飲んで落ち着くべきだろう。
「え? 何ですか。なんでそこに座ってお茶なんてもらおうとしてるんですか!」
「心安らかにするためにはお茶でも飲んで落ち着かないとな」
「そうなんですか。では、はいどうぞ」
「ありがとう」
女神もどきがどこからかお茶を出す。女神もどきにもらったあったかいお茶を飲みながらこれからどうするかを考える。
いずれは心安らかに天界に行くことになるのだろうからとりあえずここで満足するまでゆっくりすればいいのか。
俺はどのくらいの間ここに滞在していられるのだろう。確か女神もどきはイライラしていると行けないと言っていた。だったらずっとイライラしていれば天界になんて行かなくて済む。
なんで俺が心穏やかに永遠を生きなければならないのか。
神に微笑まれたのは女神もどきではなく俺のようだ。
だから俺はお茶をすすりながら大きな声で高らかに言う。
「お茶ぬるいんだけど」
あらさがしは俺の得意分野だ。任せろ。
「え?心を落ち着けて天界に行ってくれるのでは?」
「何を言っているんだ? 俺のイライラが消えるまでは行けないだろ。こんなぬるくてまずいお茶を出してどういうつもりだ?」
常に傲岸不遜にを心がけてこれからの日々を過ごそう。そう心に誓った。
俺の決意が伝わったのだろうか。女神もどきが頬を引きつらせて涙目になっている。
死んでから俺は贅沢三昧の日々を過ごしながらも常に不満を心がけ、姑のごとくダメ出しをした。
ここでは病気にはならないというから糖尿病の心配なく食べられると思ってラーメンを出してもらったらあまりおいしくなかった。
いや、ラーメン自体はうまいのだがなぜか満足できないのだ。
考えてみたら糖質制限で禁止されているにも関わらず食べるラーメンがおいしいのだ。
そりゃ背徳感ラーメンなんて食べられないし、糖質以外は食べ飽きたしで何を食べてもなんだかおいしいと感じない。
だからどんどん俺は不満をためた。
どれほどの時が立ったのだろうか一応食事は24食目だから8日目になるのだろうかと考えていると、女神もどきが女性を1人連れてきた。
「あなたがいつまで経っても天界に行けない人ですか?」
「今カニ食べてるんで少し静かにしてもらえますか。カニは黙って食べるものでしょう」
「いい加減にしてください! この方は私の上司の天界の管理人です」
「ではあなたが本物の女神ですか」
「いえ、残念ながら私も女神ではありません」
「じゃあ、私を天界に送ってくれるのですか?」
「それは私にもできません」
ポンコツ女神と同レベルも使えないやつが何しに来たんだろうか。自分ならどうにかできると思ったのだろうか。舐められてるな。実に気に入らない。
「だから1つ私から提案があってきました」
ポンコツ女神とは違って提案があるそうだ。
「あなたは未練が残りすぎています。だからもう1度人生を送ってみませんか。そしてまたここに来てください」
「生き返れるんですか」
「ただし元居た世界には生き返れないのです。これ決まりなのでどうしようもないのです。もう1つの世界、剣と魔法の飛び交う世界に興味はありませんか」
「え!? この人には転移者としての素質はないですよ!」
女神もどきが失礼なことをわめいているが無視する。
「これを断るとどうなるんだ?」
生き返れるのは魅力的だが、異世界しかも剣と魔法ときた。正直科学の世界がいい。
「今までのようにこの子をいびりながら満足するまで生活してもらうことになります」
「ダメダメダメ! 早く異世界に行って! もうこいつの相手は嫌なのよ! 不満ばっかり何をしてもダメ出しばかりなの」
ふむ、この生活は楽しい。だがいつまでも不満ばかりため続けられるだろうか。正直この女神もどきも可哀そうだ。
説明を聞いてみると初心者には優しく転移した後にするべきことを教えてくれた。
「じゃあ、転移してみようかな」
「それではさっそく準備しますね」
「何か転移者特典みたいなのはないのか? このまま異世界に行っても飢え死にしてすぐにここに戻ってくるぞ」
異世界に着の身着のままで投げ出されたら生きていけない。言葉は喋れるのだろうか。今持っているお金やクレジットカードは使えるのか。不安は尽きない。
察してくれたのだろう。ダメな法とは違ってこいつとはまともに話せる。
「最低限の準備はこちらでさせていただきますので安心してください。ほら、あなたもこの転移者に送るギフトを早く選びなさい。」
「あの、今までの転移者にギフト上げちゃってもう何も残っていません」
なんだ?ギフト?特殊能力みたいなものだろうか。それにこのダメな方は持ってないのか。ホントに使えないな。
「ギフトもくれないのか。やっぱり転移するのやめてここで暮らすわ」
「お願いだから考え直して! ちょっとくらいなら何とかするから!」
本当に可愛そうになってきた。転移は興味はあるがギフトとかいうのをもらえないのは痛い。
「ちょっとくらいって何がもらえるんだ?」
「伝説の武器や特殊能力は不可能ですが、ある程度のものや平凡でいいなら能力を上げることもできます。これで勘弁してください。これ以上は無理です」
次の世界は危険な世界だからなあ。死にたくないしなあ。役に立つものをもらわないと。
そこで俺は気づく。
「俺の糖尿病ってどうなるの?そのまま送られたらすぐに死ぬんじゃない?」
「「あっ!」」
馬鹿なのかこいつらは。
「じゃあ、ギフトの代わりに糖尿病を治してくれ」
「はいっそれならできます!」
「それでは準備が整いましたね」
「「それでは行ってらっしゃいませ」」
「お世話になった。ありがとう」
俺は1週間ほど過ごしたここを出て転移するために門をくぐった。
いかがでしょうか。
今後を期待していただけると幸いです。