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正反対な異世界転移  作者: 玖火
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不良と秀才、王城へと至る

ヒーローになれると言えば、男ならまずもって一度は夢見たことだろう。強大な悪を倒し、人々に感謝と羨望の眼差しでもって歓迎される。

何とも素晴らしく、名誉に満ち溢れた存在。



…………実際になると、ここまで気が重くなるものとは思わなかったが。

「…………真琴、俺さ……喧嘩くらいしかした事ねえんだけど……」

「俺の方も戦うための武術ではなかったしな……あくまでも護身の術だ」

蓮士の方は対人戦の経験こそあれ、型も流派の欠けらも無い我流の喧嘩殺法……素早くと言えば聞こえこそ良いが、その場その場の行き当たりばったりで行う攻撃。


真琴の方はある一種の流派の格闘術を一通り身に付けているが、用途はあくまでも護身の為の力。自ら攻撃を加えに行っては真価を発揮する事は出来ない。


この時点でまたひとつ問題が増えたと言っていいだろう。

「俺達はまともに戦う為の技術も必要になってくる訳か」

「恐らくそうなる」

それに、相手が人間ならば兎も角、魔物という元の世界の常識の範疇外にある様な敵の存在もある。

彼等に対する攻撃の術を知るのは勿論のこと、それを身に付けることもおろそかにしてはならなくなってくる。

と顔を見合わせて考える二人に、

「そろそろ着くぞ二人共、窓を開けて外を見てみろ」

とのネージェ市長の声が掛かる。

窓を開け、そこから軽く身を乗り出して進行方向を覗き込む二人。

「おぉう……すっげー!」

「これはこれは……立派な」

堅牢さの見て取れる石造りの大きな門や扉、街を囲む城郭が目の前に現れる。周りの草原や森林なんかと相まって、海外のガイドブックや旅行者のパンフレットの表紙を飾りそうな美麗な景観だ。

少々減速し、門の少し前で馬車が止まる。何かしらの手続きを行っているのだろう、兵士の一人が先頭の馬車から降り、門番に書状のようなものを見せながら話をし始める。

少しして話し終わったのか、護衛が馬車に戻ると門番が門の上辺りにいるのであろう兵に合図を送り、兵が応えて何かを動かし始めた。と、歯車が作動するような音が聞こえ……重厚感のある格子がせり上がり、門が開かれる。

「うおおおおーー!?」

「そこまで驚くことでもないだろ!?」

ややオーバーにも見えるリアクションを取る蓮士に別の方で驚いた真琴が切り返す。しかしまあ、子供のようにはしゃぐ蓮士の気持ちがわからないでもないが……

「(ひねくれてるとは思うが、案外純粋な奴なんだろうか……?)」


余計に彼の事が掴めなくなる真琴であった。


石造りの街の道を走り続けて十数分ほど経ったであろう頃、再び馬車が止まった。それ即ち、目的地たる場所に着いたということである。

「着いたぞ、王城だ」

凛然としたネージェ市長の声と共に、外側から馬車の扉が開かれる。

兵士達に連れられる形で王城の門に行くと、ずらりと一糸乱れぬ整列をした兵隊が迎え出てくれた。

その悠然たる姿に思わず蓮士は声を零し、真琴は目を見張った。これ程までの出迎えという事もあり、少々恐縮しながら、鮮やかな色の石が散りばめられた道を真っ直ぐに歩み、王城の内部へと赴いた。

「RPGだ……」

「レン、まさかとは思うがそれ以外に表現方法が無かったりしたいだろうな」

「いや、だってホントにそう思うし……俺、器用な表現出来ないし……」

「……ま、まあ……ゆっくり学んでいけばいいと思う」

最も、既に退学寸前レベルの欠席をしている蓮士に学ぶ為の時間が十分にあればいいが、と心で愚痴をこぼす真琴であった。

「どうした、こっちだぞ。まさかもう疲れたのか?」

先を歩いていたネージェがくるりと振り返って言う。二人ははっとすると、少し早足でそれについて行った。

俗に言われる謁見の間に案内される道中に、通り過ぎる様々な部屋や設備の説明などをついでにして頂けた。どれもこれも現代を生きる蓮士や真琴には馴染みが薄く、且つ興味をそそられるものばかり。

市役所で見た転移装置が至る所にあるなど、魔法による技術が惜しげも無く使われているのも分かる。

それらを見る度に蓮士のリアクションに真琴が突っ込みを入れるという一連の流れが挟まれて少々時間を食った気がしてならない。


その後少しして、三人の歩みが止まった。

「どうぞ、こちらが謁見の間になります」

兵士はそう言うと、金と群青の色美しい豪華な絨毯の敷かれた広間に三人を通す。

大きな油絵やきらびやかな装飾具の数々は、招かれた客に対する己の地位や権力の大きを分からせるようである。

「目が疲れそうな部屋だなー……って、うおっ!?」

「なんだ、なにかあったか?」

驚く蓮士の視線の先にある壁には西洋風の龍……所謂ドラゴンが大きく描かれていた。絵画とは分かりこそすれ、今にも壁から飛び出して襲いかかって来そうな迫力がある。

「(相手を威圧することで自分の立場を高くする効果があると、いつかに読んだことがある……)」

流石はこれだけの国の主だ、と真琴が感慨にふけっていると、不意に

「いらっしゃったぞ、国王陛下が」

とのネージェの声がする。それに伴い、息を合わせて急ぎ膝を着く二人。自分達が足をつけている床よりも数段うず高い場所に安置されている玉座の前に、数名の衛兵が列を作り並ぶ。

直後に、毅然と整った美麗な衣服を身に纏った、ブロンドの髪と顎髭とをたくわえた一人の男性が衛兵に囲われつつ、貫禄を崩さず玉座へと腰掛けた。

反射的に頭を垂れる真琴と、真琴の手で半ば無理くりに頭を垂れ(させられ)る蓮士。その様子をー目見た後、国王と思しき男性は口を開いた。

「月並みな御挨拶となるが……よく参られたな、二人の勇者レン殿にマコト殿。私がこの国、ドレスタの主、セイレム・ジスタークだ。以後よろしく頼もう」

セイレム国王と名乗った男性は、言葉遣いの割に優しく穏やかな、それでいて厳かさを感じる声音でそう言った。

「……こちらこそ、平に、よろしくお願い致します」

「……お願い致します」

「(一国の最高権力者と会うに値する品格とか身に付けてあるだろうか……それ以前に二人とも着の身着のままでここに居るけれども礼服じゃないどころか蓮士は着崩してて不敬とかになって斬り殺されたりしないんだろうか……?)」

「(どうしよどうしよ訳のわかんないままでなんか大事そうなこと始まる気がするんだけど大丈夫なのかこれ……)」

緊張を押し殺して肩を微かに震えさせながら答える真琴と、頭を下げすぎて後ろの壁が見えながら答える蓮士。

「まあ何と言おうか……気を楽にしてくれて構わない。むしろそうしてくれた方が良い」

明らかに慣れていない様子の二人を見て、セイレムはふぅ、と息を着き、ガチガチの姿勢を取っている二人に穏やかに笑いかけた。

次回更新時には恐らく10話分位纏めてぶん投げると思いますので御容赦下さい

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