不良と秀才は情報を集めるべく考える
実を言うと、俺は少し焦っていた。
「あのバカ何処行きやがった……」
少し考えている隙にレンが何処かへ行ってしまった。
子供でもあるまいに、そう馬鹿な事をしていなければいいが。
そもそも、見知らぬ世界の見知らぬ土地、尚且つ見知った顔はお互いしかいないというのに、迂闊に行動などするべきでは無い……はずだ。
そう思って考えを巡らせていた訳だが……裏目に出てしまったと言わざるを得まい。
「言葉よりも先ず行動」のレンの性格を踏まえて立ち回るべきだな、と思って街を歩いていると、
「手伝わせちゃってごめんねぇ、私ももう歳でねぇ……」
「大丈夫だよ婆ちゃん、この位平気だから!」
「ありがとねぇ、荷車引いてもらって」
「いいっていいって」
見知らぬ土地で事もあろうにお手伝いに精を出していた。
「(お前ええええええ!!何晒しとんじゃあああああああ!?)」
いや、手伝いが悪いことではない。それは周知の事実。そう、間違ってはない、決して。
だが、それは元いた世界での事。ここが自分達の知り得ない世界で、明らかに浮いた格好をしているならば話は別。
下手をすれば不審な人物と疑われ、お縄になりかねない。
「あ、真琴ー!」
レンは俺を見つけるや否や上機嫌で駆け寄ってくる。正直こちらとしては機嫌が良いもへったくれもないのだが。
「ごめんな、急に居なくなって」
「ごめんじゃないだろ、何をしていた……まあ手伝いなんだろうが、まず異世界で俺たちは明らかに浮いてるんだよ、服装とかその他諸々、な?分かったらこの反省を活かして行動する際には最大限の注意を払……」
「手当り次第に手伝いしたら結構な駄賃貰えたぞ」
「……その救いの駄賃に免じて今回の事は許しておく」
人間は現金なもので、日銭無くして生きては行けない。
もしやレンは、それが分かっていてあの行動に走ったのだろうか?だとすれば、俺は彼奴に対する認識を改めなくてはならないかもしれないな。
◇
人の多く行き交う市街の道を歩いていると、不意に蓮士が口を開いた。
「なあ、真琴」
「どうしたんだ?」
「なんかさ……なんて言うんだ、めっちゃ視線感じるんだけど」
「……確かに、言われてみればな。物珍しい格好だと言うのは分かるが……」
蓮士と真琴の両者共に、この世界へ来た際の着の身着のまま、とどのつまり制服(蓮士の方は気崩されたカッターシャツにTシャツにズボンだが)。
その点では背格好の浮きもあり、それが目につくというのは分からないでもない話であるが……どうやらそれだけでは無いらしい。
「変わった服着てるなーってだけなら、ちょっと見て止めるはずだろ?……なんか、ずっと視線が俺達についてくるような……そんな感じが」
そう言われれば、蓮士や真琴達に向けられる視線はどれも好奇のそれと言おうか、羨望の眼差しとでも言おうか……といったような物だった。
心做しか、幾ばくかのどよめきも聞こえるような気さえしてくる。
例えるならば、百戦錬磨の英雄が凱旋した時の歓声に混じった眼差しのような感じ。
「(何処かの英雄か何か……だとでも思われているのか?)」
然し自分達は当然ながら名乗りもしなかったし、もっと言うなら市街に並ぶ店で売られているような装備を身に付けている訳でもない。
「(一先ず……知らないことばかりと言うのは流石にダメだ。何処かで一辺倒の情報を仕入れなくては)」
情報はかなりの武器になる。善は急げとばかりに行動開始。
…………しようとした矢先、真琴はとんでもない見落としをしていた事に気づいた。
「(文字の解読が……出来ない…………!)」
……そう、二人は言葉による会話は支障なく行えるが、文字まで読むことは出来ない。
これでは調べ物をしようにも本は読めず、看板も分からず……あまつさえ、自分の名前も書くことが出来ないではないか。
「……真琴?どうしたんだ……?」
「……いや、ごめん……ちょっと考え事しててな」
「おう……そっか、どんなこと考えてたの?」
「いや……どうやって情報を集めるか、とな……何せ俺達はこの世界の字が読めないだろう」
「えっ嘘…………ほんとだ、読めねえ」
蓮士は通りの看板をちらり、と見た後でそう言う。
「だろう?……まあ、会話ができるハンデと加えるとプラマイゼロと言えば聞こえはいいんだが」
「んー……色々と面倒なことになってきた……」
あまり複雑なことを考えるのが得意でない蓮士は早くも頭の痛い思いをしているようだ。
「レン、兎に角今俺達がするべきことは二つだ」
「二つ……」
「ああ。一つ、この世界の言語を習得すること。二つ、元の世界に戻る為の手口を見つけ出すこと」
「元の世界に戻るのは分かるけど……この世界の言語を学ぶと何かいい事あんのか?戻るまで生活に困らないとかか?」
「それもあるが……単純に本が読める」
「本?本がどう関係してるんだよ」
「この世界で書かれた本の中には今回の俺達のような事象について何か書いてある物があるかも知れないだろう?」
「あ、あー……!要するに言葉覚えて→そういう本読みまくって→方法試して→帰るって事か!」
「まあ、大まかにはそういう事だよ、大体わかってれば大丈夫だ」
良かった、早く分かってくれて。
◇
一先ずお互いに「書き言葉を学ぶ為の手立てを探す」という事で合意し、二人して歩きながら考えることとした……のだが。
「探すって言ってもねぇ……」
「都合良くそんな事が出来るはずが無い……な」
ここは異世界。知り合いもいなければ伝手も無い。頼れるものと言えばお互いの存在と、これまで生きて来た十七年の年月で得た知識。
「こうなりゃ、そういった事で頼れる場所が無いか聞くしかないか……」
「それもそうだ……親切に聞いてくれる人が在るといいな」
そう言いながら辺りを少し見渡すと、向こうから一人の老人が来るのが見えた。
「すみません、少しお時間良いでしょうか?」
真琴がその老人に話し掛ける。
二人はこの少し前の手立てを探す話し合いで、基本的な対話や交渉は真琴が中心になるとしておいたのだ。
「ああ、どうかなさったかの」
「実は、私共は遠い地よりこの街に赴いて来ました次第でして」
「おお、それはそれは。ようこそ、この街サレガ市へ」
「どうも、ありがとうございます。しかし……少しばかり困ったことがありまして……難しい要件なのですが、何方か取り合って頂ける所はありませんでしょうか?」
「ふぅむ……なるほど。それなら市役所まで行って、市長さんに掛け合ってみるのはどうじゃろう」
「市長さん……ですか?」
「うむ。このサレガ市の市長さんでな、確かネージェさんと言った。その人なら大層力になってくれる筈じゃ。良けりゃ、一つ役所までの地図を書いてやろう、ほれ」
「ありがとうございます!そこまでしてくださるとは……」
「本当にありがとうございます、おじいちゃん」
「いえいえ、大したお構いも出来ません故。では、楽しい旅を」
「ありがとうございました」
二人が地図を受け取ると、老人はそのまま歩いて行った。
「やっぱりさ、何処の世界にもああいう良い人は居るもんだな」
「全くだ、こちらも気分が良くなるな」
二人は人の優しさを身に染みて感じながら、市役所へと歩を進めていった。
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