早く芽をだせ
はじまりはじまり~
ある日、一匹のカニが握り飯を拾いました。
家に持って帰って食べようと思いました。
歩いている途中で、柿の種を持ったサルに会いました。
サルは言いました。
「握り飯は今食べると無くなってしまうけれど、柿の種を植えれば柿の木になって、たくさんの柿が実るぞ。
だから、柿の種の方が得だぞ」
カニは握り飯と柿の種を交換しました。
▽
家に帰るとカニは、早速種を植えました。
種に水をやると、カニは歌いました。
「早く目を出せ柿の種。出さぬとハサミでほじくるぞ」
▽
次の日、カニが種の様子を見に行くと、芽が出ていました。
カニは歌いました。
「早く木になれ柿の芽よ。ならぬとハサミでちょん切るぞ」
▽
さらに次の日、柿の芽は少しだけ大きくなりました。
カニは歌いました。
「早く木になれ柿の苗。ならぬとハサミでちょん切るぞ」
▽
それから毎日、カニは苗の様子を見ては歌いました。
毎日毎日同じ様に歌を聴かされて、柿の苗はうんざりしていました。
(なんでコイツはこんなにせっかちなんだ?“桃栗三年柿八年”って言葉を知らないのか?
そんなに早く早くって言われたって、無理だよ…。)
▽
数日後、なかなか柿の苗が大きくならないので、カニはだんだんイライラしてきました。
「おい柿の苗!早く大きくなれよ!
いい加減腹減ってきたぞ!何のために毎日毎日、水をあげていると思っているんだ!とっとと木になって、実をつけろ!」
柿の苗もイライラしてきました。
(うるさいよ!お前が勝手に植えただけじゃないか!
毎日毎日大声で歌って、迷惑ったらありゃしない!
どんなに急げって言われたって、俺はこれ以上早くは、大きくなれないんだよ!
なんでわかってくれないんだよ!)
しかし、喋ることができない苗の言葉は、カニには届きませんでした。
▽
それから数日後、柿の苗はようやく小さなな木になりました。
しかしカニはすっかり腹を立てて、柿の木をハサミで切りつけ始めました。
「おら、急げ!さっさと実をつけろ!実をつけるんだよ!」
(痛い!痛い!わかったから、やめてくれよ!
ごめんなさい!ごめんなさい!急ぐから!早く実がなるように頑張るから!
だからやめてくれよ!痛い!痛い!)
柿の木は泣いて謝りながら頑張りますが、その謝罪も頑張りもカニには全く届きません。
カニはそれから毎日、柿の木を切りつけました。
あまりにカニが切りつけるので、とうとう柿の木は実をつける前に枯れてしまいました。
その後もカニは種を見つけては植えましたが、どの種もカニの思い通りに育たないので、その度にカニは気を切りつけ枯らしていました。
そうしているうちに、とうとうカニも空腹のあまり死んでしまいましたとさ。
何かを育てるときは、まず大事に育てましょう。見返りを求めるのは、育ちきってから。
でないと、育つ前に台無しにしてしまいますからね。