お茶会
見てくださってありがとうございます。
評価もブックマークも嬉しいです。頑張ります!
「……はぁ~。」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、殿下。」
「そうはいってもだな……」
「男らしくありませんね。ほら、もう着きますよ。背筋を伸ばして、笑顔です、笑顔!」
顔が固いが仕方ないですよね。二回とも失言により良い印象は持ってくれていないですからね。でも、ピアノの件で殿下の評価は少しは上がっているはずだし……検討を祈ってますよ!あと、お二人の反応も楽しませて頂きますとも。
―-コンコン。
「待たせてすまない。」
「いえ、大丈夫ですわ。お久しぶりでござい…ま…す。」
「「・・・・・・・」」
はっはー!!!やっぱりな!こうなると思ったんだよな~!吹き出しそうになるのを必死でこらえて、真顔、真顔を…グフっ、やばい。頑張れ俺!
「…アリティア嬢だろうか…いや、君だよね…変なことを言ってすまない。」
「え、えぇ…その…殿下は…殿下ですわよね…えぇ…」
「「・・・・・・」」
いやいや、お二人とも、本人確認はさておきまずは座ったらいかがですか。いや、そもそも殿下からその声をかけた方がいいのでしょうが、今は放心状態だもんな。ちょっとだけ出しゃばらせて頂きますよ、と。
「お二人とも、まずはお座りください。温かい紅茶をお入れしますので。」
「あぁ…」
「はい…」
侍女に紅茶の入れ直しを指示し、部屋の隅に待機する。殿下頑張れ……!しっかり!と、念を送る。
「…殿下…その、わたくしが言うのはおこがましいのですが、お痩せになられて素敵だと…思います。その、サファイアみたいな目とか。」
あまりの唐突な内容にドキリとするが、以前見た目の件で色々とあったのでちょうどいいだろうな。そして素敵とか可愛いかよ……!
「!!…あぁ、ありがとう。その…君も痩せて綺麗なアメジストの目が見えて綺麗だし、その…ドレスも君によく似合っていると思う…」
殿下、まぁまぁ合格です。そしてこの一言ずつしか話をしていないのに、こんなに甘ったるい雰囲気になるなんて……つい、生暖かい目で見てしまう。なかなかいい滑り出しですね。
「その、前回は悪かった、と思っている。学年的には結局私達は同じで、その、婚約者同士仲良くしていけたらと思っている。」
「わ、わたくしこそ、殿下に対して失礼な態度をとってしまって申し訳ありませんでした。オルゴールの件もお手紙でお礼はお伝えさせて頂きましたが、とても素敵で、一目で好きになりましたの。今更ですが、素敵なプレゼントをありがとうございました。何度も何度も聞いて…。寝る前とかに今でも少しだけ回して聞いていますの。」
「そこまで気に入ってくれていたのか。その…ありがとう。気に入ってくれてよかった。」
「…あの、一つお伺いしてもいいでしょうか…?」
「なんだ?」
「先ほど、ピアノを弾いてらっしゃいましたよね。その、ヴィル様にお伺いして…」
「…あぁ…まぁ、その、たしなみというかだな…」
「え、えぇ、その、とても素敵な音色でつい聴き入ってしまいましたわ。あんなに綺麗な音色、聞いたことがなかったものですから…音楽の才能もございますのね。」
基本的になんでもこなせる殿下ですが、ピアノは特に一生懸命に努力もしていましたからね。才能もあるでしょうが、実は必死で努力ができる人なのですよ。きっとお二人とも気が合うでしょうねぇ。
「…君もヴァイオリンを嗜んでいると聞いたが…宰相が言ってたからな。今も続けているのか…?」
「えぇ、ヴァイオリンを弾くと心も弾むのです。痩せようと思ったきっかけも、お恥ずかしながら、そこからなのです。」
「そうか…。私も君の弾くヴァイオリンの音色を聴いてみたいものだ。きっと美しいのだろう。」
「いえ、殿下には敵いませんわ。でも、そうですね。半年後の音楽祭に私も出るのです。その際にもしお時間があればぜひいらしてくださいませ。」
「そうか。日程の調整をしておこう。その…ティア…と呼んでもいいだろうか。」
「!え、えぇ…どうぞお好きに呼んでくださいませ、殿下。」
「ティアも…私をミカと呼んでくれ。その…一応婚約者だからな。」
「…ミカ…様。」
「ティア…」
「「・・・・・・・」」
っっっかーーーー!やってられない!口から砂を吐いてしまいそうなくらい甘い。甘い。ほら、侍女達もこの甘さに耐えられなさそうな、居た堪れない顔をしている。私もそうだ。お二人がうまくいきそうなのはとても良い。だがこの甘さに耐えるのがつらい……吹き出してしまいそうで。
「ティア。」
「はい。」
「王妃教育の方も少しずつ進んでおり、優秀だと聞いている。」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。ですが、先生方の教え方がとても良いからですわ。」
「きっと辛く苦しい時もあると思うが、できる限り君を支えたいと、前の私はさておき、今の私はそう考えている。だから、一人で抱え込まずに、言いにくいかもしれないが…ともに乗り越えていけたらいいと思う。」
「…ありがとうございます。最初は殿下との婚約なんて嫌でしたが、今日お会いして私も意識が変わりましたわ。私も殿下を支えられるように今まで以上に王妃教育に取り組みますわ。今まで無礼な態度を取り、申し訳ございません。」
「ははっ。正直すぎるな、ティアは。まだ出会って1年も経っていないし、私はまだ太っている。君が以前言っていた「金髪・青目のスタイルが良い素敵な王子様」にはほど遠いと思うが、近づけていけたらと思うし、内面も知ってもらいたい。もちろん、私も君のことを色々と知っていきたい。これから、お願いできるだろうか。」
「私こそ綺麗で素敵な女性には程遠いですが、殿下の隣に並んでも恥ずかしくない女性になりますわ。外見も内面も。こんな私ですが、宜しくお願い致します。」
「殿下ではなくミカだよ、ティア。こちらこそ。今日は本当にティアに会えてよかった。君が婚約者でよかったよ。」
「…ミカ様。将来、大人になってもそういって頂けるように頑張りますわ。」
「私も頑張らなければね。君と一緒に。」
そうして、穏やかにお茶会は終わり、今後は時間を見つけて二人での時間も取っていこうという話になっていた。アリティア嬢の乗る馬車が見えなくなるまで見送った殿下。お茶会前までのあの緊張が嘘のように自然体で、最後はほんの少し、名残惜しそうに見えたので、お二人の仲もこれからより良いものになっていくと確信している。
「殿下、良かったですね。」
「あぁ。彼女となら頑張っていきたいと思っている。俺も恥ずかしくないように頑張る。」
夕日に照らされて、和やかに微笑むのその横顔は、まさに完全な王子様ですよ。殿下。
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「して、ヴィルよ。二人の様子はどうだった。今回は問題はなかったか?」
「はい。お二人とも今後はよい関係を築いていけることと思います。今日は砂を吐くと思ったほど甘~い時間が流れましたからね。」
「ようやくか。本当に無事に終わってよかった。また報告も感謝する。今後も引き続きよろしく頼む。」
「承知致しました。」
一通りの報告を済ませ、自室に戻り一息つく。
今後もあんな感じの甘い空気を味わう羽目になるのは少し先が思いやられるが、殿下もアリティア嬢も幸せなのであれば、生暖かく見守っていこう。
「あ~よかった。今回もダメだったら公爵に何されるかわかんなかったからのぅ…本当によかった…」