お願いと追いかけっこ
ミウちゃんはドングリ池へドングリを投げ入れて、手を合わせて目をつぶってお願いをしました。おうちへ帰れますように。そのまましばらく黙ってお願いしていました。キツネさんは何も言わずに待っていてくれました。
お願いが終わると、キツネさんはこれからどうするんだい、と聞いてきました。キツネさんはよかったら家へおいでよ、と言ってくれました。ミウちゃんも野宿をしたことはありません。ここはキツネさんの家に泊めてもらうのがいいかもしれません。キツネさんの家は客間もあるらしく、時々お友達が泊まっていくとか。今日も川で釣った魚がたくさんあるそうなので、ご馳走してくれるそうです。アライグマも食べ物がないならキツネさんにもらえばいいのに、とミウちゃんは思いました。
キツネさんは家に池を持っていて、魚を育てているそうです。ゆくゆくは森に水族館を作るのが夢だとか。でも、話を聞いていると、魚は食べるし、料理人も雇いたいとか、あまり聞いたことのない水族館です。
キツネさんはミウちゃんはネコなのかな、と聞いてきました。ネコなら魚は好きでしょう。よかったら手伝ってくれるとうれしいな、なんて言っています。ミウちゃんは森に来てからネコ、ネコと言われるので不思議に思っていたことをキツネさんに言いました。すると、キツネさんは首をひねって言いました。だって、ネコらしい耳だからね。
ミウちゃんはあわてて池に映った自分の顔を見ました。頭の上に耳がついています。触ってみても確かにあります。引っ張ってみても取れません。ケンちゃんみたいに・・・ ということは。おしりも触ってみると、黒い尻尾がありました。引っ張ると痛いです。それに、指を動かすように自由に動かせました。いつのまに生えていたんでしょう。
ミウちゃんが自分の耳と尻尾に驚いているのを、キツネさんは不思議そうに見ています。キツネさんは大丈夫、と聞いてきました。ミウちゃんはずっとネコだと思われていたみたいです。な、なんでもありません、とミウちゃんは答えました。キツネさんに言ってもわからないかもしれません。
キツネさんの家は更に森の奥らしいです。きっと静かなところが好きなんでしょう。池の近くはどうぶつがたくさんいて、にぎやかそうですから。
キツネさんについて歩いていると、池の対岸にケンちゃんが現れました。顔はよくわかりませんが、あの姿、耳としっぽ、着ている服もまちがいありません。
ミウちゃんがケンちゃん、と呼びかけると、森の奥に消えてしまいました。ミウちゃんは、ケンちゃんを追いかけます、とキツネさんに言ってかけだしました。キツネさんは、ミウちゃん待って、と言いましたが、ミウちゃんは聞いていません。すぐにケンちゃんがいた辺りまで来ましたが、ケンちゃんはもうどこまで逃げたでしょう。ミウちゃんは夢中で森の木に登っていました。ケンちゃんが森の茂みをごそごそ逃げているのが見えました。ミウちゃんは木から木へ飛び移りながらケンちゃんを追いかけます。まるで体重がなくなったようで、軽々と動けます。ミウちゃんは木の幹に、平らな地面に片足でつま先立ちするぐらい簡単に、一瞬とどまることができました。落ちる前に他の木へ飛び移ればどんどん進めます。ケンちゃんはずいぶん離れていましたが、今度は木の上も走れるミウちゃんの方が追い上げています。
ミウちゃんはついにケンちゃんに追いつきました。開けた場所ですが、木の根っこだらけで足元がごつごつしています。ケンちゃんはにこにこしてこちらを見ていますが、何も言いません。どうして逃げるの、どうして何も言わないの、とミウちゃんは聞きます。ケンちゃんは困った顔をしていますが、それでも何も言いません。ミウちゃんは何だかくやしくて、ケンちゃんなんか大っ嫌い、と言いました。森に響くぐらい大きな声で。ケンちゃんは少し悲しそうな顔をしましたが、それどころではありませんでした。森の木の根っこが、土の中から何本もミウちゃんの方へ伸びてきたからです。後ろや足元から出てきていたら捕まっていたでしょう。ミウちゃんはさっきよりも大きな悲鳴を上げて必死で逃げました。
どこをどう走ったのか覚えていません。それ程の距離でもなかったかもしれませんが、ミウちゃんには長く感じられました。後ろからついてくる足音がするのは途中から気付いていたので、ケンちゃんも一緒に根っこの手から逃げられたんでしょう。でも、木のお化けがまだ追いかけてくるかもしれないと思うと、振り返って見る気にはなりませんでした。ミウちゃんは地面が続く限り、走れなくなるまで走り続けたでしょう。
逃げるミウちゃんの前に、大きな川とつり橋が現れました。ミウちゃんはあまり高いところは苦手ですが、この時はそんなことは気になりませんでした。
木のお化けが怖くてあわてて逃げていたのもありますが、走りすぎて足がふらついていたのかもしれません。ミウちゃんはつり橋からすべり落ちてしまいました。血が下がって、自分でも真っ青になっているのがわかります。ミウちゃんは目をふさぐのも、声を上げるのも忘れていました。
サブタイトル悩みました。どういう訳か、後半展開が巻きになってるようです。もっとふくらますことも考えてみましたが、難しかったです。