森のどうぶつ達
ミウちゃんはドングリをズポンのポケットに入れて歩き出しました。これから池に戻ってドングリを入れてお願いをしてみましょう。それで家に帰れるかどうかわかりませんが。でもどうぶつ達がみんな話をするおかしな世界ですから、それで帰れるかもしれません。ケンちゃんも探しながら歩きますが、どこにもいません。もうどこか他のところへ行ってしまったんでしょうか。
すると、道の脇の茂みがごそごそと動いています。ミウちゃんはもしかしたらケンちゃんかもしれないと思い、声をかけてみました。本人でも返事はしてくれなさそうですけどね。ごそごそ動いていたのがぴたっと止まりました。声をかけられて戸惑っているようです。恥ずかしがりやなのかもしれません。もしかすると本当にケンちゃんでしょうか。ミウちゃんが茂みをのぞいてみようとした時です、大きなクマが両手を上げて襲いかかってきました。ミウちゃんは腰を抜かしてしまいました。
ところが、クマは両手を上げて立っているだけで、ちっとも襲ってきません。なんだかおかしいですが、ミウちゃんはすぐに立ち上がって逃げました。クマに背を向けて思いっきり走ります。大きなクマはとても怖かったからです。でもこういう逃げ方は本当は危険です。クマは背を向けた相手を襲うからです。逃げると追いかける習性がある動物は他にも結構たくさんいます。
やはりクマはミウちゃんを追いかけてきました。ミウちゃんも必死で走って逃げますが、クマの一飛びはミウちゃんの倍以上あるでしょう。クマが割合ゆっくり走っても、すぐにミウちゃんに追いつくことができます。おまけにクマは、道が坂になっていても、でこぼこでもお構いなしです。そういうところを走るのが得意なんです。
ミウちゃんを追いかけて勢いのついたクマは、なんとミウちゃんを飛び越してミウちゃんの前まで来てしまいました。ミウちゃんは急には止まれず、前に立っているクマのおなかに思いっきりぶつかり、捕まってしまいました。クマのお腹はふかふかだったので、ケガはしませんでしたが。
クマはだまって握った右手をミウちゃんの顔の前に出してきました。右手にはドングリが握られています。クマは左手と足だけで走っていたようです。ミウちゃんがポケットを探ってみると、ドングリは一つも残っていませんでした。ポケットは底のところがやぶけていました。クマにおどかされて逃げる間に、全部落としてしまったようです。クマはミウちゃんがドングリを落としているのに気がついて、拾って追いかけてきてくれたみたいです。数はずいぶん減ってしまいましたが。
ミウちゃんはクマにお礼を言いました。クマは何もいいませんが、照れているようです。こっちを見て手を上げてゆっくりと森の奥へ戻っていきました。多分言葉はわかっているんでしょうが、初対面のミウちゃんと話をするのが恥ずかしいのかもしれません。
ミウちゃんが池に向かって歩いていくと、またどうぶつが現れました。このあたりにはどうぶつがたくさんいるようです。小さいくせにミウちゃんの前に立ちふさがっています。おい、お前、食べ物を置いていけ、と牙をむいて怖い顔をしてうなっています。爪もきっと鋭いでしょう。
食べ物と言っても、ミウちゃんはドングリしか持っていません。ミウちゃんは池に入れるためのドングリを一個だけ残して、この小さくて危険そうな動物にドングリを全部差し出しました。ドングリ強盗は、何だ、ドングリか。これぐらいじゃ足りないな、なんて言っています。それでも文句はいいながらも、ドングリはかじっています。小さなタヌキみたいな動物ですが、あんな歯でかみつかれたら大ケガするでしょう。強盗はさらにからんできます。もう他に何も持ってないのか、お弁当とか干し肉とかないのか、としつこいです。よっぽどおなかが減ってるんでしょうか。そんなことを言われるとミウちゃんもお腹が減ってきました。おうちへ帰らないと。
すると、後ろの方でせき払いが聞こえました。二人がそちらを見ると、キツネでした。アライグマくん、こんな子から食べ物を巻き上げるなんて、あんまり情けないんじゃないかい。この森一強いという君が、女の子からドングリを取って食べてたなんてわかったら、きっとみんな笑ってしまうだろうね、と言いました。キツネの言うとおりだったんでしょう。アライグマは、ふん、と言い捨てて、あわてて去っていきました。
ミウちゃんはキツネさんにお礼をいいました。キツネさんはいやいや、そんなお礼を言われるようなことじゃありませんよ、と言いました。ミウちゃんがドングリ池にお願いをしに行くと言うと、ついてきてくれることになりました。ミウちゃんはほっとしました。さっきのクマやアライグマならまだいいですが、もっと怖い動物が出てくるかもしれませんから。
ミウちゃんはキツネさんにケンちゃんのことも聞いてみました。キツネさんは少し考えて、いや、見なかったねえ、と言いました。でも、そのうちまた会えるよ、とも言ってくれました。
クマに背中を見せると襲われる、というのも有名な話です。犬なども襲うつもりはなくても、逃げると喜んで追いかけてきたりします。
クマは相手の目(顔?)の位置で大きさを判断しているらしいので、身長がそこそこあれば、クマからすると大きな動物がいる、という認識になるので、恐れて攻撃しにくくなるらしいです。人間はクマみたいにさらに立ち上がることはできないんですけど。人間と接触経験の多いクマには通用しないかもしれませんし、いきなり遭遇した場合も危ないらしいです。
クマは自分の丈をできる限り大きくみせるため、なるべく木の高いところにマーキングしようとします。自分の体を木に擦り付けたりして臭いをつけて縄張り主張する訳ですが、ずるい奴はゲタにする足場に乗ってやったりするそうです