自分を知ろう
この作品は書き溜めしてある作品です。書き溜めがなくなるまでは1000文字程度を毎日投稿します。今回は最初なので少し多めですが。
バトルは多め、恋愛要素はたまにあるくらいです。
人間はたまに自分を見つめなおす時間があるはず。誰しもがとは言わないけど、少なくとも俺は。
その時に考えるのは、自分の黒歴史だったり、自分の嫌なところ、あるいはいいところを見つけたりして。決して無駄な時間ではないと思うんだ。
一方俺は。別に、それが無駄な時間だと思った訳ではない。むしろ早めに見つめなおせてホッとしたほどだ。
どうやら俺には、闘争願望があるらしい。物理的に。
きっかけは、大学の学部3年生のころ。受験生の頃は就職に困らないと聞いたので、俺は機械工学科を志望して、見事合格。大した大学ではないが、友人もそこそこの人数いたし、楽しいキャンパスライフを送っていた。
そんなある日。大学3年生も終わるころ、卒業研究のテーマを考えなければいけなかった。友人たちは元々機械関係のことに興味があったようで、自動車関係の研究、ロボット関係の研究、はたまたパソコン、スマートフォンといった精密機械関係の研究など、すぐにテーマが決まった。
だけど、就職に有利というだけの理由で機械工学科に入った俺はたいそう研究テーマに困った。そんな俺に教師が言った。『少し、自分を見つめなおす時間をとれ』と。
曰く、自分がどのような人間であるかを見つめなおせば、きっとやりたいことが見つかる。例えば、手先が器用なら精密機械、乗り物が好きならエンジン関係の研究、極端な話、目立ちたいなら大学院に行って研究発表など。自分を見つめなおすということは意外と大切らしい。
そんなこんなで自宅で自分を見つめなおしていると、出てくる出てくる様々な思い出。こういった時間は大切なのだ。なのだが......なぜか、俺の頭には人に暴力をふるった時の思い出が頻繁に思い出され、その快感に身震いをする。暴力が快感として頭に焼き付くのだ。
もう俺も大学生だ。さすがにそれが異常なことは判断できた。だから俺は、闘争願望があることを確認して、それが社会で現れないようにふるまうことに決めた。
ちなみに、研究テーマはロボット関係に決めた。
大学4年生。とりあえず、進路は大学院進学。卒業条件は既に満たしているので、卒業研究のみの俺は、とりあえず、闘争願望が刺激されないよう、穏やかな生活を心がけている。
今日の分の授業は2限で終わりだ。さて、このままお昼ご飯はどうしようか。研究室は? 少し考える。
うーん。今日は研究室は休んで、とりあえず、天気もいいしのんびり散歩でもしよう。心を落ち着ける行動は普段から心がけないと。お昼ごはんは、散歩しながら考えよう。
そんなこんなで、緑の多いキャンパス内をのんびりと歩き回る。すると、うずくまっている人が。
「どうかしましたか?」
「うう、おなかがすきました......生協のお団子が食べたいです」
おお、具体的な要求。まあ、100円くらいなら......って、それは駄目だよなあ。
「いや、自分で買ってきてくださいよ。ああ、空腹すぎて動くことができないなら、お金だけもらえれば買ってきますけど」
「お財布家に置いてきちゃって......1限から何も食べずに......」
「それなら、電車通学じゃないってことですか? ならいったん家に」
「定期は財布と別で持っているんです」
「......」
数分後。俺は女の子と一緒に生協にやってきていた。女の子に弱いのか、俺は。また一つ自分について知ってしまった。
「お団子、お団子♪」
「......」
でも、笑顔一つで許せちゃうんだから、女の子ってずるいよなあ。
「みたらしにします。よろしくお願いしますね」
「はーい」
ついでに自分のパンも買って会計を済ませる。流石にこの時間は食堂は人が多い、どこで食べようか。
会計を済ませて、生協を出ると、出口のところで先ほどの女の子が3人の男に囲まれていた。
「可愛いですね、何年生ですか?」
「えっと、4年ですけど」
「やっぱ先輩かあ。なんか大人っぽさがあったんですよね」
「どうですか? 一緒にご飯でも」
「いえ、少し......」
そこで女の子が俺を見て背中に隠れる。
「この人とご飯食べますので」
「え?」
うわあ、柄の悪い、いわゆるヤンキーって奴かなあ。髪の毛の色は三人とも染められていて、鼻ピアスなどのアクセサリーもまさに自分はヤンキーだと主張している。
「おい、お前。その人の彼氏か?」
「いや、違うけど」
俺も4年生なんだけど。まあ、眼鏡に細身なんて完全になめられるよなあ。
「じゃあ俺たちに渡せよ」
「渡せって......この人は物じゃないんぞ」
なんだこの言い方。というか、大学4年間で初めてだ、こんな奴。大体の奴は柄が悪い奴はいても、ここまで初対面の人間に対して喧嘩腰の奴はいない。今年の新入りは頭おかしいのか?
「いいから......よ!」
ガツン! と鼻を殴られる。一瞬、何をされたのか分からなかった。手を出されるとはさすがに思っていなかった。鼻からポタポタと垂れ始める温かい液体が思考を動かす。痛みと同時に涙腺を刺激される感覚で少し涙が零れる。と同時に、頭の中の何かが切れる。手から鞄とビニール袋を手放す。
「さっさと渡せってんだよ。......?」
俺を殴った奴の胸ぐらをつかむ。ここで睨みつけるような奴は腐るほどいるだろうし、俺も何度もそうしてきた。だけど、今回は少し違った。
「なんだよ、放せ......ッ!」
俺はその顔面に頭突きをかます。そのまま顔に拳を叩き込み、倒れるヤンキーを追いかける。
「おい、何してんだ!」
取り巻きが俺の腕を掴む。そいつの腹を蹴とばす。それでも手は離されない。やはり純粋な力の差があるようだ。だが、離さないなら。俺の腕を掴んでいる手の手首を空いている方の肘で打撃する。
「があ!」
「てめえ!」
俺を背後から襲ってくる気配。俺は俺の腕を掴んでいる手首を両手でつかみ、そのままハンマー投げのように自分の足を軸にして相手を円運動させて、襲ってきているヤンキーにぶつける。意外と簡単に円運動させることに成功した。ヤンキー同士は運よくこめかみと頭でぶつかり合った。
「「ってえ......」
そのまま頭を押さえる二人。丁度俺から見て一直線上に並んでいるので、一人にドロップキックをかます。するとドミノ倒しのように二人とも倒れる。倒れた二人の頭を掴んで地面に叩きつける。
ああ......! この手に伝わってくる鈍い感覚......!
「快感」
ボソッと呟く。そうそう、この感覚が。
「おらあ!」
最初に地面に倒れたヤンキーが俺に蹴りを飛ばしてくるのが見えた。俺はそれを両手で受け止める。受け止めるというよりは、相手の足首を掴む。片足だけだとバランスが取れないのか、ヤンキーが尻もちをつく。それを確認した俺は足首を掴んだまま立ち上がって、再びハンマー投げのようにヤンキーの体を円運動させる。そして、壁にヤンキーの側頭部を叩きつける。
絡んできたヤンキーは全員動かなくなった。......ふふふ。
「ははっ」
自然と笑みがこぼれる。気持ちいい! ああ、ゾクゾクする! 快感だ!
再び拳を振り上げ、顔を殴りつけようとする。そんな俺の耳に声が聞こえてくる。
「やめなさい」
と、そこで正気に戻る。頭の中を一気に冷まされるような感覚。底冷えするような、不思議な感覚。
ハッと顔を上げると、周りの視線が向けられていることに気が付く。俺は急いで立ち上がり、先ほど地面に落とした鞄だけ掴んでその場から足早に去っていった。
片方の作品が行き詰っているのでこちらを並行して進めてみます。
ちなみに作者は大学1年生なので、4年生のことはあまり知りません。