異世界
この世界は嫌いだ。
そう、汚い。
世界は汚い。
だから違う世界に行きたい。
ここじゃないどこか。
宇宙の神秘が明かされるが、それでも全容を解明するには至っていないし宇宙人だっているかどうかわからない。
地球と同じ科学力を持っているかどうかもわからないし、宇宙どころか海でさえ人は未だわからないことだらけだ。
それに、幽霊、超能力といった現象に対しても、絶対に存在しないと言い切れない。
わからない、わからないじゃないか。
それなら異世界だって本当に存在するかもしれないじゃないか。
だから僕は行きたい。
こんな世界嫌だ。
笑って人を殴るような、憂さ晴らしに嫌がらせしてくるような、そんな人間しかいないこんな世界にいてたまるか。
異世界、異世界に行きたい。
何かの間違いで死にたい。
別に凄い能力とかいらない。
可愛い女の子に囲まれなくたっていい。
こんな世界にいる女とか違うならなんだっていい。
戦うのは好きじゃないから、喧嘩だって苦手だから魔法とか使えても商売をしよう。
それで稼いで、楽しく暮らしたい。
モンスターになるのも面白そう。
とにかく違う世界に行きたい。
それなら上手くいく。
今の知識があるなら、大抵の異世界で上手くいく。
きっと驚かれる。尊敬される。もしかしたら英雄みたいな扱いを受けるかもしれない。
そのためなら努力したっていい。頑張って勉強もする。
でも異世界行くなら何か能力を貰える方がいい。
そうだ、敵を一発で倒せるような強さがあれば面白い。
それでも戦わずに、それで誰かを助ける時だけ颯爽と力を使うとかかっこいい。
そうだ、そうしよう。それならかっこいい。
異世界に行きたい。
早く見つけなきゃ。
僕を待っている。
僕が行かなきゃ。
知識は一応ある。最近はたくさん漫画とかラノベで出てるし、そういった知識を使って生き延びることはできるだろう。
よし、問題ない。いける、いけるぞ。
そのためにこっちでも勉強しなきゃ。確か新刊発売するし、買って帰ろう。
……なんだあいつら。こっち見て笑いやがって。ああいうモブが異世界行ったら泣き言を言いだすんだ。すぐ逃げる臆病な奴ら。クソが。
お、また新しい異世界もん?
へぇ、ヤバい、面白そう。めっちゃ表紙の子かわいい。
しかも経済関係とか、これは勉強にちょうどいいじゃん。
これ完璧だわ。最近のラノベとか漫画の知識は侮れないからな。これ読んでるだけで勉強になるわ。
あー、でも異世界行くにはやっぱ死ななきゃダメか。誰か間違って殺してくれねぇかな。トラックとかなら一瞬だから痛くなさそう。痛いの嫌だし。
こういう工事現場とかで鉄骨とか落ちてこねぇかなぁ。あれとか危ないじゃん。風が強い日にクレーンで運ぶなよ。めっちゃ揺れてるし。落ちて来いよー異世界行かせろー。
警備員うるせぇ。危ないから早く通れとか、それなら夜やれよ。コーンの中に入るなとか、絶対コーンのとこに落ちるかわかんねぇだろが。これだから警備員とかやってる奴はバカなんだ。絶対僕の方が頭いいし。コーンから離れろとか、その前に落とすなよバカ。
なんかうるせぇし。もう行くし、むしろ死にたいわ。殺せよ。異世界行かせろ。別に生きたいわけじゃねぇから早く落とせよ。
バーカ。
…………え?
………………ぎ。
………………いぎ。
……痛。
………………………………ちが。
…………ぎぃ。
だ……だず……。
ばや…………く……。
……いぜ……が……。
…………いぜがい……はや。
……ぐ。
いだ………………。
…………いだ……い……。
「はぁ? なんで通行止めなん」
苛立ちを隠さず、ギャルっぽい女子高生が怒りを表す。
隣にいる友人が事故があったと伝えると、女子は舌打ちして遠回りになる道へ行く。
「マジついてなーい。てか今日はよく落ちるわ。え? なんでもないし」
野次馬が集まりつつある中、女子は混ざることはしない。興味もなく、群がる中に入るのもバカらしいと思っていた。
友人は少し気になるようで、集まる群衆の会話に聞き耳を立てていた。
「ほら行くよ。いつまでいんの」
鉄骨の落下に子供が巻き込まれたらしい、と手に入れた情報を話す友人。立ち入り禁止のカラーコーン近くで立ち止まって見ていたらしい。警備員が工事現場の人に大声で立ち去るように声をかけたと、悲痛な叫びが聞こえて来る。
何でも別に死にたいから落ちても構わないみたいなことを言っていたとか言っていないとか。
「だから?」
友人の情報を聞いて、女子は鼻を鳴らし口角を上げる。
「そんなバカほっとけば。危ないって言ってるのに近づくのは自殺志願者と一緒っしょ」
冷たーいと友人の感想に、女子はさらに付け加える。
「死にたい奴は一人で死ねばいいんだよ。こうやって人に迷惑かけて死ぬなって。超迷惑してるじゃんうちら」
横目で人垣を一瞬、すぐに前を向く。
「ま、本当に死にたかったかは知らないけど」
さらに人が集まり歩みを止める中、女子は友人と共に次の店に向かう。
野次馬は人垣に、群衆へと変わりながら、少しずつ減っていく。
もう終わったものに、用はないとでも言うかのように。