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第8話 ご都合主義の主人公

 ロジーナが教え忘れていた事を優奈から聞いていると、2人が注文していた料理がテーブルに運ばれてきた。


「うわぁ! とっても美味しそうですね!


 運ばれてきた料理に目を輝かせる優奈。

 香ばしいパンの香りと、いい感じで焼き色がついたソーセージはなんとも食欲をそそられる。

 優奈の料理が運ばれてきたすぐ後に、栄治のステーキもすぐに運ばれてきた。プレートに乗った大きな肉は今もジューっという音がして、栄治は危うく涎をこぼしそうになる。


「それじゃあ頂きます」


2人は両手を合わせて料理に感謝の意を示す。死後の世界に来ても、魂には日本人としての心構えがしっかりと染み付いているようだ。


「ん~とっても美味しいです!」


 焼きたてのパンを頬張りながら相好を崩す優奈を見て、栄治もまた幸せな気分になりながら、自分のステーキをナイフで切りわけ、口に運ぶ。ステーキを口の中に入れた途端に、旨みの詰まった肉汁が口いっぱいに広がる。まるで、高級黒毛和牛のステーキを食べているようだった。

 このメニューを選んで正解だったと、栄治は自分の判断に大満足する。


「そういえば、新川さんはグンタマ―の戦いについてはなんて説明を受けている?」


 グンタマやマントのデザインについての説明を受けていなかった栄治は、他にもロジーナの説明で二人の間に違いがあるかもしれないと考えて、優奈に問いかける。

 聞かれた優奈は、ソーセージへと伸ばしていた手を一旦止めて、ロジーナからの説明を思い出すようにちょっと視線を上にする。


「えーと、たしかこの世界の人たちの依頼を受けるのと、他のグンタマ―の人と戦う二種類があるってロジーナちゃんは言ってました。でも……」


 優奈は顔を俯かせて、少しだけ表情を暗くさせる。


「あたしは戦いなんて言う野蛮な事はしたくありません。例えそれが自分の来世に関わってくる事でもです。それでも、どうしても戦わないといけないというのなら、私はこの世界の人の困っている人の役に少しでも立ちたいと思います」


 そういって栄治を見る彼女の瞳には、強い光が宿っていた。

 グンタマ―としての力を自分のためではなく、他の人の役に立つように使いたい。そんな強い意志が彼女から伝わってくる。


「だから、他のグンタマ―の人とはあまり争いたくないんです」


 優奈の話を聞いて、栄治は感心する。

 容姿もスタイルも完璧で、そのうえで性格も優しく、そして自分の信念を貫き通す強い意志を持っている。そんな優奈に「どんな完璧超人だよ」と内心で突っ込みを入れながら、栄治は笑みを浮かべる。


「俺も新川さんと同じ様な考えだよ。合戦なんて言う血生臭いことは出来るだけ避けたい。それに、他のグンタマ―も元は同じ世界を生きていた人の魂だしね」


 優奈の考えに賛同する栄治の言葉に、優奈の表情がパッと明るくなる。


「そうですよね! 私、最初にあったグンタマ―が大紋さんで本当に良かったです!」


「ははっ、新川さんにそう言われると何だか照れくさいな。はい、これあげる」


 照れて小さく笑う栄治は、自分のステーキを一切れ優奈のお皿に移す。


「わぁ! ありがとうございます! それじゃあ私のもどうぞ」


 そういって優奈は自分のソーセージを一本栄治に渡す。


「ありがとう。うん……これはチョリソーだね」


 ピリッと辛みのあるそれは、現世でもよく栄治が食べた事のあるものと味が酷似していた。

 完全なる異世界で、馴染みのある味という状況に若干の違和感を感じながら、栄治が優奈に視線を向けると、そこには、とろけたような表情でゆっくりとステーキを咀嚼している美少女の姿があった。


「このステーキ美味しすぎますぅ」


 うっとりとした表情で呟く優奈。


「新川さんのその表情を見ているとこっちも幸せになるよ」


 あまりにも幸せそうなその表情に、栄治が小さく笑みを浮かべると、優奈がそれに気付いてハッと現実に戻り、恥ずかしさで顔を赤らめる。

 その後二人はしばらく無言で食事を進めていると、おもむろに優奈が口を開いた。


「あの、もし良かったらなんですけど、私の事は名前で呼んでもらってもいいですか?」


「ん? それは新川さんを優奈さんって呼んでもいいって事?」


「はい。前も友人たちからは名前で呼ばれていたので、そっちの方がしっくりくるんです。ちなみにさん付けしないで、そのまま優奈でいいですよ」


 彼女の言う「前」とは、おそらく現世での事だろう。

 栄治は優奈の言葉に頷く。


「それじゃ、俺の事は栄治って呼んでくれ」


「はい、わかりました栄治さん」


「俺もさん付けはしなくていいよ?」


 そう栄治が言うと、優奈は少し困った顔になる。


「でも栄治さんは『栄治さん』っていう感じなんですよね。このままの呼び方じゃダメでしょうか?」


 そういって上目遣いで様子を窺う優奈。

 美少女にそんな事をされて断れる男がいたら、逆にそいつの性癖が怪しいと思う栄治は、二つ返事で承諾する。


 二人は食事を終えて、コップの水を飲みながら一息つく。


「さて、それじゃあこれからまた武器屋を探しに行くわけだけど、その前にここでそのあとの行動も決めておこうか」


 手に持っていたコップをテーブルにゆっくり置いてから、栄治が提案する。

 今二人は、合戦を行う上で必要最低限自分の身を守れる装備を整えようという事で、武器屋もしくは鍛冶屋を探しているわけだが、その後の行動については全くの無計画だった。


「そうですね。こうしてゆっくりできる所で、しっかりと今後のこの世界での生き方を決めておきましょう」


 栄治の提案に、優奈は真剣な表情で頷く。


「まず初めに、さっきも話したけど他のグンタマ―との戦いは極力避けていこう。でも戦わないと軍団は強くできないらしいから、俺は、ロジーナから教えられたクエストボードっていうのを探してみようと思う」


「クエストボード、ですか?」


 クエストボードという単語に、優奈はキョトンとした表情になる。どうやら今度は優奈の方がロジーナからの説明を受けていないらしい。

 ロジーナの説明は穴だらけじゃないか、と心の中で溜息を付きながら栄治は彼女にクエストボードについての説明をする。


「ロジーナからの説明では依頼の情報が集まった掲示板みたいなものがあるらしい。それを見つけれれば、この都市の住民たちに聞き込みをしなくても、クエストを受ける事が出来ると思う」


「そんな便利なものがあったんですね。あたしは説明されませんでした」


 優奈は「ロジーナちゃんの説明はざるだね」と苦笑を浮かべる。


「あとはそれがどこに在るかが問題なんだよね。ここの都市は結構広そうだからな……」


 栄治がこの都市に入る時に見た城壁は、左右に果てしなく広がっていたことから、この都市が広大な土地を有している事は容易に想像がつく。それと共にげんなりとした表情を栄治は浮かべる。


「せめてこの都市の地理に詳しい人がいればいいんだけど」


 栄治はそう言って、椅子の背もたれに体重を預けて溜息を付く。

 とその時、どうしようか思い悩んでいる彼の耳に気になる会話が入ってきた。


「そういえば情報屋、クレシオンの兵が北に移動しているっていう噂は本当か?」


「ええ、そのようですね。今、北では二大大国の緊張が高まりつつありますからね。あの二つの超大国間で戦が起きれば、相当量の難民や脱走兵たちがこちらに流れてくるでしょうから、それを警戒しての事でしょう」


 栄治が会話のする方に顔を向けると、そこには二人の男が顔を突き合せて熱心に話し込んでいる光景が目に入った。

 先程の会話で質問していた方の男は、がっしりとした体格に小麦色に焼けた肌のいかにも船乗りのような風貌の男で、もう一人の男は、それとは対照的に青白い肌にほっそりとした身体つきの男だった。

 二人はそのあと、声を小さく落としてしまったので、話の内容を聞き取る事はできなかったが、栄治は2人の会話の内容よりも、船乗り男が言った「情報屋」という言葉がとても気になった。

 情報屋とはつまり情報を提供することを生業にしている職業で、という事はこの都市の事はもちろんこの世界の事についても色々と知っているだろう。

 栄治の願いを全てまとめて叶えてくれそうな人物の登場に、栄治は思わずニヤッと笑みを浮かべる。


「どうやら俺には主人公補正がかかっているらしいな」


 困ったときに自分の望んだものが出てくるご都合主義に、それに加えてギフト贈呈ではまだはっきりと強さは分からないが、ロジーナがチートだと言う程の力も手に入れている。更には、この世界に来て初めて会うのが美少女ときたらこれはもう、自分がこの世界の主役であるのは間違いがない。


「栄治さん、ちょっと怪しい笑みを浮かべてますよ?」


 自分の恵まれた環境に「ふふふっ」と口角を上げる栄治は、正面に座っている優奈に怪しいと言われてしまう。


「これで俺の容姿もイケメンだったら……」


 自分の容姿で若干気落ちしてしまう栄治だったが、すぐに気を取り直して優奈に話しかける。


「優奈、どうやらあの席に座っているヒョロイおじさんはどうやら情報屋らしいんだ。だから俺はあの人にいろいろ話を聞こうと思う」


 栄治がそう言うと、優奈も賛成する。


「情報屋さんですか? それならクエストボードの事や武器屋についても聞くことが出来ますね」


「あぁ、あとグンタマ―がこの世界ではどういう立場なのかとかも聞いてみようと思う」


 栄治の言葉に、優奈も「そうですね」と頷く。

 城門を潜る時の衛兵の態度や、大通りを歩いているときに時折感じた市民たちの視線から、栄治はグンタマ―がこの世界ではどのように思われているか知りたかった。


 栄治と優奈の二人は他愛もない会話をしながら、情報屋の動向を観察していると、話が終わったのか船乗り男と情報屋の二人は席から立ち上がり、テーブルの上でお互いに握手をした。


「ありがとう情報屋。あんたのお蔭で今回の航海では相当な利益が見込めそうだ」


 栄治の予想は正しく、男は船乗りだったようだ。おそらく船での貿易を中心としている商人だったのだろう。その船乗り男は、ポケットから小さい麻袋を取り出すと、情報屋に手渡した。その時にチャラっと音がしたことから、中には情報に対する対価が入っているのだろう。

 その後、船乗り男はそのまま席を去って会計を済ませて店から出ていき、情報屋は再び椅子に座って、テーブルの上にあった自分のコーヒーらしき飲み物の残りを飲み始めた。

 情報屋一人が残るという絶好のチャンスに、栄治はすかさず席から立ち上がって、隣の情報屋の所に向かった。


「あの、すみません。自分は大紋栄治というものなんですが、ちょっとお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 急に話しかけられた情報屋は、びっくりしたような表情をした後に警戒するような眼差しで栄治を見る。その視線は栄治の顔から身なりを一通り見た後に、彼が座っていた椅子の背もたれに掛けられているマントにいったところで、再び情報屋は驚いた様に眉を上げる。しかし、そのすぐ後には今までの挙動を隠すかのように柔らかな笑みを浮かべる。


「ダイモンエイジ様はグンタマ―様でいらっしゃいますか?」


 穏やかな声音で話す情報屋。しかし、その瞳にはまだ警戒するような鋭さがあった。


「そうです。それとこちらの女性も俺と同じグンタマ―です」


 そう言って栄治は、遅れて隣にやってきた優奈を紹介する。

 情報屋は優奈の方を向き、そして再び栄治の方をみて逡巡した後に、自分の前の空いている席を促した。


「分かりました。わたくしがお役に立てるかどうかは分かりませんが、お話を伺いましょう」


「ありがとうございます。感謝します」


 栄治が頭を下げると、それにならって優奈も礼を言いながら頭を下げる。その時に情報屋の目が、彼女の胸元に移動するのを栄治はバッチリ確認していた。

 男なら皆そうなるよな、と同志を見る様な視線を栄治が投げかけると、それに気付いた情報屋が「コホン」と小さく咳払いをして、視線をそらしてしまった。

 二人が席に付くのを見計らって、情報屋が口を開く。


「さて、私に聞きたいこととはなんでしょうか?」


 二人の様子を窺うように、慎重な面持ちで話を始める情報屋。それに対して、栄治はなるべく裏を感じさせないように、素直な感じで話す。


「聞きたいことは幾つかあるんだが。まず最初に聞きたいことは、クエストボードっていうものを知っていますか?」


 栄治のその言葉に、情報屋は頷く。


「えぇ、知っています」


 一度そういって情報屋は言葉を区切ると、表情はそのままで、目付きだけを今までの警戒するものから商人のものへと変えた。


「ダイモンエイジ様、わたくしは情報屋で、自分の持っている情報を商品にして生計を立てています」


 そういわれた栄治は、目の前にいる強かな男に笑みを浮かべる。


「分かっています。あなたが俺たちに有益な情報を教えてくれるなら、それに値した対価をしっかりと払いましょう」


 情報屋はしばらく栄治の目を見て品定めしていたが、やがて信用できると判断したらしく、満足そうに頷いた。


「それでしたら、まずは私にお尋ねなさりたい事を全て仰っていただいてもよろしいでしょうか?」


「分かりました。俺たちが聞きたいのは、先程話したクエストボードについて、そして武器屋または鍛冶屋の場所。サーグヴェルドの世界情勢。最後にグンタマ―についてあなたが知っている限りの事を知りたい」


 栄治がまとめて知りたいことを言うと、情報屋は一つ一つ吟味するように目を閉じて考え込んだ。暫くして情報屋は目を開ける。


「クエストボードについてと武器屋と鍛冶屋の情報については、あなた方の満足する情報を提供できると思います。サーグヴェルトの情勢については、さすがのわたくしでも全世界の情勢についての情報は、申し訳ないですが持ち合わせておりません。エスピアン地方での情勢ならば説明することが出来ます。グンタマ―についてですが、いくつかの情報をわたくしは持っておりますが、それがあなた方の役に立つかどうかは、判断しかねます。それらの事を加味して、これらの情報を銀貨3枚で提供させていただきたいと思いますが、いかがなせれますか?」


 栄治は情報屋の提示した金額に、優奈と顔を見合わせる。

 この世界に来てからまだ何もしていない二人にとって、銀貨3枚というのがどれほどの価値なのか判断できない。それに、情報屋が言っているエスピアン地方がどういうものなのか、彼が持っているグンタマ―情報は有益なのかなど、不安なところは幾つかある。がしかし、今の二人には情報が必要なのも事実なので、ここでは頷くしかないと判断した栄治は、優奈に同意を求める。彼女も栄治の考えに賛成なのを確認してから、彼は再び情報屋と向き合った。

 

「分かりました。その金額で情報を買いましょう」


「ありがとうございます。それでは情報を提供させていただく前に、銀貨1枚を頂いてもよろしいでしょうか? 説明がすべて終わった後に残り銀貨2枚を頂きたいと思います」


「分かりました。それでは銀貨1枚を……」


 栄治は情報屋にお金を払おうとしたところで、重大なことに気が付き盛大に焦った顔で優奈を見る。

 冷や汗を顔中に流しながら、まるで突然の便意を全力で我慢していそうな表情の栄治に、優奈は困惑して小声で栄治の名を呼ぶ。


「栄治さん?」 


「お金を持っていない……」


 情報屋に聞こえないように可能な限りの小さな声で囁いたその一言で、優奈はハッして次の瞬間には栄治と同じように焦った顔になる。 

 生前は、出かけるときは当たり前のように財布を身に着けて出かけていた二人は、その習慣のせいで、お金を持っていないという事を完全に失念していた。今の2人は情報屋に報酬を払うことはおろか、先程食べた料理の御代も払う事が叶わない。


「ど、どうしましょう……」


 焦りで青ざめている優奈に、栄治は取り敢えず落ち着く様に言う。


「落ち着くんだ。なにか策はないか考えよう」


「は、はい」


 栄治の言葉に頷いた優奈は、なぜか「ヒッヒッフ~」とラマーズ法を始める。しかし、栄治には「それはお産の時の呼吸法だ」と突っ込む余裕もなく、今の状況を優奈の色気でもしかしたら乗り切れないか? という愚策が頭の中を回っていた。


「あ、あの……大丈夫でしょうか?」


 情報屋が二人の様子を見かねて声をかけてくる。

 それも当たり前だろう。目の前の人がいきなり、便意を我慢するような苦しい青白い顔になったり、美少女が急にお産の準備を始めたら、心配にならない方がおかしい。

 二人の様子にだんだんと怪訝な表情になっていく情報屋。

 栄治は愚策ばかり思い浮かぶ脳内に焦りを募らせていると、不意にロジーナから受けた説明を思い出した。


「そうだ! もしかしたらコインポイントをお金にできるかもしれない!」


 コインポイントとは、軍団の兵を雇うときに消費されるポイントだが、ロジーナはこの世界のお金のようなものだとも言っていた様な気がする。いや、言っていなかったような気もするが、切羽詰まった栄治にはもうそれしか望みはなかった。

 彼は、軍団展開してこの店を武力占拠するという策を練っていた脳内思考を急いで破り捨てると、心の中で「メニューオープン」と唱える。するとすぐに視界に項目が出てくる。そして視界の右上にはソウルポイントとコインポイントが表示されている。

 コインポイントの項目には7,000という表示がされていて、栄治はこれをどうにかして銀貨3枚に変換できないか頭を悩ませていると、不意に目の前にメッセージが現れた。


――コインポイント3,000を消費して銀貨3枚に変換しますか?


 そのメッセージを見た瞬間に、栄治は盛大にガッツポーズをしたい衝動を必死にこらえて、「はい」の項目を選択する。するとすぐに、彼の握っている掌の中に、何かしらの金属の感触が感じられた。栄治はゆっくりと掌を開いてみると、そこにはキラキラと輝く銀貨が3枚あった。

 それを見た栄治は、冷や汗がスーッと引いていくのを感じながら、情報屋に3枚のうちの1枚を手渡した。


「……確かに頂戴いたします」


 情報屋は栄治から銀貨を受け取りながら、小さく鼻で「スンスン」と辺りの臭いをかぐ。

 今まで便意を我慢しているような苦しい表情の人が、突然清々しい表情に変化したら、誰もが皆そういう勘違いはして当然だと栄治は自分の心を納得させる。

 そしてふと隣を見るとそこには、いまだ必死にお産をしようとしている優奈の姿があった。

 栄治は慌てて情報屋からは見えないテーブルの下で、彼女の太ももを軽くたたき、現実世界に引き戻す。


「優奈、もう問題は解決したよ」


「ヒッヒッフ~、ヒッヒ……え? 本当ですか?」


「あぁ、軍団の兵を雇うときに使うコインポイントをお金に変換することが出来た」


 栄治のその説明を聞いて、優奈はやっと安堵の息を漏らす。


「はぁ~良かったです。もう少しで産まれちゃうところでした」


 栄治は、ふざけてボケているのか、それとも真面目に言っているのか判断がつかない彼女の意味不明発言を聞かなかった事にして、情報屋へと向き直る。


「さて、それではお話を聞かせてもらいましょうか」


テーブルの上に肘をついて掌を組み、そこに軽く顎を乗せながら栄治はクールに格好よく決めて、情報屋に話を促した。

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