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第7話 旅の道連れは美少女に限る!

 新学期の登校日初日、遅刻しそうで慌てて走る主人公が、歩道の曲がり角で美少女とぶつかってしまう。主人公は美少女に謝るが、遅刻へのタイムリミットが近付いている為、学校へ向かってのダッシュを再開する。無事遅刻を回避できた主人公が、安堵の息を漏らしながら朝のホームルームを受けていると、転校生の紹介があり、そして紹介されるのは先ほどぶつかった美少女。そこから二人の青春が始まる。

 

 栄治は、そんなベタな展開のストーリーは最早ギャクネタだろうと思っていた。

 実際に美少女とぶつかるまでは。

 今栄治の隣を一緒に歩いているのは、まごうかたなき美少女。風にサラサラとなびく黒髪に、彼女の二重の大きな黒い瞳は優しさに溢れている様だ。平均よりも小さい身長は、彼女の大人になりきっていない若々しい雰囲気をより一層引き立てている。スタイルについては、全身を覆う様なマントを羽織っているのでよくわからないが、握手を交わした時の手はとてもほっそりとしていて、肌は真珠の様に白かった。

 大通りを行き交う市民たち、特に男たちは通りすがりにチラチラと彼女に視線を向けているが、彼女がグンタマーだからなのか声をかけて来る様な者はいなかった。


「そう言えば、まだ自己紹介をしていなかったね。俺は大紋栄治、改めて宜しく」


 栄治が自分の名を名乗ると、少女は少し驚いた様なそして嬉しそうな表情を浮かべる。


「大紋さんは日本ご出身の方だったんですね! 私の名前はユウナと言います。新川(あらかわ)優奈(ゆうな)と言います!」


 表情をパッと明るくさせて笑みを浮かべる優奈。

 今までどこか、迷子の子供のように不安そうな雰囲気を纏っていた彼女だったが、それがなくなり輝く様な笑顔を見せる。

 栄治も優奈の名前を聞いて、驚き眉を上げる。


「初めて会ったグンタマーが同郷とはすごい偶然だね」


 サーグヴェルドは、現世での生を終えた人達が転生をする為に来る世界ならば、きっと世界中の人達がこの世界にいるはずだが、その中で同郷の人と、しかもとびっきりの美少女と出会うなんて、これは本当に運命の出会いなのかもしれないと真剣に考え出す栄治。


「はい、嬉しい偶然ですね!」


 栄治が自分と同じ日本出身と知って、警戒をすっかり解き眩しい笑顔を向けて来る優奈。そんな彼女を見て、栄治は嬉しいと思う反面、女の子だからもう少し慎重になって欲しいという思いもあった。


「そう言えば俺が一緒に行動しようって新川さんを誘った時、俺の顔を見てからOKしたけど、なんで?」


 栄治が誘いを申し出た時、彼女は差し出された手をジッと見た後に、彼の顔を見て誘いにのった。これはつまり、自分のイケメンスマイルのなせる技だろうと、ほぼ確信していた栄治だが、やはり本人の口から確証の言葉が欲しいと思う栄治は、再びキリッとした表情で尋ねる。

 それに対して、再びクスッと小さく笑いながら優奈は答える。


「最初は知らない人と一緒に行動するのは危ないと思ったんですけど……」


「ですけど?」


 優奈は、一度言葉を区切って栄治の表情を一瞬伺ってから言葉を続ける。


「大紋さんが変顔をしていて、私の緊張を解く為にわざわざそんな事をしてくれて、とってもユーモアがあって悪い人じゃないんだなぁって思ったんです」


 そう言って、再び小さく笑みを浮かべる彼女の言葉に、栄治のキリッとした表情が引きつり、心の中に冷たい風が吹き荒れる。

 栄治は、一瞬でも自分の顔がイケメンだと思った事が無性に恥ずかしくなり、目に前に伸びる大通りの真ん中を大声で叫びながら走り去りたい衝動に駆られる。

 死んだ魚の様な目で、氷像の如く固まっている栄治に気付かず、優奈は更に続ける。


「それに、まだ会ったばかりで大紋さんの事は何も知らないですけど、大紋さんを見てるとどこか安心するんです。同じ日本出身って事もあると思うんですけど、それだけじゃなくて、太陽みたいな人というか……うーん、うまく説明できないですけど、この人になら付いて行っても大丈夫かな? って思っちゃったんです」


 はにかみながら言う優奈。その言葉に、今まで激しいブリザードが吹き荒れていた栄治の心は、一瞬にして暖かい日差しが燦々と照りつける楽園へと様変わりした。

 先程とは真逆に、大通りを鼻歌を歌いながらスキップしたくなる栄治だったが、表面上はあくまでも平静を装う。


「それはもしかしたら、新川さんは俺に一目惚れしちゃったのかもしれないですね」


 フッとキザな笑みを浮かべてさり気無い様子で話す栄治の言葉に、優奈はニコッと笑って応える。


「ふふっ、もしかしたらそうかもしれませんね」


 まさかの返答に、心肺停止一歩手前におちいる栄治。

 彼女の屈託のない笑み、そしてちょっと恥ずかしそうにしながらも満更でもないといった表情はまさに、世の男どもにとっては凶器も同然だった。

 栄治は優奈に気付かれない様に、小さく深呼吸しながら気持ちを落ち着かせる。

 栄治はこの世界に来る直前は、80歳を超えたヨボヨボの爺さんだった。もう恋愛にときめく気持ちなど、とうの昔に枯れ果てていたはずだ。そのときの境地をもう一度思い出すんだ我の魂よ。と何度も心に言い聞かす栄治は、ふと気付いてしまった。

 自分がこの世界にきた時が爺さんだったならば、彼女も生前はヨボヨボの婆さんだったかもしれない。逆に今がこんなにも若々しい美少女だったならば、生前はあまり容姿に恵まれていなかったのかもしれない、その時の美への憧れが今の目に前にいる美少女の姿を作り出したと考えられる。

 そう考えると、若干の余裕が生まれる栄治。


「こんなに可愛い女の子を彼女にできたら、世界一の幸せもんだね。あはっはっは」


「それは言い過ぎですよ」


 栄治に褒め言葉に、ほんのりと頬を染める優奈。

 その恥じらう姿を見て栄治は、先程考えた事など一瞬でどこかに飛び去り、見惚れてしまう。

 もう彼女の生前が婆さんだとか、容姿が恵まれていないとかはどうでもよかった。何故なら今、この時、目に前にいるのは美少女で、可愛いは正義なのだから。

 そんな諦めの境地に至った栄治とその隣を歩く優奈は、しばらく大通りを歩き、武器屋か鍛冶屋を探すが、なかなかそれらしいものが見当たらない。


「見つからないですね、武器屋」


 大通りの左右を見渡しながら優奈が言う。


「そうだね、多分見落としてはいないと思うけど、探している通りが違うのかな?」


 栄治は途中で何度か精神に異常をきたしていたが、それでも見落としはなかったと思う。

 今二人が歩いている通りの左右に立ち並ぶ建物は、そのほとんどが飲食店や服屋、雑貨屋などの商店街に立ち並んでいそうなものばかりだった 。

 一度円形の広場に戻って違う通りを探すか、それともこのまま、この通りを進んでいくか、意見を聞こうと栄治が優奈の方を向いた時、「くぅ〜」と言う音が耳に入る。それと同時に、顔を真っ赤にしながらお腹あたりを抑える優奈。


「あ〜、そういえば俺さ、結構お腹空いてきてるんだけど、ここらで一回休憩を兼ねて昼食にしない?  ちょうど時間的にもお昼っぽいし」


 栄治は、「なんにも聞こえていませんよ?」といった感じで優奈に問いかける。


「……はい、賛成です」


 尚も顔を赤く染めながら、上目遣いでエイジを見て賛成する優奈。

 彼女のその可愛らしい姿に、栄治は笑みを浮かべながら、ちょうど目に付いた店を指差す。


「あそこの店にしよう。なかなかに繁盛してそうだから、味も期待できそうだ」


 そう言って店に向かう栄治の後ろを優奈がトコトコと付いていく。


「ごめんください」


 言葉と共に栄治は扉を開ける。すると、なんとも香ばしくて美味しそうなパンの匂いが一気に栄治の鼻に流れ込んできた。

 栄治はその香りを深呼吸をするかの様に大きく吸い込む。優奈も栄治の後ろから顔を出して、店の中を見ながら「とってもいい匂いですね」と目を輝かせる。

 2人が入った店は、4人がけの丸テーブルがいくつも並んでおり、その内の8割程の席がもうすでに埋まっていた。

 栄治と優奈も早速空いている席に腰をかける。すると直ぐに店員が来て、水の入ったコップとメニューをテーブルに置き、「ご注文が決まりましたらお呼びください」と言って去っていく。


「結構良さそうな店だね。適当に選んだけど当たりだったみたいだ」


 栄治は辺りを一通り見渡して言う。

 店の中は天井が高くて開放感があり、窓も大きく取られているため、店内は太陽の日差しがたくさん入って来てとても明るい。まだ昼間というのもあると思うが、客の中に酔っ払いなどもいそうな雰囲気は無く、マナーの良さそうな人達ばかりだ。これは、女の子と一緒にいる栄治にとっては、無用ないざこざに巻き込まれなさそうで一安心だった。

 栄治は最後に、隣で熱心に商談らしき話をしている中年の男2人をチラッと見てから、正面に座る優奈に視線を戻した。


「そうみたいですね。清潔感があってとってもいい雰囲気のお店ですね」


 優奈も栄治の意見に賛同して笑みを浮かべる。


「それじゃ早速メニューを見てみようか」


 そう言って、栄治はテーブルに置いてあったメニューを手に取ると、パラパラとページをめくって内容を確認する。そして「おっ!」と短く驚いた声をあげると 、目を瞬いたり擦ったりする。


「どうしたんですか?」


 栄治の行動を疑問に思った優奈が、首を傾げながら問いかけると、栄治は自分が開いているメニューをそのままテーブルの上に置いて、彼女にも見える様にする。すると優奈も驚いた様に目を見開いた。


「これは不思議な感覚ですね。知らない文字が読めるなんて……」


 今2人が見ているメニューに書かれている文字は、日本語でなければ英語や中国語でもない、まったく未知の文字だった。しかし2人は、優奈の言葉通り問題なくその未知の文章を読み内容を理解する事ができた。


「きっと神様が生活に困らない様に便宜をはかってくれたんだろうね」


 栄治は脳内に白衣を着たインテリ神様を思い浮かべると、それに向かって合掌して感謝の念を送っておいた。


「そうですよね。文字が読めるっていうのは大きいですもんね」


 優奈はそういうと、メニューを色々と眺める。その時の彼女の表情はなんとも楽しそうで、ときおり「うわ、これおいしそ〜」だとか「これにしようかな、あでもこれも……」などと呟きながら メニューのページをめくっている。

 栄治はそんな彼女の様子を見ながら楽しんでいると、悩みに悩んでいた優奈がやっと決めたようで、栄治の方を見た。


「私はこれにします。大紋さんはどれにしますか?」


 そう言って彼女が指差すのは、料理名は聞いたことがないものだったが、料理名の隣にある絵から判断すると、パンにソーセージ盛り合わせとポテトサラダがセットになっているものだった。


「じゃあ俺はこのテトラン? のステーキにしようかな」


 栄治が選んだのは、聞いたことがない動物のステーキだったが、この店の雰囲気からゲテモノではないだろうと判断する。

 2人の注文が決まったので、栄治が手を上げて店員を呼んで、注文を伝える。店員が「畏まりました」と丁寧に頭を下げて席を離れると、栄治は「ふー」と一息付いて身につけていたマントを脱いで、椅子に背もたれにかけた。そして、コップの水を一口飲む。

 それを見た優奈も、栄治に習ってマントを脱いだ。途端に栄治がむせた。危うくコップの水を撒き散らすところだったが、なんとか耐える。

 今まで全身を覆うマントのせいで、彼女の体つきが分からなかったが、そのマントを脱いだ今は、はっきりと確認することができた。

 女性らしいほっそりとした体つきに、魅力的なくびれのあるウエスト。そして何より一番目につくのは、女性を象徴する2つの膨らみだった。

 小柄な彼女の体格にわりに大きく発達したそれは、しかし全体のバランスを崩すことなく、彼女の魅力を破壊級に引き立てている。それを真正面から見た栄治の内心は「有難うございます」の一言に尽きる。


「大紋さん、どうしたんですか?」


 急にむせたかと思えば、次の瞬間にはお辞儀をするエイジの奇行に、優奈は怪訝な表情をする。


「あ、いや。大きいなと思って」


 慌てて返事をした栄治は思わず口が滑って、「しまった!」と慌て口を噤むが、時すでに遅しであった。


「大きい?」


 脈絡のない言葉に、優奈は首をかしげる。

 栄治は背中に冷や汗をかきながら、なんとか誤魔化そうとする。


「そ、そう! 大きいよね! 新川さんのその……マント! 俺のは背中にかかるタイプだけど、新川さんのは全身を覆うタイプだもんね! グンタマーによってマントの種類は違うみたいだね」


 栄治は苦し紛れに言葉を発して、なんとか誤魔化そうとする。そんな彼の試みは成功したようで、優奈はやっと栄治の言っていることが理解できたという様な表情になった。


「栄治さんは説明を受けなかったんですか? このマントと、あとグンタマはデザインを変えれるんですよ?」


「え? そうなの? 俺はそんな説明は受けなかったな」


 誤魔化すために適当に言った言葉から、思いもよらない情報を得る栄治。

 優奈曰く、グンタマとマントは、ロジーナから説明を受けた視界に映るゲームの様なメニュー画面の中に、デザイン設定なる項目があり、そこからマントやグンタマのデザインを変更できるらしい。

 早速栄治は、優奈から教えてもらいデザイン設定の項目を開いてみる。するとそこには、様々なマントのデザインが画面いっぱいに並んでいた。それは、栄治が生前でも見たことがあるスタンダードなものから、羽織れば「我は破壊の使者なり」と黒歴史なセリフを言ってしまいそうなものまで様々だった。そしてその中には、灰色で暗く表示されているものもあった。


「この暗く表示されているのはなんだろう?」


 栄治が疑問を口にすると、それに優奈が答えてくれる。


「それはまだ解放されていないものだそうです。軍団のレベルを上げたり特定の条件を満たすと解放されるらしいですよ? ロジーナちゃんが言うには、かっこいいマントを羽織りたかったら強くなれ! だそうですよ」


 彼女の説明に納得して頷く栄治。

 次に彼はグンタマのデザインを見てみる。そこにはイヤリングやブレスレットなどの装飾品のデザインをしたグンタマがあった。


「え? グンタマってこういう風に身に付けられるの? 今までズボンのポッケに入れてた俺が馬鹿みたいだ……」


 ロジーナからグンタマは自分の魂の様なものだから大切にしろと言われたが、ずっと手に持っているには邪魔だったので、仕方がなくズボンのポケットに入れていたわけだが、握り拳くらい大きいグンタマをポケットに入れているのは、なんとも居心地が悪かったのだ。

 栄治は数あるグンタマのデザインからネックレス型のグンタマを選択した。すると、今までズボンの中にあったグンタマの感触が消え、次の瞬間には栄治に首元からふた周りほど小さくなったグンタマが掛かっていた。


「あ、大紋さんもネックレス型のグンタマにしたんですね! お揃いですね」


 栄治のグンタマを見て、優奈も自分のネックレス型のグンタマを服から取り出して栄治に見せる。ネックレスを手繰り寄せる時に、彼女の胸元が少し見えドキッとする栄治だったが、視線が下に行かない様に堪えながら、なるべく彼女の目を見て話す様に心がける。


「新川さんもネックレスにしたんだね。それにしてもこんな便利な機能があるなら早く知りたかったな。ロジーナのやつめ職務怠慢か?」


 そう冗談を言いながら笑みを浮かべる栄治は、もし次ロジーナに合う機会があった時は、この事を抗議しようと心に誓う。

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