表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/78

第20話 格好良い四文字熟語ランキング第59位『一騎当千』

 騎馬隊の突撃に対して、栄治軍はパイク兵を展開し槍衾で対抗する。


「衝撃に備えッ!! 騎兵を押し止めろ!!」


 栄治の叫びと同時に、ホルヘスの騎兵隊と栄治軍のパイク兵が激突する。


 両者が激突する寸前、栄治はパイク兵が騎馬隊に飲み込まれる様な錯覚を観る。

 それほどまでに、正面から見る騎兵隊の突撃というのは迫力があった。

 しかし、それは杞憂に終わる。

 パイク兵による槍衾は、騎兵隊の突撃をしっかりと受け止め、その勢いを押し留めた。


「騎兵が止まったぞ!! 押し返せッ!!」


 栄治の号令で、長弓兵隊の護衛についていた重装歩兵とコボルド重歩兵がホルヘス騎兵隊に押し寄せる。

 

 突撃の勢いを止められたとしても、騎兵は馬上という高さの有利がある為、そう易々と打ち取ることはできない。

 しかし、ホルヘス騎兵隊に対して数で勝る栄治軍の歩兵部隊が、飛びかかって馬上から引き摺り下ろし、落馬したところを囲んで打ち取る。

 そうやって徐々に数を減らしていくホルヘス騎兵は、2割ほどの兵を失ったところで、馬首を反転させて撤退していった。


 敗走する敵騎兵隊の後ろ姿を見て、右翼側で戦った歩兵部隊から一斉に勝利の雄叫びが上がる。


 栄治も彼らと一緒に雄叫びをあげていると、前線で指揮を取っていたミリアが彼の元へやってきた。


「エイジ様、投石機五台のうち一台が炎上。三台が煙を出しています。最後の一台はまだ無傷ですが、長弓兵の火矢により戦意を喪失。投石機を置いて逃げ出しましたわ」


「本当か!」


 彼女の報告に栄治が前線に視線を向けると、そこには盛大な勢いで上がる炎と、もうもうと立ち込める煙が目に入った。


「よし! 騎兵も追い返して投石部隊も戦闘不能にしたぞ!」


 栄治が剣を握る手を天に突き上げると、それに倣って周りの兵士たちも拳を突き上げて、目的達成の雄叫びをあげた。


 あたかも戦に勝利したかの様な雰囲気に包まれる栄治軍。

 その中でただ一人冷静に戦況を見極めているミリアが、栄治に進言する。


「エイジ様、すぐに陣形を整えた方が良いですわ」


「……え?」


 呆けたような返事を返す栄治の元に、複数の兵士が慌てて報告に来る。


「左方から敵軍が押し寄せてきています! 直ちに守備陣形を!!」

「右翼側にも敵が迫ってきています!」

「前線の敵の圧力が高まっています!! ドワーフ兵とエルフ兵は疲労が蓄積していてこのままでは持ちません!!」


 栄治の耳には、矢継ぎ早に敵軍の動向が入ってくる。

 そのどれもが栄治軍にとっては芳しくない報告である。


 良くない報告は更に続く。


「敵騎兵隊が我が軍の背後に回り込もうとしています!!」


 三方向を敵に囲まれた状況で、背後から騎兵の突撃を喰らいでもしたら、一瞬にして栄治軍は恐慌状態に陥り、瓦解して全滅させられるだろう。

 もしそうなれば、目も当てられないような虐殺が始まってしまう。


「急激に戦線を押し上げて、私達だけ突出して孤立してしまいましたわね」


 周りに視線を配りながらミリアが言う。


 もともと大きな兵力差が有るこの戦場で、栄治軍は投石機を長弓の射程に収める為、強引な進軍を続けた。

 その結果、見事に投石部隊を壊滅させることができたが、その代償として、栄治軍だけ敵の大群の中にポツンと孤立してしまった。


「急いで防衛陣形を整えなければ、簡単に私達は蹂躙されてしまいますわ」


「分かっている……包囲される前になんとかしないと……」


 じわっと滲む嫌な汗を拭い栄治は必死に軍団の指揮を取る。


「パイク兵はそのまま右翼側で守備に付け! コボルド重歩兵と重装歩兵は前線に移動、ドワーフ戦斧兵とエルフ弓兵は一旦後退だ!」


 開戦から今に至るまで休みなく戦い続けているドワーフ戦斧兵とエルフ弓兵は、さすがに疲労の蓄積で動きが鈍くなってしまっている。

 このまま前線に止まれば死傷者が増えてしまうと判断した栄治は、この2部隊を一旦戦線から下げる。


「エイジ様、左翼側の防衛はどうしましょうか?」


 ミリアの言葉に栄治は顔を歪めて唸る。


 すでに栄治軍の中で動かせる兵力は少なくなっている。

 現状は前線に槍兵隊と剣士隊、そこに鎖帷子騎兵隊とコボルド重歩兵、重装歩兵が加勢している。

 右翼側にはパイク兵が槍衾で守備についている。


 この段階で戦線に加わっていない部隊は魔術士隊、軽騎兵隊、長弓兵隊の3部隊と疲労蓄積のために下げたドワーフとエルフの2部隊になっている。

 

 この状況で左翼の守備と後方に回り込もうと来ている敵騎兵隊の対応を同時に行わないといけないのは、戦の素人である栄治にはあまりにも難易度が高すぎる。


 必死に考えても答えが出ない状況に、栄治は半ばパニックに陥いる。

 そんな彼にミリアが至極落ち着いた声音で言う。


「エイジ様、わたくしに軽騎兵隊を預けてください。左翼の敵を押さえて差し上げますわ」


「え? でも軽騎兵隊は50騎しかいないのに……」


「問題ありませんわ。わたくしにお任せくださいな」


 ミリアはそう言ってニッコリと笑う。

 そんな彼女の笑顔に栄治は心がスッと軽くなるのを感じた。


「エイジ様は残りの部隊を後方に回して、ラスコ様の兵がいるところまで後退してください」


「ミリアさん……分かりました。ありがとうございます!」


 栄治の返答を聞いたミリアは彼から軽騎兵隊を貰い受け、それを率いて左翼へと向かっていった。


「ドワーフ戦斧兵とエルフ弓兵は後方に移動! 魔術士隊と長弓兵は後方に回り込もうとする敵に任意で攻撃!」


 栄治の指示で兵隊が動く。

 ドワーフ戦斧兵とエルフ弓兵の疲労は心配だが、後方は前線に比べれば敵の圧力は高くはない。


「ゆっくりと撤退するぞ! ラスコさんのところまで戦線を維持しながら下がるんだ!」


 ラスコが率いてる軍団に合流できれば、ひとまず包囲殲滅される心配はなくなる。

 かと言って、合流を急ぐあまりに後退を急げばたちどころに戦線は崩壊して栄治軍は瓦解してしまう。

 戦線を維持したまま迅速に後退する。

 まさに指揮官としての手腕が問われるところである。


「後方に敵を回り込ませるな! エルフ弓兵は魔弓も使用するんだ!」


 指示を飛ばしながら栄治はチラッと左翼側に視線を向ける。

 そこには、数が少なくとも軽騎兵の特徴である高い機動力を活かし、敵を翻弄しているミリアの姿があった。


 左翼は彼女に任せていれば問題ないと判断した栄治は、自身の軍団を後退させることに集中する。

 しかし、後退し始めてすぐに自分たちの置かれている状況が絶望的で有ることに気付く。


 元々の戦力差が三千人近くある戦場で、無謀な進軍をして突出してしまった栄治軍。

 そんな状況下で敵からの包囲を防げる筈がなかった。


「弓と魔法だけでは敵の動きを抑えきれません!!」


 兵士の一人が報告を上げる。


「右翼のパイク兵が徐々に押されてきています!」


 もともとパイク兵はそこまで兵数を揃えていない。

 いかに強力な兵科だとて、敵が数で圧力をかけてきたら押されるのは当然であった。


「くそっ! ここまでか……」


 栄治の視界には徐々に敵兵の姿が多くなり、敵の包囲から逃げられないと言う事実が突きつけられる。


「敵騎兵隊、後方より突撃してきます!!」


 兵士からのその報告に栄治は天を仰ぐ。

 

 ついに敵騎兵隊に回り込まれてしまった。

 こうなってしまっては、もう防ぎようがない。


「かと言って、そう簡単には諦めないけどね」


 見上げていた視線を下げ栄治は言う。

 

 栄治には優奈を救い出すと言う使命がある。

 こんなところで簡単に打ち取られるわけにはいかない。

 彼は手に握る剣を振り上げ、大きな声で怒鳴り兵士たちを鼓舞する。


「動けるやつは全員俺に着いて来い!! 敵の騎兵を真正面から叩き潰すぞ!!」


 そう言うのと同時に、栄治は馬を走らせ敵騎兵隊へと立ち向かう。

 今の彼は、優奈から譲り受けた身体能力強化のギフトの力がある。その力があれば、一騎当千の働きでこの戦況を打破できるかもしれない。


 淡い希望を胸に栄治は馬を駆ける。

 そんな彼の後に続いて、疲労困憊で満身創痍になっているはずのドワーフ戦斧兵とエルフ弓兵続く。

 彼らは疲れを吹き飛ばすかのように、獣のような雄叫びをあげて、敵騎兵隊へと突進する。


 そして、あともう少しで両軍が衝突する寸前、決死の覚悟で突撃を敢行する栄治達の前に、一つの部隊が躍り出てきた。


「エイジ殿! 助太刀する!」


「なッ――シャルロット殿下!!」


 突如として現れたシャルロットは、そのまま自身が率いる騎兵隊を引き連れ、栄治軍の後方に突撃を仕掛けてきた敵騎兵隊に、真正面から突っ込んだ。


 栄治軍の後方は一瞬にして馬のいななきや兵士たちの怒声や悲鳴が響き渡る乱戦状態になった。


「シャルロット殿下を援護しろ!! 何が何でも守るんだ!!」


 栄治がそう指示を飛ばすが、対するシャルロットはと言うと、乱戦の中でも遅れをとる事なく次々と敵を打ち取っていく。

 そんな鬼神の様な強さを見せ付ける彼女に、敵も徐々に(おのの)きだし、彼女から距離を取り出す。

 シャルロットの強さに恐怖し動きの悪くなった敵兵達は、彼女が率いる部下達が確実に仕留めていく。


 そうやって圧倒的な強さを見せ付けるシャルロットの率いる騎兵隊によって、当初は敵味方が入り乱れる乱戦状態だった戦況が少しづつ傾きだす。


「これが本当の一騎当千というやつか……」


 シャルロットの実力を目の当たりにして、栄治は小さく呟きを漏らす。


 たった一人で戦況を覆す力を持つ者。

 一人で千人の戦力に匹敵する猛者。


 彼女の強さはまさに『一騎当千』という言葉そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ