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第8話 姉が美少女なら、弟も美少年なのが異世界です


 謁見の間を後にした栄治とアスベルは、王城内に用意された客室へと通された。


「シャルロット様、大丈夫だべか?」


 ラベリテ王国の宰相ミリアンから、エンバラという街へ救援に向かえと指示されたシャルロット。そんな彼女を心配して、アスベルが不安そうに言う。


「国王の命令って言ってたけど、つまりシャルロット殿下は実の父親から戦場に迎えって言われた事になるのか」


 王族という事で、普通の家族とは価値観や考え方、優先しなければいけないもの等は、大きく違うかもしれない。

 しかし、現世では子供がいなかった為、親心というものを知る機会がなかった栄治ではあるが、自分の子供を思う親の気持ちは、皆同じだと思いたい。


「それになんで、謁見の間に国王の姿はなかったんだろう?」


 栄治の疑問に、アスベルも只々首を傾げる。


 謁見するのが栄治とアスベルの2人だけならば、国王が姿を見せなかったのは納得ができる。

 自分達2人の対応には国の最高権力者ではなく、ナンバー2である宰相が最適なのだろうと、そう考える事ができる。


 だが、あの場にはシャルロットも居た。

 九死に一生を得て、死地から生還した実の娘が居たにも関わらず、その父親である国王は、姿を見せなかった。


「オラも噂とかで聞く程度で、全然詳しい事はしらんだけども、どこの国の王族様方も結構人間関係が複雑らしいんだべ」


「まぁ確かに、継承権争いとか派閥争いとか、争いの種は多そうだけど」


 現世の世界でも、そういった類を題材にした映画やドラマなどの創作物は数多くあった。


「シャルロット殿下と国王の間には、なんらかの確執があるのか……?」


「ぬ〜ん、分からんだべさ」


 お互いが首を捻り合っていると、トントンと部屋の扉がノックされた。

 ノックの後に、使用人らしき女性の声が扉の向こうから聞こえる。


「シャルロット殿下御救出に対して、謝礼の準備が整いました。入室してもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。どうぞ」


 栄治が返事を返すと、部屋の扉が開かれ、その先から数人のメイド達が入って来た。

 その中の1人は、小型の台車を押しており、台車の上には何やら白い布が被されていた。


「エイジ様、アスベル様。こちらに、お礼として金貨50枚をそれぞれに御用意致しました。どうかお納め下さいませ」


 1人のメイドが頭を下げそう言った後、台車に被されていた白い布を取る。

 するとそこには、金色の輝きを放つ小山が2つ並んでいた。


「おお! 金貨の山だべ!!」


 アスベルは瞳を¥にして感嘆の声を上げる。

 その口元からは、今にも涎がこぼれ落ちそうである。


「金貨10枚を見た時も感動したが、50枚はさらに圧巻だな」


 栄治も目の前にある、金色の輝きに「ほぅ」と吐息を漏らす。


 栄治はクレシオンでの盗賊討伐で、報酬として金貨10枚をもらった事がある。

 その時もかなり興奮したが、今回はその5倍の量と言う事で、かなりテンションが上がっていた。


 2人でニヤニヤと口元を緩めている中、先ほどのメイドがアスベルの方を向く。


「アスベル様、商会の件についてなのですが、王都に拠点を置く商会の代表達が集まる夕食会が今夜開かれるのですが、御出席なされますか?」


「そうなんだべか? 是非に参加したいべ!」


 メイドの提案に、アスベルは高なる声音で返事をする。

 おそらく、彼と商会との間で繋がりができる様に、ミリアンが取り計らってくれたのだろう。


「畏まりました。それでは夕食会に参加するにあたり、商会とその代表者についての基本情報をお伝えするのと、夕食会に着て頂く衣装を用意しております。お着替えして頂く必要が有りますので、別室へ案内してもよろしいでしょうか?」


 メイドの丁寧な対応に、アスベルは安心した様子で頷く。


「お願いすます」


 頭を下げるアスベルは、そのままメイドに付いて、部屋の外に向かおうとし、扉の前まできたところで、ふと動きを止めた。


「あんの、ひとつお聞きしたいんだけんども」


「はい、なんでございましょうか?」


「準備が終わったら、そのまま夕食会に向かうんだべか?」


 アスベルのその質問に、メイドは部屋の窓の外に視線を向け、今の時間を確認した後に少し考える様な仕草をしてから答える。


「はい、アスベル様の準備が整い次第、そのまま夕食会へと向かって頂きます」


 メイドの返事を聞いたアスベルは、戸惑いがちに栄治の方を見る。


「あんの、エイジ様。オラ商会の人たちと話ししたんら、明日にもここを発とうと思っとるんだけんども……エイジ様はどうするだべさ?」


「あぁ……どうしようか」


 アスベルがラベリテ王国に来た理由は、商品を売る為だ。

 しかしその商品を失った今、謝礼金を貰って商会とのパイプもできたら、もうここに留まる理由はない。

 次の商売のために、仕入れをして次の街に向かった方が利益になる。


 対する栄治がラベリテ王国に来た理由は、副将をスカウトする為である。

 しかし、この国の現状からして、有力な人物を引き抜くのは難しそうである。

 であるならば、このままアスベルについて行ったほうが得策なのかもしれない。


 暫く考え込んだ栄治は、ゆっくりと話し出す。


「いや、俺はもう少しここにいるよ」


 栄治はラベリテ王国に留まることを選択した。


「この王都で、副将になってくれそうな人物を探してみる」


 副将の引き抜きは難しそうだが、可能性がゼロではない。

 優奈を助けることを考えると、あまり時間は無駄にできないが、焦りすぎて大事な機会を失ってしまっては、本末転倒である。

 栄治が挑むのは、この世界最強のグンタマーである為、少しでも強い副将が必要なのだ。


「んだべか。そんだば、ここでお別れだべな」


 栄治の返答を聞いたアスベルが、ゆっくりと彼に歩み寄る。


「ここまでありがとう」


 近付いたアスベルに、栄治は手を差し出す。


「エイジ様も、頑張ってくんださい。無事にユウナ様と再会出来ることを心から祈っているだべさ」


 アスベルは差し出された手をぎゅっと握ぎる。


「ありがとう。俺も君が商人として大成することを祈っているよ」


「あんがとうございますだエイジ様。それじゃあ、またどこかでお会いしましょう」


 アスベルは少し名残惜しそうに、栄治の手を離す。


「あぁ、またどこかで」


 栄治も、ここまで連れて来てくれたアスベルに、心から感謝の気持ちを込めて言う。


 謝礼の金貨を袋に詰め、案内のメイドの後について部屋から出ていくアスベルを栄治は笑顔で見送る。


 自分の欲望に素直で、時に大胆な行動に出るが、人懐っこくて、どこか憎めないアスベルを栄治はかなり気に入っていた。

 きっと彼は商人として成功するだろう。そんな漠然とした、しかし確信にも近いものを感じながら、栄治は彼がさった後の扉をしばしの間見つめていた。


「さてと、俺も金貨をもらおうかな」


 栄治はそう言って、台車に乗っている金貨を袋に詰める。

 実はレベルアップした後に、軍団を再編成する際、かなりのコインポイントを消費した為、金欠状態に陥っていたのだ。


 栄治が金貨を受け取ると、部屋に残っていたメイド達が空になった台車を押して部屋から退出していく。

 そして、最後に1人残ったメイドが栄治に、この後のことを説明する。


「エイジ様、ご夕食はこちらで頂かれますか?」


「あ、はい」


「畏まりました。それでは夕食の準備が出来ましたら、お呼び致しますので、それまでこの部屋でゆっくりとお寛ぎ下さいませ」


 メイドは綺麗な仕草でお辞儀をすると、部屋から退出した。


 部屋に1人になった栄治は、取り敢えず近くに置いてあったソファに腰を下ろす。

 なかり高級な代物なのだろう。腰掛けた瞬間に、まるで雲に座ったかの様に深く沈み込み、最高の座り心地に包まれた。


「さすが王城の客室」


 独り呟く栄治。

 彼は暫くの間、ぼーっとソファに埋もれていた。

 するとそこに、扉のノック音が響く。


「エイジ様。シャルロット殿下がお見えです」


 扉越しに、シャルロットの来訪を告げるメイドの声に、栄治は慌ててソファから立ち上がって、返事を返す。


「どうぞ通して下さい」


 栄治が返事をすると、メイドによって扉が開かれて、シャルロットが部屋に入って来た。


「おや? アスベル殿は?」


 部屋に栄治しか居ない事に、シャルロットは首を傾げる。


「彼は商会の人達との夕食会に出席する為、別室で衣装とかの準備をしています。多分準備が終わり次第、この部屋には戻らずにそのまま夕食会に向かうと思いますよ?」


「そうか……アスベル殿にも後で謝罪しなくてはな……」


 栄治の説明に、シャルロットは小さく呟く様に相槌を打つと、改めて栄治に視線を向ける。


「エイジ殿、すまないが私はすぐに、出陣しないといけなくなってしまった。本来であれば、私が色々ともてなそうと思っていたのだが……すまない」


「いえいえ、殿下が謝る様な事では。殿下は充分俺達に感謝の気持ち伝えられました。それは俺だけじゃなく、アスベルも感じているはずです」


 何度も謝罪の言葉を口にするシャルロットに、栄治は充分な対応を受けていると答える。


「それよりも殿下。あなたは大丈夫なのですか? やっと王都に戻ってきたばかりなのに、すぐに出陣などして、体調の方はよいのですか?」


 謁見の間で見た、彼女の憂いを帯びた表情を思い出しながら、栄治はシャルロットを心配する。


「心配してくれて、ありがとうエイジ殿。だが、私は問題ない、大丈夫だ。まぁ、仮にも大丈夫でなくても、国王の命令ならば、それに従うのが騎士というものなのだがな」


 そう言って笑うシャルロットの表情は、やはり栄治には、どこか物悲しい雰囲気を感じていた。


 しかし、それは当然なのかもしれない。

 シャルロットの年齢は、栄治の前世の世界ではおそらく高校生くらいのはずだ。そんな思春期真っ只中の、精神的に不安定な時期に、実の父親から姿も見せずに、命懸けの戦場に向かえと言われれば、誰でも悲しい気持ちになるはずだ。


 そんな彼女にどんな言葉をかけようか、栄治が頭を悩ませていると、再び部屋の扉がノックされた。


 そのノックは、使用人がする丁寧なノックではなく、まるで酔っ払いが扉を叩くかの様な、ダンッダンッと乱雑なものだった。

 そして栄治が返事をする前に、扉がバタンッと勢いよく開け放たれる。


「ほほぉ、君が噂のグンタマーか」


 扉の向こうにいたのは、まだ幼さを多く残した顔付きの少年だった。


 少年は尊大な態度で、部屋の中に入ってくると、口元にうっすらと笑みを浮かべながら、栄治の事を値踏みするかの様に上から順番に視線を下ろしていく。


 対する栄治は、突然現れた少年にどういう対応をすればいいのか分からず、取り敢えず少年の外見を観察する。


 少年の髪は、綺麗な金髪で瞳の色は青色。

 そして、顔は恐ろしい程に整っており、非の打ち所がない完璧な美少年であった。

 着ている服は、かなり上等そうなものである事から、少年は貴族で確定だろう。ならば下手な対応は、面倒な事になりかねない。

 栄治がそう警戒しながら、少年の出方を伺っていると、栄治の隣にいたシャルロットが、少年に対して咎める様に口を開いた。


「ヴィルヘルム。ノックの返事を待たずに部屋に入ってくるのは失礼だぞ」


 彼女の注意に対して、ヴィルヘルムと呼ばれた少年は、反省した様子もなく、シャルロットの方を見る。


「おや? 姉様、ここにいらしたのですね」


 少年の発言を聞いて、栄治は納得した。


 突然部屋に乱入してきたこの少年は、どうやらシャルロットの弟らしい。

 つまりはこの国の王子という事であり、偉そうにしている態度も納得がいく。そして、ハッと息を呑むほどの美貌も、姉と弟で共通らしい。


「姉弟揃って美少女、美少年って……さすが異世界だなぁ」


 そんなどうでもよい事を、栄治は誰にも聞こえない様な小さな声で、静かに呟いた。

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