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第5話 ギャップ萌はもう死語でしょうか?

 

 高い天井から、豪華さを少し控えめにしたシャンデリアが吊るされていて、部屋全体が蝋燭の柔らかな光で包み込まれており、綺麗な木目が特徴的な壁は暖かい雰囲気を醸し出している。

 また、部屋の随所には、客人の目を楽しませるための調度品や絵画が飾られている。


「エイジ殿にアスベル殿。こたびは姫様をお救いくださり、感謝申し上げる」


 部屋のちょうど真ん中付近に置かれているソファに腰掛けている初老の男性が、対面に座る栄治とアスベルの2人に軽く頭を下げながら言う。


「い、いんや。オラ達は当然の事をしたまでですだ」


 若干緊張気味に返すアスベル。彼の言葉に栄治も頷く。

 イクルード砦までシャルロットを送り届けた栄治達は、砦内の貴賓室へと通されていた。


 2人の対面に座っている初老の男性は、ゴドルフ・フォンツベルクという名で、ラベリテ王国の侯爵家という大貴族かつこの国の軍事のトップである将軍というかなりの大物人物である。


「姫様の話では、貴公らはホルヘスの追手から必死に姫様を守ってくださったとか」


「それは、自分の大切な商品を捨ててでも馬車を走らせた彼の功績が大きいですよ」


 ゴドフルの賛辞に対して栄治はアスベルをたてる。

 実際に栄治は馬車の荷台に乗っていただけで、敵の魔法を弾いていたのはシャルロットだ。栄治が役に立ったのは、軍団を展開できるようになった森を抜けた後である。


 隣ではアスベルが照れたように「んな事ねぇべさ」と鼻頭を指でかいていた。


「ところでゴドルフ様。一つ確認をしておきたいのですが、シャルロット様はこの国の王女殿下でお間違い無いのですよね?」


 栄治が改めてゴドルフの方を向いて聞く。彼の質問にゴドフルは厳かに頷く。


「いかにも。姫様はこの国の第一王女であり、正当な王位継承権を持つお方だ」


 はっきりと断言するゴドルフに、栄治はシャルロットが王女だと判明した時から抱いていた疑問を彼にぶつけてみる。


「その王位継承権を持つようなお方が、なぜプロフォンの森で倒れていたのでしょうか?」


 栄治の中の王族は、安全な後方で踏ん反り返って命令を出すイメージである。完全なる彼の偏見ではあるが。


「姫様は敵の罠に嵌ったのです」


 栄治の質問に、ゴドルフは苦々しい表情を浮かべながら言葉を発する。


「姫様は王女でありながら、この国一の武勇を誇るお方です。ホルヘス軍はこれまでにも幾度となく、姫様の武勇によって侵攻を阻まれています」


 ゴドルフの言葉に、栄治はわずかに首を傾げる。

 シャルロットがこの国で一番強い人物というのは納得できる。

 騎兵の攻撃魔法を不安定な荷馬車の上で、難なく弾いている姿から、その強さの片鱗は垣間見ることができた。

 しかし、強者が戦場に出るのは当然なのかもしれないが、彼女は王位継承権を持つ王族である。

 そんな人物がもし死にでもしたら、一大事では無いのか。それともそんなリスクを負わなければいけない程に、この国は追い込まれているのか。


「ホルヘス皇国は姫様の強さを疎ましく感じていたのでしょう。卑劣な罠によって姫様を戦場に孤立させたうえで襲撃してきたのです」


 そして敵の襲撃から逃れる為に、シャルロットは命からがらプロファンの森に逃げ込んだという訳だ。


「なるほど」


 栄治は一つ頷きを返した後に考える。

 彼のラベリテ王国での目的は、副将をスカウトすることである。

 たが、王位継承権を持つ王族ですら最前線に出ている状況では、いよいよ優秀な武人を引き抜くのは困難と考えた方がよさそうである。


 栄治には、クウィンに攫われた優奈を助け出すという使命がある。その使命を果たす為にも、あまり時間は無駄にはできない。


 そんな事を考えていると、貴賓室の扉がノックされた。

 ゴドルフがノックに対して「よいぞ」と返事を返すと、砦で働く侍女が頭を下げながら扉を開け、その後ろからシャルロットが姿を現した。

 ゆっくりと部屋に入ってくるシャルロット。彼女の姿を見た栄治は思わず息を呑んだ。その隣では、アスベルがポカンと口を開けている。


「こんりゃ、女神様だべさ……」


 思わず口に出して言ってしまったアスベルに、栄治も「確かに」と呟く様に同意する。


 先程の甲冑姿から打って変わって、今のシャルロットはワンピース型のドレスを見に纏っていた。淡いグリーンのそのドレスは、王族が着るには少し質素で、機能重視のように感じられたが、逆に無駄な装飾がないからこそ彼女の美しさが際立っていた。


「待たせたな」


 そう言いながら、シャルロットはゴドルフの隣の空いている席に腰を下ろす。

 今の彼女は、顔の汚れもしっかりと落とされ、薄く化粧も施されているのか、森で出会った時と全く印象が異なっていた。


 森で出会ったシャルロットは凛々しさや勇ましさが際立っていたが、現在の彼女は美しさや年相応の可愛らしさを感じる。

 なによりも、甲冑姿からドレス姿へのギャップが凄かった。


「甲冑姿のシャルロット様もとても凛々しく立派でしたが、ドレス姿もまた、とても素敵でございます」


 取り敢えず女性に対する礼儀として、シャルロットの姿を褒める栄治。

 その隣のアスベルは、まるで陸に上がった魚のように口をパクパクと動かすだけで、とても賛辞を贈ることは出来そうになかった。


「ふふ、ありがとうエイジ殿」


 栄治の賛辞に、柔らかい微笑みを返すシャルロット。

 彼女は優雅な所作で、侍女が淹れた紅茶を一口飲んだ後に、ゆったりとした口調で話し出す。


「重ねて言うが、そなたら2人には心の底から感謝している。この命を救ってもらった事には、一生の恩を感じている。改めて言わせてくれ、ありがとう」


 シャルロットはわざわざ席から一度立ち上がってから深々と頭を下げる。その動作はまさしく王族という身分に相応しく洗礼された礼だった。


 シャルロットが頭を下げると、隣のゴドルフも席から立ち上がり頭を下げる。


「私からももう一度、礼を言わせて欲しい。有難う」


 ラベリテ王国の重要人物である2人に頭を下げられたアスベルは、逆に恐縮してしまってアタフタしている。

 対する栄治はというと、王族やら貴族などの存在がいまいちピンときておらず、平然とした態度をとっている。


 そんな正反対の反応を見せる2人に、シャルロットはクスリと小さく笑みを零してから口を開く。


「そんな恩人達をもてなす為に、是非とも王都に招待したいのだが、いかがだろうか?」


 僅かに首を傾げて問いかけてくる彼女の仕草がなんとも可愛らしい。


「大変光栄です。自分は構わないのですが」


 栄治は隣のアスベルへと視線を向ける。


 彼はプロフォンの森で、王都で売るはずの商品を投げ捨てている。つまり、今から王都に行っても売る商品が無いのである。

 ならば、今ここで謝礼金などをもらってさっさと次の町に向かった方が効率的なのかもしれない。


 彼の馬車に居候している栄治としては、まずはアスベルの意見を尊重したかった。


「あぁと、オラは……」


 栄治と同じような事を考えていたのか、返答に口籠るアスベル。

 そんな彼の様子を見て、シャルロットが一つ提案する。


「アスベル殿が王都に来た際には、勿論謝礼金なども払うが、それに加えラベリテ王国の商会との面談の席も設けよう」


 そんな彼女の言葉に、アスベルの瞳は一瞬にして¥の形になる。


「もちろんその招待を受けたせて欲しいですだ!」


 勢いよく承諾するアスベル。

 商人にとって大切なのは情報、そして人脈である。それらを得られる機会に、アスベルの口角がグイッと上がる。


「ならば決定だ」


 満足そうな表情で頷いたシャルロットは、ふと隣にいるゴドルフへと視線を向ける。


「そなたは王都へ戻れるのか?」


「いえ、私はまだ、やらねばならない仕事が残っていますゆえ、砦に止まります」


 問いに答えるゴドルフには、若干疲労の色が滲んでいた。


「私に何かできる事はあるか?」


 そんな彼を気遣ってか、シャルロットが申し出るが、それをゴドルフはやんわりと首を振って断る。


「ありがたき御言葉、感謝します。ですが姫様のお手を煩わせるわけにはいきませぬ。姫様は王都へお戻りになり、まずはゆっくりと休まれてください」


 ゴドルフの言葉に、シャルロットは少し考えるそぶりをした後に、一つ小さく頷く。


「うむ、わかった。私も王都へ戻り態勢を立て直したら、すぐに戦線に復帰しよう」


「はっ、姫様の戦線復帰を心待ちにしております」


 低頭するゴドルフ。

 シャルロットは主従の会話を終えて、再び栄治達の方を向く。


「では王都へ向かうとするか」


 彼女の言葉に栄治は頷き、アスベルは¥の瞳をさらに輝かせた。

 

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