エピローグ 決意の旅立ち
「優奈のギフトがなんで俺に……」
困惑の声を漏らす栄治に、ロジーナが説明をする。
「先程も言いましたけど、恐らくは優奈さんの魂の一部が栄治さんの魂と結びついたせいで、彼女のギフトが栄治さんに移っちゃったんだと思います」
「そんな事ってあるのか?」
栄治の問いにロジーナは肩をくすめる。
「分かりません。魂が他人のと結びつくなんて……優奈さんは相当に栄治さんのことを信頼していたんでしょうね。それこそ心の底から」
「優奈……」
栄治は自分の掌にある優奈のグンタマを見下ろす。
「それなら尚更、俺は彼女を助けに行かないといけない」
決意の篭った目で栄治はロジーナを見る。
その視線を受けたロジーナは「やれやれ」といった様子で首を振る。
「今の栄治さんじゃあ優奈さんを救えませんよ」
「それでも俺は!」
反論しようとする栄治。しかしそれをロジーナは片手を上げて制した。
「クウィンさんはSランク。対して栄治さんは最低のFランク。今の状態ではランクが一つ以上離れているので、栄治さんはクウィンさんに直接戦いを挑めません」
ランクが一つ以上離れていると戦えないというルールは、弱いランクが強いランクに対して戦いを挑んだ時にも適応される。通常はそんな事は起きたりはしないが。
「なので今の栄治さんが中央大陸に向かったとしても、そこでは何もできません」
キッパリと言い切るロジーナに、栄治は反発する。
「クエストを介して戦えばいいんだろ! そうすればランクの制限はなくなる!」
「それで栄治さんはクウィンさんに勝てるんですか? 相手は最強の軍団を有しているんですよ?」
至極真っ当なロジーナの言葉に、栄治は俯き悔しげに拳を握りしめる。
そんな彼に、ロジーナは優しく声をかける。
「いいですか。わたしは何も、栄治さんが優奈さんを助け出すのは不可能だと言っているわけじゃありませんよ? ただ、今の栄治さんには不可能だと言っているんです」
ロジーナの言葉に栄治は顔を上げて彼女を見る。
「今の栄治さんは、はっきり言って弱いです。クウィンさんからしてみれば、それはもう雑魚も雑魚、クソ雑魚です」
あまりの彼女の物言いに、栄治は若干頬を引き攣らせるが、今の自分が弱いのは事実なので、ただ黙って奥歯を噛み締めながらロジーナの言葉に耳を傾ける。
「でも今が雑魚なら、これから強くなればいいんです! 栄治さん。あなたは今2つのギフトを持っています。それは他のグンタマーには無い、とても強いアドバンテージとなります! あのクウィンさんですら持っているギフトは一つです」
ロジーナは目をキラキラと輝かせながら、栄治へと歩み寄る。
「しかも所持しているギフトは両方とも凄いやつです! きっと栄治さんなら普通のグンタマーの倍、いやそれ以上のスピードで強くなっていく事でしょう!」
「そうか、これから経験値をたくさん貯めてレベルを上げて、軍団を強化していけば……」
栄治は自身の胸の内に、僅かながら力が湧いてくるのを感じた。
栄治はギフトの力のおかげで、属性ポイントが1レベル毎に3ポイント入る。これは3倍のスピードで軍団を強化できるのと同じようなものである。しかも雇用コストが半減するので、軍団の規模も他のグンタマーよりも大きくできる。
そうなれば、今すぐでは無いがいずれは優奈を救い出せるだけの軍団を作れるかもしれない。
「優奈を救い出せる……」
まだ小さいが、それでも希望の光が差し込んだように感じる栄治。
そんな彼にロジーナが忠告するように言う。
「栄治さん。ただ強い兵種を解放していくだけではダメですよ!」
栄治の顔の前に人差し指を突き出し、それを左右に振るロジーナ。
「軍団の強化には、兵種の解放の他にもう一つ重要な要素があります。それは『副将』です!」
「副将?」
栄治は彼女の言葉で、先程のクウィンが呼び寄せた仲間のことを思い出す。その中の1人である占い師が言っていた。「わたくし達は皆このお方、クウィン様の副将です」と。
「そうです副将です! これから栄治さんの軍団はどんどん強く、大きくなっていきます。でも今のままでは、その大きくなった軍団の指揮を栄治さん1人で採らないといけなくなります」
今の栄治の軍団規模は約500人程度である。それがこの先千人二千人と増えていき、そして万人規模の軍団になった時、それを天才軍師でもなんでも無い栄治が効率よく指揮を取るのはほぼ不可能である。
「副将は栄治さんを補佐する重要な存在です」
「その副将はどうやったら解放されるんだ?」
その質問にロジーナはニヤッと笑みを浮かべる。
「栄治さん、副将はレベルを上げれば良いってもんじゃあないんですよ」
もったいつけたような言い方をするロジーナに、先を急ぎたい栄治は焦れる気持ちを抑え込んで尋ねる。
「じゃあどうすれば副将は手に入るんだ?」
「スカウトするんです!」
栄治の質問にロジーナはビシッと言い放つ。
「スカウト?」
聞き返す栄治に、ロジーナは大仰に頷く。
「はい、栄治さんの軍団の副将候補はこの世界の全ての住民です!」
そう言うとロジーナは両手を左右に大きく広げる。
「このサーグヴェルドには様々な人がいます。武に優れた王国の騎士、知略溢れる帝国の軍師、深き森の支配者エルフに山脈の覇者ドワーフ。それだけじゃありませんよ! 魔族の頂点に立つ魔王とそれに対抗する勇者、未開の地にいると言われる最強の魔法生物ドラゴン! 言い出せばきりがない程の存在が栄治さんの副将の候補者です!」
目を輝かせ、声高々に説明するロジーナ。対する栄治は、話の規模が大きすぎて、いまいちしっくりとこない。
「そんな凄い存在をどうやって俺の副将にするんだ?」
「簡単に言えば、好感度を上げて勧誘して相手がOKしてくれれば副将にできます」
「好感度……なんか恋愛シミュレーションゲームみたいだな……」
急に出てきた好感度という単語に、栄治は生前の若かりし頃に少しだけやったことのあるゲームの記憶を思い出す。
「そうですね。副将を勧誘するシステムは恋愛シミュレーションゲームとほぼ同じです。狙っている相手に様々なアプローチをかけてイベントをこなし、好感度がマックスになったところで告白する。違いといえば、対象が女性に限らないってところですかね」
そんな彼女の言葉を聞いて、栄治はこの世界に来た時にロジーナがゲームのシステムを模倣してサーグヴェルドは作られたと言っていたことを思い出した。
「その好感度とかは、どのくらい溜まったら副将に勧誘できるとか目安みたいなのはあるのか?」
恋愛シミュレーションゲームのシステムが元になっているなら、対象の好感度がどの程度溜まっているのかが分かるゲージみたいなのがあると便利である。
そんなことを思って質問した栄治だが、それに対してロジーナは首を横に振る。
「流石にそこまでゲーム通りにはならないですよ」
「じゃあどうやって副将に勧誘できるかどうかを判断するんだ?」
「それは、その……雰囲気で?」
なんともアバウトな答えに、栄治はガクッと力が抜ける感じがした。
「そんないい加減な感じでいいのか? システムの見直しをした方がいいんじゃないか?」
などと栄治が苦言を呈すると、ロジーナは誤魔化すように話を進める。
「そんな事はどうでもいいんですよ! それよりも、これから栄治さんは優秀な副将を探す旅に出ないといけません!」
スビシッと栄治を指差すロジーナ。
「栄治さんはこれから数多の戦場を駆け巡り、敵を倒し副将を集め、優奈さんを救えるような強力な軍団を作り上げないといけません!」
ロジーナの言葉を受けて、栄治は少しの間目を閉じて黙り込んだが、やがて瞼を上げ力強く頷く。
「そうだな、これからは戦いに明け暮れる日々だな」
少し戯けたように言う栄治。しかし彼の目には強い決意の光が宿っていた。
―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―
クレシオンから東へと伸びる街道、その真ん中を栄治は1人歩く。
空は真っ赤な夕陽に染まり、東の空の端は暗くなり始めている。
西の彼方へと沈みゆく太陽を背に、栄治は止まることなく黙々と歩み進める。
「待ってろよ優奈、必ず助けに行くからな」
栄治は自身の左手薬指に嵌められている指輪に視線を落とす。
盗賊討伐の件のときギムリから貰ったその魔法具は、対となっている優奈と連絡が取れたり、その居場所がわかったりする。しかし今はなんの反応もない。
栄治は指輪から視線を外すと、首から下げている2つのグンタマを服の上からそっと握りしめる。
「必ず……必ず強くなって、迎えに行くよ」
栄治は唯ひたすらに東へと、夜の帳が降り始めている方角へと歩く。
ここまでお読みくださり有難うございます。
一応この話で物語全体の序章部分は完結です。
序章を書き切るのに5年もかかってしまい、それでも読んでくださった方々には大変申し訳なく思うのと同時に、大変感謝もしています。
次章からこの物語の本編になります。
かなり遅い更新速度でこんな事を言うのもおこがましいですが、感想、評価、ブックマークなどをして頂けるととても嬉しいです。
最後にもう一度、ここまで読んで下さいまして本当に有難う御座いました。もし宜しければ次章からも、どうぞよろしくお願い致します。




