第47話 重たい雰囲気の時は敢えてふざけてみるのもアリかもしれない
ベットの中で静かに寝ている優奈。そのベット脇の椅子に座り、彼女の寝顔を見下ろしている栄治。
優奈はグラーデス城跡地の戦いで気を失ったまま、まだ目を覚ましていない。
「まさか、このまま目を覚まさない、なんてことは無いよな?」
栄治の呟きが静寂に包まれている部屋に溢れる。
いま栄治と優奈の2人は、エステーラ村の村長の家にいる。栄治が村長に事情を話し、優奈が目を覚ますまでの間一室使わせてほしいとお願いすると、村長は二つ返事で快くこの部屋を使わせてくれた。
栄治は彼女の顔にかかっている髪をそっと優しく払う
「今回も優奈に助けられちゃったな」
眠っている彼女に語りかける栄治。
2人にとって初めての戦いだったゴブリン討伐戦。そこで栄治がトロールに襲われたとき、優奈がトロールの攻撃を防いで身を守ってくれた。その次の盗賊達との戦いでも、優奈は馬上の敵を叩き落として栄治の命を救っている。
そして今回のポール・オーウェンとの戦いだ。
普通に考えれば大敗確実の戦力差だったはずだ。相手は騎兵などの強力な兵種が多く、数の上でもあちらが上回っていた。
にも関わらず、結果はこちらの勝利。そうなったのはひとえに優奈のお陰だ。
あの身体能力が強化された光り輝く兵士達の活躍で戦況は一変し、勝利がこちらに傾いた。
「あれはさすがにチートだよなぁ」
強化された兵士達がポールの騎兵達を押し返していく光景を思い返して、栄治は苦笑を浮かべる。
はっきり言って優奈のギフトの力は、ゲームバランス崩壊レベルのチート能力だと思う。栄治が持っているギフトもかなり強力だか、優奈と比べてしまうと少し見劣りしてしまうような気がする。
「でもまぁ、代償も大きいから使い所が難しいかな?」
いま優奈が眠ってしまっているのが、ギフトの力の使用の反動だとしたら、兵士の身体能力強化の力を発動した数分後には気を失って軍団が消滅してしまう事になる。今回は、栄治やギムレットがいた為、彼女の軍団がいなくなっても戦局が変わることがなかったが、もし優奈1人で戦っていたら丸裸も同然となってしまう。
兵士達が強化されている間に敵の軍団を完全に打ち破れば良し、打ち破れなければ自身の敗北確定。まさしく、一発逆転をかけた大博打の奥の手である。
「今回はその博打が成功してよかったよ」
運に頼って戦いをするようではダメだ。そう思いながらも、結局は運頼みになってしまう現実に、栄治は自嘲気味に笑みを浮かべていると、優奈の瞼が微かに震えた。
「……!? 優奈!」
栄治はガタッと椅子から立ち上がり、ベットの端に両手を着いて優奈の顔を覗き込む。
「……ん…………うぅ、え…いじ、さん?」
ゆっくりと瞼を上げ、暫く視線を彷徨わせる優奈。やがて、自身を見下ろしている栄治へと視線がいくと、彼の名前を口にする。
「優奈! 体調はどうだ!? どこか痛む所とかはないか!?」
若干捲し立てるように優奈の体調を聞く栄治。
彼は自分が思っていた以上に、優奈の意識が回復しない事を気に病んでいたようだ。
そんな栄治の様子に対して、優奈はまだ完全に意識が覚醒していないのか、少し緩慢な挙動で栄治に応える。
「……体調? は、とくに……少し、体がだるいような……」
「そうか……よかった」
優奈の反応に、栄治は彼女の体調にひとまずは問題がないと感じて安堵の息を漏らすと同時に、浮かせていた腰をどさっと椅子に落とす。
そんな彼の様子をぼーと眺めていた優奈が、ハッと息を飲み慌てて状態を起こす。
「戦いはッ!? 私気を失って、それで……あれ? ここは? ベット?」
まだグラーデス城跡地の戦場にいると思っている優奈は、自分がベットに横になっているという状況が理解できず、混乱したようにあたりを見渡し、最後に栄治に顔を向ける。
そんな彼女の挙動が、栄治の目には不覚にも可愛らしく写ってしまい、つい笑みを浮かべてしまう。
「安心して優奈。戦いはもう終わったよ。ここはエステーラ村の村長さんの家だよ」
「エステーラ村?」
まだ混乱しているのか、優奈はコテンと首を傾げる。
「ほら、グラーデスに行く前に泊まった村があっただろう?」
栄治のその説明に優奈は数秒、間を開けてから「あぁ!」と思い出して頷く。そしてその後に、安堵したかのように長く息を吐き出すと、起こしていた上半身を再びベッドの上に横たえた。
「……終わったんですね」
「あぁ、終わったよ」
2人はどちらからともなく手を伸ばし、お互いの手をぎゅっと握り合った。
優奈の白く細い手は、小さく震えていた。
「たくさん……人が亡くなりました……」
「……そうだね」
「……栄治さん」
「ん?」
名を呼ばれ栄治が優奈と目を合わせると、彼女は潤んだ瞳で弱々しく言う。
「私の考えって、甘いんでしょうか? ……いえきっと甘いんでしょうね。この世界からしたら、良い事と悪い事なんてすぐにコロコロと変わっちゃうんですよね」
視線を落とし、今にも消え入りそうな声で言う優奈。
彼女はきっとポールに言われた『正義』や『悪』のことを気にしているのだろう。
優奈は前に言っていた。戦いは出来るだけ避けたいが、もし自分の力を必要とし助けを求める人達がいるのなら、その人達の助けとなる為になら、戦うと。
しかし、いま彼女の中ではその戦う理由の根拠が大きく揺れ動いてしまっている。
栄治は優奈の手をぎゅと強く握り、静かだがしっかりとした口調で話す。
「優奈の考えは甘くなんてないよ」
その一言を聞いて、優奈は落としていた視線を上げ、栄治の顔を見つめる。彼はその視線を真正面からしっかりと受け止めて、言葉を紡ぐ。
「確かにこの世界は、俺たちが生きて来た世界に比べて残酷なところが多いかもしれない。でも、だからと言って優奈の考えが……価値観が甘いだなんて、そんなことはないよ」
このサーグヴェルドと言う世界は、争いが多いのかもしれない。強い者が権力を振るい、それに虐げられている人達が大勢いるのかもしれない。しかし、だからといってそんな世界に自分の価値観を合わせる必要は全くない。
「人命が軽い、荒んだ世界でさ。自分の考えも荒んだものにしちゃったら、きっとどこまでも落ちていっちゃうよ」
栄治は一旦言葉を区切ると、ふっと小さく笑みを浮べる。
「優奈は優奈のままでいいんだよ。他の誰になんと言われようともさ。レオンとクリスティーンは優奈が助けたから笑顔になれたんだよ。優奈の行動で2人の人間が笑顔になれた。これは揺るがない事実だよ」
盗賊の誘拐にあって、離れ離れになってしまった姉弟。その2人が再開できたのは、紛れもなく優奈と栄治がレオンの助けに応じた結果である。
「1人2人とさ、少ない人数かもしれないけど、それを続けていればいつかは大勢の人を助けているかもしれない。だから、優奈は自分が思ったように行動すればいいんだよ。この世界に来た時にロジーナに言われただろ? この世界で魂の本質を見極めるって。だから自分の魂の想うがままに生きていけばいいんだと思うよ。変に無理したりしないで、自然体でさ」
「栄治さん……」
栄治の言葉を受けて優奈は少しの間、彼の目をじっとみつめて、やがてつられたように彼女もふわっと笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。少し気持ちが軽くなりました。ところで栄治さんの魂は何を望んでいるんですか?」
先程よりも明るくなった口調で、優奈が問いかける。これに対して栄治はニヤッと口角を上げて答える。
「俺の魂は今、優奈の水着姿を渇望しています!」
先程の静かな様子から打って変わって、おどけたような様子で言う栄治に、優奈はサッと頬を染める。
「もう! ふざけないでください」
「ふざけてなんかないよ。今回の戦いが始まる前に話したでしょ? 一緒に海に行こうって」
「そ、それは言いましたけど……水着ってこの世界にあるんですか?」
栄治から視線を逸らし、恥ずかしそうに俯く優奈。
「それは分からない。でもないのなら作ればいいんだよ」
栄治は並々ならぬ決意を持って言う。
優奈は美少女である。しかもただの美少女ではない。プロポーション抜群の美少女である。そんな彼女と海に行くのならば、それはもう水着しかあり得ない。清楚系なワンピースタイプか、はたまた破壊力抜群のビキニタイプか。どちらも優奈の魅力を考えると捨てがたい。
「海で遊ぶのが優奈の夢だったんでしょ?」
「そ、それはそうですけど……水着は少し恥ずかしいかなって……」
「大丈夫! 恥ずかしい事なんて何もないよ。優奈は可愛いんだから堂々としてれば問題なしだよ」
「も、もう……栄治さんのバカ……」
栄治の言葉に顔を真っ赤に染め、怒ったような表情をする優奈。そんな彼女の口元は若干緩んでしまっている。
その後も海や水着などの話で盛り上がる2人からは、すっかりと重たい雰囲気が消え、はたからみれば唯のバカップルとなっていた。




