表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/78

第46話 強い効果のあるものには、強い副反応がある場合があります

「退却ーー!! 退却だーーッ!!」


 ポール軍団の副将が、辺りに響く大声で指示を出す。

 その瞬間、今まで栄治達の前に立ちはだかっていた軍団が一斉に後退を始めた。自分たちの大将を守らんと命を賭して攻勢をかけていた兵士達の圧力が弱まる。


「敵が……引いていく」


 こちらに背を向けて退却していく敵を見て、栄治は緊張が解けたかの様に小さく呟いた。


「エイジ様! 敵が背を向けている今が好機! 速やかに追撃戦へと移りましょう!」


  気が抜けて、両方の腕をダラリと垂らしている栄治。そんな彼に、ギムレットが喝を入れるように言う。


「え…あ、そうですね! 全軍前進! 逃げるポールの軍団を追い詰めろ!」


 ギムレットの言葉にハッと我にかえる栄治。

 彼はビシッと腕を前に突き出し、周りの喧騒に負けない様に声を張り上げて、自らの軍団に号令をかける。

 栄治の命令に、兵士達は「おぉーー!」と声を上げて逃げるポール軍団に追撃をかける。

 しかし、ここで再び栄治は、騎兵という兵種の力を思い知る事となった。

 組織的な連携を取らずに、唯ひたすらに戦場からの離脱を図る敵騎兵達、脇目も振らずに敗走する騎兵に、歩兵を主体とする栄治と優奈の軍団が追い付けるはずがなかった。


「騎兵の追撃は致し方がありません。重装歩兵などの騎馬に乗っていない兵を追いましょう」


 既に崩れた城壁の隙間から、グラーデスの外に脱出し始めている騎兵達を憎々しげに睨み、ギムレットは助言する。

 ポールの本陣を守っていた重装歩兵達は、その装備の重さも相まって動きが遅く、それ程離れてはいなかった。

 栄治が軍団をその集団に差し向けようとした、その時。


「ウオォーー!! ブッ殺してやる!」

「テメェらのせいで! テメェらのせいでー!!」

「こんな所でくたばってたまるかぁーーー!」


 罵詈雑言を口にしながら、一つの集団が向かってきた。

 その集団の装備は、ポールの軍団の様に統一されておらず、各々が思い思いに武装している。


「どうやら捨て駒にされた様ですな」


 目を血走らせ、怒号を飛ばしながらこちらに突っ込んでくる集団を一瞥し、ギムレットが小さく呟く。

 ポールの軍団を逃がすために、無謀な殿に選ばれたのは盗賊達の部隊だった。

 彼らは、ポール達と一緒に逃亡を図ろうとしたが、その途中で副将のレロイに殿として残るように言い付けられてしまった。当然抗議の声を挙げる者もいたが、その者達は1人残らずレロイによって首を刎ねられた。

 鬼神の如き武を見せ付けて命令してくるレロイを前に、盗賊達に選択肢はなかった。

 かくして、盗賊達は必至の覚悟で栄治達の軍団に突撃をしてきた。もし、ここで栄治達の軍団を突破することが出来たなら、盗賊達にも生き延びる可能性が出てくる。その思いを心の拠り所にし、盗賊達は戦った。

 しかし所詮は盗賊。商隊の護衛達を圧倒する力は持っていても、本当の戦場で何の助けもなしに軍隊に勝てる実力は持っていなかった。

 無謀な攻撃を続ける盗賊達は、次々に討ち取られていく。



「どうして? こんな勝ち目がない戦いにどうして挑んでくるんですか……?」


 突っ込んで来ては断末魔を挙げる盗賊達から、優奈は辛そうに視線を逸らす。


「彼らにとって、ここでの死が一番楽なのですよ。退いてはポールの軍団に殺され、投降しても盗賊は処刑が原則です。ならば、もし勝てれば生き延びられる戦いに挑んで散った方がマシなのですよ」


 槍に貫かれ剣に切り裂かれ、それでも前に出て戦う盗賊達。そんな彼らの形相はまさしく鬼と化していた。

 そんな盗賊達の奮闘に阻まれて、栄治と優奈の軍団は敗走するポール軍に一向に近づけないでいる。


「くそっ! このままじゃ全然追撃できない!」


 焦りに奥歯を噛み締める栄治。

 ポールは腕を切り落とされたが、おそらく命に別状はないだろう。そんな彼が、傷を癒し再び戦えるようになった時、胸の内に湧き上がる感情は憎しみだ。自らの軍団を破り、腕を切り落とした怨敵への復讐心が沸々と湧き上がるだろう。

 ポール・オーウェンはいつか必ず、自分達の前に立ちはだかる脅威となる。栄治は直感的にそう感じていた。

 だからここでポールを仕留めれなかったのは、かなり悔しいが過ぎたことを悔やんでもしょうがない。今は敗走兵を1人でも多く討ち取って、ポールの軍団を弱体化させなければならない。

 しかし、目の前の盗賊達の死物狂いの抵抗によって、思うように追撃戦に移ることができない。

 目の前の戦況に焦りを募らせる栄治。

 そんな彼の隣から、ドサッと何かが倒れる音がした。音のした方に栄治が視線を向けると、そこには地面に倒れている優奈の姿があった。


「優奈っ!!」


 栄治が慌てて彼女に駆け寄り、肩に腕を回して上体を起こす。


「優奈! どうしたんだ!? 優奈!」


 栄治は必死に彼女に呼びかけるが、優奈は指先一つピクリとも動かない。

 栄治はパニックに陥りそうになるのを必死に堪えて、優奈の状態を確認する。

 見た感じでは、どこにも外傷は見当たらない。流れ矢などに当たったわけでは無いようだ。次に栄治は彼女の首筋にそっと手を当てて脈を確認する。


「脈は……大丈夫、問題ない」


 しっかりとした鼓動を感じ取って、小さく安堵の息を漏らす栄治。そんな彼に、ギムレットが焦りの色が混ざる声で言う。


「エイジ様大変です! ユウナ様の軍団が」


 その声に栄治は優奈から視線を上げ、周りの戦況を見渡してハッと息を呑む。

 そこには、体から光を発し圧倒的な強さで戦況を一変させた優奈の兵士達が、次々と光の粒子となって消えていく光景があった。


「優奈の軍団が消えていく……!」


 おそらく軍団長である優奈が意識を失ったことで、彼女の軍団も消滅してしまったのだろう。

 今まで圧倒的な強さを誇っていた優奈の兵士達がいなくなった事で、殿として死に物狂いで戦っていた盗賊達がにわかに活気付く。


「光ってる奴らが消えたぞ!」

「突破できるかもしれねぇぞ!!」

「こんなとこで! こんなとこで死んでたまるかぁ!!」


 盗賊達は必死に生き延びようと攻勢を強める。対する栄治の兵士達は、急に優奈の軍団が消えた事で動揺してしまっている。


「ユウナ様の軍団がいなくなってしまった以上、ポールの敗走兵を追撃するのはもはや不可能です。目の前の盗賊達を捕らえることに専念しましょう」


「……そうですね。誰か、優奈を頼む」


 栄治は近くにいた兵士に優奈を預けると、自身の軍団を鼓舞するように指示を出す。


「みんな慌てるな!! 優奈の軍団がいなくなっても、俺たちが有利な状況は変わらない! 槍兵は前へ! 槍で敵を押さえているうちに他の隊は隊列を整えろ!」


 戦闘が始まる前は500人程いた盗賊達も、今やその数を半数以下まで減らしている。栄治の軍団もポールの騎兵によってかなりやられてしまっていたが、盗賊達とは兵種や士気の差が大きく、優奈の軍団消失による動揺によって、いっときは崩れかけたが栄治の指示ですぐに持ち直し、盗賊達を次々に討ち取っていく。

 やがて、最後まで抵抗し続けていた盗賊の集団が討ち取られ、グラーデス城跡の喧騒が収まった。


「終わった……のか?」


 小さく呟くように言う栄治。


「えぇ、終わりました」


 その呟きに、ギムレットが静かな声で応える。

 ギムレットのその言葉を聞いた瞬間、栄治は足から力が抜けてふらふらとよろめいた後に、ドサッと尻餅をついてしまった。


「あぁ……地獄から生還した気分だ」


 誰に言うでもなく、疲れの滲む声音で言葉を漏らす栄治。

 彼は戦いが過ぎ去った後のグラーデス城跡地に視線を巡らせる。

 栄治の視界入ってくる光景は、そのどれもが現世では見ることの無かった光景である。

 地面にはまるで墓標のように矢が無数に突き刺さっており。その中に横たわっているのは、すでに事切れた騎馬や兵士達。大地はあちこちが抉れて、緑だった草花は血で赤く染まっている。

 まさしく地獄と言える光景がそこには広がっていた。


「多くの犠牲が、出てしまいましたね……」


 特に視点を定めず、ぼーと辺りを見渡しながら栄治が言う。

 グンタマーの兵士は死体がない。身体は光の粒子となって消えるからだ。なので、いま栄治の視界に入ってくる亡骸は、クレシオンの騎士か、盗賊のどちらかである。


「此度の戦。決して小さな犠牲ではないですが、あのポールというグンタマーを敗走させたのは大きな成果です」


 ギムレットもまた、戦場を見渡しながら言う。

 彼の周りには、この戦いを生き抜いた数少ないクレシオン騎士が集まってきていた。


「我々は急ぎクレシオンに戻り、今回の事を報告します」


 ギムレットはそう言った後に、栄治とその横でいまだに目を覚まさずに地面に横になっている優奈に視線を向ける。


「エイジ様はユウナ様の事もありますので、まずはエステーラ村まで我々と同行したのち、そこでゆっくりと休養を取ってください」


「分かりました、そうさせて貰います」


 ギムレットの言葉に、栄治は疲れたように頷くと、隣で横になっている優奈をそっと抱き抱える。


「戻ろうか、優奈」


 優しく呼びかける栄治。しかしそれに対する反応は彼女からは無い。まるで眠っているかのように、規則的に肩が上下しているだけだ。

 このまま目を覚まさないんじゃないだろうか。そんな不安が栄治の中に湧き上がるが、彼はそれを首を振って掻き消す。

 先程までの優奈は、彼女の軍団の兵士と同じように体から淡い光を発していた。おそらくあの光は彼女のギフトの力によるものだろう。でも、今の優奈の体からは光は無くなり、いつも通りの状態に戻っている。

 これらのことから、優奈が意識を失ってしまったのは、ギフトの力を使った反動だと考えられる。

 歩兵を主体とした軍団が、騎兵中心の軍団を破る程の強力なギフトな能力だ。きっとその反動も大きなものになるに違いない。

 栄治はそう考えながら、優奈を抱えて起き上がると、エステーラ村に向けてゆっくりと歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ