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第45話 オンとオフの切り替えがハッキリしている人は大抵優秀

 怒号、悲鳴、そして断末魔が響き渡る戦場。

 血と死の匂いが濃厚に漂うその場所で、一際大きな笑い声が響く。


「はっはっはっは! あははははっ!!」


 殺伐とした戦場で聞くその笑い声は、背中にゾッとした悪寒が走るほど、無邪気で楽しそうな笑いだった。


「最高だ! とても最高だよ!! あぁ……こんなにも私の技を受け止めてくれるなんて。本当に貴方はーー最高だッ!!」


 先程から、常人とは一線を画する戦いを繰り広げている2人。

 そのうちの1人、ポールの副将レロイは口角を不気味なほどニィとあげると、力強く地を蹴り出しギムレットの間合いに潜り込む。


「むぅ! 忌まわしい戦闘狂め……さっさと道を開けろッ!」


 レロイは地を這うような低姿勢から、凄まじい速度の切り上げを繰り出す。これをギムレットは、上から押さえつけるように封じ込めると、敵の剣の勢いを斜めに逸らしながら前に一歩踏み出し、体勢が浮いてきたレロイに前蹴りをお見舞いする。

 蹴りが当たる瞬間に、自ら後ろに飛んで威力を最小限に抑えたレロイは、蹴られた鳩尾辺りを軽く手でさする。


「腕が伸びきる前、技の威力が発揮される前に剣を止められてしまうとは、この技は結構自信があったんですけどね。ギムレットさんには私の動きが見切られているようです。ならばどうしよう……もっと早く動きますか? それともフェイントを増やす? うーむ……難しい」


 まるで新しい解読ゲームのオモチャを前にして、どうやって解こうか楽しんでいる子供みたいなレロイ。そんな彼に向かって、ギムレットは左足を一歩引いて半身になると、剣を自身の顎の高さまで上げて切っ尖をレロイに向ける。


「戦いの最中にブツブツと、随分と余裕そうであるな?」


「いえいえ、余裕なんてありませんよ? 私の攻撃は全て防がれてしまうし、少しでも隙を見せれば、私の方が斬られてしまう。いや本当に楽しすぎますよ!」


「この変態め、ならばさっさと斬られろッ!」


 今度はギムレットがレロイに突進をする。

 瞬時に間合いを詰めたギムレットは、鋭く踏み込み、上半身の捻りも最大限に生かして、レロイ目掛けて突きを放つ。


「うおっ⁉︎」


 レロイは驚きで目を見開いたが、体は反射的に反応して動いた。自分の目の前に剣を縦に構えてギムレットの突きを受け流し、二本の剣が激しく衝突して火花が散る。レロイの剣によって本来の軌道から逸れてしまったギムレットの突きは、レロイの頬を薄く斬るだけに留まった。

 突きを防がれたギムレットは、突き出した剣を横に払ってレロイの首筋を狙う。しかしこれは、上体を素早く引かれて避けられてしまう。

 反撃を許すまいと、ギムレットはさらに間合いを詰めて軸足になっている太腿を切ろうとするが、今度は剣で斬撃を止められてしまった。

 その後も立て続けに攻撃を続けるがそのどれもが、防がれるか、躱されてしまう。


「フフフフ、クフフフフッ……良いですね〜、私たちの実力は拮抗していますよ? この勝負の結末、想像するだけでゾクゾクしてきます!!」


 ギムレットの動きを牽制しながら後退したレロイは、再び口角を大きく上げる。

 そんな彼を憎々しげに睨み、さらにその奥へと視線を向けるギムレット。そこには、矢継ぎ早に辺りへ指示を飛ばすポールがいる。

 早くポールを討たなければ、既に包囲され始めているであろう自軍は、壊滅へと追いやられてしまう。そうなってしまう前に、一刻も早く目の前のレロイを倒さなければならない。

 胸の内に募る焦りを感じながら、ギムレットはレロイに切り込むために、剣を強く握りなおす。そんな彼の耳に、遠くから馬蹄の音が聴こえてきた。


「くそッ! もう時間がない……」


 こうなってはもう、捨て身で形振り構わずに突っ込むしかない。

 ギムレットがそう覚悟を決めた時、彼のすぐ隣を白い光が横切った。ハッと息を飲んだギムレットは、咄嗟に光の正体を確かめる。

 それは、淡い光を体から発している、優奈の軍団の兵士だった。

 兵士は、ギムレットの脇を通り過ぎると、そのままレロイへと斬りかかる。


「軽装歩兵の分際で私に挑むとは、身の程と言うものを知らないようですね」


 優奈の兵士の攻撃を受け流しながら、レロイは見下したように言う。しかし、軽薄な笑みを浮かべている口元に対し、その眼光は鋭く、額には薄っすらと汗がにじんでいる。

 本来であれば、レロイにとって軽装歩兵などと言う弱小クラスなど、取るに足らない相手である。しかし、いま目の前にいる兵士は、同じ軽装歩兵であるはずなのに強さが段違いであった。

 流石に一対一で負けるような事は無いが、レロイの視界には、淡く発光した兵士が次々と数を増やしている光景が写っていた。

 レロイは、ほんの僅かな間、目を細めて現状を天秤にかけるように視線を巡らせると、再度自身に斬りかかろうとしていた軽装歩兵の腹を蹴り飛ばして大きく後退させる。


「ギムレットさん。誠に残念ですが私達の戦いはここまでの様です。とても楽しい時間を有難うございました」


 レロイはギムレットに対して、慇懃すぎる礼と共にそう言うと、背を向けてポールの元へと駆けて行った。そんな彼からは、先程までの狂気染みた笑みは消え、欲望でギラついていた瞳には、理性の光が戻っていた。


「そう簡単に逃がしてたまるかッ!」


 このままでは、レロイによってポールが逃がされてしまう。そう悟ったギムレットは、急いで彼の後を追いかけようとしたが、間髪入れずに2人の間に敵の歩兵が割って入る。


「くそッ! 邪魔だ退けッ!」


 ギムレットは強引に突破を図るが、全身を鎧で包んだ重装歩兵相手には上手くいかなかった。



 レロイは、重装歩兵の部隊が壁となって、ギムレットたちを押し留めているのを背中越しに確認しながら、ポールの元へと急ぐ。


「ポール様、急ぎ撤退のご用意を」


 レロイはポールの側まで来ると、開口一番に言う。


「……撤退だと? レロイ、君は今撤退と言ったんですかねぇ?」


 ポールは、訳の分からないジョークを言われた。と言う表情で、自分の副将の顔を見る。


「そうです、撤退です」


 レロイは真剣な眼差しで、再度『撤退』の言葉を口にする。


「……理由を言いなさい。私が撤退しなければいけない理由を」


 どこまでも冷たく冷めきった眼差しで、ポールは問い詰める。


「理由は、この本陣が攻め落とされるからです。あの光を発している兵士は、普通ではありません。このままでは、いずれ本陣の守りを突破され、ポール様が討ち取られて敗北し…」

「ふざけるなぁッ!!!」


 淡々と語るレロイの頬を殴りつけ、激昂したポールが叫ぶ。


「この私が討ち取られるだと? あの最低ランクのグンタマー如きに、この私が敗北するだと? ……馬鹿言ってんじゃねぇぞッ! ブッ殺すぞ!! 何故この私が撤退なんてしないといけないんだ! 敵の騎士団はほぼ壊滅させ、雑魚のグンタマーの軍団も、もうほぼ包囲しつつあるこの現状で! なぜ撤退などという選択肢が出てくるッ!!」


 ポールの怒号を受けたレロイは、殴られた頬を手の甲でゆっくりと拭った後に、静かな口調で話し出す。


「敵の軍団にいる光を放っている兵士、あれは危険です。強さが異常です。そんなものが一丸となって本陣に攻め立てられれば、耐え切れるはずもありません。我々が大斧で、敵の手足を豪快に粉砕している間に、向こうは一本の針で、こちらの心臓を突こうとしていた様です。完全にしてやられました」


 レロイの言葉を聞いて、ポールは奥歯をグッと噛みしめる。


「認めない……認めないぞ撤退など……」


 低く唸る様に言葉を吐き出すポール。そんな彼の耳に、忌まわしき人物の声が聞こえてきた。


「ポール・オーウェン! やっと見つけたぞ!」


 自分の名を呼ばれたポールは、これでもかと言う程に憎しみに顔を歪めながら、声の聞こえた方に顔を向ける。

 そこには栄治、優奈、ギムレットを中心とした一団がいた。


「貴様らぁ……最低ランクの分際で! 身の程をわきまえろ!!」


 吠える様に怒鳴ったポールは、腰の剣を抜き放って栄治たちへと突進した。


「ポール様いけません!!」


 栄治達の周りにいる兵士が、皆淡い光を放っている兵士だという事に、危機感を抱いたレロイが慌ててポールを止めようとするが、既に彼は手の届かないところまで行ってしまっていた。


「雑魚は雑魚らしく! 素直に殺されてろッ! 無駄な足掻きをしてんじゃねぇ!!!」


 物騒な言葉を撒き散らしながら、栄治に斬りかかろうとするポール。しかし彼の剣が、栄治に届くことはなかった。

 光を発している兵士の1人が、サッと栄治の前に踊り出ると、ポールの斬撃を弾き返し、一歩踏み込んで、彼に対して袈裟斬りを放つ。

 攻撃を弾かれて体勢を崩していたポールは、咄嗟の動きで庇うように右腕を目の前にかざしてしまった。その直後、辺り一帯に断末魔の如き絶叫が響き渡った。


「ぐがああぁぁぁぁっっッッ!!!!!」


 絶叫の発生源であるポールは、右腕の肘辺りを左手で必死に抑える。その抑える手の隙間からは、次から次へと鮮血が溢れ出していた。


「ポール様!」


 遅れてやってきたレロイが、ポールに止めを刺そうとしている兵士に当身をして吹き飛ばすと、ポールを抱え込んで、引きずる用に後退をした。


「ポール様を守れッ!! たとえ自分の命と引き換えにしてもだ!!」


 レロイは周りの兵士に指示を飛ばしながら、自身も追い打ちをかけてくる敵の攻撃を受け流す。左手はポールを抱えるのに塞がっているため、右手だけで剣を握り攻撃を防いでいる。しかも、1人で3人を相手取って一歩も引けを取らないのは、もはや化け物と言っても過言ではない。

 やがて周りの兵士が集まって、栄治達の動きをおしとどめはじめると、レロイはポールを担ぐ様に肩に乗せ、全力で走りながら声を張り上げる。


「退却ーー!! 退却だーーッ!!」


 レロイは撤退の指示を出しながら、戦線を離脱した。

 その間、ポールは「腕が……俺の腕が無い……腕はどこにいったんだ?」とうなされた様に言い続けていた。

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