第3話 軍団展開‼︎‼︎
広大な草原、そこにある小高い丘の頂には一本の大きな木が、ポツンと立っている。その木のすぐ隣で、20歳くらいの男と12歳前後の少女が向かい合って話をしている。
「いいですか、『軍団編成』には大事な事が沢山ありますからね。私の清絶高妙な容姿に見惚れてぼーっとしないでくださいよ!」
「ロジーナは可愛いから大変だけど、できるだけ善処しよう」
栄治は笑みを浮かべながら返答するも、内心では「せいぜつこうみょうってなんだ?」と聞きなれない単語に疑問符を浮かべていた。
「もう、栄治さんのバカ。そんなお世辞全然嬉しくないですよ」
両頬に手を当てて、クネクネしているロジーナはかなり嬉しそうである。
「それでは説明を始めます! まずは、最初のメニューの項目にあった『軍団編成』を開いてください」
心なしか先程よりもテンション高く説明しだすロジーナ。
栄治が『軍団編成』の項目を開くと、『クラス』を開いた時と同じ様に目の前に大きなウィンドウが表示された。
「ふむ、左端に項目があるな。えーと、クラス雇用とクラス解散?」
視界に映るメニューに慣れ始めてきた栄治は、目の前に映るウィンドウを落ち着いて見回してみる。
『軍団編成』のウィンドウには、栄治の言葉通り左端に2つの項目があり、さらにその上には300という数字が表示されていた。
「『軍団編成』では、その名の通り軍団を編成できます。ウィンドウの左端にある『クラス雇用』を選択してみて下さい」
ロジーナの言葉に従って、栄治が『クラス雇用』を選択してみると、もう1つ別のウィンドウが開かれた。
そのウィンドウには
--軽装歩兵(1):10
と表示されていた。
栄治が、その表示を見て首を傾げると、ロジーナが説明する。
「そこのウィンドウには解放されたクラスが出ます。そして括弧内の数字が、そのクラスのコストで、隣の数字が雇用に必要なコインポイントです。では早速『軽装歩兵』を100人雇ってみましょう!」
元気よく言うロジーナの言葉に栄治は頷くと『軽装歩兵』を選択する。
すると。
--『軽装歩兵』の雇用人数を選択して下さい
と言うメッセージとともに、人数を選択する画面が現れる。栄治は、そこに100と入力すると。
--『軽装歩兵』を100人雇用します。消費コインポイントは1,000です。よろしいですか?
と言う確認メッセージの後に。
--はい・いいえ
の選択肢が出る。
栄治が、はいを選ぶと『軍団編成』のウィンドウに『軽装歩兵』×100という表示が増えた。
「ちゃんと『軽装歩兵』を100人雇えましたね。ここで重要になってくるのが、兵を雇用する際のコストです! 『軍団編成』のウィンドウの左上にある数字を見て下さい。300から200に減っていますよね?」
ロジーナの説明を聞いて、栄治が『軍団編成』のウィンドウのクラス雇用の項目の上にある数字を見てみると、そこには確かに、300から200に減って数字が表示されていた。
それを見て、栄治は左手を軽く顎に添えて「なるほどね」と呟いた。
「つまり、『軽装歩兵』のコストは1で100人雇ったから、元の総コストである300から100が引かれて200って事か。多分、コストはクラスごとに決まっていて、雇用した総コストが、軍団の総コストを超えない様に編成しないといけないのかな?」
栄治の問いかけに、ロジーナはニッコリと笑って親指をグッと栄治の方に突き立てた。
「イエッス!さすが栄治さんです。当然ですが強いクラスになればなるほどコストは高くなっていきます。低コストで大軍を率いるか。はたまた高コストの少数精鋭軍団で勝負を挑むのか。それは全て貴方の戦略次第です‼︎」
テンションマックスで説明に熱が入るロジーナに、栄治は冷静に尋ねる。
「軍団の総コストはどうすれば上がるんだい?」
「それは栄治さん自身のレベルが上がるのと一緒に上がります。ちなみに、1レベル上がるごとに、総コストは300上がります。今の栄治さんはレベル1なので総コストは300という事です」
「つまり、俺のレベルが100になる頃には、『軽装歩兵』だけだと3万の軍勢になるって事か……うん、イメージが湧かん」
栄治は、自分が3万の大軍を率いて戦場で戦う様を想像してみる。がしかし、生前に軍団を率いるという非日常な体験をして来なかった彼にとっては、それはとても困難な事であった。
「その辺は、サーグヴェルトで過ごすうちに段々とイメージがつくので心配ないですよ。それでは次に『部隊編成』について説明しますね。とその前に、『軽装歩兵』をあと200人雇っておきましょう」
ロジーナは栄治に、『軽装歩兵』を雇うように指示をする。
栄治は先ほどと同じ手順で『軽装歩兵』を200人雇った。これで栄治の軍団総コストはちょうど300になった。
「軽装歩兵を300人にしたところで、次は『部隊編成』の説明に入ります。『軍団編成』のウィンドウはもう閉じちゃっていいですよ」
ロジーナのその言葉に、栄治は『軍団編成』のウィンドウを閉じて、『部隊編成』の項目を開く。すると彼の前に大きなウィンドウが開かれた。3回目となると、流石に栄治も驚きは無くなっていた。
「『部隊編成』のウィンドウが開かれましたね? そうしたら、そのウィンドウの左上にある『部隊作成』の項目を選んで下さい」
「了解、えっと部隊作成っと」
栄治は慣れた手つきで操作を行う。初めはこの視界に映るウィンドウや項目に違和感を感じていたが、その違和感もすぐになくなり、今では昔からこういうものがあったかの様にスムーズに操作することができる。
栄治が『部隊作成』の項目を選択すると、『部隊編成』のウィンドウに
--第一部隊
という表示が追加された。
栄治はロジーナに「新しく表示された『第一部隊』を選択して下さい」と言われて、指示どうりに操作すると。
--第一部隊に配属させる兵を選択して下さい
というメッセージの後に、『軽装歩兵』×300と表示されている小ウィンドウが表示された。
「今栄治さんの目の前に、現在軍団にいる兵が表示されていますよね? そこから『軽装歩兵』100人選択してみて下さい」
ロジーナの言葉に頷き、栄治は『軽装歩兵』100人を選択した。
すると。
--第一部隊に軽装歩兵×100が配属されました。
とメッセージが出た。
「これで軽装歩兵100人で編成された第一部隊が完成しました。それではおんなじ手順で、軽装歩兵100人編成の部隊をあと2つ作りましょう!」
ロジーナは右手の握り拳を空に突き上げて、「やってみよう!」と元気よくいう。
「オッケイ、えーとまずは『部隊作成』を選択して、編成する兵を選んで……」
栄治は、ロジーナに教わった手順を呟きながら、第二部隊、第三部隊と問題なく作成した。
「よしできたぞロジーナ、次は何をするんだい?」
「次はですね、陣形を決めます! 『部隊作成』ウィンドウにある『陣形』を選択して下さい」
言われた通りに栄治が『陣形』を選択すると、『部隊作成』のウィンドウに被る様にもう1つ大きなウィンドウが現れた。そしてそこには3つの凸マークがあり、それぞれに第一部隊、第二部隊というふうに名前が付いていた。
「この凸マークがさっき作った部隊か。お? これは指で動かせられるのか」
栄治は目の前に映る『陣形』のウィンドウに手を伸ばして、3つある凸マークを人差し指でなぞって色々と配置を変えてみる。
「『陣形』では作成した部隊の配置を決められます。今は3つしか部隊がいませんので、大した陣形は組めませんが、そのうち軍団が大きくなってくれば、部隊の数も増えて色々な陣形を組めるようになりますよ。有名なものですと鶴翼の陣とか魚鱗の陣とかですかね」
「鶴翼の陣っていうのは聞いたことがあるな。どんなものかはよくわからないが。しかし陣形と聞くとちょっと男心がくすぐられるな」
わずかに口角を上げてニヤッとする栄治に、ロジーナもウンウンと頷く。
「ちなみに、『部隊編成』のウィンドウには『部隊配置』という項目もあるんですが、これは、複数種類のクラスで部隊を編成した時に使います」
ロジーナの言葉に、栄治が『部隊編成』のウィンドウを見てみると、そこには灰色で選択できない状態の『部隊配置』の項目があった。
「『部隊配置』では、例えば歩兵と弓兵で部隊を編成した時、歩兵を前に配置して弓兵をその後ろに配置する。といったことを決められます」
つまり、この『部隊配置』は栄治のレベルが上がって、様々なクラスで軍団を編成する様になった時に重要になってくるようだ。
栄治が未来の軍団についてあれこれ考えていると、ウキウキとしたロジーナが満面の笑みで口を開いた。
「さぁ‼︎ これで軍団についての基本的な説明は大体終わりました! ですので、早速栄治さんの軍団を実際に出して見ましょう!」
ロジーナは待ちに待った瞬間といった様子で、左手に持った采配をブンブンと振り回しながらいう。今にも法螺貝を吹き鳴らしそうな勢いだ。
「えーと、俺の軍団を出すにはどうすればいいのかな?」
「簡単ですよ。グンタマを軽く握ってこう叫ぶんです『軍団展開‼︎‼︎』って。さぁ! 言ってください!」
彼女の叫びというか、もはや雄叫びの様なセリフに、栄治は困った様に頬を人差し指で軽くかく。
「それはそんなにも叫ばないといけないのかい?」
栄治に疑問に、ロジーナは鼻息荒く激しく頷く。
「えぇもちろんです叫んでください全力でっ!」
彼女の剣幕に押されて、栄治は決心したかのように一度大きく頷いた。
「よし、わかった……ふ〜、いくぞ? ぐ、『軍団展開‼︎』」
栄治が叫ぶのと同時に、彼が握っていたグンタマが強く光だす。その後すぐに、栄治の後ろにひろがっている平原の上に大きな光の固まりが現れた。その光の塊は素早く形を変えて、やがて300人の歩兵へと変化した。
「おぉ! 実際に目の前に現れると壮観な景色だなこれは」
若干興奮気味に言う栄治に、ロジーナが「でしょ? でしょ?」と嬉しそうに言う。
今栄治の目の前には、300人の兵が綺麗に整列して直立している。たとえそれが軽装歩兵という初期中の初期のクラスであっても、兵士というものを間近で見たことがない栄治にとっては、十分に迫力があった。
自分の軍団に見惚れている栄治に、ロジーナがにっこりと笑みを浮かべて声をかける。
「これで栄治さんも立派な『グンタマー』の仲間入りですね」
「ん? なんだいその『グンタマー』と言うのは?」
今まで自分の軍団の整列姿に心を奪われていた栄治は、絶妙なダサさを感じる単語に我に帰る。
「このサーグヴェルドで、栄治さんのように転生待ちをしている人たちのことです。それでは軍団の説明が終わったので、次はサーグヴェルドの過ごし方をチャチャッと説明して、最後に『ギフト贈呈』の儀式をやっちゃいましょうか」
『グンタマー』についての衝撃の説明をさらっと行い、次へと進もうとするロジーナが、「ちなみにですが」と補足を入れた。
「『グンタマ』と『グンタマー』の名付け親はこの私です。とっても可愛いネーミングですよね? 時々自分の閃きが怖くなっちゃいます」
「それは怖くなりそうだね」
栄治は苦笑いとともに相槌を打ちながら、ロジーナはネーミングセンスも別次元だということを痛感した。