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第2話 チュートリアルです

 どこまでも続いているかのように感じてしまう広大な緑の草原。

 そんな草原の中にある小高い丘の上から、法螺貝の独特な音色が辺り一面に響き渡っている。

 やがてその音は、少女の盛大に息を吸い込む音と同時に止まった。


「ぷは~っ! 窒息するところだったです......法螺貝恐るべし」


 顔を真っ赤にしてゼーハーと呼吸を荒くするロジーナに、栄治は苦笑とともに問いかけた。


「君のその甲冑から推測すると、日本の戦国時代の時のような軍隊を率いて戦うのかい?」


 ロジーナが変身した甲冑には、兜に吹き返しや三日月型の立物が付いていたりして、まるで戦国武将のような格好であった。

 しかし、ロジーナは栄治の質問にニヤリと笑みを浮かべると、ゆっくりと首を横に振る。


「いえいえ、グンダンバトルに登場するのは侍だけじゃないですよ〜?」


 そう言うとロジーナはその場で、様々なものに変装し始めた。


「まずはファンタジーでは王道の騎士! そして魔法使い! 回復の担い手の僧侶! 森の妖精で魔法と弓の達人エルフ! 強靭な肉体と高度な鍛治技術を有するドワーフ! 人類不倶戴天の敵である魔族! ありとあらゆる種族、兵種が栄治さんの軍団を構成する可能性があります!」


 その場でクルッと回転する度に服装が変わり、そして耳が尖ったり髭が生えたりと、次々と変化していくロジーナに、栄治は目を見張っていたが、彼女が言った最後の言葉が頭に引っかかった。


「構成する可能性があるって事は、必ずしも、さっき君が言ったもの達が仲間になるとは限らないって事かい?」


 栄治の問いかけに、ロジーナは再び戦国武将の格好に戻った。

 きっとこれが彼女の一番のお気に入りなのだろう。


「どの様な種族、兵種で軍団を構成するかは全て栄治さん次第です。では、早速軍団の造り方をお教えしましょう!……とその前に、大事な事を忘れていました」


 ロジーナは、ふと何かを思い出したかの様に「あっ」と口を片手で覆った。

 彼女は栄治の方にスッと一歩近づくと、何もない空中から手鏡を一つ取り出して、少し申し訳なさそうに上目遣いをしながら、その手鏡を栄治の方に向けた。

 手鏡に映った自分の姿を見て、栄治は驚いた。

 自分は82歳で死んだのだから、当然自分は老人の姿をしていると思ったが、その予想に反して鏡に映っているのは、20歳そこそこの若い男の姿だった。


「実はですね、このサーグヴェルドでの姿形は、そのものの魂が一番望んでいる姿になるんですよ。この事を本当は最初に説明しないといけなかったんですけど、すっかり忘れてました」


 ばつが悪そうに説明するロジーナに、栄治はなるほどなと納得した。

 手鏡に映った自分の姿をよく観察してみると、それは若かりし頃の自分の姿だった。

 栄治は、脱サラして事業を立ち上げ始めて、人生で一番苦労していた頃、心の中で大学生のうちから行動していればこんなに苦労はしなかった。と強く思っていた。

 その強い思いが、今のこの姿を創り出したのだろう。


「こんなにも強い思いだったとはな、自分でも気づかなかったよ」


 ほんの少し自虐っぽく言う栄治に、ロジーナは「珍しいですね」と彼の姿を一度見渡してから言った。


「普通の人ならイケメンだったり超絶美女だったり。過去には竜人なんて人もいましたけど、栄治さんは……」


 ロジーナは、もう一度確認する様に栄治の姿を頭から爪先まで見た後に、確信を持ったかの様に一度頷いてから口を開いた。


「とても普通です」

「普通で悪かったな!」


 若干食い気味に反論する栄治。

 本人も、どうせなら超絶イケメンとかクールで2枚目なエルフとかが良かったが、潜在意識は自分でどうこう出来るものではないから致し方ない。


「まぁ、美的センスというものは人それぞれですからね。それでは今度こそ軍団の説明に入りますよ!」


 ロジーナのなんとも雑な慰めに、栄治は若干大きめの溜息を吐くが、彼女はそれを意に介さず説明に入る。


「それでは栄治さん、先程渡したグンタマを軽く握って『メニューオープン』って言ってみてください」


「メニューオープン……うおっ⁉︎ なんだこれは?」


 先ほどのやりとりで少し不貞腐れていた栄治は、一瞬で自分の普通の容姿のことを忘れてしまった。


「これはまるでゲームみたいだな」


 いまの栄治の視界には、まるでゲームのメニュー画面を開いたかの様に、視界の隅に様々な項目が写っていた。

 それらの項目は視界の左端で固定されている様で、首を動かして見ても視界と連動してついてきて、視界から外れるという事はなかった。


「サーグヴェルドは誰でもすぐに馴染める様に、ゲームのシステムを模倣している所が多々あるんですよ。それでは視界の隅に出てきた項目の中から『軍団メニュー』を選んで見てください」


 メニュー画面を開いてから、上を見たり下を見たり振り返ったりとせわしなく動きながら「視界についてくるぞ」と遊んでいた栄治は、ロジーナの指示に一度頷いてから、言われた通りに『軍団メニュー』を選び、開いてみる。

 その辺の操作はロジーナから説明を受けなくても、なんとなく直感で分かった。

 『軍団メニュー』を開いてみるとそこからさらに--クラス・軍団編成・部隊編成・副将・戦術といった項目が出てきた。

 その中で副将の項目は灰色で表示されていて、選択することができなかった。


「副将の項目が選べないんだがどうしてなんだい?」


 首を傾げながら問いかける栄治。


「それについては後ほど説明します。取り敢えずはクラスの項目を開いてください」


「了解。クラスを選択っと……ん? なんか大きなウィンドウが出てきたけど何にも写ってないぞ?」


 今までは視界の邪魔にならない程度に項目が写っていたが、クラスのウィンドウは目の前に、でかでかと写っている。


「いまは何も写っていないのが正解です。ウィンドウの下に8個の項目がありますよね? そしてその隣の数字は全て0になっているはずです」


 栄治がウィンドウの下を見てみると、そこには確かに彼女の言った通りのものがあった。

 そこには--人 0・亜 0・獣 0・魔 0・技 0・知 0 ・聖 0・邪 0という項目があった。


「これは属性レベルというもので、これらの属性のレベルが上がることでそれに応じたクラスが開放していきます。それでは実践してみましょう」


 そう言うとロジーナは「えいっ」と、可愛らしい声とともに掌を栄治の方に向ける。するとそこから、何やらキラキラしたものが出てきて、それは栄治の体を包み込む様に2、3回ほど周回した後に薄っすらと消えていった。


「今のは一体なんなんだ?」


 少し驚いた様に聞いてきた栄治に、ロジーナはニコッと笑みを浮かべた。


「1ポイント分の属性レベルを栄治さんに付与しました。うふふ、初回ボーナスってやつですよ」


 そう言いながらパチッとウィンクしてくるロジーナ。

 ロジーナの容姿は幼く、栄治は彼女の仕草などを可愛らしいなと微笑ましく思う程度だが、時折見せる幼い見た目とはかけ離れた、妖艶とも言える仕草にはドキッとさせられてしまう。

 ロジーナの容姿は幼いが、死後の世界の案内人なんてものをやっていると言う事は、おそらく人間の自分とは次元の違う存在で、自分なんかよりも遥かに長く生きているのかもしれない。

 栄治が、そんな考察をしながらロジーナを見つめていると、彼女は「そんなに見つめられたら照れちゃいますぅ〜」と両頬に手を当てて、クネクネと体を揺らしていた。

 栄治は「まぁ、そんなに考え込んでも意味ないか」と考察を切り上げると、ロジーナに質問を投げかけた。


「今ロジーナがくれたポイントを属性に振り分ければいいのかい?」


 先ほどの8個の項目の隣に、残ポイント 1と表示されていた。


「さっきまで熱烈な視線を投げかけて来ていたのに、急に普通の話に戻るんですね」


 むくれた様に頬を膨らまして、唇を尖らせるロジーナに栄治は苦笑で受け流した。


「栄治さんは女を不幸にさせるタイプだと推察します。それでは、『人』の属性を1つ上げてみてください」


 栄治に対しての非難の言葉を挟んでから、ロジーナは1ポイントを『人』に振り分ける様に指示する。

 栄治は言われた通りにポイントを振り分けた。

 --『人』がレベル1になりました。

 --条件が満たされました。クラス『軽装歩兵』が解放されました。

 属性のレベルを上げた瞬間、2つのメッセージがクラスのウィンドウ中央に出てきた後に、何も写ってなかったウィンドウに『軽装歩兵』と言う文字と、その下に槍と丸い盾を持った兵士の3D画像が追加された。


「軽装歩兵とやらがウィンドウに出てきたんだが?」


「はい、軽装歩兵の解放条件は『人』属性 レベル1ですからね」


 栄治は「なるほど」と何度か大きく頷いた。

 先程ロジーナがどんな種族、兵種で軍団を構成するのかは、栄治次第だと言った意味がここで理解できた。つまり、この8個の属性のレベルの振り方で、解放される種族や兵種が変わってくるのだろう。

 ロジーナも栄治の様子を見て、クラス解放の仕組みを理解したと判断して満足そうに笑みを浮かべる。


「属性のレベルを上げるポイントは、基本的に栄治さんのレベルアップ時に1ポイント得ることができます」


「そうか、それじゃあ早くレベルを上げて、他のクラスも解放しないとな。軽装歩兵だけだと正直、心許ないからな」


 軽装歩兵の3D画像を見た感じでは、普通の服の上に関節や急所を守るための、皮の鎧を部分的に付けており、盾は丸盾で素材は木と皮で出来ているようだ。槍の方も、柄が木製で、あまり頑丈そうには見えない。

 ロジーナの言うグンダンバトルと言うものが、まだはっきりとはイメージできていないが、さすがにもう少し強そうな兵が欲しいところだ。

 そんな栄治に、ロジーナが諭すそうに言う。


「歩兵はとても重要な兵種ですよ? よく言うじゃないですか、歩のない将棋は負け将棋、ポーンはチェスの魂って」


 確かに、そんな格言を栄治は生前に何度か聞いたことはあったが、実際の合戦となったら、もっと強い兵が欲しくなるのは仕様がない事だと思う。

 そんな栄治の心情が伝わったのか、ロジーナが「大丈夫ですよ」と説明をする。


「確かに軽装歩兵は、戦力的にはとても弱いですが、それを補う方法がいくつかあります。そのうちの1つが『クラス強化』です。栄治さん、視界の右上の方に2つの数字がありませんか?」


「ん? 2つの数字……お、あった。メニューの項目に気を取られて気が付かなかったよ」


 今のエイジの視界の右上には、2つの数字が二段になって表示されており、それぞれ上の数字が1,000で下の数字が10,000となっていた。そして、上の数字の左端には、青い人魂のようなマークがあり、同じく下の段の数字の左端にはコインのようなマークがあった。


「その2つの数字なんですが、上の数字が『ソウルポイント』で下の数字が『コインポイント』です」


「コインポイントとソウルポイントか……コインポイントは何と無く想像できるが……」


 恐らく、コインポイントはこの死後の世界でのお金の様なものだろう、と想像がつくが、ソウルポイントの方は全く想像がつかない。


「ソウルポイントは先程言った『クラス強化』に必要なものです。それではクラス強化について説明しますね。まずはクラスのウィンドウに映っている『軽装歩兵』を選択してください」


 栄治がロジーナの指示通りにすると、軽装歩兵の3D画像が大きく表示されて、その隣に軽装歩兵についての説明文とステータス、そして部隊技能という項目が表示された。そして、その下には『クラス強化』と書かれた項目が出てきていた。


「この『クラス強化』の項目を選べばいいのかい?」


 栄治が問いかけると、ロジーナが頷いて肯定した。

 栄治はロジーナの反応を確認してから、『クラス強化』の項目を選択した。

 --軽装歩兵のクラス強化にはソウルポイント100必要です。強化を実行しますか?

 再びメッセージが表示された後に、今度は

 --はい・いいえ

 という選択肢が表示された。

 栄治がそのまま『はい』の選択肢を選ぶと、一瞬だけ軽装歩兵の3D画像が光るエフェクトが出た後に、軽装歩兵の隣に+1と言う表示が増えた。

 栄治が視界右上のソウルポイントの表示を確認してみると、1,000から900に変わっていた。そして、軽装歩兵のステータスを見てみると、元ステータスの隣に強化によって増えた数字が表示されていた。


「なるほど、これが『クラス強化』か」


「属性のレベルを上げてクラスを解放するのも大事ですが、この『クラス強化』も軍団を強くする上でとても大事な要素です。それでは続けて、もう1つクラスを強くする要素『部隊技能』について説明しちゃいます」


「『部隊技能』はこのステータスのところにある項目を選べばいいのかい?」


 栄治は、軽装歩兵を選択したときに出てきた、ステータスの所にある『部隊技能』の項目を選んだ。

 そうすると、今視界の真ん前で大きく開かれているクラスのウィンドウとは別に、小ささウィンドウが開かれた。

 そしてそこには

 --軽装歩兵(100) ファランクス

 と表示されていた。


「これはなんだ? ファランクスってどこかで聞いたことある様な……」


 首を傾げて考え込む栄治に、ロジーナが正解を教える。


「ファランクスとは古代ギリシャで無敵を誇った歩兵の隊形のことですよ。 兵種の隣に数字が表示されていますよね? その数字が『部隊技能』を発動させる為に必要な人数です」


「つまり軽装歩兵を100人配置できれば、そのファランクスという隊形を使えるっていうことか」


「その通りです! いや〜栄治さんは理解が早くて説明が楽ですね。ちなみにこのファランクスという隊形はですね……」


 ロジーナは数歩下がって栄治から距離を取ると、再びクルッと回転した。すると今度は、彼女は丸盾と長槍を持った歩兵の姿になった。そして驚愕なことに、ロジーナが10人くらいに増えていた。


「っひえぇ⁉︎」


 あまりの驚きで変な声が出てしまった栄治だが、ロジーナには聞こえていなかった様で、意気揚々とファランクスについての説明を始めた。


「ファランクスというのはですね、この様に横一列に並んで、右手に槍を持ち左手に盾を持ち、左手の盾で隣の人の右半身をガードするというものです! どうですか? かっこいいでしょ? 強そうでしょ?」


 しばらくロジーナたち(・・)は、隊形を組んだまま盾を構えたり、槍を突いたりしていたが、栄治は突然の彼女の影分身で呆気にとられて、全然話が頭に入ってきていなかった。

 そして、栄治が我に返った時には、ロジーナはすでに1人に戻り、戦国武将姿に戻っていた。


「栄治さん、ちゃんと説明聞いていましたか?」


 ロジーナは若干ジト目で聞いてくる。それに対し栄治は引きつった笑みを浮かべて答えた。


「あ、あぁ。ちゃんと聞いていたよ。ファランクスっていうのは凄いね」


 実際は何ひとつ聞いていないが、それを悟られない様に言葉を発する。

 ロジーナは疑いの眼差しを向けたまま、説明を始めた。


「ファランクスというのは凄いんですけど、そのぶん弱点も多いので気をつけて運用してくださいね?」


 そう釘をさす様にいうと、彼女はテンションを上げて口を開く。


「次は軍団の編成について説明していきます! これからどんどん重要なことを連発していくので、耳の穴かっぽじってよ〜く聞いてくださいよ‼︎」


 栄治は、本当にロジーナは次元の違う存在だと実感しながら、次の彼女の説明に耳を傾ける。


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