第14話 戦いの中で強くなる、それが主人公に求められる事である。
栄治と優奈は、絶望に染まった瞳で迫り来る敵を見る。
「あんなに大きいの無理です……」
優奈が力ない声を出す。
巨人の大きさはゆうに3メートルを超えており、その巨体を支える強靭な足はまるで大木の様だ。そして、巨人の手には1メートルを越えようかという棍棒が握られていた。
軽装歩兵達は、迫り来る巨人に果敢に挑むが、槍が巨人に届く前に棍棒によって薙ぎ払われてしまう。
巨人の棍棒が左右に振られる度に2、3人の兵士が宙に舞って、木や地面に叩きつけられる。そのまま光の粒子になって消える者もいる。
「ダメだ、軽装歩兵じゃあの巨人には太刀打ちできない……」
栄治は焦りで強く握り拳を作りながら、必死に打開策を考える。
彼がその打開策を考えている間に、1人の兵士が棍棒の攻撃を掻い潜り、渾身の力を持って巨人の太ももに槍を突き立てた。しかし、その穂先は刺さることなく、柄の半ばから折れてしまった。
兵士は折れてしまった槍を投げ捨てて、腰の剣を抜こうとするが、その前に棍棒によって吹き飛ばされてしまう。兵士は凄い勢いで宙を飛び、木に激しく激突して光の粒子になって消える。
栄治はそれを見て、唇を噛みしめる。
巨人の皮膚は鎧の様に分厚く、軽装歩兵の槍は通用しない様だ。
武器のリーチで大きく負けていて、たとえ攻撃がとどいたとしても、その攻撃は相手に全くダメージがない。まさに万事休すである。
そんな絶望な状況に追い打ちがかかる。
なんと、森の奥から更に4体の巨人が現れたのだ。
「あぁ…………」
優奈が絶望に染まった声を小さく漏らす。
たった1体の巨人ですら、今の2人には倒す術がないのに、それが5体に増えたとなれば、絶体絶命なのは間違いない。
栄治は一縷の望みをかけて、心に中で『メニューオープン』と唱える。すると、メニュー画面に表示されている自身のレベルが1から2に上がっていた。どうやら、先のゴブリンの大軍との戦いでレベルが1つ上がっていた様だ。
これを見て、栄治に中に一気に希望が湧いてくる。
ロジーナから軍団についての説明を受けている時、彼女は言っていた。「属性のレベルを上げるポイントは、基本的に栄治さんのレベルアップ時に1ポイント得ることができます」と。
つまり、レベルが上がった今、属性ポイントを上げる事によって、新しいクラスを解放できるという事だ。
栄治は急いでメニュー項目にあるクラスのウィンドウを開く。彼の目の前にクラスの画面が大きく開き、画面下には、人・亜・獣・魔・技・知・聖・邪の8項目が表示されている。彼の今の属性レベルは、『人』が1で他の項目は0である。そして、8項目ある属性の1番右には、残りポイント3と表示されていた。
ここで栄治は首をかしげる。ロジーナは、属性ポイントは自身のレベルが上がる時に1ポイント上がると言っていたが、今の栄治には属性ポイントが3ポイントもある。
何故1ポイントしか得られないはずの属性ポイントが3ポイントもあるのか、栄治は疑問に思ったが、今はそんな事を悠長に考えている暇はない。今この瞬間にも、巨人達と対峙している兵士が、1人また1人と倒れていっているのだ。
栄治は、余計な思考を排除して、今の戦況を有利に進めることだけを考える。
今必要なのは、遠距離の攻撃手段を持っている兵士である。そうすれば、軽装歩兵で巨人の動きを牽制しながら、遠距離の攻撃で巨人を仕留めることが可能になるはずだと栄治は考える。
そうなると、一番に思い浮かぶのは弓兵だ。弓兵であれば、巨人の棍棒の届かない安全な距離から、一方的に攻撃を加えることができる。
しかし、ここで1つの問題が浮かぶ。
それは巨人の防御力である。巨人の皮膚は鎧のようで、軽装歩兵の槍だと歯が立たない。そんな強固な防御力を誇る巨人を弓の力で倒せるのか、いささか不安である。弓であれば、槍では届かない巨人の目や口といったところを狙えるが、それでも、完全に倒すには時間がかかってしまうだろう。時間が多くかかると、その分だけ、こちらの損害が大きくなってしまう。
だが、今の軽装歩兵だけの軍団構成では、現状を打破できないのは確実なので、栄治は弓兵のクラスを解放すると決める。
彼は、8項目ある属性を順々に見て、どれを上げれば弓兵が解放されるか考える。
弓兵というのは、文字通り弓を持って戦う兵士のことだが、栄治の知識では、弓というのはとても扱いが難しく、数メートル先の的を射抜くにも相当な技術が必要であると聞いた事がある。そうなると、上げる属性は『技』であると予想して、栄治はそこにポイントを振り分けようとする。
しかし、そこで栄治の脳裏にある考えがよぎる。
このサーグヴェルドは、ファンタジー要素溢れる世界である。そうなると、遠距離の攻撃を持っているのは、弓兵だけではないはずだ。
その考えが浮かんだ瞬間、栄治は『技』の属性に振ろうとしていたポイントを違う属性に振り分ける。
ーー『魔』がレベル1に上がりました。
ーー条件が満たされました。クラス『魔術師見習い』が解放されました。
メッセージとともに、栄治のクラスのウィンドウ画面に『魔術師見習い』の項目が増える。
栄治は自分の思惑通りのクラスが解放されて、口角を上げる。そして、魔術師見習いの部隊技能を確認してみる。
ーー魔術師見習い(10) 初級戦術魔法(火球/氷結/土爆)
栄治は魔術見習いの部隊技能を見て、ガッツポーズをした。
クラスの隣にある数字は、確か部隊技能を発動させるために必要な人数だったはずだ。という事は、魔術師見習いを10人雇えば、戦術魔法を使えるという事である。
栄治は急いで、魔術師見習いを雇うために軍団編成の項目を開こうとするが、ここで、彼を大いに困らせるメッセージが栄治の前に映る。
ーー軍団を展開した状態で、軍団編成は行えません。
栄治は、そのメッセージを読んだ後に、目の前の戦況を確認する。
栄治と優奈の連合軍は、今は巨人から一定の距離を保って、動きを牽制しているといった状態だ。
栄治が思考に没頭している間、優奈が兵士たちに指示を出し、彼らの動きを纏めてくれていたようである。
はじめての戦いでいきなり窮地に立たされても、気丈に耐えながら、必死に兵士を励まして戦いの指揮をとる優奈の姿は、まさしく戦場に降り立った女神のようであった。
そんな彼女に、栄治は戦況を好転させる為にお願いをする。
「優奈、すまないが1分だけ優奈の軍団で、戦線を持ち堪えてくれないか?」
「はい! 大丈夫です!」
栄治の言葉に、優奈は迷う事なく即答する。
栄治は彼女の信頼の気持ちを嬉しく思いながら、その気持ちを裏切る訳にはいかないと、気持ちを引き締める。
「頑張って耐えてくれ」
栄治は短く優奈に声をかけると、「軍団収納」と心の中で念じる。すると、栄治の軽装歩兵が一瞬にして光と共に姿を消す。
今まで、5体の巨人を大勢の兵士で取り囲んで槍で牽制し、何とか動きを封じ込めていたが、兵士の数が半減したことによって、巨人に対する圧力が弱まり、優奈の兵士の負担が高まる。
栄治は1秒でも早く、軍団展開できるように、急いで軍団編成のウィンドウを開き、その画面の左端にあるクラス雇用の項目を選択する。
――軽装歩兵(1):10
――魔術師見習い(2):30
クラス雇用の画面には、しっかりと魔術師見習いが追加されていた。どうやら、魔術師見習いのコストは2で、雇用に必要なコインポイントは30のようだ。
ここで栄治は、視界の右上に映っている、自身のコインポイントの残高を確かめる。
ゴブリンとの戦いを始める前、彼のコインポイントは、クレシオンでの出費が重なって2000ポイントを切っていた。しかし、どうやら戦いをして敵を倒すとコインポイントは増えるようで、今の栄治のコインポイントは約3000ポイントにまで増えていた。
「よし、これで十分な数を雇える」
そう言って、栄治は次に軍団コストを確認する。
軍団編成のウィンドウに表示されている、栄治の総軍団コストは、レベルが2に上がったことで、300から600に増えていた。そして、今の栄治の使用している軍団コストは213となっていた。つまり、87人の兵士がこの戦いで命を落としたことになる。
その事実に、栄治の胸は締め付けられるが、今の彼に感傷に浸っている暇はない。今こうしている間にも、優奈と彼女の兵士たちが命を懸けて時間を稼いでくれているのだ。
栄治は急いで、魔術師見習いを100人雇用する。
その後、彼はその100人の魔術師見習いを部隊編成で10人ずつの部隊に編成する。
全ての準備が整った栄治は、隣で今まで必死に軍団の指揮をしていた優奈に、労いの言葉を掛けると共に叫ぶ。
「優奈、よく耐えてくれた! 『軍団展開!!!!』」
栄治の叫びと共に、彼の軍団が展開される。
今まで通りの軽装歩兵、そして、黒いローブに自分の身長ほどある木の杖を持った魔術師見習い100人が一瞬にして現れる。
「第1部隊と第2部隊は優奈の兵士の救援に向かえ! 第3部隊は魔術部隊の援護! 魔術部隊は戦術魔法『火球』を巨人にお見舞いしてやれ!」
栄治は素早く、それぞれの部隊に指示を出す。兵士たちは、それに応じて素早く動く。
魔術師見習いの部隊は、10人で纏って円形に整列すると、何やら声を揃えてブツブツと唱え始めた。おそらく魔法を発動させるための詠唱というやつだろう。魔術師見習い達が一斉に詠唱を始めると、それぞれの部隊の足元に魔方陣の様なものが現れる。それは、詠唱が進むにつれて、次第に明るく輝きだし、ついに彼らの頭上に大きな火の玉が現れた。その大きさは、ちょうど車のタイヤを球体にした位の大きさであった。
最後に、魔術師見習い達が一際大きな声で詠唱を終えると、10個の大きな火の玉が、一斉に巨人に向かって飛んで行った。
「グウオォォー!!」
灼熱の火球を体にもろに直撃した何体かの巨人が苦痛の叫びをあげる。そして、そのうちの一体が大きくよろけて片膝をついた。それを見て優奈がすかさず軽装歩兵に指示を出す。
「あの巨人を狙てください! 大勢で囲んで地面に引き倒して顔を狙うのです!」
優奈の指示に、10人以上の軽装歩兵が巨人を囲み、力を合わせて巨人を地面に引き倒す。たとえ、一人の力では到底敵わない相手でも、連携して力を合わせれば、戦うことが出来る。やがて、1人の兵士が倒れた巨人によじ登ると、巨人の眼球に槍を突き立てた。
「ガァァーーッ!!」
悲痛な咆哮がウィルボーの森に響き渡る。
巨人は激しく手足をバタつかせ、押さえ付けている兵士たちを吹き飛ばすが、槍を突き付けている兵士は、巨人の顔にがっしりとしがみ付いて、頑として離れようとせず、尚も深く槍を深く刺そうと奮闘している。
やがて、槍の穂先が巨人の脳に到達したのか、巨人はブルッと大きく震えると、その後は動かなくなった。
地面に横たわったまま動かない巨人を見て、その周りの兵士たちが歓声を上げる。
「やったぁ! やりましたよ栄治さん!」
優奈が両手を空に突き上げて、喜びを表現すると、隣の栄治に笑みを向ける。しかし、彼女の笑みを向けられた栄治は依然として険しいままだ。
「優奈、喜ぶのはまだ早いよ。巨人はあと4体残っているし、最悪な事に奴らが戻ってきた」
栄治が険しい視線を向けている方向に、優奈も目をやると、そこには悪夢の緑の軍勢がいた。
栄治と優奈の連合軍に敗れたゴブリンの残党が、巨人の加勢をしに戻ってきたようだ。
「そんな……巨人だけでも手一杯なのに、ゴブリンまで来たら戦線を維持できません」
絶望の表情を浮かべる優奈に、栄治が励ますように彼女の目を見て言う。
「さっきの戦いで優奈のレベルも上がっている筈だ。だから一旦軍団を収納して、新しい兵を解放してからまた軍団を展開するんだ」
「でも、そうしたら栄治さん1人で巨人とゴブリンの相手をすることに……」
優奈は、不安な色を瞳に浮かべながら栄治を見る。そんな彼女を少しでも安心させようと、栄治は笑みを浮かべる。
「大丈夫さ! 優奈が軍団を編成するまで持ち堪えてみせるよ! いいかい優奈、属性ポイントは『魔』を1つ上げると魔術師見習いが解放される」
栄治は、先程の情報を優奈に伝えると、軍団を収納するように促す。優奈は「栄治さん頑張ってください!」と言うと、自分の軍団を収納する。
急激に自分の陣営が少なくなるのを見て、栄治は拳を掌にパンと叩き付けて気合を入れる。
「よし、お前たち、ここからが正念場だぞ! 優奈が軍団編成するまで時間を稼ぐんだ!」
栄治の言葉に、彼の兵士たちが声を上げて応える。
「軽装歩兵たちは前衛でゴブリンの進撃を阻止するんだ! 魔術部隊は10部隊の内、5部隊はそのまま火球で巨人を狙え! 残りは2部隊と3部隊に分かれて、2部隊は氷結の魔法を巨人に順番に掛けていけ! 3部隊は土爆を突撃してくるゴブリンに食らわせるんだ!」
栄治の指示で、彼の軍団は素早く陣形をつくる。前衛は軽装歩兵で、後ろの魔術部隊が魔法に集中できるように、ゴブリンの猛攻を防ぐ。その間に魔術部隊は詠唱を行い、魔法を放つ。
彼が指示した氷結は、魔法が発動されると、白く冷たい空気が巨人を包み込み、その鎧の様な皮膚には霜が降りる。さすがに、巨人を凍りつけて動けなくさせる程の威力は無いが、それでも、寒さで巨人の筋肉は強張り、十分に動きを遅くしてくれている。
そして、土爆は発動されると、ゴブリン達の足元の地面が弾け、数匹のゴブリンを吹き飛ばす。巨人にダメージを与えれるほどの爆発では無いが、体が小さいゴブリンには十分過ぎるほどの威力である。
軍団に魔術師見習いが増えたことによって、栄治の軍団は攻撃のバリエーションが増え、軽装歩兵だけだった時に比べ格段に強くなったが、それでも今の戦況で戦線を維持するのは、かなり厳しかった。
魔術部隊の攻撃は、確かにとても有効だったが、魔法の発動までには約30秒ほどかかっている。この30秒の間隔はかなり影響が大きかった。
軽装歩兵たちは、これまでの戦いで大きく疲労して動きが鈍っている。魔法の援護が無ければ、とてもじゃないがゴブリンの猛攻には耐えられない。
前線は、魔法の攻撃が途切れるたびに、少しずつ押され、このままだとジリ貧だと栄治が奥歯を噛みしめたとき、優奈が叫んだ。
「栄治さん、準備できました! 『軍団展開!!!!』」
ジワジワと押され始めていた栄治軍に、優奈の軍団が光と共に加わる。
その優奈の軍団をみて、栄治は驚きで目を見開いた。
「これは……」
「栄治さんごめんなさい、せっかく魔術師見習いの事を教えて貰ったのに」
優奈は申し訳なさそうな表情で、栄治に謝るが、すぐにその表情を引き締める。
「でも、今の戦況に必要なのは、魔術部隊ではないと思ったんです」
優奈はそう言うと、自身の軍団に指示を出した。
「弓兵隊構え! ゴブリン達に一斉掃射!」
優奈の号令で、彼女が新しく手に入れた兵士たち総勢100人の弓兵が、ゴブリンの軍勢に矢の雨を降らせる。
「優奈ナイス判断だ!」
栄治は優奈に親指を上げて「グッジョブ!」と笑みを向ける。
これで、栄治の魔術部隊の攻撃の隙間を優奈の弓兵隊でカバーすることが出来る。
休みなく後衛からの援護を受ける事が出来る前衛は、徐々に戦線を押し戻し始めた。やがて、1体の巨人が火球によって火達磨になり、もう1体は氷結の魔法で動きが鈍くなったところを軽装歩兵に囲まれ、地面に引き倒されて止めを刺される。さらにもう1体は、全身に矢を浴び、そのうちの何本かが目などに刺さり、最早戦える状況ではなくなっていた。
ゴブリン達も次から次へと、際限なく降り注ぐ矢の嵐と、爆発する地面で急激に数を減らしていく。
ほとんどのゴブリンが、軽装歩兵の槍か弓兵隊の矢に貫かれて、最後の巨人も魔法と弓の総攻撃を受けて、勝負はほぼ決着がついた状態になった。
「何とか乗り切りましたね栄治さん」
「そうだね、優奈が戦況を読んで弓兵隊を解放したのが、勝敗を決めたね」
栄治の褒め言葉に、優奈が照れたように顔を赤く染めて俯いた。
「私はほとんど何も出来ませんでした。私が、今こうして生きていられるのは、栄治さんのお蔭です。それに……」
「それに?」
「あきらめないで戦い続ける栄治さんは、その……とても格好良かったです」
最後は消え入りそうな程小さな声で言うと、優奈は完全に下を向いてしまった。
そんな彼女を栄治は「なんだこの可愛過ぎる生き物は!?」と、凝視してしまう。そして、彼の中に段々と喜びが湧き上がったくる。
「いやいや、優奈も本当によく頑張っていたよ」
「はい、ありがとうございます」
栄治の労いに顔を上げる優奈であったが、その顔はまだ恥ずかしさで若干赤かった。そんな可愛過ぎる彼女に、ニヤケ顔になる栄治。そんな完全に気が緩んだ彼の耳に、獰猛な叫び声が響いた。
「ウガガァァーーーーーッ!!!!!」
その叫びは、まさに追い込まれた獣のような狂気の叫びであった。
栄治が、その声の方に顔を向けると、そこには全身に矢が刺さり、あちこちに火傷を負いながらも、目を血走らせ、狂気の眼差しでこちらに走ってくる巨人がいた。どうやら、最後の力を振り絞り、軽装歩兵の包囲を突破しこちらに突進してきたようだ。
体長が3メートルも超える巨体が死にもの狂いで走ると、そのスピードは凄まじく、一瞬にして巨人は栄治と優奈の目の前に迫る。二人を守るために近くにいた、軽装歩兵が、巨人の前に立ちはだかって、突進を阻止しようとするが、それは巨体の体当たりで呆気無く失敗してしまう。
「優奈危ない!!」
栄治は咄嗟に、優奈を横に突き飛ばす。
次の瞬間、まるでトラックが衝突してきたような、激しい衝撃が彼を襲う。
「かはっ」
巨人の体当たりを胸でもろに受けてしまった栄治は、肺の空気を強制的に吐き出され、そして、宙を舞う浮遊感を感じる。その直後には、背中が地面にぶつかり激痛が走る。
「うぅ……」
体中の激痛に呻き声を上げる栄治だが、まだ生きてはいる。どうやら、このグンタマ―の体の生命力は、栄治の予想以上のようだ。しかし、その命を終わらせようと、凶悪な顔をした巨人が、栄治の目の前に現れる。
巨人は、右手に持っていた棍棒を両手持ちに切り替えると、それを自分の頭の上まで大きく振り上げた。
いくらグンタマ―の生命力が強靭でも、あんな攻撃を食らったら木端微塵だろう。
「終わったな」
栄治は、どこか他人事のように呟く。そんな彼の耳に女性の叫び声が聞こえる。
巨人は、腕の筋肉が盛り上がるほどの力を込めて、全力で棍棒を振り下ろした。その棍棒の先を栄治はボーっと眺める。やけにスローモーションで迫る棍棒に、栄治が「これが走馬灯ってやつか、そういえば現世で寿命を迎えたときは見なかったな」と、どうでも良い事を考える。
すると、栄治と棍棒の間に鉄の剣が割って入ってきた。
その剣は、栄治が巨人の体当たりで落としてしまったものだ。その剣はなんと、凄まじい勢いを持った棍棒が栄治に振り下ろされる前に、受け止めてしまった。
「え? ……ええっ!?」
栄治は、剣を持っている人物に視線を移して驚愕する。
巨人の棍棒を鉄の剣で受け止めたのは、なんと優奈だったのだ。
彼女の華奢な体が、大木の様な棍棒を受け止めている光景は、違和感がありすぎて、まるで合成写真のようであった。さらに、彼女は棍棒を受け止めるだけに止まらず、その棍棒を押しのけると、剣を巨人の腕に振るった。
ブシュっという鈍い音と共に、巨人の両腕が切断される。いや、栄治が買った剣は安物のなまくらだった為、切れ味は良くない。なので、切断というよりは千切れたといった表現の方が正しいかもしれない。
腕を失った巨人は、そのまま後ろに倒れ、動かなくなった。
「栄治さん大丈夫ですかっ!!」
優奈は手に持った剣を投げ捨てると、栄治の傍に駆け寄ってきた。
「う、うん。たぶん大丈夫だと思う……」
栄治は呆気に取られながら、「よかった」と安堵の息を漏らす優奈を呆然と見詰めた。




