プロローグ
闇 ただの闇 深いか浅いかも無いただの闇
いつもその闇から俺に問いかける声
「正義とはなんだ?罪とはなんだ?」
俺はその問いかけに対する明確な答えは持っていない、仕方なく沈黙で返す。
闇からの声は繰り返し繰り返し俺に問いかける
「正義とはなんだ?罪とはなんだ?」
目覚めたのは午前三時を少し回った所だった。
このところロクに眠っていなかった体が貪欲に睡眠を貪った結果がこの時間。妥当な時間かもな…そんな事を考えながら狭いリビングに向かい、冷蔵庫から冷たい水を出し半分程飲みペットボトルに蓋をした。
「お兄ちゃん?」
廊下の方から妹の声
「恵里、悪いな起こしたか?」
「ううん、明日は休みだからテレビ見てたんだけど…お腹減ってない?」
自慢の妹は母親の様に優しく俺に尋ねた。
「少し…何かあるか?」
「私も少しお腹空いたから何か作るね。」
テレビのリモコンを手に取り電源をつけた。モニターに映し出されたのは、熱心に商品を宣伝する外国人女性。こんな時間では、ろくな番組はやっていない。
「最近忙しそうだね、お兄ちゃんと話すの三日ぶりだよ」
「ん…あぁ そうだな、ここの所忙しくてな」
「お兄ちゃんの仕事が忙しいって…なんか嫌だね…」
「そうだな」
昨今、未成年者犯罪が急増し、警視庁は対策部を去年の末に設立。俺はそのメンバーに選ばれ、多忙な日々を送っている。
自分の家で時間を過ごすのは、珍しい事になってきていた。
テーブルに置かれたナポリタン。妹の料理の腕前は大したものだ。俺はもっぱら食べる専門。
皿の上のパスタがなくなり、煙草に火を付けテーブルからソファーに移動する。恵里の皿はまだ半分程残っている。
「ピリリリ」
上着の中で携帯電話がくぐもった音をだす。こんな時間に鳴る電話で吉報など来るはずも無い。
「三上か?」
「はい」
「渋谷で事件だ!今すぐ現場に向かってくれ、詳しい住所は車に送っておいた。」
「わかりました、すぐに向かいます。」
電話を切って初めて視線に気付く、妹が不安げに俺を見つめていた。
「また何かあったの?」
「あぁ、まだ詳しい事はわからないが渋谷で事件らしい…」
上着を羽織りながら恵里の問いに答える。
「何かあったらすぐに電話しろよ」
「うん…気を付けてね…」
恵里の顔に 不安の表情が張り付いていた。
車に乗り込みエンジンをかけた。
「ピー」
カーナビが音をたてる。
ウィンドウに映し出されたのは渋谷近辺の地図、続いてウィンドウの中央に
「認証」の文字。俺は文字の下にある四角いマスに親指をあてた。
画面の地図の左上辺りに赤点が点滅し、文字列がウィンドウを埋めた。
「井ノ頭道か…」
俺は車をガレージから勢いよく発車させた。
現場辺りは騒然としていた。
警官、報道、野次馬現場中心は、イエローテープで仕切られている。