現実世界で乱数調整!
ちょっとした思い付きで書いた作品です。
この世界にいる人だれもが、『運』というものの存在を信じている。
ただ一人俺を除いて。俺に言わせれば『運』なんてものは存在しない。
「所持金3781円、この状態で70円を投入口に入れて、ミネラルウォーター(120円)のボタンを12回押す。その後、300円を投入口に入れて、マスターペッパー(130円)のボタンを押す」
「7、7……7!これで3連続当たり!」
ひょんなことから身に着けた、使い勝手の悪い特殊能力『乱数調整』
自分の望むように未来を作り替えられるという、すさまじい能力だった。
「な、なあ、それを使って宝くじの一等を当てることって可能なのか?」
俺の親友であるケイが打算丸出しの提案をする。
「3億円もその能力があれば夢じゃないだろ?」
「できなくはないけど、ムリだよ」
この特殊能力が手に入ったときに、真っ先に試そうとしたことだ。
『銀行に78,224,524円、郵便局に434円預けたうえで、所持金を76,108円にして、新宿の中心街にある宝くじ売り場の前で2日間踊り続け、開店一番に37枚を連番で買う』
それが宝くじで3億円当てるために必要な乱数調整。
銀行に預けるためのお金はどうやったって足りないし、2日間踊り続けるのもハードルが高すぎる。
そのことをケイに伝えると、上手くいかないもんだなあと天を仰いだ。
「じゃあさ、例えばマークシート式の問題で『偶然』正解を選べるようにするのは?」
「『所持金を533円にして、駄菓子屋で板チョコを一枚買ってきてその75%を店内で食べる、そのあと何食わぬ顔で教室に戻って適当に』マークシートを塗りつぶせばそれが正解になるよ」
「はいアウトォ!どう考えてもカンニング容疑待ったなし!」
「だから言っただろ、この能力、めちゃくちゃ使い勝手悪いって」
「25%の確率を当てるためだけに、それだけすごい儀式が必要なら、そりゃ使い勝手が悪いと思ってもしょうがないだろうなあ……」
こんな感じで、未来を変えようとしてもその難易度がクソみたいに高いのがこの乱数調整だ。
自動販売機で簡単に当たりが出せるのが例外的に簡単なぐらい。何をしようとしても『それ乱数調整しない方がよくね?』と思うぐらいの結果しか出てこない。
「もっと便利なものだったら色々使い道もあっただろうに、もったいねえなあ……」
「まあ、全く役に立たないということもないけどね」
『何も買わないまま入出店を8回繰り返したあとで、とある本(熟女物)3冊同じものを買い、そのときに』引いたスピードくじで1等を出したのはちょっとした思い出だ。
店員の不審者を見るような目を忘れることは二度とないだろう。欲しいものを手に入れる代わりに、人間として大事なものを失ってしまった気もする。
まあ、そのとき買った本は速攻でごみ箱に捨ててやったが。1等の景品である『発音ミミ』のフィギュアは今でも大事に取ってあるぞ。
そんなとき、急に真剣な顔になったケイが、俺に尋ねてくる。
「……ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「どうした?」
「笑わないで聞いてくれよ……俺が新熊さんに告白して、OKをもらえるように乱数調整することってできるのか?」
「へーえ、お前がねえ」
「なんだその含み笑いは!」
なるほどなるほど、確かに新熊さんはうちのクラスで頭一つ抜けて可愛い一方で、ほとんど男を寄せ付けない孤高な存在だ。
ケイが彼女のことを好きだとは知らなかったが……まあ、親友のよしみだ。乱数調整のやり方ぐらいは教えてやろう。
「まず、今のまま告白して新熊さんがOKする確率は0.012%だ」
「……まあ、ほとんど接点なんてないもんな、0%じゃなかったことを喜ぶべきか」
「そうだな、0%でさえなければ、乱数調整さえあれば確実に引き起こせる…………0.012%だろうが、絶対に引き当てることができる」
そう思って、頭の中で乱数調整を発動した。
『ケイが英語の教科書P76~77の英文を丸暗記、携帯の電池残量90%以上の状態で放課後に新熊さんに懇切丁寧に英語を教える。直後に購買で焼きそばパンを買って、最寄りのバス停の前で怪しい宗教に絡まれている新熊さんを「俺のツレなんで」と言って、代わりに焼きそばパンを押し付けて手を引っ張って去る』
「この直後に告白すれば、0.012%の確率を引き当てることが可能みたいだよ」
「それ、もう0.012%じゃないよね?あと、P76~77って……まあ、この程度なら」
それから1週間後、クラスの中に一組のカップルが誕生した。
ケイはやたらと俺に感謝していたが、乱数調整を見事にやり切ったのは彼の実力だ。
今日も俺は『常に黒板の上のスピーカーを見つめ続ける』ことで、教師のランダム指名を回避しながら、この世界における乱数調整の面倒くささに一人ため息をついた。
連載で使おうかとも思いましたが、さほど面白くならなかったので短編としました。
この設定を使って誰か連載小説を書いてくれると、作者が喜びます。