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ニコラウスとトナカイのルドルフ




 シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っていきます。

 


 「どうしたんですか?」



 銀のソリを引くトナカイのうち一頭が、不思議そうに言いました。


 トナカイがそう聴いたのは、ソリに乗る人です。優しくて、賢い、ご主人様。


 そのご主人様は、最近、哀しそうな顔をしていましたが、今は、なんだかとても可笑しな様子。



 「な、何でもないよ」



 ご主人様は、そう言いました。


 でも、嘘です。トナカイには解りました。


 空の上では、空の下より強い風が吹いていて、トナカイがその声を聞き取るのには、いっぱいまで耳を後ろに向けなければならないほど、ご主人様の声は可笑しなものだったからです。



 シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っていきます。



 「どうしたんですか?」



 トナカイは、もう一度、聴きました。



 「な、何でもないよ、どうしたのだ……トナカイ君?」



 今度は、ご主人様が聴き返してきました。


 そして、ハッキリ解りました。この人はとてもそっくりだけれど、ご主人様じゃない。


 トナカイのご主人様は、トナカイの事をそう呼んだりしないのです。



 「あなたは、誰ですか? このソリはご主人様しか乗ってはいけないのですよ!」



 トナカイは半分怒って言いました。



 「ああ、怒らないでおくれ、トナカイさん、これは君のご主人様が許してくれたことなのだ」


 「なんですって?」



 トナカイは驚いて言いました。



 「そんな事を言って! ご主人様は何処です? 本当の事を言わないと承知しませんよ!」


 「嘘ではないよ、君のご主人様は、今頃、私の住んでいる街の至る家で、プレゼントを配り歩いている」


 「なんですって?」



 トナカイは本当に驚きました。



 「もしかして、あなたはご主人様のご主人様ですか?」


 「なんの事かは解らないが、私はニコラウスといいます」


 「ニコラウス。ご主人様がプレゼントを配っているという事は、ご主人様は元気になったのですね?」


 「ああ、元気だよ。おかげさまで、今年あの街は幸福で満たされるだろう」



 幸福に満ちたのはトナカイです。


 やっぱりこの人のところに連れてきて正解だった。


 ご主人様は、もう哀しくないのだ。なんて嬉しいことでしょう。



 「……あれ? でも、まだ可笑しいです」


 「なにがだろうか?」


 「ご主人様のご主人様が、どうしてこのソリに乗っているのですか?」


 「ああ、それは……」



 ご主人様のご主人様は、恥ずかしそうに頬を掻くと、子どものように顔を赤らめ、言いました。



 「私が頼んだのだ」


 「へえ? どうしてですか?」


 「私も、ソリに乗って、世界中の子ども達にプレゼントを配ってみたくなったのだ」



 どうして、それを恥ずかしがるのでしょう。


 ご主人様以外で、こんなにこの役割をこなせる人なんて、世界中探したっていやしません。


 子ども達にプレゼントを配ることの何が恥ずかしいのでしょう。



 「そういうことならお任せください。何処までも運んでみせますよ!」


 「ああ、ああ、トナカイ君、もう少し、ゆっくり走ってくれたまえ、空がまだ怖いのだ」

 


 シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っています。



 「ご主人様は、どんな様子でしたか?」


 「ああ、久しぶりに本気をだす、って言っていたよ」


 「ご主人様の、ご主人様の本気!」


 「ああ、ああ、トナカイ君、もう少し、ゆっくり走ってくれたまえ、空がまだ怖いのだ」



 シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っています。



 「さあ、どこへ行きましょう、ご主人様のご主人様?」


 「子ども達のところへ」


 「でも、最近の子ども達の家は、煙突がついていませんよ?」


 「ならば、屋根のないところに住んでいる子達の下へ、それこそが、私たちの行くべき場所ではないかね?トナカイくん?」



 シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っています。



 「ルドルフです!」


 「なんだって?」



 ご主人様のご主人様はそう聴きます。



 「私の事はそう呼んでください!」


 「わかった、では行ってくれ、ルドルフ」



 鈴の音が一層、けたたましく鳴り響き、ソリは全速力で空を駆けていきます。


 何百年も前から続いて、世界中を駆け巡る大いなる幻想は今年も人々に希望を与えるでしょう。


 そしてきっと、何百年先の未来でも、ずっと、ずっと。



 「ああ、ああ、トナカイ君、もう少し、ゆっくり走ってくれたまえ、空がまだ怖いのだ」



 ただ、この年の、この時、限り。


 ソリの動きは、初めての人が乗ったようにぎこちない動きをしているのでした。






 了

終わります。

ありがとうございました。

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