幕間 サンタクロースとトナカイのルドルフ その2
シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っていきます。
「もう、帰りましょう」
トナカイのルドルフは遂にそう言いました。
別にルドルフは、ソリを引くのが嫌でも、まして、ご主人様が嫌いになったわけでもありません。
大好きな、本当に大好きなご主人様の様子が、本当におかしかったからです。
「まだだ、まだ……」
いつも明るい、笑顔のご主人様の顔色は、薄黒く、今まで見たことのない様子でした。
それどころか、ルドルフが、「このおじいさんは誰?」と思ってしまうほどに、ご主人様の様子はおかしかったのです。
怖がっているような、怒っているような、泣いているような。
張り切っているような、喜んでいるような、笑っているような。
「これ以上、どこに行こうというんですか? 最初は虫、次は大人の女、アヒルの子、その次は、クリスマスに縁もゆかりも無い、砂国の王様。一体、どうしたのですか?」
「まだだ、まだ……彼等の中に、子ども達の心を掴める者が、必ずいるはず」
ご主人様は、初めて、この旅の目的を言いました。
「彼等は、幾つもの時代で、何人もの子どもの心を育ててきた。だから必ずいるはず、子どもの、純真な心を取り戻すことが出来る人が」
「その人を探して、どうするのですか?」
「それは……それは……」
ルドルフは、本当はわかっていました。
ご主人様は、ご主人様は……。
「自分がいると、信じてもらえないのが、苦しいんですね?」
ご主人様は黙ったままでした。
「だから、子ども達の心を育ててきた人たちの手で、みんなに純真な心を取り戻してもらうため、夜空を駆け巡ったのですね?」
やっぱりご主人様は黙ったままでした。
「誰もがあなたを信じ、愛していたのに、今は煙突も無く、子ども達が欲しい物も変わってきて、何より、誰も『サンタクロース』を信じなくなって、それがご主人様は寂しいんですね?」
「……寂しい」
ルドルフの頭に、夏に大騒ぎして、冬にひっそりと死んでいった、キリギリスの事が思い浮かびました。
「妬ましいですか?」
「……妬ましい」
姫様の時はちやほやされていたのに、大人になったらそうで無くなった、王妃様の事が思い浮かびました。
「苦しいですか?」
「……苦しい」
どれだけ美しくなっても、心に深い傷を負い、生きているだけで苦しい白鳥の事が思い浮かびました。
「求めるものが欲しいですか?」
「……欲しい」
どんな願い事も、どんな財宝も、好きなだけ叶え、手に入れて、それでも永遠に欲しがり続ける王様の事が思い浮かびました。
「解りました」
「……何がだい?」
ご主人様はルドルフに聴きます。
ルドルフは、いつかのクリスマス・イブを思い出しました。
真っ赤な鼻を皆に笑われ、外にでるのも恥ずかしかったあの時、たった一人、自分を笑わず、必要だと言ってくれたご主人様の事を。
優しくて、暖かくて、とってもとっても大好きなご主人様。
暗い夜道を照らすが私の仕事。
あなたが役に立つと言ってくれたこの赤い鼻で、闇夜にいるあなたの道を照らしましょう。
今度は私があなたを救う番だ。
ルドルフは決心しました。
「行きましょう。ご主人様のご主人様のところへ」
「私の、私?」
「わけがわからない」と言うように、ご主人様は頭を捻ります。
「本当のご主人様はそういう人じゃない。信じられなくても、求められなくても、ご主人様がいる限り、この世界は明るいんだって、私の赤鼻より、もっと人々を照らすんだって、それを教えて差し上げます」
そう言う終わり、ルドルフは一際、大きくいななきました。
仲間達と全速力でソリを引き、夜空を流星のように駆けだしました。
シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のソリが空を走っていきます。
次で最後です。




