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サンタクロースと砂漠の王様




 むかし、むかし、あるところにとても裕福な王様がいました。


 この王様は、ある時、突然この国に現れ、大変な財宝を持って今の王妃様、昔のお姫様と結婚し、やがて王様となったのです。


 王様には使っても使いきれないほどの財宝がありました。


 戦争をしても敗けることはありません。


 まるで魔法使いのように、なんでも自分の思う通りになるのです。


 王様は王妃様と、毎日のように幸福な日々を過ごしていました。



 ある日の晩の事です。


 王様はお城のバルコニーで夜空を眺めていました。


 すると、見たこともないような服に身を包んだおじいさんが、見たこともないような豪華な銀のソリに乗って空を飛んでいるのを見つけたのです。


 八頭立てのそのソリを引くのは、やはり見たこともない、一頭一頭が見事な角を生やした四本足の獣です。


 王様はびっくりしました。


 なにせ、この世の珍しいモノは、全て手に入れていると思ったのに、あんな見事な乗り物は見たことがありません。


 何としてでも欲しい。王様はそう思いました。



「おおーい、おおーい」



 そう大きな声を出して、ソリに乗るおじいさんを呼びましたが、おじいさんは聴こえていないのか、何もないように空を駆けていきます。


 これに王様は慌てました。どれだけ大金を払っても、あのソリを譲ってもらおうと声を掛けたのに、聴こえていないのでは意味がありません。


 ですが、王様には取って置きの魔法の道具がありました。



「空飛ぶじゅうたん、あのソリを追いかけろ」



 空を飛ぶ不思議なじゅうたんを呼び、銀のソリを追いかけ、王様は夜空を駆けました。


 空飛ぶじゅうたんはすごい速さで飛び、ぐんぐんソリに追いつきました。



「なんて綺麗なソリなんだろう」



 近付いてみたソリは、それはそれは見事なものでした。


 銀で出来ているだけでなく、細かで美しい彫刻が彫ってあり、そのどれもが王様の知る彫刻とは違うものでした。


 走る後から、星屑のような煌きが続き、遠くから見たならば、それは流星のように見えるでしょう。


 ソリを引く、馬のようで、馬でない、立派な角を持つ獣の、なんと美しいことでしょう。


 一頭一頭が本当によく訓練されているのでしょう、少しも乱れること無く、獣はソリを引っ張ります。



「こんばんわ」



 遂にソリの横に並んだ王様は、ソリに乗るおじいさんに声をかけました。



「こんばんわ」



 撫でる様な、抱きしめるような暖かい声で、おじいさんは言いました


 王様が見たこともない白い肌のおじいさんでした。



「突然、すみません、そのソリを譲ってもらいたいのです。お金は好きなだけ払います」



 早速、王様はおじいさんにお願いしました。


 おじいさんはそれを聴き、きょとん、とした後、大きな声で笑いました。


 ホウ、ホウ、ホウ、ホウ、ホウ、ホウ。



「なにが可笑しいのですか?」



 王様はおじいさんが何故、笑っているのか解らず、聴きました。



「君は空を飛ぶ道具を持っているではないか、どうしてこのソリをほしがる?」


「けれどあなたのソリは、私が今まで見たこともないほどに綺麗なものです。このじゅうたんでも叶わないかもしれません」


「そうかのう……?」



 おじいさんは、急に笑うのをやめ、何かを考えるように黙りました。


 そして言いました。



「それでは、もし次に君と私が会った時、私が金でできた、16頭立てのソリに乗っていたら、君はどうするかね?」


「それはきっと素晴らしいものでしょう、お金はいくらでも払います、譲って欲しいというでしょうね」



 王様はおじいさんの言う、金で出来た16頭立てのソリを想像してワクワクしました。



「そうだろうなあ」


「あなたはさっきから何が言いたいんですか?」



 王様はヤキモキしておじいさんに聴きました。



「君はとても裕福な人なのだろうな。いくらでもお金を払うと言った」


「そうです、私にはなんでも願いを叶える力もあるんですよ」


「そのなんでも願いを叶える力はあるけれど、君はいつまで経っても欲しがっているのだな」


「それはそうです。それが普通でしょう?」



 王様は貧しい暮らしをしている頃を思い出しました。


 欲しい物はたくさんあったけれど、決して手に入らない、時にはその日に食べるパンですら、手に入らない時もあった。


 あんな苦しい思いはもう御免です。



「そうだね、普通だね」


「おじいさん、あなたは何が言いたいんですか?」


「いや何、君が子どもの頃、欲しい物も届かないあの頃と、何一つ変わってない事に安心したのだ」


「なんですって!」



 これには王様も怒りました。


 王様はもう貧しくありません。パンでも、財宝でも、好きなだけ手に入ります。


 あの頃とはもう違うのです。



「そうだね、けれど、それは求めるものが違っているだけだね」


「どういう意味ですか?」


「いつまで経っても『何かを欲しがっている』ということさ」


「けれど私は……」


「欲しいモノは手に入る、けれど欲しいと思うことは終わらない」



 王様は黙ってしまいました。



「いや、なに、君が言った通り、普通の事なのだよ?」


「そうなのでしょうか」



 言った本人である王様は、すっかり自身を無くし、そう聞き返します。


 おじいさんはハッキリ言いました。



「そう普通の事だ。私たちのご先祖様も、そしてこれから生きる未来の子ども達も、みんな同じ理由で欲しがり続ける」



 「求めるものは、君と同じで変わっていくだろうけれど」と、言い、おじいさんはそのまま空を駆けていってしまいました。


 王様は、おじいさんを追いかけることが出来ませんでした。





 **********





 王様はお城のバルコニーに戻ると、帽子の中から古びたランプを取り出しました。



「ランプの魔神よ、出て来い」



 そう言いながら、ランプをこすると、ランプの先から白い雲がモコモコとあわられ、やがてその雲は大きな人型になりました。


 ランプの魔神です。王様の言うことを何でも聴いてくれる、偉大な魔法使いでした。


 王様は言いました。



「魔神よ。いつの時代でも、どんな場所でも、誰にでも、絶対に必要で、絶対に朽ちないものが欲しい」



 すると魔神はしばらく黙ったまま、フワフワと浮いていました。


 いつもは『簡単な願いだ』とか言って、願いを叶えてくれるのに、魔神は黙ったままです。



「どうした!こんな願いも叶えられないのか!」



 王様は魔神に怒鳴りつけました。


 すると魔神は大きくため息をつき、王様に言いました。



「それが何か、私が決めてもいいのか?」



 王様は黙ってしまいました。




後、二話で締めます。

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