幕間 サンタクロースとトナカイのルドルフ
シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っていきます。
「どうしたんですか?」
銀のそりを引くトナカイのうち一頭が、不思議そうに言いました。
トナカイがそう聴いたのは、そりに乗る人です。優しくて、賢い、ご主人様。
そのご主人様は、いつもニコニコしていましたが、今は、なんだかとても哀しそう。
「何でもないよ」
ご主人様は、そう言いました。
でも、嘘です。トナカイには解りました。
空の上では、空の下より強い風が吹いていて、トナカイがその声を聞き取るのには、いっぱいまで耳を後ろに向けなければならないほど、ご主人様の声は小さいものだったからです。
シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っていきます。
「どうしたんですか?」
トナカイは、もう一度、聴きました。
「何でもないよ」
ご主人様も、もう一度、言いました。
やっぱり、嘘です。
だって、今日のご主人様はずっとおかしいな事をしている。
虫しかいない原っぱに行ったり、子どもの枕元ではなく、大人の枕元に行ったり。
いつものご主人様なら、こんな事はしませんでした。
しばらくの間、トナカイは黙ってそりを引き続け、空を駆けました。
「……煙突、中々ないですね」
「……そうだな」
ご主人様は、本当に消えてしまったんじゃないかというくらい、小さな声で、寂しそうに言いました。
ここ最近の年、ご主人様はこうしてそりに乗り、自分達と一緒に空を駆けるだけ。
本当に寂しそう。
せめてご主人様の気が紛れればいいと、トナカイはご主人様の行きたい方向へ、駆けていくのでした。
シャン、シャン、シャン、と、鈴の音を鳴らし、星屑を撒きながら、銀のそりが空を走っています。