第肆枝〜死〜
「死」にまつわる夢の話。
人の死ぬ夢は吉兆というが、本当だろうか。夢を見た後味の
悪さが、吉兆の対価なのだろうか。
そこは、広い田に挟まれた畦道だった。近くには、深い森が広がり木々は山の稜線まで続いていた。なんとなくだが東北地方にいるような気がした。
私は江戸時代らしい女物の着物と笠を身につけて、二人の成人男性を連れて畦道を小走りに歩いていた。
自分がどういう立場で、二人の男とどういう関係なのか、何処へ向かっているのか、何かに追われているかも分からなかった。二人の男に守られながら、急いで歩いているのだけは分かった。
しかし、男の一人が急に倒れてしまった。どうやら重い病のようだ。
男は自力で動けず、私はもう一人の男と共に病の男を近くの古びた空き家に運び込んだ。
もう一人の男は、暗い面持ちで床に寝かせた病の男を見ながら、
「置いていくしかない」と言った。
私は嫌がった。私自身は、この二人の男とは初対面だし、なんの思い出もないはずだった。
しかし、夢の中の世界で私が成りきっている着物の女性にとっては、きっとこの二人とは色々な思い出があって、欠かすことのできない存在なのだろうと思った。
「なぜ人はもっと周りを見て先を目指さないのか」
病の男は何故かそう言い残して、小刀で自らの命を絶った。私ともう一人の男は、大声で泣いた。
また、こんな夢も見た。
見知らぬ男に銃で撃たれるのだ。しかし、撃たれた瞬間、まるでゲームをリプレイするように私は生き返り、先程の男と対峙していた。
男がまた銃を撃つ。今度は撃つタイミングを見ることができた上、銃弾が映画のようにスローモーションでくるくると回りながら迫ってくるのが見えたので、避けることができた。
その夢はそこで終わったが、銃が出てくる夢は他にもあった。
その頃は、パニックアクション物のドラマを観ていたので、その影響からか、銃が夢によく出てきた。
舞台は砂浜に囲まれた森のある無人島。
何故か軍人のような服を着た忍者が大勢いた。彼らは、島から出る船に乗る為、生き残りを懸けて闘っていた。船には全員は乗れないらしい。
忍者だから、手裏剣を投げるのかと思っていたが、皆バンバン銃を撃っている。
私は戦闘に交わることなく、木陰からその様子を見ているだけだった。次々と人が撃たれて倒れていくのを見て、とても生き残れる気がしなかった。
一人の女性が、激しい戦闘の中をうまく掻い潜って船に乗り込んだが、甲板を走る所を狙撃された。女性は倒れたまま動かなくなった。
また、こんな夢も見た。
私はペンギンになっていて、他の3羽の兄弟達と共に親の後を付いて雪原を歩いていた。
そこへ長い牙を持ったジャガーのような肉食獣が現れ、私達を襲った。親子共々、散り散りに逃げた。気がつくと天敵は消え、親は遠くにいた。兄弟達は私の他に2羽しかいなかった。1羽は食べられてしまったらしい。
私は吹雪の中、叫んでいた。
他にも、こんな夢があった。
修学旅行中、旅館の一室で同級生が倒れていた。畳にコップが転がっており、毒殺されていた。発見してすぐ夢は覚めたが、現実でその子が普通に生きて話しているのを見た時は、なんだか申し訳ない気分になった。
逆夢であって欲しいと願った。
幸運なことに、これまで私の身近で誰かが亡くなることは、あまりなかった。親戚や知人の家族にはいたが、嘆き悲しむ程の衝撃はなかった。
だから、他の人より「死」に対して鈍感かもしれない。
しかし、「死」は、誰にも待ち受けている未来であり、どんなに幸運でも夢に見た銃弾のように避けることはできない。
生きていれば、必ず自分や誰かの「死」に直面しなければならない。
「死」の夢を見るのは、いずれ訪れる「死」に対する恐怖が私の心の深層にあって、夢で忠告しているからかもしれない。