第壱枝〜巻〜
第一話です。あなたは、何度も同じような夢を見ることはありますか?
夢は、見る人の精神に深く関わっており、記憶を整理したり、その時の精神状態を暗示したりするという。
だから夢占いには、精神分析の側面もあるのかもしれない。
私は、幼い頃から頻繁に竜巻に遭遇する夢を見た。
テレビで竜巻の出るパニック映画を観た時の影響だろう。
画面に写る巨大竜巻が、泣き叫ぶ人々を無慈悲に吹き飛ばしていく様が、衝撃的で恐ろしかった。映画の舞台は外国で、日本で竜巻が起こることはめったにないのだが、他人事とは思えなかった。いつ自分の身近で起こるかと考えたものだ。
そのようなトラウマになっても、私は画面から目を離すこともできなかった。
元々、ぐるぐる回るもの、巻いているものに対し恐怖と共に、奇妙な魅惑を感じていた。
波紋、渦巻き模様、とぐろを巻く蛇、正月に回すコマ、お湯を抜く時に生まれる浴槽の渦、同じ所を何度も旋回する羽虫、銀河…等々は、不思議とずっと見ていられる。銀河だけは生では観られないが。
渦や竜巻を見る時は、なんとなくゾッと背筋やお腹の辺りがざわつく恐怖があるが、それでも見たくなるのだ。
怖いもの見たさというやつだろうか。ホラー映画は苦手だが、ホラー好きの気持ちが少し分かる。
そんな非日常的な竜巻にスリルを求めたのだろうか。
私の夢の中には、竜巻がよく都会や身近な地域に現れて、街を破壊する。
いつも自宅のアパートのベランダから、遠くに竜巻が発生し、段々こちらに近づいてくるのが見えた。日によって、細い竜巻が3つある時もあった。
私は家族と共に自宅の押し入れに隠れたり、車で逃げ回ったりした。時には、現実にはありもしないが、自宅に地下シェルターがあって、暗闇の中、震えながら竜巻が過ぎ去るのを待った。
そのように夢の中では必死に逃げ惑うのだが、うまく生き延びることもあれば、そうならないこともあった。
ある時、私は家族と木の幹に捕まっていたが、竜巻の勢いに負けて私だけ吸い込まれた。
スローモーションのように感じられた。
飛ばされるというよりは、ゆっくりと浮かんで地上から寂しく離れていった。
魂だけ抜かれたように感じた。
死ぬ時って実はこんな感じなんじゃないかと思った。
次の瞬間、目が覚めた。
「おはよう…また竜巻の夢見た」
小学生から中学生くらいまでは、あまりにも頻繁に竜巻の夢を見ていたので、その時の恐怖を家族にもよく話していた。
最近は、洪水の夢を多く見るので竜巻の数は減ったが、時々見ると、
「あ、久しぶりだ」
と思う程度だ。夢であることも、なんとなく分かっている。
そして、逃げたり隠れたりしながら、竜巻をしげしげと観察している。




