終焉の始まり
「くっそ、スタミナ値そこまで減ってないのにやけに疲れたぞ。」
「お疲れ様です。コーヒーでも如何です?」
腰を下ろして溜息をついた天道を労うようにジャックがコーヒーを差し出す。
天道はジャックに軽く感謝しつつも貰ったコーヒーを一気飲みする。
「・・・・っぁあ~生き返るぅって感じがするわぁ。」
「修羅場でしたからね。むしろ良くあそこまで作りましたねぇ?」
ジャックがパーティー会場を見てそう呟く。
そこには40を越える大皿とそこに盛られていたであろう様々な料理の跡が天道の激戦を物語っていた。
むしろこれを1時間で仕込みから調理まで1人で行ったのが異常なのは料理があまり得意ではないジャックでも良く理解できた。
「まぁ所詮ゲームだしな。リアルじゃ不可能な芸当が出来て便利だぞ?
『高速加熱』や『超高温調理』とかリアルで同じ事やろうとしたら悲惨な事になるし、『熟成加速』とか『反応促進』はリアルじゃ不可能だしな。
まぁそれにステータス補正あるこの身体じゃなかったらそんな技能有っても詰むけどな。」
「あぁそれは良く分かりますね。」
「まぁAGIは低いんだが、そこはSENとSTRで誤魔化しが効くしな。
・・・走らなければ。」
「誤魔化し過ぎは良くないですよ?
これを機にAGIに関係するスキルを取得する事をオススメしますよ。」
天道はカップを置いて「たはー」と言いながら後ろに寝転がった。
そして伸びをして脱力する。
「先がなげぇなぁ・・・。むしろ生産職目指してるオッサンにそこまで求めるのは酷だと思うんだが?」
「天道さんって冗談が上手いですよね。あの戦闘力や戦闘方法みてたら凄惨職でしょうに。
・・・そういえば2つ貰った瓶のうちの紫の方は『広範囲散布型の毒』だと理解したんですが、赤い方は何だったんですか?」
「あぁラー油。」
「・・・え?」
「だからラー油だよ。確認してみりゃ良く分かるだろ。」
ジャックは残った赤い瓶を取り出して開けてみる。
途端に咽返るような刺激と臭っただけで汗を掻きそうな程の辛い臭い。
困惑するジャックに天道が説明をする。
「液体ってのはなガードし難い物体だ。完全にガードするには面に対するガードが必須になる。
そしてラー油ってのは確かに調味油でもあるが油の中でも大分危険な物でもある。
基本的にゴマ油に唐辛子粉を混ぜて作るからな。
ゴマ油は固まらない・しつこい・落ち難いって3拍子揃った油だ。
そこに乾燥させて粉にした唐辛子をこれでもかって入れるんだぜ?
リアルでもただのラー油の飛沫が目に入っただけでかなりの刺激だ。
1滴だけでも失明の危険がある程にな。」
これは天道の体験も踏まえての事だ。
中華系の店ではラー油を業務用で買う所もあるが作る所も多い。
天道の働く店も作る派だ。
ラー油を作るには、ゴマ油の温度を200℃丁度にしなければならない・・・言い換えれば200℃までの温度を肌で覚える訓練が出来るという事でもある。
その200℃にまで熱したゴマ油を寸胴の中に入れた唐辛子・・・大体は一味唐辛子に少し水を入れて混ぜた物を使う・・・に一気に注ぐように入れて素早く唐辛子を掻き混ぜる。
・・・ちなみに唐辛子粉に水を入れない場合、かなり粉が焦げ易い。
つまり刺すような苦味が感じられる物になるため入れる事を心がけるようにしなければならない。
・・・・そしてソレが罠でもあるのだ。
水を入れて練った唐辛子粉は確かに焦げ難いが、水を含んでいる為に飛沫が散り易い。
そして素早く掻き混ぜないと焦げ付くので混ぜ返す・・・この作業のせいで目に入り易いという罠なのだ。
ちなみに腕も良く火傷をする。
「・・・ってな訳でドバドバ使う奴も居るが結構危ない油だと思っとけ。辛味を出すには良いんだがな。
まぁ辛味ってのは味じゃないんだがな。」
「そうなんですか?」
「あぁ、ありゃぁ人間の脳みそが誤認してるから分かり難いが『痛み』なんだよ。
むしろ胡椒なんかのスパイスの刺激も程度が小さいが『痛み』だぞ?
ただ脳みそが痛みを受けた時発するもの・・・脳内麻薬が分泌されるから人間は『痛い』んじゃなくて『辛い』って感じるようになる。
つまり辛党だって公言してる奴は大体Mが多いって事でもある。
マラソンランナーとかの苛酷な運動をする奴等がなんで続けれるのかって言えば、辛味と同じで苛酷な肉体酷使の影響で感じる痛みを脳内麻薬が『快感』に変えちまうからだそうだ。
まぁ言い換えれば『辛いけど止められない』って状態は本能的に脳内麻薬を出そうと身体が求めてるとも言える。
・・・話が脱線したな。
まぁ簡単に言えば『刺激の塊』な訳だ。
そんなもんを目に入れられたら・・・どうなると思う?」
「・・・失明・・・ですよね?」
「正解・・・まぁゲームだから『盲目』のバッドステータスだけで済むんだがな。
・・・・間違ってもリアルではすんなよ?洒落じゃ済まされんぞ?」
「しませんよ。」
はぁっと溜息をついてジャックが天道に問いかける。
「そういえば敗者のギルドになにかします?」
「いや金を何ぼか貰えりゃそれで良いよ。死体蹴りの趣味は無ぇしな。」
アクビをしながらノンビリと告げる。
それを苦笑しながら何やら画面を操作するジャック。
「では農狂にドラゴン・ナイツの資金を全て譲渡しますね。」
「ふぁ!?」
思いがけない一言にアクビの途中だった天道が驚いてマヌケな声を上げた。
「あのですね?元々ウチのメンバーに喧嘩を売ってきたせいでこんな事になったんですが、ウチのメンバーの大半が『金はどうでも良いからぶっ潰そうぜ!』って意見で一致しちゃいまして・・・。」
「・・・あぁなるほど。
要するに『金はやるからコロコロさせろ。』って状態か。」
「正にソレですよ。
・・・てことで殺っちゃって良いですかね?」
天道は少し考えて・・・止める事を辞めた。
自分達が介入して良い問題じゃない事を理解したのだ。
「・・・せめてジワジワやるんじゃなくて一思いにやってやれよ?」
「分かってますよ。僕も少々胸糞悪いですしね。」
そういってジャックは『ドラゴン・ナイツ』の『ギルド管理画面』から『ギルドの解散』のボタンを押した。
そしてそれは世界から与えられる試練の引き金であった。
《システム・コール:現時刻を以って条件が満たされた為、特殊クエストが全プレイヤーに課せられます。》
宙に映された仮想ディスプレイに書かれた危険の文字。
《自由の共和国・セネルガム内にワールド・エネミー『終焉の尖兵:黒き派動』が出現しました。》
「空が・・・・。」
天道はそれを見た。
黒い波紋のような何かが空を覆い、そして消えていったのを。
否、消えてはいない。
天道の直感は『危険』を訴えている。
それは殺意に良く似た感覚だ。
その殺意は自分だけにではなく、周囲の物に等しく振りまかれている物だと理解できたのは隣に居るジャックが臨戦体勢を取っていたからだ。
《特殊クエスト『終焉の始まり』が開始されました。》
それがこの世界において始めての『全世界の宿敵』との戦いの始まりであった。
天道「ラー油について語らされた説明回だと思ったら軽い絶望がスパイスにされていた件。」
作者「ちなみにラー油の話は俺の体験談。ちなみに顔面に結構な量が掛かってピエロみたいな火傷もしたぞ。」
天道「目だけは無事だったけどな。あれは焦ったお前が悪い。」
作者「・・・仕事が多かったんだよぅ。」
天道「@生産の話をすると思っていた諸兄に謝れ。」
作者「正直スマンと思っているがこれが元々作ってた話なんだ。@生産にも色々な事が起きるよ!そしてねみぃ!!」




