俺のドラゴンは最強です ~擬人化美少女なんか大嫌いだ!~
俺の名前は辰巳龍助。
突然だが俺はドラゴンが好きだ。
西洋の翼をもつドラゴンも、東洋のいわゆる龍もどちらも大好きだ。
そんな俺がハマっているゲームが「ドラゴンブリーダーズ」通称「DB」。
古今東西のドラゴンを卵から育てて、最強のドラゴンにしていく育成型RPG。
俺が「DB」にハマっている理由は「DB」が時代に流されていないからというのが大きい。
最近の流行としては擬人化美少女ゲームが人気を博している。
モンスターや武将、最近では兵器まで。
どっちを向いても擬人化美少女ばっかり。
俺の大好きなドラゴンでさえ擬人化美少女にされてしまっている。
いや、別に俺は擬人化美少女が嫌いなわけじゃない。
アニメの美少女とか萌えキャラとかかわいいとも思うし。
ただ、ドラゴンだけはダメだ。
俺の中ではドラゴン>美少女となっている。
そんな俺のニーズにピッタリなのが「DB」だった。
「DB」は時代の風潮に流されず、愚直にドラゴンを描いている珍しいゲームだ。
アプリゲームと言うこともあり、予算の関係上ドラゴンを描いている絵師は何人もいる。
絵師によって絵柄はバラバラだし、巧拙もだいぶ差がある。
しかし、それでもちゃんとみんなドラゴンを研究して描いてくれている。
伝承通りに描く人や、自分の解釈を混ぜた描き方をする人、様々だ。
彼らのおかげで、全てのドラゴンが育てたいという魅力にあふれている。
しかし、その「DB」がサービス停止に追い込まれることになった。
やはり時代は擬人化美少女らしい。
俺も自分に出来る限りの課金をして支えようと思ったが、俺1人の努力なんかじゃどうにもならなかった。
サービス終了の前夜。
俺はベッドに寝転がり、スマートフォンをいじっていた。
勿論画面に映るのは愛しい俺のドラゴン達。
レベルもカンスト。
スキルも完璧。
装備も最高。
対人戦での勝率は常に9割超え。
そして何よりかっこよくて美しい。
そんな愛しくて堪らない奴らと今日で別れかと思うと自然と涙が溢れてきた。
その時だった。
スマートフォンの画面がブツッといきなり暗転した。
「え! ちょっ!」
こんな時に故障か?
そう思ったが、すぐに画面に文字が浮かび上がってくる。
しかし、それは先程まで表示していた「DB」の物ではなかった。
『あなたはドラゴンが好きですか?』
簡潔な質問文。
その下に『YES』と『NO』の選択肢が浮かび上がる。
もしかしてサービス終了前の特別イベントか?
そう思いながら迷わず『YES』を押す。
そしたらまたも質問が浮かび上がってきた。
『ではドラゴンと暮らしたいですか?』
暮らす?
よくわからない質問だったが、これも『YES』だろう。
もしかしたら次のサービスの布石かもしれない。
それに本当に――あり得ないことではあるが――ドラゴンと暮らせるのならこれほど素晴らしいことはない。
そう思いながら俺は指先で『YES』に触れる。
瞬間、俺の意識は暗闇へと消えた。
☆★☆
まず感じたのはザワッという頬を風が撫でる感触だった。
次に、背中に大地の冷たさとほのかな柔らかさを感じる。
その感触に目を開けたら、眩い光が眼球を刺した。
反射的に目を強く閉じ、今度は上体を起こし光を避け、ゆっくりと目を開いていく。
そして驚いた。
目の前に広がるのはさっきまでいた俺の部屋じゃない。
広がる草原。
聳え立つ山々。
雄大に流れる川。
照りつける太陽。
なぜだか俺は大自然の中にいた。
「え? なんで? 何ここ?」
言葉に出した瞬間だった。
『リュウの牧場』
視界の右上にそんな表示が現れ、数秒そこに留まりスッと消えた。
「は? え? これって「DB」?」
混乱した頭でも、その表示に見覚えがあることくらい察しがついた。
『リュウ』とは俺のプレイヤーネーム。
そして『リュウの牧場』とは、ここ数年ほぼ毎日見続けてきた俺の拠点。
その表示だった。
辺りを見回す。
すると、中々に大きな建物が近くにあった。
レンガ造りの家と言うよりは塔と言った方がしっくりくるほどに高さのある建物。
ここが『リュウの牧場』つまり俺のホームであるならアレは『リュウの家』なのだろう。
俺はとりあえずそこを目指すことにした。
これが夢なのかなんなのかわからないが、他にしてみることもなかったので。
ただ、夢だとしたら大分リアルな夢だ。
部屋にいた時のままの恰好であるから、裸足の足裏に石がチクチク刺さって痛い。
☆★☆
ギィと木製の扉を押し開ける。
窓から入った暖かな光が室内を明るく照らし出していた。
その室内は〝煩雑〟という言葉がよく似合っていた。
部屋の真ん中に置かれた大きなテーブルの上には様々な道具が乱雑に積み上げられている。
分厚い本、丸められた羊皮紙、盾、金槌、水晶玉、剣、試験管、ビーカー、よくわからない金属の塊。
そう言ったものが山を作る。
壁脇の本棚にはこれでもかと言うほどに本が詰め込まれているが、所々抜けている箇所がみられる。
多分机の上や床の上にある本がそこに入るのだと思うが。
ちなみに、床には本の他にローブや革のブーツと言った衣服も脱ぎ捨てられている。
そのローブを拾い、体に当ててみる。
やっぱりおれにちょうどいい大きさだった。
着替えはは何とかなりそうだと思っていたが、カランという音とともにローブから落ちたソレを見て思考が一瞬止まる。
それは笛だった。
人差し指ほどの長さの、半透明の桜色をした円筒型の笛。形的に近いものとすると犬笛だろうか。
しかし、形だけでなくその役割も犬笛と似ているのだこの笛は。
そう、俺はこの笛がなんなのか知っている。
何度も何度も「DB」の中で使ったことのある笛。
その名を『龍笛』。
自分のドラゴンを呼び出すことのできる必須アイテムだ。
俺はそれをひっつかんで家の外へと飛び出す。
ここが夢の世界でもいい。
ドラゴンと会えるのなら何だって。
そんな思いで躊躇わず龍笛を咥えて息を吹きこむ。
青い空と草原に ピィー と澄んだ音が響き渡る。
しかし、それだけだった。
「あれ、おかしいな? これ龍笛だよな?」
手に持った龍笛をマジマジと見つめる。
うん、やっぱりゲームで見たものと寸分たがわない。
再び咥えて吹いてみる。
しかしやはり ピィー と鳴るだけで一向にドラゴンがやってくる気配はない。
え~、ここまで作りこまれてるのに肝心のドラゴンはいないの?
一気に気分が盛り下がる。
これが夢だったとしても、他のもののクオリティが高かったので自然とドラゴンまで期待してしまっていた。
でも、俺の想像力ではドラゴンを作り出すことは難しかったっぽい。
「あ~あ、やっぱりドラゴンには会えないのか~」
ボヤキながら柔らかい芝生に倒れこむ。
「こんだけ再現してんだからドラゴンも再現しろっての……あれ、でもそう言えば……」
龍笛を日にかざしながら、ゲーム内での龍笛の使い方を思い出す。
複数のドラゴンを所持している場合は、龍笛を使用する時は必ずどのドラゴンを呼び出すかのセレクト画面があった。
もしかしたらドラゴンを選択していないから来ないのかもしれない。
そう思い、今一度考える。
どのドラゴンを呼び出すかを。
「うん、やっぱりあれだろ」
数秒後、決断した俺は三度龍笛を咥える。
心の中で呼びたいドラゴンの名前を思い浮かべ、息を吹きこんだ。
ピィー!
草原に甲高い笛の音が響く。
シーン
しかし、数秒待っても何も起こらなかった。
「うーん、やっぱりドラゴンを作り出すのは俺の頭じゃ難しかったか」
そう1人ごちている最中だった――
「マースータァァァァァア!」
そんな声が上空から聞こえてきた。
思わず顔を上げると、空に小さな点が。
その点はだんだんと大きくなり――
ドォォォォォォォン
遂にはそんな轟音を上げて俺の目の前に墜落した。
濛々と立ち上がる砂煙。
草原を吹き抜ける風がその煙をすぐに散らす。
煙が晴れると、クレーター――先程出来たものだ――の真ん中で1人の少女が、王に使える騎士の様な片膝立ちをしていた。
青銅色の軽鎧をその身の要所に着け、長大な剣を腰に佩いている。
その髪は艶やかな黒色の長髪だが、日の当たり方によっては緑のように見えなくもない。
顔立ちはきりっとしており、クールな感じの文句のない美少女。
そして、その頭頂部からは厳つい二本の角が生えていた。
「バハムート、マスターのお呼びに答えて参上しました」
その少女は、奇しくも俺の呼んだドラゴンと同じ名前を名乗った。
まさか想像力がないからって擬人化美少女にするとは思わなかったよ、俺の頭。
評価されれば連載しようかなと考えた小説です。