レイニー2
2
「あービショビショ」
上り坂の終着点である山岡ベーカリーの軒下。
二人はそこに避難していた。
「運動不足なんじゃない?」
「……気のせい……だ」
肩で息をしながら、祥太は答えた。
限りなく体力は黄色に近い赤だった。
一方、穂波は息切れすら起こしていない。
前者は文化部でまったり系男子、後者は運動系でガッツリ系女子。
体力の差は明らかであろう。
走り出したのは良かったが、時は遅し。結局すぶ濡れとなった。
まだ穂波は衣替えをしていなかったので、ブレザーだった。
それが残念でならない。
衣替えしたあとの状態ならば、ウハウハだっただろうなと祥太は思った。もちろんそんなこと口に出せるわけないのだが……。
まぁ水を含んだ衣服が、彼女のボディーラインを僅かながら強調しているのは言うまでもない。
突然降り出した雨のせいか、たくさんの学生達や社会人達が走っていく。
雨は止むどころか、強さを増していく。その気になれば、駅まで走れないことはないが、今すぐ走れと言われたら無理と答えるしかない。
「天気予報外れたね〜」
空を見上げる穂波。
「あー、たしか30%だったな。てか夜に降るって言ってたし」
学校に向かうギリギリの時間に見た天気予報ではそう言っていたような気がする。
天気予報は飽くまで予報であり、絶対ではない。
「もう少し待ってくれても良かったんだけどな〜」
「そうだね」
まるでバケツの水をひっくり返したかのように降り続ける雨。
「パン買ってこようかな、祥太どれにする?」
「ん?」
視線をパン屋の店内に向ける。
さっきから香ってくる甘くて香ばしいパンのいい匂い。
その香りの誘惑には勝てない。
だが、小腹が空いているが、特に食べたいパンが思いつかない。
「とりあえず……ガッツリ系サンドで頼む」
「うん、わかった。待ってて」
穂波はパン屋に入っていく。
本当な一緒に入って行きたいところだが、あいにく狭い店内に多数のお客様。ここで待ってるのが得策だ。
祥太は、店内から外へ視線を向ける。
そこでふと気づく。
あれ、こんな風景だったかと。
それもそのはず、いつも朝は学校まで遅刻ギリギリで、帰りは帰りで部活がないときはすぐ帰り、再放送のアニメやドラマを楽しむ日々。
いちいち周りなんか見ていない。
視線を少し下に向けると、古びた商店街の看板が見えた。
小さくてボロいながらも商売繁盛しているようだ。
学校帰りだろうか、傘をさしている子供は雨が降っているというのに楽しそうだ。
長靴を履いているからか、勢い良く水溜りに飛び込んでいく。
別の場所では、車が左折したかして、水溜りの水を豪快に被った子供の姿があった。
「あーアレはよくやられたな〜」
小学生だった頃、祥太もよく被ったものである。帰りはともかく、行きにやられた時は遅刻覚悟で家に帰ったものだ。
改めて見ると、普段とは違った街の風景。
ザーッと降る雨だけが支配する世界。
「こうやって立ち止まってみるのも悪くはないかな」
「お待たせ」
気づくと目の前にパン屋の紙袋を持った穂波がいた。
何やら申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「ガッツリ系売り切れてたか?」
「あ、それなら大丈夫。ちょっと待って」
ゴソゴソと紙袋からパンを取り出して、祥太に手渡す。
「サンキュー」
ガッツリ系のパイオニア、カツサンドだ。包みを剥がし、ガブっと噛み付く。
「まだ止まないね」
カレーパンをかじりながら、穂波は空を見上げた。
「そうだな」
祥太もそれに習い、空を見上げた。