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レイニー  作者: 聖魔鶏カルテペンギン
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レイニー

なんとなく雨の日は調子が悪いような気がします。皆さんそう思いませんか?

1

進路……。


それは高校卒業後に進む自分の道。


人生を左右させる運命の選択肢なのに、間違えても戻ることが許されない。


そう、誰もがぶつかるであろう最後の審判。

夢ややりたい事が見つかっているのなら、それは楽なのかもしれない。


だが、そんなのは少数の部類だ。


大半の連中は何がしたいのかすら決まっていない。


こんな重要なことをすぐ決めろだなんて無茶振りにも程があるというものだ。


提出期限が近づいてるであろう進路調査の紙を眺めながら、長谷川祥太は柄にもなく考えていた。


まだ日はあるんだと思いながら後回しにしていた結果がこれだ。


面倒なことは、ついつい後に後に伸ばしてしまう。


悪い癖だなと分かってはいるのだが、これがなかなか直らない。


まぁ進路か就職か、そんな大事な事を短期間で決めてしまえってのが、まず無理ってもんだろうと内心開き直ったりしている。


将来や夢なんて、不透明で曖昧過ぎる。

まぁ、まだ3日も残っている。


いや、もう3日しか残ってないと思うべきか。


そこはポジティブシンキングな考え方でいっておきたい。


目先の現実から目を背けるために、進路調査の紙を乱暴にポケットにねじ込み、下校する生徒らと共に校門をくぐる。


本当に何をしたいかすら、頭に浮かばない。

特にこれといって運動や勉強ができるわけでもないし、かといって手先が器用なわけでもない。


ましてや特殊なスキルや資格もない。


とりあえず何か書いて出すしかないと記入して提出した進路調査に担任は「人生舐めてんのかッ!」と激怒した。


別に舐めてるわけではない。とりあえず何か3つ書いて提出しろという担任の指示に従ったまでのこと。





ちなみに


1.玉の輿


2.金持ち


3.


と記入して提出している。





担任の怒りたい気持ちはごもっとだ。


さすがに未記入はまずかったと思う。

せめて3番目に自宅警備員と記入しておくべきだったのかもしれない。


未記入はまずかった。


提出当時は3つ目が思いつかなかったのだ。


考え過ぎて、頭が痛くなった。


帰ったらバファリン飲んで休みたいところだ。


せめてバファリンの成分の半分である優しさが、進むべき将来や希望への道標を明るく照らしてくれると有難いのだが、そこまではバファリンも責任は持ってくれそうにない。


小さな粒にそこまでの技量を求めるのは何か違う気がする。


何はともあれ、書き直すしかない。


とりあえず嘘でもいいから、それらしいことを考えなくてはならない。


だが、その前に現実逃避したくなる課題が祥太の前に立ちはだかる。


この上り坂だ。


これがまた長くて嫌になる。


行きはヨイヨイ帰りは地獄と、昔の人は上手い言葉を作ったものだと痛感させられる。


「なんでこんな場所に学校なんぞ作ったのかね~」


こんなことなら中学の時に勉学に励んでおくべきだったと思う。


中学時代のギリギリの成績では、残念ながらこの高校に入学するだけで精一杯だった。


これも後で勉強すればいいやと後回しにしてきたツケでもある。


上り坂半分過ぎたところで、背後から祥太を呼ぶ声が聞こえた。


その直後、ズボンのポケットに突っ込んでいた左腕をガッと掴まれる。


「歩くの速いし、待ってと言ったじゃんか」


祥太の腕を組んだ形で覗き込むような体制になっているのは、ひとえこの少女こと水嶋穂波の身長がかなり低いからだ。


祥太と穂波、身長差はたぶん30はある。


「……腕を離してくれ」


「ん? 照れてるの?」


「照れては……ない」


微妙に腕に体重がかかっている。


ようは重たいので離して欲しいだけだ。


こういうスキンシップは嫌いではない。

むしろ歓迎したい。

大歓迎だ。


ただ場所を選んで欲しいだけだ。


「まーた、何か考えながら歩いてたでしょ? 今日は部活休みだから途中まで帰ろうって言ったじゃんか」


「顧問が呼んでるから、先に歩いててと言ったじゃん」


「……の割には、ものすごく歩くペース速くないですかね~」


少し怒ったような顔をして、穂波は祥太を睨むも、すぐニカっと笑う。


「で、腕離してくれない?」


「あいよ、ところで担任に言われたんだけど進路どうするの?」


それが思いつかないから、困っている。

遠い目をしようと思っていたが、穂波の手により阻止される。


「まだ決まってないの? 再提出までもう3日しかないじゃん」


「いや、まだ3日もある」


「そうやって後回しにするのは、悪い癖だよ」

それは祥太自身よく理解している。


「じゃあ、お前は決まっているのか?」


「もちろん」


穂波は腰に両手を当てて、そう答えた。

そういう仕草をすると、微妙な胸元が強調されて見えた。


気のせいかもしれないが……。


「はぁ、羨ましいこって」


「なんなら、私がいくつか案を出してあげようか?」


「ええよ」


せっかくの提案だが、たぶんどれも合わないような気がする。


「そうだね~。これから高齢者が増えるから、介護とか福祉関連はどうかな?」


「……あのさ、【ええよ】と言ったはずだが?」


「賛成のほうでしょ?」


「いや……遠慮のほうなんだけど?」


「あー賛成の反対なのだ~か」


どこぞの腹巻おじさんが言いそうな台詞を呟き、一人で勝手に頷く穂波。


「しかし、親切はありがたく受け取っておくべきだと思うんだけどな~長谷川君?」


「ところが、ありがた迷惑という言葉もあると思うけどな~水嶋さん?」


そして同時にクスっと笑い合う二人。


片方が苗字で呼んだら、苗字で呼び返す。いつものやり取りだ。


しばらく坂道を歩いて行くと、穂波が声を上げて立ち止まる。


「どうした?」


何か忘れ物でもしたのかと、祥太は穂波に顔を向けた。


だが、それもすぐ理解できた。


一粒の雨が降ってきた。


それはどんどん時間を置かずに。


あっという間にアスファルトを濡らしていった。


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