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第8章 太平洋艦隊壊滅

第8章 太平洋艦隊壊滅


1.



 米国の統合参謀本部では、次に日本側が狙うのは西海岸という予測を立てていた。 

しかし、ドイツの勢力が大きくなっていたので、やはり主戦場はヨーロッパ・大西洋

というルーズベルトの強い要望もあり、結局 太平洋には3隻の空母と数隻の駆逐艦を

派遣するにとどまった。


 大西洋から廻って着たのはオーブレ・フィッチ少将率いる第16任務部隊であった。 

また、空母不足を補うため訓練中であったホーネットも引っぱり出された。

 キンメルに変わり太平洋艦隊司令官についたのはニミッツ大将であった。 

ニミッツは絶大な信頼を寄せている第17任務部隊のフランク・J・フレッチャー少将に

2つの部隊の指揮をまかせた。

 この時点でハルゼーはサンディエゴに送還させられたばかりで、ニミッツに太平洋艦隊

の指揮を任せてもらうように直訴できなかった。


 フレッチャーは艦隊を引き連れて19日にサンディエゴ港を出航した。


 率いる艦艇は、


空母 サラトガ,ヨークタウン,ホーネット

重巡 タスカルーサ

軽巡 コンコード,トレントン,ナッシュビル

駆逐艦13


 太平洋艦隊と言うにはお寒いかぎりであったが、大西洋から戦力を割けない以上

しかたがなかった。 フレッチャーは太平洋艦隊が戦力不足,経験不足,訓練不足という

状態を認知しており、敵情報の不足も判っていた。


 「諸君。 我々は戦力も経験も少ないので敵艦隊を全滅させることは出来ないで

あろう。

 しかし、敵空母に攻撃を集中すれば敵も引き返さざるを得なくなるだろう。 

時間が稼げれば我々の勝利である。 従って、先に敵を発見した場合には全力で攻撃し、

反対に、先に敵に見つかれば全力で防御する。 この戦法で敵機動部隊を攻撃する。」


 と訓示を垂れた。 



2.



 一方、麻生は探査衛星から敵機動部隊が空母を分散して向かってきているのが判って

いたので、海軍省の山本GF長官、大和艦橋の小沢中将と同時通信で打ち合わせを

していた。


 「やはり、ここは一気に敵を蹴散らせてカリフォルニアに向かうべきでしょう。

航空隊員も零戦の威力を試したがってうずうずしています。」


 この小沢の提案に山本は暫く考えていた。


 「・・・麻生君。 敵空母は3隻だったな。」


 「ええ、サラトガ,ヨークタウン,ホーネットです。 いずれも70機以上の航空機を

搭載できる空母です。」


 「他の船はいらないから、その3隻を齒獲できないかね?」


 「出来ないことは無いですがこれ以上齒獲してどうするんです?」


 「ハワイとロサンジェルスの間に空母を配置して航空機の移動の中継に使いたい。」


 「でもその為に中型空母を作ったのではないですか?」


 「1ヶ所に空母を釘付けにするんだ。 敵潜水艦に狙ってくれと言っているような

もんだよ。

万一の場合の補充に使いたい。 空母が多くて困ることはないからね。」


 「そうすると、作戦を工夫する必要がありますね。 少なくとも敵はこちらよりも

戦力的に劣っていますから、防御には全力を出すでしょうし、敵機は空母を集中的に

狙うでしょう。」


 「すると囮になる空母がいるという訳か。 しかし万一空母がやられたら

カリフォルニア占領作戦は失敗したも同然だぞ。」


 「こちらは探査衛星で敵の位置を掴んでいます。 艦隊を敵機のアウトレンジで

待機させ、戦艦を先行させましょう。 先行させる戦艦は足の速い大和と武蔵だけで

あとは阿蘇型重巡4隻にします。

 空母を齒獲するには、敵の戦意を挫く必要があります。 航空機を殲滅して航空機では

太刀打ちできないことを叩き込みましょう。」


 「ハワイでエンタープライズを齒獲した戦法は取れないのかね?」


 「無論、伊400型潜水艦による空母の足止めは行います。」


 「よし、それでいこう。」


 「やれやれ、航空機要員たちは文句を言うがなんとか説き伏せるか。」


 小沢がため息をついた。


 「しかし、麻生君。 これからは航空機が主戦になるんだろう? 

なぜ戦艦で立ち向かうのかね?」


 「敵に、艦隊は制空権を取った者が勝つと言うことを隠す為です。 今、敵に航空機と

空母を量産されるのは米国本土に上陸してから極めてまずくなるのです。 

もうしばらく、そうですね、来年の3月位まで航空機による艦隊の攻撃は控えて下さい。

それに大和,武蔵,阿蘇型重巡であれば航空攻撃にも耐えられますからね。」


 「確かに、上陸してから大量の航空機で制空権を奪い返されるとやっかいなことに

なるな。 

それに中継点の空母にも危険がおよぶことになる。 わかった、君の言うとうりに

しよう。」



3.



 フレッチャー艦隊まで後400海里に来たとき、大和,武蔵,阿蘇型重巡を含めた

6隻は48ノットに速度を上げ、第一艦隊を残しフレッチャー艦隊に急行した。 

その頃、伊400型潜水艦3隻も行動を開始した。


 フレッチャーはSBDドーントレス 12機を索敵に飛ばし、日本艦隊の空母を探していた。 

だが、発見したのは140海里先をこちらに向かってくる戦艦クラスの6隻だけで

あった。

 フレッチャーは航空機の消耗を避けるべく、回頭を命じたが回頭せず、船の速度が段々

落ちていきとうとう停止してしまった。 伊400潜がスクリューと舵を破壊したので

あった。

 立ち往生したのは空母だけであった。


 「こうなってはしかたがない。 目の前の戦艦を先に叩いてからサンディエゴに

帰投しよう。

まだ敵の哨戒機には見つかっていないので全航空機をもって敵戦艦を要撃する。」


 フレッチャーの攻撃命令で、サラトガからは

 戦闘機F4Fワイルドキャット 21機

 爆撃機SBDドーントレス   31機

 雷撃機TBDデバステーター  12機


ヨークタウンからは

 戦闘機F4Fワイルドキャット 21機

 爆撃機SBDドーントレス   43機

 雷撃機TDBデバステーター  14機


ホーネットからは

 戦闘機F4Fワイルドキャット 21機

 爆撃機SBDドーントレス   39機

 雷撃機TBDデバステーター   8機

    TBFアベンジャー    7機

が射出機から発進した。



 大和の艦橋では小沢中将が双眼鏡で窓の外をにらんでいた。 

全艦対空戦準備が整っていた。


ガガガーン、ガガガーン、ガガガーン、ガガガーン、ガガガーン、ガガガーン

 敵機が距離2万メートルに迫ったとき、大和,武蔵から46センチ砲弾 各9発が

凄まじい轟音と共に発射された。 主砲射撃後、あたりは煙で見えなくなった。

合計219機の敵機の中で18発の零式対空弾が炸裂し、炎の壁ができた。  


 だが、レーダーには残存する敵機が移っていた。 大和の電算機は直ちに自発装填に

掛かり、3秒以内にはすでに装填が終わり照準が固定されていた。 

敵機は分散していたが、大和,武蔵の電算機は互いに通信を取りながら効果的な照準を

定めていた。


ガガガーン、ガガガーン、ガガガーン、ガガガーン、ガガガーン、ガガガーン

 第二射が砲撃され、空中に大きな火球がいくつも広がった。 この2回の零式対空弾の

攻撃で敵機は半分になっていた。 そこへ敵機を迎撃すべく87ノットの全速力で

先行した阿蘇以下の4隻の重巡の主砲射程に入り、阿蘇型重巡からの零式対空弾の

一斉砲撃が始まった。 


 この零式対空弾一斉砲撃は大和,武蔵も加わって90発の零式対空弾による巨大な炎の

壁ができた。 

この炎の壁をかいくぐれた敵機は戦闘機2,爆撃機9,雷撃機3であった。


 「この程度なら大和だけでも撃破できるな。 よし、対空ロケット弾発射。」


 小沢中将は電算機に命令した。 たちどころに電算機が標的の計算を終了した。


 「敵航空機26機の照準固定完了。 対空ロケット弾発射します。」


 艦首に10門ある対空ロケット弾発射口から次々とロケット弾が発射された。 

敵機は突然飛んできたロケット弾を回避する為にバンクをしたが、ロケット弾は誘導式で

あるため吸い込まれる様に敵機に命中していった。 

数分後には東太平洋の青い空には1機の航空機もいなかった。


 「主砲が機関銃の様に砲撃できるというのは凄まじいですね。」


 と興奮気味に艦長の高柳儀八大佐が小沢と話していた。 

通常、砲身内には砲弾を回転させるための溝が切ってあり、ある回数射撃をすると

この溝が少なくなり命中精度が落ちるのであった。 

命中精度の落ちた砲身は取り替えるしかなかった。 だから砲術長や各砲塔の要員は何回

射撃したかを記録しているのである。 

史実の大和は1つの砲身で約200発の砲撃が限界であった。 だが、新型大和級戦艦は

砲身にもヒヒイロ合金を使用しているので寿命が5000発となり、機関銃の様に

砲撃できるのであった。



4.



 フレッチャーは航空機部隊全滅の報告を受けて愕然とした。 だが、フレッチャーに

愕然としている時間がなかった。 突然、重巡タスカルーサから爆発音が響き、1本の

巨大な水柱が立ち上がり、大きな重巡が跳ね上がった。

 水柱は艦橋の数倍の高さに達していた。 

重巡タスカルーサは艦体が真っ二つに折れあっという間に轟沈した。

 さらに5分後、軽巡コンコードが、そのまた5分後に軽巡トレントンにも水柱が

上がった。

この頃には駆逐艦が辺り構わず爆雷を投下していたが、それをあざ笑うかの様に、

5分間隔で軽巡,駆逐艦にも次々と水柱が上がっていき、轟沈していった。 

残ったのは空母3隻と駆逐艦3隻であった。


 残った駆逐艦は狂ったように爆雷を投下したが、伊400型潜は最高水中速度

78ノットである。

駆逐艦が必死で探している時にはすでにはるか彼方に退避していた。 もっとも、装甲も

阿蘇と同じ46センチ装甲3重構造なので爆雷にはビクともしないのだが、米国の

通商破壊作戦のためパナマ方面に急行したのだった。


やがて水平線上に大和以下6隻が姿を現した。 

果敢にも3隻の駆逐艦は大和に挑んでいった。


 「相手の戦意を低下させる為にワザと攻撃させるだと?」


 麻生の言葉に小沢は仰天した。


 「はい、万一敵の攻撃が命中しても大和も武蔵も耐46センチ砲弾装甲を全艦に2重に

施していますので、駆逐艦の魚雷程度ではビクともしません。」


 一抹の不安を覚えながらも小沢は麻生の提案を受け入れた。

 だが小沢の不安は外れ、自動防御システムの実力に舌を巻くことになる。


 敵駆逐艦から発射された4本の魚雷は2本が命中コースを取っていた。

ボーン,ボーン

 大和側舷から爆雷らしき物が2つ投下された。 海面下3メートルの所で爆雷が子弾に

分裂した。 魚雷が接近すると近接信管が働いてそこらじゅう海面が泡立った。

 魚雷は猛烈な爆圧にもまれ信管が誤作動し爆発した。


 フレッチャーは味方の駆逐艦の放った魚雷が途中で自爆した様に見えた。 

その後も次々に魚雷が自爆した様に見え、一発の命中弾もなかった。

 特に2隻の大戦艦には8本もの魚雷が命中寸前で自爆し、我が目を疑った。 

魚雷を撃ち尽くした駆逐艦は5インチ砲で攻撃をしているが、砲弾は13ミリ対空機銃の

弾幕で空中爆発した。 

が、数発は命中した。 だが、大和の分厚い装甲ではじき返された。


 「フレッチャー提督、敵将からの無線電話です。」


 「敵将から? よし、出よう。」


 相手はキングスイングリッシュを使いこなしていた。


 「フレッチャー提督、私は日本海軍第一艦隊司令長官の小沢です。 失礼ながら戦況は

あなた方にとって最悪です。 これ以上の戦闘は無益です。 

私はこれ以上の戦死傷者を出したくありませんので降伏を勧告します。」


 「確かに、我が方は航空機を失った上に、動けないし武器も通用しない。 

選択の余地はないな。 私もこれ以上の犠牲は出したくない。 

勧告に応じ降伏しよう。」


 武装解除の後、弾薬は全て駆逐艦に乗せられ、駆逐艦乗組員は空母に乗り移った。 

やがて第一艦隊の他の船がやってきて、敵駆逐艦を操縦する要員をのせ、敵駆逐艦は

日章旗をはためかせ、敵空母をホノルルに曳航していった。 

数日後、捕虜を満載した輸送船がサンディエゴに向けて出航した。 

日本軍のこうした齒獲戦術と人道主義は有名になるのであった。



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