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第7章 真珠湾奇襲

第7章 真珠湾奇襲


1.



 8月1日にルーズベルトは対日石油輸出禁止、実施。 

連合国諸国に日本への経済制裁を行うよう要請した。


 東部戦線は、三方向からソ連に進入した。 ドイツ軍は瞬く間にモスクワ近郊に達し、

スターリンはモスクワ脱出を計り再起を期す事を決めざるを得ない状況になっていた。



 9月になる前にスターリンの脱出したモスクワにドイツ軍が雪崩れ込んだ。 

スターリンはウラル以東に主要機関を疎開させており、徹底抗戦の構えを見せていた。 

ドイツ軍はスターリンを追って更に東進していった。



 10月18日に東条英機内閣が誕生した。


 東条は麻生との打ち合わせにより、情報省を設置した。 諸外国の情報収集能力は

格段に上がっていた。 また、海軍と陸軍の連携作戦が支障無く行われるように、米内は

海相と軍令部総長を兼任することとなった。 また、東条は陸相を兼任した。


 この日、麻生は山本のはからいで連合艦隊の各司令官と対面し、ハワイ方面及び南方

方面の戦略について打ち合わせた。 麻生の指揮する阿蘇型重巡8隻と伊400型潜水艦

8隻は第十三独立遊撃艦隊と名付けられ、軍令部,連合艦隊とは独立した指揮権のもとに

行動する艦隊として発表された。


 この第十三独立遊撃艦隊を指揮する麻生は民間人の籍のままであった。 

これは、米内が総理の時に立案された傭兵部隊雇用法によるものであった。 

したがって、軍令部,連合艦隊は作戦協力依頼を第十三独立遊撃艦隊に提示し、その

作戦を実行するかしないかは麻生の判断に任されるのであったし、独自に作戦を立案して

実行する権限もあった。


 阿蘇型重巡の対空,対潜防御能力を知っている連合艦隊司令長官の山本としては、

この第十三独立遊撃艦隊を連合艦隊の防空役として使うつもりであったし、麻生も

そのつもりであった。

したがって、連合艦隊の各司令長官を麻生に紹介したときに、この様に述べている。


 「この第十三独立遊撃艦隊は連合艦隊のどの艦艇よりも防空能力が勝っている。 

したがって、航空機との戦闘の場合は必ず麻生君に相談する様に。 また、麻生君は我が

軍の航空機及び艦艇の改造を一手に行っており、その性能を十分熟知している上、

敵艦艇の情報にも通じておるので、戦闘の前には彼の意見を尊重する様に心がけて

くれたまえ。」


 集まった各将校達は胡散臭そうな目で麻生を見ていたが、真珠湾攻撃後、麻生を

見る目は一変するのであった。


 この日、麻生は山本と真珠湾攻撃の作戦を細部まで確認していた。


 「甲標的艦は中止して下さい。」


 「なぜだね? 成功の可能性が10%でもあればやってみる価値はあると

思うのだが?」


 海軍にとってハワイ攻略は乾坤一擲の大博打という認識が強く、成功の可能性が

少しでもあればやってみようじゃないかという風潮があった。


 「史実では駆逐艦ワードに発見されて全艦攻撃に失敗しています。 

幸か不幸か、キンメルはワードからの連絡を無視したようですが、今回も同じように

見逃してくれるとは限りません。 それに、真珠湾に終結している敵艦隊は全部齒獲する

つもりですから、沈めてもらっては困るのです。」


 「そうか、わかったよ。 甲標的艦は中止しよう。」


 甲標的艦とは、洋上での艦隊決戦用の小型の潜水艦「甲標的」で真珠湾に停泊している

敵船に特殊潜行艇で雷撃を加えることである。 

「甲標的」の乗員は2名で艦首に魚雷を2本持っている。

「甲標的」の搭乗員が真珠湾攻撃の際、自分たちも出撃したいと嘆願し、5隻が作戦に

投入されたのであるが9名が死亡、1名が捕虜になってしまうのである。

 真珠湾を飛行機が攻撃するのに呼応し,湾内に進入,敵艦に攻撃をしかけるといっても

真珠湾の水深は12mしかない。 いくら小型の潜水艦でも見つけて下さいと言って

いるのも同じであった。



この頃モスクワのドイツ軍は冬に備える為、補給線の強化などの準備を始めていた。


 東条の指示により大島 浩 駐独大使はロケット研究チームと会っていた。


 「戦艦大和には誘導式のロケット兵器が搭載されています。 

そのロケットは800kg炸薬か10個の子弾を弾頭に持つことが可能で、子弾も

それぞれ誘導ができます。

 誘導は大和で行われ、その命中精度はかなり高いものになっています。 どうですか、

日本でロケットの研究をなされては。」


 この呼びかけに早速フォン・ブラウン博士,テッヘル博士は研究のために日本へ

赴くことを要請、ヒトラーは渋ったがV1号の命中精度向上、V2号の完成度向上、

V3号の早期完成の為に承認し、ロケット部門チームは12月中に日本にやって

くるのであった。


 V1は「空飛ぶ魚雷」とも言われ、900kg爆弾に主翼とパルスジェットを取り

付けたもので、速度も遅かったが、英国に与えた恐怖は大きかった。

英国はV1の対策に航空機で主翼を引っかけてバランスを崩して墜落させたり、大きな

網を山などに張って防衛していた。

英国にとって幸運なのは、V1の命中率の悪さや完成度の低さであった。 300発も

発射された時でも、英仏海峡を越えたのは144発であり、ロンドンに落ちたのは73発

なのであった。

また、長い発射ランチャーは航空機に発見され安いため、発見されるとすぐに英空軍が

爆撃に飛んでくるのである。

 V2はA4と呼ばれていたロケット兵器を改名したものである。 成層圏を飛行し、

高高度から音速で落ちてくるロケット兵器を阻止できる方法は当時、存在しなかった。


 11月5日の第七回御前会議・帝国国策遂行要綱において満州,朝鮮を独立させ、

永世中立国家とすることが決定。 関東軍は徐々に撤収し満州の治安が安定すれば警察も

引き上げるとした。 


 11月26日に小沢 治三郎中将が指揮する機動部隊が単冠湾を出た。

艦隊指揮官も作戦にもっとも適した司令官を麻生が選び、他の参謀などの人選を山本,

米内が煮詰めて決定したので、史実と異なる人事となっており、南雲中将が機動部隊を

指揮してはいなかった。


 陣容は次のとうりである。


第一艦隊 

 指揮官:小沢 治三郎中将 旗艦:大和

 戦艦 大和,武蔵,金剛,比叡,霧島,棒名

 空母 信濃(130),赤城(109),加賀(109),翔鶴(83),

    瑞鶴(83),飛龍(88),蒼龍(109),大鳳(76),雲龍(78)

    (搭載機数)

 重巡 愛宕、高尾、鳥海、摩耶、利根、筑摩

 軽巡 阿武隈、鬼怒、由良、名取、五十鈴、長良

 駆逐艦 21隻

 その他 14隻


 この第一艦隊は米国占領作戦のため特別に編成されたものであった。 尚、搭載機数は

史実よりも増えている。 

これは翼を大きく折り畳める為に搭載機数が増えたのと、空母の改装時に格納庫を広く

したからであった。 

戦艦以外の各艦艇も最新鋭のガスタービンに取り替えられていて、艦隊行動での全速力は

35ノットと名実共に高速機動艦隊となっていた。

 

 同日、麻生は東条と山本に開戦壁頭で占領または爆撃を行う南方方面の基地の一覧を

渡し、準備を始めさせた。 また、阿蘇,六甲,朝日,黒部の重巡と海虎,海狼,海狸,

海狗の潜水艦はハワイ方面へ、日高,御獄,雲仙,箱根の重巡と新たに改装した

伊404潜の海蛇号,伊405潜の海馬号,伊406潜の海兎号,伊407潜の海亥号は

南方方面へ向かった。


 27日にハル国務長官、駐米 野村大使にハル・ノート手交。


 12月1日 第八回御前会議・対米英蘭開戦を決定。 この御前会議で開戦を決定した

直後、東条は


 「国力が米国の1/10に満たない我が帝国が米国と開戦する以上、敗北する可能性が

極めて高うございます。 もし、敗北すれば統帥権を持っておられる陛下が戦争犯罪人

として処刑されるは火を見るよりも明らかであります。

 よって、今時大戦に限って統帥権を一時的に首相に委任すれば、仮に敗戦の憂き目に

会ったとしても戦争犯罪人の汚名を着て処刑されるのは私であり、陛下は後安泰です。

 伏してお願い致します。 私めが全ての汚名を被る覚悟で御座います。 

どうか一時的に統帥権をお譲りいただきます様お願い申しあげます。」


 と懇願し、統帥権の一時的な移譲を賜った。 

異例のことであったが、これは予め東条が根回しをしておいたのである。


 東条は統帥権の一時的な移譲を賜ると、参謀本部総長に就任し、直ちに関東軍の撤退を

命令した。

 関東軍は狼狽した。 逆らえば反逆罪である。 東条から南方方面へ進出するための

大陸撤退と再度説明されて準備のため全軍が中国・満州からゆっくりと引き上げ始めた。


 そして即刻、陸海軍の首脳陣のみならず中堅将校に至るまで集めて訓示した。


 「1つ、陸海軍共に面子を捨てよ! 面子にこだわっていては勝てる戦も勝てはせん。

 2つ、兵器よりも将兵を大事にせよ! 兵器は直ぐに製造できるが技量をもつ人間の

補充は数年を要する。 人材無くしては戦争はできん。

 米英では、捕虜となることは後方を撹乱するという目的を遂行するものとして評価

されておる。 特に脱走を企てることが奨励されておる。 これは、脱走すれば、脱走

した兵士を取り締まるだけ敵は兵力を割かねばならないからだ。

したがって、我が軍も捕虜になったときは階級と姓名以外は喋らない様に末端の兵士まで

徹底させよ。

 3つ、軍人は常識人たれ! 強大な米国との戦争を終結させるためには米国民を味方に

つける以外方法がない。 今までのような将兵のイジメや住民への虐待は絶対に許さん。

 以上のことを肝に銘じ、この未曾有の国難に対峙してもらいたい。」


 この日、麻生は地下工場の司令室に戻って米太平洋艦隊、豪艦隊、英東洋艦隊及び

ハワイ、フィリピン、シンガポール等の基地の情報を探査衛星で分析を開始し始めた。 

ハワイ方面に向かった重巡,潜水艦の8隻と南方方面に向かった重巡,潜水艦の8隻に

対して、この司令室から命令を出すつもりであった。

 この司令室からであれば行動中の艦艇に指示を出せるし、東条,米内,山本,各国に

派遣したアンドロイドにも連絡が取れるのであった。


 4日には震電の帝都防空部隊が配備できた。 また、ジェットエンジンの開発に

目処がつき、震電改の試作機が作成され始めた。


 7日夕刻、野村駐米大使がハル国務長官に交渉打ち切りと宣戦布告を通達。

 同時刻、来栖駐米大使が記者会見の場でハル・ノートの内容と声明文を発表していた。


 「米国は10日前にハル国務長官より渡されたハル・ノートの骨子は次のとうりであり

ます。

1.中国および仏印からの日本の陸海空軍兵力と警察力の全面撤収。

2.三国同盟の破棄。

3.中国における蒋介石政権以外の一切の政権の否認。

であります。

 経済制裁を受けている我が帝国に対して、このハル・ノートの要求は受け入れがたい

ものであり、この内容は明らかに我が帝国に対する最後通告であると判断せざるを

得ません。

 よって我が帝国のおかれた立場から取りうる方法は米英蘭に対し宣戦布告をする以外

ないという結論に達しました。

 この様な理不尽な行為は、白人民族による非白人民族の支配が目的としか考えられ

ません。

 我が帝国は白人による非白人民族の長きに渡る圧政を解放するため、白人支配の海外

植民地を解放し、民族自決政権を確立させる為に我が民族の命をなげうって決起する

ものです。

 我が帝国は日本時間の8日午前0時に開戦します。」


 集まった記者たちは開戦まで後数十分と言うことに驚愕した。


 来栖駐米大使の隣に座っていたもう一人の武官も口を開いた。 武官は麻生が作らせた

演技派のアンドロイドであった。


 「このハル・ノートを受諾した場合、日本国民の約半数の住民が餓死すると

予想される。 

わが国にその様な理不尽な要求を押しつけ、経済制裁を続ける米英蘭は我が国と戦争を

したがっているとしか思えない。 戦争を仕掛けてきたのは米国だ。 我々はどの様な

手段を用いても戦い抜く!」


 来栖駐米大使も沈痛な声で


 「私は米国の理性を信じたい・・・。 米国がマフィアではないことを信じたい。」


 と呟いて部屋を去った。


 この様な記者会見劇が米大陸各国のみならず世界中の国で同時に行われた。

 衝撃が世界中を走った。 だが、日本ではこの発表をしなかった。


 ドイツでは駐独大使の大島が米英蘭に対し宣戦布告を行ったので、ドイツもこの3国に

対し軍事同盟に基づき宣戦布告をして欲しいとリペントロップ外相に要請した。

 ヒトラーにとって、もはやソ連はやっかいな敵ではなくなっており、今や邪魔者は

米英になっていたので要請を承諾した。



2.



 開戦予告の日本時間午前0時はハワイでは午前4時30分である。


 午前4時20分に国防総省からの緊急連絡でキンメルは起こされた。

 日本が宣戦布告をしてきたので、かねてから計画していたレインボー5号作戦を

開始せよという連絡だった。 

キンメルが家から出ようとした途端、日本機の攻撃を目当たりにした。


 4時30分、真珠湾に停泊中の大小の軍艦の頭上に細長い何かが飛来してきた。 

長い火を噴きながら猛スピードで飛んできたそれは空中で分解し10個の小さな細長い

子弾に分裂した。

 その10個の細長い物はどれも戦艦ミズーリの対空機銃、高角砲、副砲に命中し爆発

した。

それが合図の様に次々と長い火を噴きながら猛スピードで飛んで来て、空中で10個の

子弾に分解し、子弾が停泊中の軍艦に襲いかかった。

 真珠湾は火の海となり、米艦隊の全ての船舶は煙を出してした。


 同時刻、ホイラー、エヴァ、ヒッカム等の航空基地も攻撃を受けていた。


 サボタージュを避けるため、航空機は滑走路に並べてられていた。 そこに零戦の

機銃を受け航空機は全機破壊された。

 九七式艦攻は全機 爆弾を搭載しており、水平爆撃で兵舎を攻撃し未だ寝ている米兵の

多数が戦死した。 九九式艦爆は防御施設に襲いかかり、対空陣地は尽く破壊された。


 真珠湾攻撃隊の西沢大尉は4時32分に真珠湾上空にさしかかった時に西から先の

尖った煙突のような物が十数本ほど、長い火を噴きながら猛スピードで飛来するのを

発見し、それが敵艦の上空から急降下で落下し、途中で分裂し子弾が敵艦に全弾命中

するのを見た。


 「どうやら大和からの攻撃らしい。 それで5時まで待機しろという命令だった

のか。」


 と納得した。

 4時40分には飛来してくる物がなくなっていた。 西沢は分隊長の命令で真珠湾の

砲台に向けて爆撃体制をとった。 

命令では「船舶,燃料基地への攻撃は禁ずる。 陸上の防御施設を狙え。」であった。 


 第一波攻撃隊によりハワイの航空勢力は壊滅した。


 大和艦橋の小沢 治三郎中将は誘導ロケット弾が全弾敵艦に命中したという報告を

受け、今更ながら大和に搭載されている電算機の性能に舌を巻いたのであった。


 「攻撃開始の指令からは全て探査衛星とやらの情報と電算機の計算だけで終わって

しまった。 誘導ロケット弾も自動で発射されてしまっては射撃指令要員の仕事が

無いな。」


 と呆れて高柳 儀八艦長と話をしていた。


 誘導ロケット弾を撃ち尽くすと小沢中将は突入部隊に突入命令を発し、自らも大和を

かって真珠湾に急行した。

 突入部隊の乗った輸送船は、駆逐艦並の35ノットを誇る高速艦である。 

この突入部隊と大和が3時間後、真珠湾に雪崩れ込む作戦であった。

 この様子をみて、麻生は大和艦橋の小沢を呼び出した。


 「提督、湾内で大破している敵艦はできれば齒獲したいので攻撃は控えて下さい。」


 「齒獲? なるほど、山本長官が航空機は艦艇を狙うなと言っておられた意味が

わかったよ。 だが、大破した船など齒獲しても意味があるまい。」


 「いえ、探査衛星からの映像を分析すると破壊されたのは対空兵器のみです。 

火薬庫にも引火していませんので、後で我々の優秀な対空兵器を搭載するだけで

すみます。 仮に、機関が損傷していても貴重な屑鉄になります。」


 「判った。 齒獲するので撃つなと言っておこう。」



 第一波攻撃隊243機に続き1時間後に第二波攻撃隊221機が襲いかかった。

 これは第一波で撃ち漏らした宿舎、対空陣地、防御施設への攻撃だった。 

第二波には幾ばくかの反撃が有ったが既に戦いの帰趨はついていた。 戦果と戦況は

東京の山本、ラムウ国地下工場の麻生にも逐次知らされていた。

 さらに突入部隊の上空支援の為の第3波攻撃隊233機が発進した。


 同時刻、阿蘇型重巡の阿蘇,六甲,朝日,黒部は2手に分かれてミッドウェイ方向と

ウェーキ方向に全速力で向かっていた。


 「小沢提督、これから作戦行動中の船を齒獲しに行きます。 敵空母のことは

任せて下さい。」


 「しかし、エンタープライズとレキシントンにそれぞれ潜水艦2と重巡2を

向かわせるだけで齒獲できるのか? 敵空母の航空機からの攻撃に耐えられないのでは

ないのか?」


 「大丈夫です。 潜水艦も重巡も40センチ砲弾が当たってもビクともしませんから。

齒獲した敵船を曳航する駆逐艦を貸して下さい。 こちらは足が速いですので、駆逐艦が

追いつく頃には齒獲出来ているでしょう。」


 探査衛星からハルゼー提督率いる第8任務艦隊と第12任務艦隊の位置は判明して

いた。

第8任務艦隊は200海里、第12任務艦隊は600海里隔ててハワイに向かって

いるのが小沢中将にも伝えられており、全駆逐艦及び軽巡が阿蘇型重巡の後を全速力で

追いかけていた。 

しかし、阿蘇型重巡はすぐに水平線上にみえなくなった。

そうとも知らないハルゼー中将はハワイからのSOSを受信し真珠湾に急行していた。


 昼には先陣を切って大和が真珠湾に突入した。 その大和を盾にするように突入部隊の

輸送船が真珠湾に突入した。

 敵戦艦からの攻撃は無かった。 

なぜなら、誘導ロケット弾は夜戦艦橋、昼戦艦橋、さらには測距儀まで破壊しており、

反撃する能力もないただの鉄の箱と化していた。


 突入部隊5000名はすぐさま真珠湾を制圧。 太平洋艦隊司令部のキンメル大将を

捕虜にした。

 その足で各航空基地、陸軍基地、海軍基地等の要所に残る残存兵を蹴散らしオアフ島が

完全に制圧されたのは午後3時であった。

 日本側の被害は艦戦5機,艦爆4機,艦攻6機であり、パイロットの損耗は7名で

あった。 陸戦隊の被害は大きく、58名であった。



3.



 太陽が登り、完全に夜が明けた頃に第8任務部隊と無線通信可能な位置に来ていた。


 麻生はハルゼーに無線電話をかけた。 無論アンドロイドの阿蘇の艦長の同時通訳を

通じてである。

ブルと異名をとる猛将ハルゼーは旗艦エンタープライズの艦橋で艦隊速度が遅いとわめき

散らしていた時だったので、周りにいる将兵達にとって麻生からの通信は時の氏神で

あった。


 「提督。 敵将からの無線電話です。」


 「なんだと? 一体何のつもりだ?」


いぶかしげな顔でハルゼーは無線電話に出た。 相手は流暢なキングスイングリッシュを

使っていた。


 「私は重巡阿蘇の最高司令官です。 我々は後100海里で遭遇するでしょう。 

我々は米国に対し宣戦布告をし、我が戦隊はハワイを攻撃した直後です。

 私は戦艦主戦論者ですが提督は航空機主戦論者と伺っております。

現在世界中の海軍が戦艦主戦論と航空機主戦論に分かれて意見を交わしております。

如何でしょう。 ここでどちらの論旨が正しいのか試してみませんか?」


 「面白い、航空機主戦論の正しさを照明してやる。」


 「開戦前にお願いがあります。」


 「今から降伏すると言うのなら聞けんぞ。」


 「いえ、どちらかが戦闘不能になった場合、船と運命を共にしたり、無理な突撃を

控えて、潔く降伏し、勝った方は救助にあたると言うことです。」


 「そんなことか。 万が一にもありえんが承知した。」


 「それではお互い清々堂々の戦いをしましょう。 Good lack!」


 無線電話はそこで切れた。


 「発信源は確認できたか?」


 「は! 東方100海里です。」


 「よし! 索敵はいらん! 全ての航空機を差し向けろ!」


 「提督。 敵機の警戒のため直援機を付けなくてもよろしいので?」


 「これは航空主戦論と戦艦主戦論との戦いだ。 敵機の心配はない!」


 ハルゼーの座乗するエンタープライズから全ての艦戦、艦爆、艦攻が発進し、

重巡阿蘇に向かった。


攻撃機は

 戦闘機F4Fワイルドキャット 18機

 爆撃機SBDドーントレス   36機

 雷撃機TBDデバステーター  18機

であった。


 30分もしないうちに、重巡阿蘇と重巡六甲は敵機の猛攻を受けることになった。


 「きたか。 主砲、零式対空弾装填! 阿蘇と六甲は射程に入り次第同時に

射撃せよ!」


 麻生がモニターを見ながら叫んだ。

 阿蘇と六甲は敵機に対し側舷を向けるように向きを変えた。 阿蘇のコンピュータ

からは状況報告が刻々とよせられていた。


 「零式対空弾装填完了。 敵編隊自動追尾中。 一斉射撃まで後5秒、3、2、1、

射撃。」


 ガガーン、ガガーン、ガガーン。

 轟音と共に12インチ砲弾、各18発 合計24発が敵編隊に対して発射された。

 阿蘇から1万メートル先で巨大な火球がいくつも広がった。 火球に飲み込まれた

敵機は粉々になり、次々と落ちていった。 残った敵機は半分もいなかったが、いまの

一撃で散開していった。


 この零式対空弾は史実の三式弾と少し異なり、パーム油,ナトリウム等の高燃焼材が

含まれている。 

現在でいうナパーム焼夷爆弾に機銃弾,炸裂弾,焼夷弾を混ぜた砲弾である。 

水では消火できず高温で燃焼するので火球に巻き込まれた敵機は吸気口から炎を吸い込み

燃料パイプを伝わって燃料タンクを爆発させる。

また高熱でキャノピーを溶かし搭乗員を焼死させてしまうのである。 

運良く火球から離れていた敵機も飛び散る機銃弾,炸裂弾,焼夷弾を浴びることに

なるのである。


 「主砲は可能な限り零式対空弾で各個撃破せよ。 対空ロケット弾の存在をまだ

知られたくない。 高角砲と機銃、機関砲で迎撃せよ。」


連続的な零式対空弾により、敵機の数は14機あまりとなっていた。 しかし、敵も

ヤンキー魂を発揮し果敢に攻撃してきた。


 ドドドドドドドドドド

連続した高角砲の砲撃音が阿蘇型重巡を包んだ。 1分間に200発という信じられない

砲撃である。


 ブオオオオオオオオオ

対空回転式機関砲がドーントレスの抱えた爆弾に向けて1分間に18000発もの

弾幕を張った。


 ドーントレスの急降下爆撃は、爆弾を切り離した瞬間に弾幕にあい、爆弾が空中で

爆発した。

投下したドーントレスは回避すら出来ず爆風と破片で空中分解してしまっていた。

 雷撃機も同じで、魚雷を投下した途端に、弾幕にあい、魚雷は海中に没する前に

爆発してしまって、爆発のあおりを食って雷撃機はひっくり返りながら海面に叩き

付けられた。

 敵機は高角砲と対空機銃の濃密な弾幕によりバタバタと撃墜されていった。 

高角砲の砲弾は近接信管になっており、命中しなくても近距離で爆発した砲弾の破片は

敵機に大ダメージを与えるのであった。


 偵察機からの報告で出撃した航空機はことごとく撃墜され、撃墜を免れたのは

偵察機のみという報告がハルゼーの元に送られてきた。 

しかも、敵戦艦の速度は恐ろしく速く、30分以内には会敵するというものであった。

その偵察機も攻撃隊全滅の報告後、連絡が取れなくなっていた。


 ハルゼーはこの報告が信じられず、通信兵にくってかかった。


 「全滅だと? そんな馬鹿なことがあるか! 『敵を全滅させた』の間違いじゃ

ないのか?」


 「いえ、残念ながら・・・。 まもなく水平線上に敵艦が現れます。」


 やがて水平線上に現れた敵船の影をみてハルゼーは手持ちの航空機を一気に失った事を

実感した。 直後に、高速で飛んでくるいくつもの物体を見張りが確認した。

阿蘇の誘導ロケット弾であった。 ハルゼー艦隊を迎え撃つ為に航行中に補給したので

あった。


 誘導ロケット弾は途中で10個の子弾に分かれ、次々にハルゼーの第8任務部隊の

艦艇に搭載している対空兵器を破壊していった。


 「やむおえん。 こうなったら砲雷撃戦でカタをつけてやる。」


 ハルゼーは突撃を命令した。 だが、船の速度は徐々に落ち、ついには停止して

しまった。


 「どうして命令を無視するんだ!」


 と機関室の怒鳴ったが、機関はフル回転をしており正常との回答が帰ってきた。


 「提督! 他の艦も我が艦と同じ状態に陥っています!」


 その時、部下に促されて周囲を見たとき、率いる全ての艦艇が停止していた。

 どの艦も何処も異常が無いのに進まなくなったという報告が来て、ハルゼーは信じ

られなかった。


 「何故だ! ここには船を停止させる魔の海域なのか? それとも敵が新兵器を使った

とでも言うのか? しかし、それらしい攻撃はされておらんぞ!」


 暫くして、敵艦は2手に別れ、1隻は左へ、1隻は右へ回頭した。 しかし、8インチ

砲ではこちらの射程外であった。


 ドーン,ドーン

 敵艦は真横にくる前に砲撃を開始した。 それも1発づつであった。 ねらいは重巡の

主砲であった。 次々に砲身に砲弾が命中し、全ての主砲が使い物にならなくなるのに

時間はかからなかった。

 驚くべき事に命中弾は全て爆発しなかった。 それもそのはずで、砲弾の中身に炸薬は

無く、砲弾全てが鉄の塊であった。 最初ハルゼーは不発弾と思ったが、全砲弾が爆発

しないので、すぐにその考えを改めた。 

また、100発100中のその命中精度にハルゼーは舌をまいた。

 駆逐艦が魚雷を発射したが、敵艦は一瞬、ダッシュでもしたかの様に速度を上げ、

全ての魚雷は敵艦の後方をすり抜けていた。

 敵艦は周囲をぐるぐるまわってこちらの主砲を叩きつぶしていた。 だが、こちらも

負けじと発射出来る位置に敵が入ってきたら魚雷を発射するのだが、ことごとく

かわされていた。

 敵艦が何回か周囲を回ったとき、魚雷は撃ちつくし、使える主砲は尽く砲身を吹き

飛ばされていた。


 ハルゼーはここにいたって攻撃する術を失ったことに気が付いた。

 やがて、敵艦から無線電話が届いた。


 「ハルゼー提督。 開戦前にお願いしましたとうり、降伏をして下さい。 

もう貴官の率いる艦艇には戦闘能力も回避能力もありません。

 私は貴官が船と共に自沈されることは望みません。 

無駄な犠牲者を出したくないのです。 どうか降伏をして下さい。」


 「悔しいがそれしか道は残されておらんようだな。 判った、わしも無駄に将兵の命を

犠牲にしたくないし、嘘つきにもなりたくない。 要求をのもう。」


 「閣下のご厚意に感謝します。」


 「だがな、もし儂が再びアメリカへ帰ることが出来たときには大機動艦隊で再挑戦して

やる。 今回は手持ちの航空機が足りなかっただけだ!」


 「望むところです。 こちらも次は重巡ではなく戦艦でお相手致しましょう。」


 「何! 重巡だと? 馬鹿な! その様な巨大な船が重巡であるはずがない!」


 「いえ、対航空攻撃を想定した防御装甲を施すと重巡といえど、この様に大きく

なるのです。

帝国海軍の規定には、戦艦は排水量3万トン以上、主砲は14インチ以上となって

おりますが、この阿蘇型重巡は排水量こそ戦艦並ですが、主砲は12インチです。 

従って戦艦ではないのです。」


 「そんな巨大な船が重巡だとはな。 まあいい。 とにかく、今度戦場で相まみえる

事があればその時は覚悟しろ!」


 「こちらも提督の航空機主戦論が間違えである事を認識させて差し上げます。」


 「ふん、その時が今から楽しみだわ。」


 だがその後、ハルゼーが本国に送還された時は、空母は尽く齒獲又は撃沈され

ハルゼーと雌雄を決する事は出来なくなるのであった。


 やがて、ハルゼー率いる各艦艇に降伏旗があがった。

 一時間後、おっとり刀やってきた駆逐艦はハワイまでハルゼーの第8任務部隊の

乗組員をのせ、敵艦隊を曳航しハワイに向かった。 

かくて、空母エンタープライズ、重巡3、駆逐艦9は齒獲された。


 第12任務部隊のニュートン少将にはハルゼー敗戦の報告は入らなかった。 

重巡阿蘇が、ハルゼーが降伏直後に電波妨害を行ったからだった。


 しかし、ニュートンは予期せぬ事態にハルゼーを心配するどころではなかった。

 空母レキシントン、重巡3、駆逐艦5はハワイから400海里の海上で異常が見つから

ないのに全艦艇が動けなくなってしまっていた。


 第8任務部隊の艦隊が動けなくなったのと同じ現象であった。 犯人は伊400型

潜水艦であった。 スクリュー音をもたず、全艦に電波・音波の吸収剤を施され、まさに

海の忍者となっている伊400型潜水艦は水中より電磁砲を使い、敵艦船の舵と

スクリューを消失させていた。

 むろん電磁砲の水中発射は威力が格段に削がれる為、かなり接近しなければ

ならなかったが、敵は発見することが出来なかったのである。

 第8任務部隊の動きを奪ったのは伊400潜の海虎号で、第12任務部隊の動きを

奪ったのは伊401潜の海狼号であった。


 やがて阿蘇型重巡の朝日,黒部が第12任務部隊に接近してきた。

 ニュートン少将は、艦載機を発進させることに躍起になっていた。 

通常、空母は風上に向かって全速力で航行し合成風速を14mにしなければ艦載機を

発進させる事など出来ないのであった。 

試験的に設置されていた艦載機射出装置を使い何とか艦載機を発進させることができた。


戦力は

 戦闘機F2Aバッファロー  19機

 爆撃機SBDドーントレス  32機

    SB2Uヘルダイバー 18機

 雷撃機TBDデバステーター 12機

である。


 だが、せっかく発進した艦載機もハルゼーの時と同じ様に零式対空弾の前に全滅して

しまったのである。

 朝日,黒部が第20任務部隊の周囲を回り始めた。 アウトレンジから、正確に

砲身のみを狙撃され、魚雷を撃ち尽くしていた所へ、ウェーキ島襲撃の報告が入って

きた。 

ニュートンは麻生の呼びかけに応じ、降伏した。


 ニュートンが降伏して3時間あまりして、軽巡2,駆逐艦7が近づいてきた。 

やがて、第12任務部隊もハワイに曳航されていった。


 訓練のためにハワイ南西700海里に位置していた重巡インディアナポリスも

第12任務部隊と同様の結果となった。 インディアナポリス齒獲には第8任務艦隊を

齒獲した重巡阿蘇と重巡六甲の内、六甲が齒獲に向かったのであった。 

無論、伊402潜の海狸号がインディアナポリスの動きを先に奪っていた。


 修理・改装に多少時間は掛かるものの、空母,戦艦,重巡,軽巡,駆逐艦を齒獲

したので、日米の海軍戦力比は逆転した。 尚、真珠湾にあった敵潜水艦5隻は撃沈、

他の船舶は修理のため解体、屑鉄にして修理用資材を調達した。


 齒獲した内容は次のとうりである。


 空母 エンタープライズ,レキシントン

 戦艦 アリゾナ,ウェストバージニア,オクラホマ,カルフォルニア,ネバダ,

    テネシー,メリーランド,ペンシルバニア

 重巡 ニューオリンズ,サンフランシスコ,ソルトレイクシティ,ノーザンプトン,

    チェスター,シカゴ,アストリア,インディアナポリス

 軽巡 フェニックス,ローリー,デトロイト,ホノルル,セントルイス,ヘレナ

 駆逐艦 44隻

 その他 12隻


 齒獲された艦艇は思ったより被害が少なく、損傷した対空兵器,砲塔を換装するだけで

よく、この太平洋艦隊が修理・改装され新たな日本艦隊となることは国力の無い日本に

とっては大きな戦力となるのは言うまでもなかった。

 特にすぐにでも使いたい重巡と駆逐艦の半数が機銃を修理するだけですんだのは幸運

だった。 

もともと、重巡,駆逐艦は齒獲後に機銃等の対空兵装をレーダー・電算機内蔵のものに

取り替える予定であったので取り外す手間が省けたと思えば良かった。


 そして、米軍は開戦1日で貴重な熟練者を多く失ったのであった。 

日曜日の早朝のため、多くの将兵が兵舎にいたのである。 そこへ爆撃と機銃掃射の

ため、多くの将兵が戦死したのであった。 

残った者は新米が多く、只でさえ日米の術力は日本が高かったものがその差に拍車を

かけた。

 麻生はこの日米の術力差を知っていたが、米内や山本も知っていると思い伝えて

いなかった。

だが、実際には米内も山本もこんなに術力差があるとは知らなかったので、不安は

ひとしおであった。



4.



 翌9日、この日のニューヨークタイムスには、

 『大使の発言道理、既に経済制裁を受けている日本に対し、ハル・ノートの内容は

日本に対し、餓死せよと言っているのも同じであり、事実上の最後通告である。 

日本側は即座にハル・ノートの真意を理解したであろう事は疑う余地がない。

 この様な重大な事を議会に報告もせず日本に突きつけたのは、大統領がヨーロッパ

戦線に参加したいが為に他ならない。


 日本が我が国に宣戦布告をしてきた以上、ドイツ,イタリアも即日宣戦布告してくる

であろう事は明白であり、大統領の策謀は成功したと言わざるを得ない。

 しかし、この戦争は大統領個人の戦争であり、アメリカ国民の総意ではない。 


 日本のハワイ攻撃による犠牲者は10日以上前にハル・ノートを手交したことを事前に

連絡しなかった為である。 なぜ連絡しなかったは明白である。 日本からの攻撃を

わざと受け、戦争への口実を作りたかったものと推測される。 この尊い犠牲者はいわば

大統領に殺されたのと同じである。

 あなたの息子を戦争に出させる必要はない。

 来栖駐米大使もアメリカの理性を信じたいと言われている。 今我々がしなければ

ならないことは、アメリカの理性を発揮し対日和平交渉を早期実現すべく努力しなければ

ならない事である。』

と大統領を避難する社説を掲載した。


 ルーズベルトは議会の激しい追求をかわす事を余儀なくされた。 だが、これは

日本側の謀略であるとし、あくまで交戦する意志を崩さなかった。


 その日の内にドイツ、イタリアは正式に米英に対し正式に宣戦布告をしていた。


 ルーズベルトは頭が痛かった。 議会での激しい追求のせいでもあったが、なんと

言っても虎の子の太平洋艦隊が日本側に齒獲されて、海軍戦力比が逆転してしまった

からであった。 

国防総長の見解では、敵は新兵器を搭載した潜水艦を使い、艦隊行動を出来なくし、

戦艦並の大きさの重巡で攻撃する戦法を取っていると言うことであった。 

さらに、重巡はその射撃精度が正確で1発の無駄弾もなく、航空機を効果的に攻撃できる

花火弾をも使用しているという。


 逆に、日本側は真珠湾での航空機攻撃しか行っておらず、その実力が未知数で

あること、更に大和,武蔵という巨大戦艦を投入していると言うことしか判って

いなかった。


 この時点での、日米の主砲命中率は日本30パーセントに対し米国10パーセントと

なっており、日本は米国の3倍も凌駕していた。 これは月月火水木金金の猛訓練の賜物

であった。

さらに、艦爆隊の爆撃命中精度は80パーセントを超えていた。


 もし、この時 日米の主砲命中率、艦艇の対空兵装、爆撃命中精度、航空機の性能が

判っていたならば、ルーズベルトはヨーロッパ・大西洋を主戦場にするという戦略を

変えていたかもしれなかった。

 だが、ドイツ・イタリアが宣戦布告を通達してきていたので、ヨーロッパ・大西洋を

主戦場とする方針は変わらなかった。



5.



 オアフ島を制圧してから2日後にはハワイ諸島全島を制圧していた。


 齒獲した第8任務部隊、第12任務部隊、そして鉄の箱となって真珠湾に浮いている

太平洋艦隊は不眠不休で修理されていた。 アリゾナを含む8隻の戦艦はと8隻の重巡は

ラムウ国の工廠で修理されることになり阿蘇型重巡が4回に分けて曳航していった。


 齒獲したアリゾナ以下の8戦艦は、速力アップのため船体を長くし、機関をトリウム

原子炉に換装、兵装もレーダー、電算機内蔵の対空火器等、大和,武蔵とほぼ同じ兵装に

改装されていた。

 ただ、誘導ロケット弾発射機は取り付けられなかったが、不要になった煙突内に

誘導ロケット弾発射管8基8発を取り付けた。

 また、重巡は魚雷,爆雷を撤去し、主砲を8インチから14インチに交換して巡洋戦艦

に改装されていた。


 山本五十六は改装中の8戦艦について麻生に問い合わせていた。


 「なにせ古い船ですから、原子炉を搭載しても最大37ノットです。 兵装と内装は

大体大和と同じですが誘導ロケット弾は8発しか搭載できません。 

装甲が薄く、敵砲弾が命中すれば弾薬庫が危険になる副砲を撤去し、替わりに高角砲を

2基増やします。 

改装は1月初旬には8隻全て終わる予定です。」


 「早いな。 こちらも齒獲した太平洋艦隊にレーダー・電算機内蔵対空火器の搭載と

修理に1月末までかかる予定だ。 君がハルゼー、ニュートンの部隊を齒獲して

くれたので鉄砲屋達は八八艦隊を作ると息巻いておるよ。 

まあ、どうせ齒獲した物だから要求道理にしてやってもいいと思っておる所だ。

八八艦隊の司令官を誰にするかは軍令部総長の米内さんも頭が痛いんじゃないかな。」


 「そうですね。 順当に行けば南雲中将ですが、あの方は消極的ですからね。 

戦艦を主力とした打撃艦隊は、戦艦を先頭に配置して猛進できるような剛胆な人がいいと

思いますよ。 南雲中将は中継空母の護衛艦隊の副参謀あたりでいいかもしれません。」


 「ははは、ずいぶん手厳しいな。 だが、戦艦を先頭に配置すると残滅作戦が取れない

のではないかね?」


 「残滅作戦などは日露戦争時代では有効かもしれませんが、今では実行できない

作戦です。 航空機が艦隊戦の帰趨を決める以上、艦隊同士の砲撃戦はありえません。 

レーダーが発達している以上、艦隊同士の砲撃戦はよほどの不運が無い限り起こり

得ません。

 どうしても砲撃戦がしたければ頑丈に出来ている戦艦は重巡や駆逐艦の盾とし、

接近戦で主砲を水平発射します。

 戦艦が盾になっていれば駆逐艦も敵艦隊に近づきやすいですからね。 

それにこのぐらい奇抜な発想が出来る方でなければ打撃艦隊を有効に運用できないと

思います。

 でも、敵がレーダーを装備し始める17年の4月までしか砲撃戦のチャンスは無いで

しょう。 それ以降は航空機が完全に艦隊戦の主体になります。」


 「わかった。 米内さんにはその様な方針で司令官を選出してくれと言っておこう。」


 この後、山本はテキサス、カリフォルニア、パナマへの攻略について話し合った。


 八八艦隊とは日本海軍が戦艦8,巡洋戦艦8からなる打撃艦隊を組織しようとした

物だったが、ワシントン軍縮条約で否決されてからは八八艦隊の創設は大艦巨砲主義者に

とっては夢となっていた。 


 齒獲した敵船の中に病院船と輸送船があり被害も軽微だったので、これに分乗して

キンメル、ハルゼー、ニュートン率いる太平洋艦隊の部隊とハワイ守備隊はアメリカ本土

に強制送還させられる事になった。


 送還される前に小沢 治三郎中将はキンメルに会っていた。


 「不幸にも我が帝国と米国が戦争状態に陥り、多くの人命が失われました。 

我々がハル・ノートの要求をのむと言うことは国民の多くを餓死に追いやる事に

なります。

 我々は、生き延びるために開戦をしましたが、決してあなた方に恨みがあるわけでは

ありません。

 我々が欲する物はアジアに置ける公正で自由な経済活動と安全な運送手段であります。 

我が帝国が戦っている相手は公正で自由な経済活動と安全な運送手段を脅かす者です。 

あなた方はその犠牲になったのにすぎません。

 国力のない我が帝国ではこれ以上大勢の捕虜を養えませんので、明日米国に送還させて

頂きます。」


 政治に疎いキンメルであったが、ホノルル市内は日本軍による暴行や強奪が聞こえず、

以外に静かな日々が続いていたことに気が付いていた。 キンメルは小沢の言葉に

ルーズベルトへの不信が大きくなっていた。 


翌日キンメル等はサンディエゴに向けて送還された。


 アメリカは先のハワイ占領に続いてキンメル達の送還に、世論は騒然となったのは

言うまでもない。

 キンメルは「ハワイの空襲はあり得ない」としたマックモリス参謀に宛てて、米太平洋

艦隊は碇停泊中に敵砲弾に攻撃され戦闘不能、ハワイの各基地は航空機によって壊滅

させられ、日本軍の上陸を許してしまった事を打診して参謀本部に非があることを

訴えた。

したがって、米国はまだ航空機が艦隊決戦に有利と言うことに気づいていなかった。 


 ハワイ諸島を制圧した時に、小沢は全ての将兵に次のような訓辞を述べた。


 「ハワイ国は未だ米国の一部になっていない。 従って敵地ではなく、友好を深め

交易を交わさねばならない国である。 ここに来た我々は、一時的に米軍の施設を

使わせてもらう居候である。

従って、各自品行方正にして天皇陛下の皇軍の御名を汚す真似の無きよう心得て

もらいたい。


 また、居候である我々は大家であるハワイ住民の要請が有れば、それがたとえ収穫の

手伝いや下水の修理であろうとも非番の者は率先して住民の要請に応えるべきである。 

何故なら、その行為自体が帝国とアジア諸国との信頼を生み、ひいては米国との早期

和睦につながる道であるという東条首相のお考えである。


 もし、住民に危害や迷惑を及ぼす不逞な輩がいた場合にはたとえ士官でも厳罰に

処す。」


 この訓辞により中国大陸の様な暴行や略奪は起こらず静かな日々が続いた。 

また、ホノルル市長にもこの意向を伝え、住民に安心してもらうように呼びかけて

もらった。

 ハワイ住民は日本軍による暴行や略奪があるものと戦々恐々としていたが何も

起こらない上、市長からは安心するようにとの呼びかけもあり数日でいつもの賑わいを

取り戻していた。

 ただ違うのは米兵が町から消え、替わりに日本兵の奉仕活動を町のあちらこちらで

見かけるようになった事であった。



6.



 真珠湾奇襲に遅れること3時間、ウェーキ島に集結した第二艦隊は防御施設、基地

司令部に対し艦砲射撃を行った。 ウェーキには敵機74機がいたが、零戦の機銃掃射で

滑走路上に並べられていた敵機はことごとく撃破されていき、上空支援出来る機体は

無くなっていた。


第二艦隊の陣容は


 指揮官:高須四郎中将  旗艦:長門

 戦艦 長門,陸奥,伊勢,日向

 空母 天城(78),葛城(78) (搭載機数)

 重巡 妙高,那智,羽黒,足柄

 軽巡 球磨,多摩,那珂,神通,川内

 駆逐艦 26


 第二艦隊も戦艦以外は全て最新のガスタービンに取り替えられていて、艦隊行動

34ノットを誇っていた。


 制空権は無く、頼みの太平洋艦隊も真珠湾で齒獲されている。 

ウェーキ守備隊に対し、第二艦隊は零式対空弾を撃ちまくった。 

滑走路を傷つけないようにするには零式対空弾が最適であった。

 1時間の艦砲射撃の後、海軍陸戦隊が突入しウェーキ島は即日陥落した。


 ウェーキの諸施設が復旧するや、航空機の大群がハワイへ向かうための燃料補給に

立ち寄った。


 10日に陸軍の第5師団、第18師団、近衛師団を乗せた輸送船団が到着した。 

ハワイを占領した第一艦隊は補給をすませて、14日には第5師団を残し東に向かった。 

目指すは米国の太平側の油田基地であるカリフォルニアであった。


 12日には第二艦隊がハワイに到着。 急いで補給をすませ、16日には第5師団を

引き連れロサンジェルスを目指し出撃した。


 15日には中継空母艦隊がハワイに到着、17日にはホノルル,ロサンジェルスの

中間点に向け出撃した。


 それ以外にも陸軍や戦車を乗せた輸送船は連日のごとくホノルルに到着、補給が済むや

直ちにロサンジェルス,カリフォルニアに向けて出航した。



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