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第5章 対米開戦戦略

第5章 対米開戦戦略


1.



 「米内閣下。 米国との開戦時の作戦を練りたいと思いますので阿蘇にお越し下さい。

東条閣下には連絡を入れていますので後ほど来られると思います。」


 重巡阿蘇の作戦室には会議用のテーブルが備え付けられ、米内光政,山本五十六,

東条英機が座っていた。 彼らにも腹心の部下がいるのだが、麻生の存在は超国家機密

扱いとなっており、麻生にあえるのは彼ら3人とごく一部の技師であった。


 「まず、開戦の時にしなくてはならないのが攻撃する前に宣戦布告を米国のハル国防長

もしくはルーズベルトに渡す必要があります。

 歴史では暗号が解読されていて、妨害工作がありハル長官に宣戦布告宣言したのが

攻撃の後でした。 ルーズベルトにこの事を利用されて、日本人は宣戦布告もせず卑怯な

不意打ちをしたのでどの様な行為をしても許されると米国民を扇動します。 

結果、米国民は発憤し生産力が飛躍的に伸びました。

 そこで、我々は攻撃をする直前にハル長官並びに米国のマスコミに宣戦布告を

告げます。 

この時、ハルノートの内容公開とその真意、及び我々が戦わざるを得ない理由を明示し、

我々の戦いが正義の戦いであることを訴えます。 できれば演技の上手な外交官に

マスコミの前に立って欲しいのです。」


 「うーむ。 ちょっと難しい条件だな。 今の在米外交官は2人いるので、1人帰国

させて演技を練習をさせてみようか。 1年以上あるので間に合うだろう。」


 「それでもいいと思います。 要は敵国民に日本憎しの感情を沸かせない事ですので。

発表のタイミングは戦闘開始の30分前がいいと思います。」


 「しかしそれでは敵に迎撃の準備を与えてしまうことにならないか?」


 「確かにその危険性はあります。 そこでハワイへの航空攻撃は夜戦をかけます。 

開戦の時期まで夜間に空母への離発着ができる技能を持つ国は日本しかありませんので、

敵もよもや夜襲があるとは思わないでしょう。 

それに大使発表を米国で昼に行えば必然的にハワイは夜ですので。」 



2.



 「陸軍は藍印を攻略しよう。 石油はすぐにでも必要だからな。」


 「長期的にはそれもいいのですが、すぐに必要な石油はまずハワイからいただきます。 

16年12月には450万バレルの石油が貯蔵されています。 これは日本が消費する

約1年分に相当しますので、これをいただかない手はありません。」


 山本は自分が考えていた事を麻生に先に言われニヤリとした。


 「なに! ハワイを攻略しようと言うのか。 これはまた大博打だな。」


 史実では、この時期の陸海軍の戦争の考え方は、太平洋戦争を大東亜戦争と呼ぶ様に、

東南アジア周辺および日本から真南に向かった赤道近辺での戦闘を想定しており、ハワイ

以東まで戦域を広げる事など考えも及ばない参謀が大半を占めていた。


 「東条閣下、この程度では大博打と言ませんよ。」


 「すると、もっと凄いことを考えとるのか。」


 「ええ、その時には陸軍の協力が必要不可欠です。 16年の夏のこの時期には日本を

威嚇するために米艦隊の半数がハワイにいます。 こいつを湾内で叩けば一石二鳥です。 

できれば対空火器のみ破壊して大破した船を齒獲し、改装すれば一時的に戦力差は

逆転します。」


 「おいおい、無茶を言うなよ。 対空火器だけ破壊するなんて難しすぎるぞ。」


日頃の猛訓練で部下の術力の高さを知っている山本でもさすがに無理と思ったのだった。


 「それができるのです。 大和、武蔵に搭載されている誘導ロケット弾は一発の中に

子弾が10発あり、個々の子弾が別々の目標に誘導できます。 大和、武蔵には誘導

ロケット弾がそれぞれ10発づつ搭載されていますので、合計200ヶ所の目標に攻撃が

できます。

 また、阿蘇型重巡も10発づつ搭載しており、阿蘇型重巡4隻をハワイ攻略に

向けます。」


 「するとあわせて600ヶ所の対空火器を攻撃できるのか。 凄まじいな。」


 「山本長官、史実における長官の真珠湾攻撃における戦略的失敗は航空機による戦艦の

攻撃でした。 これは敵に航空機主戦論を決定づけてしまい、米国は航空機,パイロット,

空母の大量生産に乗り出しました。

 従ってこの度のハワイ攻撃においては、航空機は陸上の軍事施設と地上にいる敵機の

破壊を最優先として下さい。 そうすれば、しばらくの間は敵も戦艦主戦論のままで

いるでしょう。」


 「ところで、作戦行動中の船はどうするのかね?」


 「ハワイ攻撃後、阿蘇型重巡で索敵し、伊400型潜水艦で迎撃します。 

また、シンガポール方面の英機動艦隊も残りの阿蘇型重巡4隻で撃退します。」


 「たった4隻で大丈夫かね?」


 「山本長官は阿蘇の電磁砲の威力をご存じ無いでしょう? シンガポール攻略でその

威力をごらんに入れて差し上げます。

 また、阿蘇には100センチワルター魚雷があります。 海軍の93式酸素魚雷以上の

破壊力があります。

 これ一発で戦艦すら撃沈できます。 魚雷にはワルータ機関を採用し、ポンプ水流

推進方式で推進するので気泡もスクリュー音もありません。 発見も回避も極めて

困難です。」



3.



 「陸軍はどんな協力をすればいいのかね?」


 と、陸軍の話に廻ってこないので東条が割って入った。


 「ハワイ攻撃の際には陸軍の協力が必要です。 まず、適当なところを攻略する

という偽の情報を無線で流し敵に傍受させ、敵の目を逸らします。

 海軍のハワイ攻略と同時にフィリピンを奇襲します。

 後、精鋭部隊はハワイ攻略後必要なので別の部隊で藍印を攻略して下さい。」


 「精鋭部隊? 第5師団、第18師団と近衛師団の事かね。 

どんな作戦で使うのかね?」


 「ロサンジェルス、カリフォルニア、パナマを占領後、テキサス、バミューダを

攻略します。」


 「なに! それはまた大きく出たな。 勝算はあるのかね? ハワイを占領する

だけでは足りないのかね?」


 3人の将軍は驚きの表情を隠せなかった。 三人は麻生に初めてあったとき米大陸の

工廠を攻撃すると聞いてはいたが米大陸の一部を占領するとは思ってもみなかった。 

山本にしてもハワイから航続距離の長い爆撃機で攻撃するものだろうと考えていたので

ある。


 「ええ。 米国を叩くには敵の燃料補給源と生産拠点及び運搬手段を破壊しなければ

なりません。 そうしないと敵の国力はそのままですので長期戦にもつれこみます。 

長期戦になれば国力の乏しい日本は必ず負けます。

 そこで、ハワイを拠点に西海岸の石油生産拠点を占領します。 これにより、藍印が

英豪に渡っても石油は確保できます。 同時にパナマを占領すればミッドウェイ等の

敵基地に物資が届けられなくなりますし、英豪も米国の武器をあてにしていますから

そのうち戦えなくなります。

 米国は産油国ですが、同時に大消費国でもあります。 石油を押さえ、爆撃機で

5大湖の工業地帯を爆撃すれば国力の低下は免れません。 また、鉄道などの運搬手段を

寸断すれば、内陸において塩が不足します。

全ての生き物は塩がなければ生きていけませんので政府に対し暴動が起こるでしょう。」


 「そこまでする必要があるのか? 米太平洋艦隊を殲滅すれば講話も可能だと

思うが。」


 「いえ、米国は戦争を仕掛けてきた以上、講話には応じません。 また、日本も

そのつもりがないので、完全勝利か無条件降伏かのどちらかしかありえません。」


 それを聞いて山本は考え込んでしまった。


 「所で、陸軍に開発をお願いしていた爆撃機はどうなりました? もし、開発が難しい

のでしたらフィリピン奇襲時にB-17を齒獲し、物まね生産をして欲しいのですが。」


 「B-17を齒獲する必要はない。 既に一式重爆の機体は試作が終わってエンジンの

取り付けを待つばかりだ。 エンジンも数日で完成する。 

テスト飛行は遅くて1ヶ月後になるだろう。」


 「凄いですね。 今の日本の工業力では出来ないのではないかと思って

いたのですが。」


 「同じ様な爆撃機で帝国が攻撃される前に敵国の工場を爆撃すると言って

急がせたのだ。

 それにトランジスターなる物のおかげで工作機器の精度が向上しているし、余計な

航空機の開発競争をしていないので技術者はかかりっきりにできたのも要因だがね。 

 ところで、ソ連の進行はどうなんだ? 関東軍を引き上げて南方方面に振り向けるのは

まずいのではないか?」


 「いいえ。 16年の6月にドイツがソ連に侵攻しますので、ソ連は我が国どころでは

なくなります。 その時に大陸から撤収して南方方面に振り向ける準備をして下さい。

 B-17の齒獲が必要無くなったので開戦壁頭でシンガポール、蘭印、ボルネオを

攻略して下さい。

 ただし、攻略を控えて補給線分断作戦をとって欲しいところもあります。 これは別途

連絡いたします。」


 「ところで戦車は開発せんのかね? 米大陸を占領し続けるとなると戦車が必要では

ないのか? ノモンハンでは我が戦車部隊の脆弱さは目を覆わんばかりだったからな。」


 「確かに必要ではありますが、今の日本の工業力では米国が開発しているM4戦車に

太刀打ちできる戦車を生産できないでしょう。

 仮に生産できても日本の橋は木造が多いので重戦車は橋を渡れず、運搬できない

でしょう。 

装甲は薄くても構いませんから75ミリ90式野砲を搭載した砲戦車を量産するしか

対抗手段がないと思います。

 さらに、携帯ロケット砲を量産して下さい。 対戦車用の成形炸薬弾の充実も

お願いします。

 テキサス、カリフォルニア、パナマを占領した後は航空機による爆撃が主になります

ので、南方方面に進出するのもいいでしょう。

 海軍はテキサス、カリフォルニア、パナマを死守できるように艦隊を配置して下さい。 

肝心の補給ですが、石油は現地で調達できますので武器、弾薬、食料を輸送する船は

阿蘇型重巡で護衛します。」


 「うむ。 ではパナマ占領後は大和を太平洋側に、武蔵を大西洋側に配備しよう。」


 「大和級戦艦はパナマを通過できませんのでマゼラン海峡まわりとなり、バミューダ

攻略に間に合わないかもしれません。 現在、長門以下の海軍の戦艦をラムウ国で改装

しています。

 改装内容は原子炉の設置による速度と航続距離の向上、対空防御の強化、レーダー,

電算機等の電子設備の強化です。

 強化を行った戦艦の中で、パナマ運河を通過できる船を差し向けて下さい。」


 「そうだな、金剛辺りが妥当だな。」



4.



 「それと、米内首相は軍令部に徹底した人道主義と一般常識の教育と学歴制度の廃止を

行って下さい。 学歴制度がある以上、民間からの優秀な人材や下からの叩き上げ軍人の

登用ができません。 彼ら現場の意見を尊重しない作戦は必ず失敗します。

 東条閣下も今のうちに息のかかった部下には人道主義と一般常識を教育して下さい。 

また、現場の意見は必ず聞くように指示して下さい。」


 「もうやっとるよ。 陸軍の中では儂の部隊が海軍ぽく軟弱になったとひやかされて

おるがな。」


 「東条閣下は首相になられたときに人道主義を宣言してください。 特に亡命してくる

ユダヤ人はなんとしても受け入れて下さい。 場合によっては南洋植民地の1つ、

いや樺太ぐらいを彼らの為に割譲する位の思い切った手を打って下さい。」


 「また凄いことを言ってくれるな。 国内世論が黙ってはいまい。」


 「確かに世論は騒然とするでしょう。 しかし、ユダヤ人には優秀な科学者が多い。 

彼らの協力を得れば新兵器の開発に必ず寄与します。

 ユダヤ人のために樺太か小笠原諸島を割譲し、ユダヤ人国家を建国すれば上層階級に

ユダヤ人の多い米国民は我が国に味方するでしょう。 また、ユダヤ人国家が我が国の

近くにあればルーズベルトも日本を攻撃することを躊躇するでしょう。」


 「なるほど、敵の矛先を鈍らせるのか。 確か負ければ植民地は無くなってしまうの

だからやってみる価値はあるかもしれんな。 樺太か小笠原諸島のどちらかにするかは

検討してみよう。」


 「できれば樺太がいいと思います。 亡命してくるユダヤ人は何十万人に登ると

思いますので。」


 「うむ。 戦略的には小笠原諸島を割譲すれば帝都への空襲の危険は少なくなるが、

そんなに多いと小笠原諸島ではもたんな。 あと1年以上あるのでもっと検討して

みよう。」


 「米内首相も今から亡命ユダヤ人の受け入れを行えるよう準備して下さい。 

それと石油の貯蔵量をもっと増やして下さい。

 記憶では、開戦時の国内備蓄量は2年分あったのですが、開戦後半年で作戦に支障を

きたすほど、石油を消費します。 できれば16年末までに10年分の備蓄量が欲しいの

です。」


 「10年分か・・・。 気が遠くなりそうな量だが、いざ開戦となった場合はそれでも

2年半しか持たないのか。 わかった。 すぐに着手しよう。」


 「山本長官にはこの設計図の輸送船をつくってください。 米国本土への輸送には

この船が最適と思います。」


 と言って麻生は設計図を山本に渡した。 山本と米内は図面を見て驚いた。


 「潜水艦が輸送船なのかね?」


 「はい。 史実では敵潜水艦に輸送船団をことごとく撃沈された為に、駆逐艦や

潜水艦を輸送船の代用としました。 せっぱ詰まった苦肉の策でしたが、潜水艦を

輸送船の替わりに使う事は決して悪い考えではありません。

 敵に捕捉されず安全に物資を輸送できるのであれば潜水艦も悪くないと思うのです。

 他にも駆逐艦並に速力のある輸送船も数隻作って下さい。 ハワイ奇襲には

必要です。」


 麻生の渡した潜水輸送船は次の仕様であった。


潜輸型 伊300

 全長     120m

 全幅     12m

 排水量    6500トン

 速度     27ノット(水上)、16ノット(水中)

 航続距離   47500海里

 機関     ワルター機関 ポンプ水流推進方式

 武装     25ミリ連装機関砲3基(水密)


 史実の潜輸は水中排水量が500トンに満たない小型のものであったが、この大型の

潜輸は強襲楊陸艇すら搭載でき、900トンの物資を輸送できるのであった。


 「このワルター機関のポンプ水流推進方式がやっかいだが、判った何とか作って

みせるよ。」


 「もし、技術的に難しいのであれば、ドイツからワルター博士を呼んでみては

如何でしょう。

ドイツはワルター博士の発明の素晴らしさを認識するのにもう暫く時間がかかります。 

博士は現在冷遇されていますから喜んでやってくるのではないでしょうか。」


 「わかった、やってみよう。」


 「今後製造する潜水艦ですが、全てこの設計図の潜特型にして下さい。」


と言って麻生は潜水艦の設計図を出した。


 麻生の渡した潜水艦の仕様は次のとうりである。


潜特型 伊200

 全長     140m

 全幅     13m

 排水量    6900トン

 速力  29ノット(水上)、14ノット(水中)

 航続距離   40000海里

 魚雷発射管  10門(50本)

 機関     ワルター機関 ポンプ水流推進方式

 艦載機    水上機3機


 史実の潜特型 伊400以上の性能を有しており、この潜水艦が量産されれば、

通商破壊だけでなく艦隊すら壊滅できるほどの戦力となるであろう。


 「ほう、魚雷発射管が全て艦首に集められているな。 それも10門も。」


 「ええ、この潜水艦の雷撃力は他の追随を許しません。 また、水偵が搭載できます

ので長期警戒作戦がとれます。」


 「おや? 機銃や砲がないが?」


 「あんなものは水中速度が遅くなるだけですので付けていません。」


 「しかし、通商破壊にも使うのであれば必要なのではないか?」


 「単独航行している商船ならいざ知らず、戦争となれば敵も駆逐艦などを護衛に付けて

きますので砲撃できませんし、2~3挺の機銃では航空機と戦えませんよ。」


 「う~ん。 それならしかたがないな。」


 「ついでに、今ある潜水艦の砲と機銃も取り外して1本でも魚雷を多く搭載できる様に

して下さい。 それと、潜水艦は通商破壊専用として運用するよう研究して下さい。」


 「判った。 通商破壊はボクシングでいうとボディーブローと同じで、じわじわ効果が

でてくるからな。 潜水艦乗りには徹底的に通商破壊を研究させよう。」


 日本の潜水艦乗りは一匹狼という思想が強く、通商破壊より敵艦への攻撃を好む傾向が

あった。

山本は以前、麻生から日本が潜水艦で息の根を止められた事を聞いて、通商破壊の研究を

重視するようになっていた。



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