第4章 重巡阿蘇
第4章 重巡阿蘇
1.
翌、昭和15年1月16日に米内光政内閣が成立した。
米内は麻生との打ち合わせで早速ラムウ国の存在を陸海軍に知らせ、軍機密扱いにした。
戦艦大和建造の為の仮想国とはいえ独立国家として扱うので大使館をあてがった。
大使館は海軍省の近くの民家を借りたものだったが、麻生が米内,山本,東条と
密談するには丁度良い場所ができたのであった。
また米内は、組閣には陸軍に要請して陸相に東条を選出してくれるように頼み込んだ。
陸軍参謀本部は統帥権の侵害と言って反対したが、指名された東条が陸相になりたいと
参謀本部に日参したので参謀本部もしかたなく推薦した。
この月に行われた陸海軍の航空機比較競技で十二試艦戦は圧勝し、東条の十二試艦戦の
採用意向もあり、陸海軍の戦闘機は十二試艦戦に統一されることとなった。
また、陸上偵察機は陸軍のキ-四六(百式司偵)が陸海軍共通の陸上偵察機に
採用された。
30日には戦艦大和が完成し、横須賀で引き渡しが行われた。
引き渡しには米内光政首相と秋に連合艦隊司令官になった山本五十六が立ち会った。
「こうしてみると正に黒鉄の城ですな。 山本GF長官は大和に乗り込めて
うらやましいですな。」
山本は去年の9月に連合艦隊司令長官に任命されていた。 海軍では連合艦隊のことを
GFと縮めて言う場合があった。 そしてGF長官は伝統的に連合艦隊の旗艦に執務室が
あり、山本は呉に停泊中の長門で執務をしていたのであった。
「早速、大和を連合艦隊の旗艦にします。」
と、米内と山本が大和を見ながら歓談しているところへ麻生が現れた。
麻生はラムウ国の代理と言うことになっていた。
その麻生の後ろにひっそりと付き添うように女性がついていた。
『アフロ』が作ったアンドロイドの『ルナ』であった。
ハッとするような美人で米内も山本も一瞬、天女かと思ったくらいだった。
麻生の秘書として紹介された。
「山本長官、水を差すようですが、広大な太平洋を暴れ回る戦艦に座乗していては
全艦隊の指揮はとり辛くなります。 ましてや無線封鎖をしていては尚更です。
さらに、軍令部とも離ればなれになり連絡が付きにくいので、海軍省に執務室を移された
方が作戦計画が立てやすいと思います。
ミッドウェイでの敗戦原因は情報漏れの他に長官と軍令部との作戦のすりあわせが
うまくできなかった為です。」
「そうか、惜しいが長門から海軍省に引っ越すか。」
この頃には、米内と山本は麻生の言いなりであった。 麻生の予言は尽く当たり、
技術面でも世界水準を遙かに凌駕した最新兵器をもたらしてくれるのである。
米国のすごさを知っている二人にとって、麻生の言うとうりにすれば、対米戦を勝利
できる唯一の希望となっていた。
「そうして下さい。 それと、大和級戦艦の諸項目です。 目を通して下さい。」
麻生から手渡された書類を見て米内と山本は驚嘆の声を上げた。
戦艦大和の諸項目は次のとうりである。
海軍設計時:
満載排水量 7万2809トン
全長 263メートル
最大幅 38.9メートル
最大速力 27ノット
航続距離 7200海里
主砲 46センチ3連装砲塔3基(9門)
副砲 15.5センチ3連装砲塔4基(12門)
高角砲 12.7センチ2連装12基(24門)
機銃 25ミリ3連装44基(132門)
13ミリ連装8基(16門)
乗組員 2800人
集中防御方式 耐46センチ装甲
新型大和:
満載排水量 7万4200トン
全長 276メートル
最大幅 38.1メートル
最大速力 48ノット
航続距離 200000海里
主砲 46センチ3連装砲塔3基(9門)
副砲 15.5センチ3連装砲塔4基(12門)
高角砲 12.7センチ2連装16基(32門)
自動追尾機銃 25ミリ3連装56基(176門)
13ミリ5銃身回転式30基
対空ロケット弾発射口 10門30発
誘導ロケット弾発射装置 2基10発
側舷短魚雷発射管 内装型連装4基16本
爆雷射出機 内装型2基32本
乗組員 2000人
完全防御方式 耐46センチ2重装甲
新型大和の機銃は自動追尾の上、史実の25ミリ3連装機関砲よりも2まわり小さく
なっており、その分、13ミリ5銃身回転式30基--今で言う対空ガトリング砲
ファランクスのさらに優秀なもの--が搭載できていた。
さらに、副砲は高角砲としても使うことができるようになっていた。
「これならば鉄砲屋も文句はいうまい。 第一自国で作るより、早く安く
できたのだからな。」
史実の大和は4年の歳月をかけ建造されたのである。 麻生の作った大和がわずか
8ヶ月で完成したのだから、山本のみならずとも驚くのは当然であった。
「ところでラムウ国は大和建造で赤字ではないかね?」
「いえ、大丈夫です。 資材は購入したわけではありませんので。 まあ、これで
山本長官は空母が作りやすくなりましたね。」
「うん。 ところでいくつか判らない装備があるので聞きたいのだが。」
「なんなりと。」
「この短魚雷と爆雷は何のためにあるのだ?」
「これはどちらも迫りくる魚雷を迎撃する為です。 短魚雷は近接信管をつけた
航空用の物を使用します。 爆雷は着水後に子弾分裂して弾幕を張ります。
また、短魚雷は使い方によっては潜水艦攻撃も可能です。
魚雷、爆雷はソナーと電算機が連動し、回避不可能な場合に自動的に迎撃します。」
「全身ハリネズミの様だが、この13ミリ5銃身回転式の機銃とは?」
「これは急降下爆撃機の落とした爆弾等を空中で迎撃する為の物です。
主砲,副砲,高角砲,機銃には全てレーダーと電算機が搭載されており、それぞれの
兵器が互いに連携し合って敵を迎撃できる様になっています。
さらに、装弾は全て機械化で行われ、人間は搭載されたレーダーまたは電算機が
壊れた場合の要員にすぎません。
これにより、敵艦を主砲、副砲で迎撃しながら対空砲火を展開することが可能です。」
海軍の設計では主砲を射撃する時は、発射時の衝撃と熱風のため対空砲要員は艦内に
避難していなければならなかった。 坊ノ岬沖で撃沈された大和も主砲が使えず、
遠距離にいた第二波、第三波の敵航空機群を主砲で削減できなかった。
そこで、対空機銃を全て無人化した上、万一の場合 人手でも射撃できるように
銃座をすっぽりと装甲で覆っていた。
「この対空ロケット弾と誘導ロケット弾の違いは何かね?」
「対空ロケット弾は機銃や高角砲では届かない高高空の敵機を迎撃する物で、誘導
ロケット弾は主砲の射程40kmの外にいる敵艦に対し攻撃を加えるものです。
対空ロケット弾の迎撃高度は15000mで、誘導ロケット弾の射程は250km
です。 誘導ロケット弾は煙突に偽装されています。」
対空ロケット弾は今で言うパトリオット対空ミサイルの射程を伸ばし命中精度の
向上したものである。 誘導ロケット弾は潜水艦などに搭載されている戦略核ミサイルの
弾頭を炸薬に変え、射程を伸ばし命中精度を向上させたものである。
「最大速度や航続距離が向上しているのは?」
「機関にはトリウム原子炉を採用しています。 馬力も向上していますので高速戦艦に
なりました。」
「完全防御方式を採用しているが、なぜ排水量があまり変わらないのだ?」
「装甲には新合金のヒヒイロ合金を使っています。 これは鋼鉄の2倍の強度があり、
重さは半分です。 この合金を使って耐46センチ防御装甲を全艦に2重に行いました。
艦首,甲板,艦底,艦尾,艦橋構造物に至るまで全て2重装甲となっています。
装甲と装甲の間には、空気や海水に触れると発泡し、穴を塞ぐ特殊緩衝剤を使っており
浮力が損なわれる事を防ぐようにしています。
また、主砲塔並の装甲を外側の第1装甲と内側の第2装甲に施していますので、
ちょっとやそっとの被弾では戦闘能力が落ちることがありません。
それに防水壁の数も海軍設計の2倍に増えており、浸水を最小限に押さえる様にして
あります。
もし、大和が被害を受けるとしたら高度5000mから投下された1トン爆弾が命中
すれば外側の装甲に穴があくでしょう。 撃沈させるためには100発ぐらいの爆弾の
直撃と70発ぐらいの魚雷の直撃が必要でしょう。」
艦艇の防御装甲には二通りの方法があり、一つは史実の大和が採用していた集中防御
方式であり、一つは完全防御である。
集中防御は弾薬庫,機関などの必要最小限の部分を鋼鉄の箱でがっちりと囲い込む方法
である。 完全防御は船全体に鋼鉄の装甲を施したものであるが、その分、大量の鉄が
必要となり屑鉄の足りない日本では採用できない方式であった。
「そんな高高度からの爆撃では48ノットの大和に命中させることなど不可能だぞ。
航空魚雷にしても48ノットの全力を出せば魚雷を引き離すことさえ可能ではないか。
まさに不沈戦艦だな。 大和を沈める為には膨大な数の航空機と爆弾が必要だな。」
航空機の攻撃で全ての爆弾や魚雷が命中するわけではない。 大和は高速で回避
するので命中率は格段に落ちる。 さらに、対空火器での応戦や艦隊護衛機も存在する
とすれば、数十機の攻撃で1発命中すれば良い方なのである。
したがって大和を沈める為には数千機以上の攻撃機が必要となるが、米軍は太平洋地域に
これだけ大量の航空機を配備できていなかったし、運搬するための空母も少なかった。
航空機主戦論者の山本は自分の考えが間違っているのか心配になってきた。
「大和には高速電算機と高性能レーダーが艦橋に設置してあります。
ヒヒイロ合金は赤銅色をさらに赤くした色ですが、電波・音波吸収塗料を塗って
いますので船体が紺碧色になりました。
また、お手持ちの腕時計型通信機と同じ方式の通信機を通常の無線と一緒に搭載して
いますので無線封鎖を実行中でも海軍省にいながら艦隊に司令が送れます。
さらに、無線で電算機に指令を出して攻撃・防御・航行を全て電算機に任せることが
可能で、無人艦で作戦行動もできます。」
「それではますます大和に乗る理由が無くなってしまうな。」
山本の言葉に麻生も笑いながらうなずいた。
2.
米内はふと気が付いたように麻生の乗ってきた重巡に目を移した。
「大和もでかいが君の重巡もでかいな。 少し主砲付近の甲板の作りと煙突と後艦橋が
無いのが気になるが・・・。」
「ええ、 全長:230m、全幅:33m、排水量:48500トン。
大きさからすれば戦艦ですが主砲が12インチ・・・32.5センチですから海軍の
規定からすれば重巡です。
まあ、煙を出しませんから煙突はありませんし、自動照準なので後艦橋も取って
しまいした。
ちなみに、大和,武蔵も煙突は要らないのですが、誘導ロケット弾発射装置を取り付ける
場所がなかったので、煙突の様な防御壁を作り そこに誘導ロケット弾発射装置を
取り付けています。」
本当は、元来艦橋を必要としない宇宙船を改造したので、煙突も艦橋も
無かったのだが、海上で運用するのは高い位置にレーダーを設置する必要があったため、
前艦橋をつけたのであった。
前艦橋の真後ろに誘導ロケット弾発射装置2基が立てかけられ、装甲に隠されていた。
船体は細長いラグビーボールの様な構造に酷似しており、艦首から艦橋にかけて徐々に
膨らんでいて、第二砲塔の甲板は第1砲塔よりも高くなっていた。
イメージとしては細長いラグビーボールを船体に押し込んだ様な格好なのである。
船体の大きさからいえば金剛級戦艦より少し大きいのであった。 が、もともと金剛級
戦艦は重巡として建造されたのを改装により戦艦となったので、船体自体は重巡と言えば
言えないこともなかった。
一般的に戦闘艦艇はその大きさと武装から次のように大別されている。
戦艦・・・・・艦艇に対する攻撃力、防御力は共に最強の軍艦。
約3万トン以上の排水量で36センチ以上の主砲を持つ。
日本海軍の戦艦は艦橋が高く、まさに「くろがねの城」であった。
航空母艦・・・艦上戦闘機、艦上爆撃機、艦上攻撃機を保有し、甲板が飛行場と
(空母) なっている軍艦。
航空母艦の建造、運用はいち早く日本海軍が行い、攻撃力は戦艦より
強い事を真珠湾攻撃等で証明した。
外国ではAircraft Carriersと単なる「運ぶもの」という言い方であるが、
日本では「航空機の母なる艦」であり、極めて日本的な呼称である。
この航空母艦数隻からなる艦隊を機動部隊または機動艦隊と呼んでいた。
重巡洋艦・・・戦艦についで攻撃力、防御力に優れた艦艇。
(重巡) 約1万トンクラスで、20センチ位の主砲並びに魚雷,爆雷を持っている。
オールマイティに使えそうではあるが、実際の所、戦艦ほどの防御力,
砲撃力もなく、駆逐艦ほどの雷撃力,対潜水艦攻撃力もない極めて
中途半端な存在を戦争中に露呈してしまう。
速力が早く水上偵察機を数機搭載できる船は艦隊の目として活躍できた。
軽巡洋艦・・・重巡についで攻撃力、防御力に優れた艦艇。
(軽巡) 約5500トンクラスで、14センチ位の主砲並びに魚雷を持っている。
駆逐艦以上の雷撃力のある船が多く、水上偵察機も1機搭載できる
ものもあり駆逐艦戦隊の旗艦とも言うべき存在。
重巡,軽巡を総称して巡洋艦と呼ぶ。
駆逐艦・・・・高速で敵艦に肉薄して魚雷により攻撃する艦艇。
(甲型) 潜水艦の天敵。 約2000トンクラスで、魚雷,爆雷,12センチ位の
高角砲を持っている。
甲型というのは軍縮条約の期限が切れて最初に建造された駆逐艦で
陽炎型、夕雲型がある。
駆逐艦・・・・乙型は、空母の部隊と行動し、空母の護衛や不時着機の救援任務を
(乙型) 行うように設計された駆逐艦で、甲型よりも大型のもの。
秋月型とも言う。
その対空火力は米軍のパイロットを震え上がらせたほど有名である。
駆逐艦・・・・丙型は、速力を重視した駆逐艦で、島風型1隻のみしか建造され
(丙型) なかった。
最速速力は40.9ノット(時速70キロ位)というものである。
潜水艦・・・・言わずと知れた深海の忍者。 日本海軍の潜水艦はドイツ海軍の
Uボートを基本にして建造されたが、潜水艦の内部に組立式の水上機を
保有するものもあり、大型酸素魚雷を武器にして世界の大洋を駆けめぐり
活躍した。
水中排水量は1000トンから6500トンまでの様々な大きさがあり、
史実の伊400型は世界最大で「海底空母」と呼ばれていた。
特に日本海軍の潜水艦には大きさ別,目的別に
海大型,海中型,特中型,潜輸小型,潜高小型,
巡潜型(1型,2型,3型,甲型,乙型,丙型,丁型),
機雷潜型,潜高大型,潜補型,潜特型 と色々な種類が存在した。
これは艦隊同士の決戦において潜水艦を使い敵戦力を徐々に奪うという
発想が元となっているが、アメリカでは通商破壊を主目的としたため、
法律で新型を開発する事すら禁止し量産に力を注いだ。
この運用の相違が敗戦の一因となっている。
潜水母艦・・・洋上の潜水艦に対する燃料、食料、魚雷などの補給能力を持ち、潜水艦
乗組員の宿泊施設を持っている艦艇で、5000トン位の排水量で
あった。
水上機母艦・・水上偵察機を搭載したり、飛行艇に対する補給や整備、搭乗員の休養
などを目的とした艦艇で、大きさは1万トン以上。
水雷艇・・・・駆逐艦の前身。600トン位の大きさで日清戦争中に活躍したが、その後
その役割は駆逐艦に取って代わられた。
駆潜艇・・・・小型の対潜哨戒艇で、港湾や沿岸の防御を目的とした艦艇で、日本海軍は
艦隊随行用として建造したが、300トンに満たない小型艦艇であった
事から結局随行は無理であまり活躍はできなかった。
海防艦・・・・輸送船の護衛用として建造された1000トン位の艦艇。
輸送船団の護衛や対潜哨戒の任務に就いていた。
敷設艦・・・・機雷を敷設する為の艦艇で、大きさは3000トン位。
掃海艇・・・・敷設艦とは逆で、海中に敷設された敵の機雷を除去する施設を持った
艦艇で、大きさは600トン位。
特務艦・・・・攻撃能力が少ない艦艇で、標的艦や工作艦、氷砕艦などがある。
仮装巡洋艦・・大型客船や貨物船に兵装を装備した艦艇で、大砲や機銃などの武器は
巧妙に隠されている。
油断させて至近距離に近づき、商船や輸送船に攻撃した。
また、艦艇の命名には特定のルールが存在した。
戦艦・・・・・・・昔の国名
航空母艦・・・・・瑞鳥、瑞動物名(鳳凰や鶴、龍などの尊ばれる動物)
重巡洋艦・・・・・山岳名
軽巡洋艦・・・・・河川名
駆逐艦(甲型)・・潮、風、波名
駆逐艦(乙型)・・月名
駆逐艦(丙型)・・風名
潜水艦・・・・・・番号
潜水母艦・・・・・鯨名
水雷艇・・・・・・鳥名
海防艦・・・・・・島名
特務艦・・・・・・岬、海峡名
である。 建造中にもともと建造する予定でなかった船に変更されることがあった為に、
命名ルールに従っていない空母名(赤城など)や戦艦名(金剛など)がある。
また、日本では巡洋戦艦という種類の戦艦は存在しないが、重巡を戦艦に改装したのが
巡洋戦艦であるので、金剛級戦艦は巡洋戦艦といえない事はない。
「主砲が12インチの割には砲身が太いな。 先端でも直径1mぐらいありそうだ。」
「ええ、砲弾の発射には炸薬以外に砲身に磁場をかけて初速を早くする機能を付けて
います。
この大きな砲身を回頭させるのにリニアモーターを使っているので180度旋回するのに
数秒くらいです。」
砲身にはフレミングの理論を応用し、磁力で鉄球を発射するレールガンと同じ機能が
持たせているのである。 砲弾は炸薬と磁力の生み出す推進力で撃ち出されるので初速も
早く射程も金剛の主砲の36センチ砲と同等であった。
このレールガンの機能は電磁砲の射程をも向上せしめていた。 電磁砲への切り替えは
砲身に砲弾と同じ直径の発信器を装填するだけなので、切り替え時間はあまり
かからなかった。
その為に砲身が太くなり、重量があるためリニアモーターカーの原理で砲塔を旋回
させている。
したがって、旋回時間も格段に短くなっていた。
砲塔の回転、砲弾の装填は同じ機構を大和型戦艦の主砲,副砲にも採用されている。
また、各砲座は見越し発射も自動計算出来るようになっていた。
「対空火器は戦艦大和以上です。 特に高角砲は機関銃並に打ちまくることが
出来ます。 よくごらんになれば高角砲の砲身に重機関銃の様な冷却装置があるのが
お判りになると思います。
それに航空機を25機搭載できるので対航空戦では抜群の威力を発揮するでしょう。」
「それで後甲板から側舷にかけて飛行甲板が2つ付いているのか。」
「後部V字型斜行飛行甲板は同時発着が可能です。 防御も完全防御方式で、
耐46センチ防御装甲を3重に施していますので、大和以上に航空機にとっては手強い
相手になるでしょう。」
「ふつう装甲は主砲と同じにするもんだぞ。 阿蘇型重巡の場合32.5センチで設計
すべきなんだ。」
「そんな規定がありました?」
「いや、規定ではないのだが、世界中の海軍では常識となっている事だ。」
「そうなんですか。 この次に船を設計するときはその常識に従うようにします。」
とは言ったものの、装甲の変更は難しいな、と麻生は思った。
何故なら、3重装甲を2重でもいいではないかと言ったら、『ブレインズ』が猛反対した
のであった。 どうやら、光子魚雷の直撃に耐えられなければならないという設計方針の
為らしかった。
「だが、大和もいいが戦艦並の装甲を持ったこの重巡も欲しいな。」
「閣下、この阿蘇型重巡は大和に使われているトリウム原子炉よりも遙かにやっかいな
対消滅反応炉を使っています。
下手に操作したり、分解したりすれば原子爆弾など比べ物にならない爆発が生じます。
私はこの重巡を扱うには今の時代の人間では危険と判断していますので、お譲り
できません。」
実際には対消滅炉は副機関で主機関には縮退炉が使われており、これにより高出力の
電磁砲が使えるのであった。
「そうか、そういうことなら残念だが諦めるか。」
米内はあっさりと引き下がったが、山本が口を出した。
「麻生君、この阿蘇型重巡の防空能力を我々が使える様な船に搭載できんかね。」
「無理です。 この阿蘇型は主砲及び対空用に電磁砲を装備しています。
たとえ機関を原子炉にしても電磁砲が使えるだけの電力が発電出来ません。
電磁砲が使えなければ戦力は1/3になってしまいます。」
「電磁砲とは?」
「電磁砲とは波長が2センチ以下の電磁波を大出力で照射するもので、この電磁波に
当たった物は鋼鉄といえど瞬時に蒸発してしまいます。」
「そうか、原子炉でも電磁砲は使えんのならしかたがないな。」
史実で日本軍が研究していた秘密兵器の中には原爆,細菌兵器,毒ガス兵器の他に
Z兵器と呼ばれる電磁砲の研究がされていたが、結局研究のみで終戦を迎えたので
あった。
「ところで阿蘇に掲げられているのは国旗のようだが、あれはラムウ国の国旗かい?」
「はい、仮想国家ですが一応独立国家という名目がありますから国旗を作って
みました。 デザインは鯉のぼりと一緒に上げる吹き流しを元にしています。」
「それで5色の横縞模なのか。 どこかで見たような配色だと思ったよ。」
「神道では5色は人類の肌の色を表すそうです。 昔の日本人は世界人類共和を
実現していたのですかね?」
「もし、そうだとしたら我々は世界人類共和を再構築する道を歩まねばならんな。」
感慨深げに米内が呟いた。
麻生は米内光政、山本五十六に黙っていたが阿蘇型重巡は宇宙魚雷艇を海上・海中で
使用できる様に改造した物だった。 装甲はもともと分厚く3重構造であったので
装甲の強化はしていなかった。
海上航行を主眼におき、側舷,バジル,船底を追加し、そこに電磁水流推進装置と
艦載機の格納庫をもうけた。 飛行甲板も両側舷に追加し、艦載機の離発着を同時に
行える様になっている。
阿蘇型重巡の仕様は米内,山本にすら秘密にしていた。
その諸項目は次のとうりである。
重巡 阿蘇型(宇宙魚雷挺を改造)
製造済み艦船名:阿蘇,六甲,朝日,黒部,日高,御獄,雲仙,箱根
全長:230m
全幅:33m
排水量:48500トン
速度:87ノット(水上)、32ノット(水中)
武装(全てレーダー連動、自動発射可能:各個レーダー装備)
主砲:32.48センチ(12インチ)55口径3連装砲塔6基
射程:25000m
電磁砲に切り替え可能(射程:50000m)
高角砲:12.7センチ(5インチ)55口径2連装砲塔10基
対空砲:10.8センチ(4インチ)90口径単装2基 射程高度:22000m
機銃:40ミリ3連装機関砲30基
収納型対空回転式機関砲:20ミリ5銃身単装20基
収納型対空電磁砲:単装20基 射程高度:10000m
対空ロケット弾発射口:10門
収納型誘導ロケット弾発射装置:2基
艦首魚雷発射管:8門(100センチ魚雷)
艦尾魚雷発射管:4門(100センチ魚雷)
側舷魚雷発射管:24門(100センチ魚雷)
爆雷射出機:2基
V字型後部飛行甲板
艦載機射出装置
艦載機:25機
宇宙空間航行能力,大気圏突入・離脱能力,大気圏飛行能力,海上・海中航行能力を
有す
装甲:完全防御型 耐46センチ3重装甲
また、伊400型潜水艦を4隻作っており、この潜水艦が地下工場周辺を哨戒して
いた。 この伊400型潜水艦がもっとも宇宙船の原型を留めていた。
船底を追加し、電磁水流推進装置と艦載機格納庫をもうけている。
艦尾にヘリポート程度の小さな飛行甲板を追加している。 これは飛行甲板があまり
大きいと水中速度が落ちるからであった。
潜水艦 伊400型(宇宙魚雷挺を改造)
製造済み艦船名:伊400潜(海虎),伊401潜(海狼),伊402潜(海狸),
伊403潜(海狗)
全長:230m
全幅:33m
排水量:68500トン
速度:55ノット(水上)、78ノット(水中)
主砲:収納型12インチ電磁砲3連装砲塔6基
収納型対空回転式機関砲:20ミリ5銃身単装20基
収納型対空電磁砲:単装20基 射程高度:10000m
対空ロケット弾発射口:10門
収納型誘導ロケット弾発射装置:2基
艦首魚雷発射管:16門(100センチ魚雷)
艦尾魚雷発射管:4門(100センチ魚雷)
側舷魚雷発射管:8門(100センチ魚雷)
垂直離着陸機用後部飛行甲板
艦載機射出装置
艦載機:25機(水上機又は垂直離着陸機)
宇宙空間航行能力,大気圏突入・離脱能力,大気圏飛行能力,海上・海中航行能力を
有す
装甲:完全防御型 耐46センチ3重装甲
これらの重巡、潜水艦に搭載する艦載機は衛星軌道上から投下する飛行爆弾を改造した
ものであった。
麻生がこの飛行爆弾に目を付けたのは単に航空機に近い形状をしていたからに
すぎなかったが、さすがはマッドサイエンティストの性格が植え付けたれている
兵器開発用コンピュータである。
すぐに独自に判断できるコンピュータを搭載し無人航空機を作り上げてしまった。
その性能は戦闘機と爆撃機と攻撃機を併せ持っていた。
艦載機 電竜
全幅 12.000m
全長 10.000m
全備重量 7,470kg
上昇限度 32,000m
航続距離 約95,000km
速度:マッハ3(垂直離着陸可能)
武装:長中距離対空ロケット弾×8 又は 魚雷×1 又は 1トン爆弾×2 又は
250kg爆弾×8 又は 対地対艦誘導弾×2 又は
対地対空ロケットポッド(30発)×2
間歇電磁砲×1
麻生はこれらの時代を超越した重巡,潜水艦,航空機だけで連合艦隊を側面から支援
できると考えていた。
3.
「そうだ、山本長官。 十二試艦戦はどうですか?」
十二試艦戦とは後の零式艦上戦闘機のことである。 従来の零戦の仕様は
エンジン 栄12型 950HP 3枚プロペラ
全幅 12.00m
全長 9.06m
最大速度 533km/h
航続距離 3500km
武装 7.7ミリ機銃×2挺,20ミリ機関砲×2挺
であったが、改造後は
エンジン 誉21型 6枚2重反転プロペラ
出力 2000HP
上昇限度 11700m
全幅 12.00m
全長 9.06m
最大速度 650km/h
航続距離 4700km
武装 20ミリ機関砲×2挺
爆弾 250kg爆弾×1発 又は 対空ロケット弾×2発
である。
エンジンの誉型は史実の栄12型の気筒数を増やした様な物ではなく、栄12型と
同等の大きさで同じオクタン価のガソリンで馬力は2倍ある上に燃費が良く、全くの
新型エンジンであった。 機銃の数が少ないものの『紫電改』以上の性能であった。
尚、機銃とは普通の機関銃のことであり、機関砲とは弾丸内に炸薬をつめた、
大砲の小型版として名称を使い分けられている。
「すばらしいの一言につきるよ。 君の連れてきた技術者のおかげで予期していた
性能以上のものが発揮できているよ。 三菱の堀越君は感心しきりだったよ。
なにしろ2000馬力、最大速度650km/h、航続距離4700kmになった
のでね。
それに機体全体に強度をもたせる様に作られているので頑丈な機体になった。」
麻生の連れてきた技術者とは開発用のコンピュータの『ブレインズ』と連結した
アンドロイドであった。 誉エンジンも実質的に『ブレインズ』が開発した物であった。
「20ミリ機関砲は銃身を長くし真っ直ぐ発射される様になったし、携帯段数も当初の
倍になっているし。 さらに主翼は折り畳みが3.5mにできたので空母に搭載できる
数が増えたよ。
爆弾投下機も改造されていて、対空ロケット弾か250kg爆弾を装備できるので
戦闘機にも爆撃機にも運用できるよ。 もっとも急降下が得意でないので水平爆撃
だがね。
試験飛行をしたパイロットは旋回性能が素晴らしいので格闘戦で期待できるし、高速で
一撃離脱戦法できると言っておったよ。 事実先日の陸海軍の航空機比較競技で
圧勝してね、陸軍も東条閣下の後押しもあり戦闘機は十二試艦戦を採用することに
決まったよ。
式制採用はあさって正式に通達することになっているんで、零式艦上戦闘機という
名前になるはずだ。」
十二試艦戦は機体の重量を変えず防弾の強化が行われた。 7.7ミリ機銃を外しても
削減できる重量は40kgである。 そこで薄い鉄板と薄い緩衝剤を何枚も重ねて出来た
防弾板を燃料タンクと操縦席に張り巡らしたのである。
また、ガラスは全て防弾ガラスが取り付けられた。 できればヒヒイロ合金を防弾に
使いたかったが、米国に齒獲されてヒヒイロ合金を量産されては堪らなかったのであえて
鉄板にしたのであった。 同時に練習用の2座席の十二試艦戦も作られていた。
陸軍にとってキ-四三は十二試艦戦に比べ武装面,航続距離が劣り、模擬空戦でも
足元にも及ばなかった為、南方方面の作戦に重大な影響をもたらすと判断し、キ-四三の
採用を諦めたのだった。
南方方面の作戦には長大な航続距離が必要であり、防御力の優れた列強の戦闘機を相手に
するため、重武装に空戦性能が重視されるからであった。
また、十二試艦戦は式制も待たず中国戦線に投入され、既に中国空軍相手に
パーフェクトな戦果をあげており、開発されたばかりで実績もないキ-四三は、受け入れ
られなかったのである。
「艦攻,艦爆はどうです。」
「まるで戦闘機だよ。 あまり早いので投下した魚雷が海面で跳ねることもある
くらいだ。
また、艦攻,艦爆も主翼が大きく折り畳める様になって空母搭載機数が増えてね、これは
ありがたかったよ。」
この九九式艦爆の性能は次のとうりである。
エンジン 誉21型 2重反転6枚プロペラ
出力 2000HP
上昇限度 9900m
全幅 14.1m
全長 11.4m
最大速度 580km
航続距離 4250km
武装 13ミリ機銃×2挺
爆弾 800kg爆弾×1発
乗員 2名
急降下爆撃も水平爆撃もでき、投弾後は戦闘機としても運用可能であり、史実の艦爆
『彗星』以上の性能であった。
さらに、九七式艦攻も投弾後は戦闘機としても運用が可能で、史実の艦攻『天山』以上の
性能を有していた。
エンジン 誉21型 2重反転6枚プロペラ
出力 2000HP
上昇限度 9900m
全幅 14.7m
全長 10.7m
最大速度 570km
航続距離 4100km
武装 13ミリ機銃×2挺
爆弾 800kg爆弾 又は 800kg魚雷
乗員 2名
一式陸攻は防御力も数段向上し空飛ぶ要塞にふさわしい性能となったのである。
エンジン 誉24型
出力 2500HP×2
上昇限度 11000m
全幅 25.0m
全長 20.0m
最大速度 590km
航続距離 6200km
武装 後部13ミリ連装機銃×1挺 側面20ミリ機関砲×2挺
爆弾 250kg爆弾×8 又は 800kg爆弾×2 又は
800kg魚雷×2
乗員 3名
であり、麻生の渡した図面の爆撃機が完成するまでは日本の主力爆撃機であった。
だが、B-17フォートレスと比べても遜色はなかった。 特に両側面にある
20ミリ機関砲はリモートコントロールで操作ができる優れ物であったが、それゆえ
試作に手間取り、式制採用は1年後となるのであった。
また、麻生は十二試艦戦,爆撃機や、現在『ブレインズ』に図面を作らせている
震電にはワグナーの張力場ウェブ理論が採用されており、機体全体で強度を持たせる
ようにして、重量・工数を極力減らす工夫をしていた。
「水偵も素晴らしいものになっていてね、艦隊の目となり、水雷戦隊の空の守りにも
なってくれるよ。 滑走路のない孤島に数機配備して偵察、潜水艦狩りをする
つもりだ。」
一番変わったのがこの零式水上偵察機(零式水偵)で、史実の水上爆撃機の瑞雲以上の
性能を有しており、爆装していなければへたな戦闘機顔負けの性能を有していた。
また、爆雷すら搭載できるので南方方面に出没する敵潜水艦狩りも可能であった。
偵察機能としても、百式司偵には若干劣るが、高性能レーダー,磁気探知機,逆探知機を
装備していて、百式司偵の小型水上機版といっても差し支えなかったし、戦艦同士の
撃ち合いのときの着弾場所の観察を行う為の水上観測機として利用もできた。
更に、飛行中はフロートは引き上げることができ、空気抵抗を減らす工夫がとられて
いたし、フロートを上げた状態では三胴の爆撃機の様になり、空母に着艦すらできた。
エンジン 誉21型
出力 2000HP×2
上昇限度 9900m
全長 11.5m
全幅 14.5m
最高速度 580km/h
航続距離 4100km
武装 機首20ミリ機関砲×2 後部旋回13ミリ機銃X1
爆弾 250kgX2 又は 800kg爆弾 又は 800kg魚雷 又は
航空爆雷
乗員 2名
史実の零式水上偵察機も孤島などに配備され偵察、潜水艦狩りを行い、艦隊の目として
幅広く活躍し、時には小規模な破壊活動にも手軽に利用されていたのである。
この新型の零式水上偵察機はさらに戦闘機,攻撃機としても活躍するだろう事は容易に
予測できた。
また、水偵を搭載できそうな全ての艦艇にこの零式水偵を搭載できるように改装されて
いた。 山本は戦艦,重巡,軽巡だけでなく、潜水艦にも搭載する予定であった。
「爆弾や砲弾にも色々工夫を凝らしてもらってね、同じ炸薬でも威力が格段に
上がった。
東条閣下が成形炸薬弾と携帯ロケット弾を開発してもらって喜んでおられたよ。」
「これからの航空戦は格闘戦から編隊を組んでの一撃離脱方式が主流になりますので、
パイロットには編隊を組んでの一撃離脱方式を訓練させて下さい。
また、私の連れていった技術員には次に手がけてもらう事がありますので、ラムウ国に
帰ってもらいますが、兵器の改造の妙案が出ましたら逐次連絡を入れます。」
「うん。 よろしく頼む。 航空隊の訓練には早速編隊を組んで一撃離脱戦法を
行う様にしよう。」
4.
「あと阿蘇にレーダーを積んできましたので、空母等に搭載して下さい。」
「ありがとう。 レーダーの製造が遅れている上に性能が今ひとつなので、君の作って
くれた優秀なレーダーが欲しいと思っていたところだったのだ。」
「そうですか、それではもっと運んできましょう。 それとレーダーと電算機内蔵の
自動対空機銃も持ってきましょう。 重巡,軽巡,駆逐艦等の対空防備の手薄な艦に
搭載して下さい。
特に軽巡は中途半端な攻撃力ですので、防空専用船として主砲,魚雷発射管を撤去し
高角砲や機銃を増やして下さい。 重巡も中途半端な攻撃力の船は防空専用に作り替えて
下さい。 その為にレーダー・電算機内蔵機銃を持ってきます。」
「すまないが、お願いするよ。 しかし、ハワイとヤルートの中間というと
ジョンストン島近辺の島だな。 日本まで運ぶのに日数がかかってしまうのではないか?
それに発見される可能性もあるが。」
「ご心配なく。 阿蘇型重巡は8隻そろいましたので輸送に支障はきたしません。
なんと言っても阿蘇型重巡の最大水上速度は87ノットですから、魚雷すら追いつけ
ません。
また電磁水流推進方式ですのでスクリュー音が無く、スクリュー音探知型誘導魚雷も
無効になります。
ジョンストン島からは350海里 離れており哨戒機も滅多に来ませんし、いざと
なれば潜水航行も可能ですから見つかる心配がありません。」
電磁水流推進とはフレミングの法則により海水を高速に後ろに加速させて推進力を得る
方式であり、大容量の電力が必要なのである。
「海上87ノット? 潜水航行? それはすごい! その様な性能を聞くとますます
欲しくなるな。」
「長官!」
「ははは、冗談だよ。 しかし、どうだろう、大和級戦艦の不沈性能を持って空母を
作らないか?」
「・・・」
「どうした?」
「いえ、歴史はくりかえすのかなと思ったのです。」
「どういうことだ?」
「ミッドウェイで空母を4隻失った連合艦隊は、大和級戦艦として建造中だった信濃を
急遽、空母に改装します。」
「ほう、大和級戦艦を空母にしたのであれば不沈空母だな。」
「ところが、横須賀から最終改装の為に呉に回航途中に敵潜の魚雷1本で沈没して
しまいました。 不沈空母たりえなかった原因は戦艦として作られた船体を無理に空母に
したための構造不良でした。」
「だが、君が作ればそんなことにはならないだろう? 大和級不沈空母 信濃を作って
くれないか?」
「わかりました。 戦艦信濃はキールを作ったばかりですので直ぐに変更が
できます。」
「ところで、ラムウ国は自衛用の空母を持たないのかね?」
「わたしは空母を作るつもりはありません。 もしつくるとしたら航空戦艦です。」
「ほう。 重巡でさえすごい性能なのだからその航空戦艦とやらはもっとすごい戦艦に
なるのだろうな。」
「ええ。 既に設計は終わっています。 ただ、レーダーや対空火器の製造で戦艦を
作る余裕がないですし、私は重巡で十分だと思っています。」
「その航空戦艦だが、どの様な船になるのか少し聞かしてくれないか?」
「そうですね、戦艦大和が駆逐艦の様に見えるくらい巨大な船になります。
基本は阿蘇型重巡の仕様をふまえています。 違うのは主砲の大きさと副砲の搭載、
収容航空機数と対空兵器数ぐらいです。」
「戦艦大和が駆逐艦並に見えるのだから搭載する主砲は大和の46センチ45口径
よりも大きいだろうな。」
「ええ、20インチ・・・約51センチ55口径を予定しています。」
「それはすごい! 儂も乗りたいものだ。」
「おや? 米内閣下は航空機主戦論者ではなかったのですか?」
「そうだが、その戦艦は空母でもあるのだろう?
儂が乗ってもおかしくは無いと思うが。」
「そう言えばそうですね。」
3人は笑いながらしばし航空戦艦についてのロマンを語り合った。
5.
「そうだ、君はラムウ国に行っていたので知らないだろうが、東条閣下の人命尊重路線
への変貌は周りの連中が驚いていたよ。」
「えっ? 何があったのですか?」
麻生は深層意識に人命尊重を叩き込んだ結果がどうなったかまだ確認していなかった。
「うん。 正月の訓辞でね、『我々は皇軍である。 つまり天皇陛下の軍隊であり、
我々の行動はすなわち天皇陛下の名誉のために行われる物である。 我々が民間人に
さげすまされるような事があれば、それは我々が天皇陛下の御名を汚した事になる。
よって我々は普段から節度ある行動を取り、一般人の常識からみても尊敬される様に
ならなければいかん。
海外においては我々は居候であるのでより一層襟を正さねばならないのである。
もし、民間人に迷惑をかける者がいれば理由を問わず厳罰に処す!
また、戦いで散るのは武人として最後の手段である。 我々は生き延びて陛下の
御為にご奉公するのが第一義である。
簡単に死を選ぶは皇軍のあるまじき行為である。』とね。」
「そんなことがあったのですか。」
「ああ、ノモンハン事件の時に諜報部が独ソ不可侵条約の証拠を掴んできたので、
全面的に君を信頼したのだろう。 我々は君と初めて会った翌日に麻雀をしてから
信頼していたがね。」
ふと、山本の視界に『ルナ』が入った。 しばらくその美しさに見とれていたが、
やがて何か重大なことに気づいた表情で麻生に問いかけた。
「麻生君。 ひょっとして彼女も阿蘇に乗ってきたのかい?」
「ええ、そうですけど。 それが何か?」
「普通、軍艦には女性は乗せないものなんだぞ。」
「ええ!? どうしてです?」
「軍艦は女性称で呼ばれ、女性扱いされる。 それに女を登場させたら軍艦が嫉妬して
思わぬ事故が起こるのだ。」
麻生は唖然とした。
「これは山本長官とも思えない発言ですね。 本当にそんな迷信を信じておられるの
ですか?」
「迷信ではない。 世界中の海軍の常識なのだ。」
そこに米内が助け船を出してきた。
「まあ、いいではないか。 麻生君も彼女も乗組員ではないのだから。」
「よくはありません。 どの様な理由であれ軍艦には女性を乗せないのが常識であり、
規則なのです。」
「頑固だな、君も。」
「頑固でなければ、かわいい部下の命を守ってやれません!」
海軍は同じ船に上官と将兵が乗り込むので、いわば運命共同体のような意識がある。
軍令部の無茶な命令は上官が突っぱねるという場合も開戦前には見かけられた。
この様に割と部下の命を重視する風潮があった。
したがって「回天」,「桜花」に代表される特攻兵器は昭和18年初頭には既に青年士官
から再三に渡る採用の血書でもって嘆願されたが、必死の故をもって上層部の容れる
ところではなかった。
昭和19年になり、戦局がいよいよ悪化し、艦艇の損耗も甚大、山本など上層部の戦死も
多くなり、反対する人間が減ってやっと正式に採用されたくらいである。
山本の頑固さはこの様な部下の命を守るという海軍の風潮に裏付けされていた。
「じゃあ、こうしましょう。 これからは航空機で来るというのはどうでしょう。
航空機ならば船と違って早いですから時間の節約にもなりますしね。」
「すまないね。 しかし、長距離飛行できる航空機をこれから作るとなると時間が
かかりすぎないかい?」
「当面は九七式飛行艇を使いますが、今、川西で試作中の飛行艇が完成次第、
乗り換えようと思います。」
「ああ、海軍が要望も出していないのに川西が勝手に作っているやつか。」
「あれはいいですよ。 史実では二式大艇と呼ばれ偵察、潜水艦狩りに大活躍した
機体です。 戦後、その完成度の高さから、米軍が飛行艇の研究材料にしたくらい
です。」
「ほう、そんなに凄いのかね。」
「ええ、自分たちの考えを貫いて、使い安く、完成度も高くなっています。
このまま海軍からは何も注文を出さない方が良い機体ができますよ。
それに飛行艇ですから滑走路が要りません。
途中の南鳥島あたりで給油できますので、長距離飛行が可能です。」
「川西の飛行艇か・・・。 採用の方向で完成度をたまに報告させるか。」
6.
地下工場にとって艦艇の改装やレーダー、電算機内蔵の対空砲や船舶用のレーダーを
量産する事では工場の生産力のほんの0.01パーセントにも満たなかった。
では地下工場では何を作っているのかといえば、宇宙戦艦の改造と水中ゲートの拡張
である。
宇宙駆逐艦、宇宙巡洋艦、宇宙重巡洋艦、宇宙戦艦を海上・海中でも使えるように
改造しており、完成は間近であった。
宇宙駆逐艦等はその排水量から戦艦と定義していた。
これらの船は基本的に昭和15年の時点では月の地下工場上空に隠れているであろう
時空爆弾を発見し、齒獲して元の時代に帰るために作っているのであった。
なぜ海上・海中航行能力が必要かというと、地球に落下した際に宇宙船発着場の
入り口が海面下になったからであった。
大和,武蔵の搬出用に別途水上へ地下工場への出入り口を急造し、造船された大和,
武蔵はここから海上に出たのであった。
だが、宇宙船となるとその大きさは大和,武蔵の比ではない。
水中にある宇宙船出入り口からでなければ出入りできなかったので、急遽 宇宙船
出入り口に水中ゲートを増設したのであった。
また、大和,武蔵には人が操作することを前提として建造したので、容積の問題で
海中航行能力が付けられなかったし、装甲も3重ではなく2重にせざるをえなかった。
頑固に3重装甲に固執した『ブレインズ』ではあったが、光子魚雷を撃ち合うような
戦闘が起こり得ないことから、渋々2重装甲で建造したのだった。
光子魚雷を大気圏内で使用すると極端に威力が落ちるのである。
その威力の減少たるや目を覆わんばかりで、海中で電磁砲を使用する方がまだ兵器として
使えると言うほどであった。
結局、光子魚雷の使用は宇宙空間を航行する可能性のある艦艇にのみ利用できるように
して、大気圏内は通常の魚雷を切り替えて使うこととなった。
建造用の資材はボーリングを行い、マントル層から鉄を採取し、希少金属は海底の
泥から採取していた。
海上に出ている月の地表部分には疑似ジャングルを施し、海岸の所々にラムウ国の
国旗を立てていた。
ときおり米国の哨戒機が遙か彼方を通過したが発見されることは無かった。
この頃、十二試艦戦はその高性能ゆえに式制採用を待たずに量産され、中国大陸に
派遣された。 パイロットは性能でも技量でも劣る中国空軍相手に経験を積んでいた。