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第3章 兵器改造

第3章 兵器改造


1.



 翌日、山本五十六 海軍次官と米内光政 海軍大臣は密かに相談していた。


 「次官はあの麻生という男を信用できると思うかね?」


 「そうですね、我々が連れて行かれた潜水艦と言い、帰るときに使われた潜水もでき

陸上走行可能な車と言い、未来から来たと信ずるには十分ですし、話もすじが通って

います。

問題は彼の目的が彼の言うとうり、軍の体質改善と対米戦の勝利だけなのかという

事です。」


 「うむ、どうやって確認するかだな。」


 「麻雀はどうでしょう?」


 「はは、博打好きの山本らしいな。 だが、腹に一物を持つような人柄かどうか

確かめるにはそれしか方法がないか。 

よし、明日にでも呼び出して麻雀で確認するか。」


 「ついでに、人相見の水野にも見てもらいましょう。」

 

 「はは、科学的根拠は無いが水野の占いはよく当たるからな。」


 山本が航空本部にいた頃、パイロット適性者を占いで選別していたのは有名な話で

あった。



 そして、腕時計型通信機で麻生は海軍省に呼ばれたのであった。

麻生が海軍省の山本の執務室に来たとき、丁度 実末秘書官から人相見で有名な水野が

来たと連絡があった。


 「水野 義人、入ります。」


 「おう、忙しいところすまん。」


 「いえ、私も次官にお会いしたいと思っていたところです。」


 「さっそくですまないがこの男を見てくれないか。」


と麻生を指した。


 水野は麻生の手のひらを見るとみるみる顔色が変わっていった。 

水野が黙ったままなので山本はしびれを切らして、どうだったのか聞いてみた。


 「自分は今までに何万人もの人相,手相を見てきましたが、この様な方に出会ったのは

初めてです。 こう言うのもおかしいのですが、この方は何処か遠くから来られたように

お見受けします。

 この方の人生は今が一番波乱に富んでいる時期です。 

しかし、この方は大変幸運に恵まれておられますし、大変強力な力をお持ちです。 

その力がどの様なものかは判りませんがこの方は日本を救うことができます。

 先にお話ししようと思っていたのですが、ここ数日、航空隊の方々の相が良い方に

変わってきたのです。 また、ここに来る途中で合った陸軍の連中や町の人もです。 

さらに、海軍省のみなさんの相も変わっているのです。 特にこの方は理想的な相を

しています。」


 山本はそれを聞くと水野を下がらせた。 そして、ニヤリとして麻生に向いた。


 「さて、君は麻雀ができるかね?」


 「はあ。 一応は・・・。」


 「よし、仕事が終わるまで何処かで時間をつぶしていてくれ。」



 麻生はどう言うことかよく判らなかったが、夕方まで海軍省近辺を散歩して

暇をつぶした。 この時の麻生の服装は時代に合わせた背広姿であったが、それでも

町行く人々の服装に比べれば格段に良かった。

 海軍省に来る道々で田舎と言うことに驚いたが、赤坂でさえ驚くほどの田舎であった。

これで世界最大の国力を誇る米国と戦おうというのである。 麻生は暗澹たる気持ちに

なって海軍省に引き返した。


 仕事が終わった山本は麻生を連れて海軍省を後にした。

着いたところは普通の民家だった。 主らしい女の人が出てきた。 名前を梅竜と言った。 

その名前で、麻生は山本五十六の愛人宅に来たのだと思った。


 「こちら海軍さん?」


 「ああ、麻生君だよくしてやってくれ。 後で米内さんが来るから久しぶりに麻雀を

しよう。」


 「わぁ、米内さんがみえるの? ほんとに久しぶりね。」


 しばらくして、米内が現れ麻雀が始まった。


 「あの、僕はお金を持っていませんが・・・。」


 「はは、君から取ろうとは思わんよ。」


 麻生はしばらくして、自分の知っている麻雀とルールが違うことに気が付いた。 

他の人の上がり手口を見て上がり方を研究している間に半荘が終わってしまっていた。



 麻雀が終わってから、山本は口を開いた。


 「4月8日に津波が発生したという無線を傍受したのだが、あれは君が発信したのでは

ないのかね?」


 「すみません、もっと早く連絡したかったのですがこれ以上早く連絡する方法が

無かったのです。」


 「いや、君を責めるつもりはないんだ。 なにせ的確な避難方法を連絡してくれたので

連合艦隊は津波の被害を受けずにすんだし、人的被害もあまりでなかったんだ。 

むしろ感謝しているのだよ。

 占いで君は日本を救ってくれると出たし、麻雀で君の誠実な性格も判った。

今日1日考えたのだが、対米戦を避けようと努力したが、避けられないとあっては

致し方ない。 ここは一つ君に賭けて戦い抜こうと思う。 

悔いを残すのは嫌だからな。」


 「ありがとうございます。 全力をつくし、必ず勝利してみます。」


 「さて、どうする。 まず何から手を着ければいい?」


 「ランチェスターの法則では武器の性能が格段に違えば兵力が少しくらい足りなくても

互角に戦うことができます。 ですから陸海軍の兵器性能を引き上げる必要があります。

まず、私ともう一人の技術者を海軍代表と言うことで航空各社に入って設計変更

できるように取りはからって下さい。」


 「よし、航空本部に掛け合ってくるよ。」 


 「航空機の改造が一段落したら船舶の改造にかかります。」


 「では、横須賀の鎮守府にも出入りできるように手配しておくよ。」


 その後、今まで黙っていた米内は組閣後、陸軍の協力を得る方法を麻生と打ち

合わせた。


 翌日、山本は麻生を軍事顧問に、麻生の連れてきたアンドロイドを技術顧問として

海軍省に自由に出入りできるように取りはからった。 



2.



 それからの麻生は多忙であった。

 開発・技術用のアンドロイドと共に零戦の設計変更、エンジンの強化、各種空母

搭載機の設計変更を行っており、海軍省に入り浸りであった。

 全ての航空機は防御が無い状態だったので強力なエンジンを開発し防御を強化し

増えた重量を減らす工夫をする方針で設計変更をしていた。


 まず、麻生が取り組んだのは強力なエンジンの開発である。 

『誉』と名付けた2000馬力エンジンの作成である。 

エンジンは『ブレインズ』によってすぐに設計が終わった。 

『ブレインズ』は熱解析等のシミュレーションも行っており、試作する必要もないほど

完璧な設計であり、図面道理に作れば直ぐに実用可能であった。 

この『誉』を中島,三菱,愛知等の航空会社に航空本部が発注させるように山本に

頼んだのであった。

 同時に、工作用の機械も新規に設計し、各航空会社にこの工作機械で試作,量産する

ように航空本部に注文した。


 『誉』エンジンは各会社に衝撃を与えた。 大きさは中島の『栄』エンジンとほぼ

同等であるが、馬力が2倍,燃費が2/3という優れたものであった。 

ガソリンもオクタン価の低い通常の航空ガソリンで良く、各航空会社は競って『誉』

エンジンを作り研究していった。 

 また、新型の工作機械は従来の2倍の速さで高精度な加工ができたので、生産力は

飛躍的に上がった。


 山本は航空本部を説得し、麻生を航空本部の総代という肩書きで、各航空会社で試作

している新機種の改造を行える様に手配した。 『誉』エンジンを開発した麻生の

実力と、元航空本部長であった山本のたっての要求もあり、航空本部は反対するはずも

なかった。


 麻生が最初に改造を手がけたのが後に零戦と呼ばれる十二試艦上戦闘機(十二試艦戦)

であった。 

 三菱の堀越技師をたずね、『誉』エンジンを搭載した十二試艦戦の設計変更を行った。

麻生は十二試艦戦に対し、次のような注文を付けた。

  1.栄エンジンから誉エンジンへの変更

  2.二重反転プロペラによるエンジントルクの相殺

  3.操縦席,燃料タンクの防弾の強化

  4.後方上部の敵機が確認できること

  5.20ミリ機関砲は初速が早く真っ直ぐな弾道であること

  6.両翼に一発づつ対空ロケット弾又は60kg爆弾の搭載

  7.胴体に増槽燃料タンク又は250kg爆弾の搭載

  8.爆弾を搭載した場合は水平爆撃が可能な照準器であること

  9.通信機とレーダーの搭載

 10.高高度での高速性の維持

 11.主翼を3.5m折り畳めること

 12.生産しやすいこと


 この要求に九六式艦戦,十二試艦戦を設計した天才、堀越 二郎は

「これでは1から設計のやり直しだ!」 と悲鳴を上げた。

だが、麻生の厳しい要求に対し、技術顧問という名目で連れてきた、アンドロイドは

堀越の見ている前であっという間に図面を修正して、直ぐに試作機が出来るように

なった。


 アンドロイドは見た目だけでは人間と区別できないほど精巧に作られている。

堀越は南方の土人の様な面立ちの男があっという間に図面を書き上げたのに仰天して

いた。

 しかも、自分で図面を確認すると新しい斬新な技術がふんだんに取り入れられて

いるではないか。 改めて堀越は航空本部の総代と技術顧問という男の実力を見直した

のである。


 堀越が感嘆するのも無理はない。 図面を書いたのは結局『ブレインズ』なのである。

開発・技術用アンドロイドは地下工場のコンピュータの『ブレインズ』と直結して

いたのである。 

『ブレインズ』は図面を書きながら各種シミュレーションを行っていたので、その

完成度は抜群であった。


 麻生が次に手がけたのが愛知の十一試艦上爆撃機(十一試艦爆)である。 

十一試艦爆は後の九九式艦上爆撃機(九九式艦爆)である。

『誉』を積むように設計変更をし、急降下爆撃はもちろん水平爆撃も可能な様に

変更した。

更に速度向上のため、抵抗板を廃止し穴あきフラップを採用し引き込み脚にした。


 それから中島の九七式艦上攻撃機(九七式艦攻)の改造である。 『誉』を積み、

3座を2座に変更し、引き込み脚採用で速度向上を計った。


それぞれの試作機が作成されている間に訓練用2座の十二試艦戦の設計を行い、

爆撃機用のエンジンとして『誉』の強力版『誉』24型を開発した。


 次に三菱の十二試陸上攻撃機(十二試陸攻)の改造である。 

十二試陸攻は後の一式陸攻である。 これは7名の搭乗員を3名に削減し、空いた

スペースに燃料タンクを置き、外板を厚くし縦通材を減らし耐久性を向上させたので

あった。 

その上、爆撃機用の強力な『誉』24型を積み武装強化,携帯爆弾重量を増やした

のである。 

また、敵機の追撃を振り切る為、ロケット推進装置も設置した。


 そして陸上偵察機は後に百式司令部偵察機(百式司偵)と呼ばれるキ-四六を

改造したのだった。 

 キ-四六は陸軍機である。 陸軍機の改造については陸軍省次官の東条が麻生を連れて

工場まで説明に行ってようやく実現できたのだった。

 キ-四六の改造項目はエンジンに『誉』24型を積み、地下工場に作らせたレーダー,

磁気探知機,電波逆探知機も搭載し、敵艦隊の早期発見を可能にした。

 さらに、推進力と速度向上の為に補助推進装置(今でいうRATO)を装備して、

敵機の追撃を振り切る事が可能な様にしていた。


 最後にB-17フォートレスに匹敵する爆撃機の図面は東条を通じ陸軍に渡されて

おり、開発・生産できる工場を探すように東条に督促していた。


 むろん各機種とも生産性低下になる要因は極力排除されていた。


 改造を施した各機種はエンジン馬力が向上したので、操縦席と燃料タンクに十分な

防弾を施した。 防弾鋼板は薄い鉄板をパイのように何層も重ね、鉄板との間は特殊な

緩衝材を薄く接着剤の替わりに詰めていた。 

この緩衝材は30mの高さから落とした生卵をヒビも付けずに受け止める事ができる

特殊な物だった。 さらに、燃料タンクの周りには厚いゴムを施し、風防は防弾ガラスに

変更された。


 また、各機種には無線,レーダーが標準で取り付けられており、夜間攻撃も可能に

なっていた。 排気管も単排気管にし、真後ろに向け推力に寄与するようにされ、

風防内にバックミラーが取り付けられ、後ろ上部の警戒も出来るようにされた。


 特に艦戦と陸攻は排気タービン過給器が取り付けられ、高高度での高速性を維持できる

ようになっていた。


 『ブレインズ』の完璧な設計とシミュレーションにより風洞実験や試験飛行は不要

なのだが、やはり軍隊といえどお役所仕事の所もあり、風洞実験と試験飛行で時間を

費やすのであった。


 仕上げとして山本に十三試艦爆以降の開発を中止し、航空偽装の充実を行うように

頼み込んだ。 山本は航空本部に掛け合い、改造した十二試艦戦,十一試艦爆,

九七式艦攻より性能の劣る十三試艦爆以降の開発を中止させた。

 改造した十二試艦戦,十一試艦爆,九七式艦攻の3機種は他に開発中の航空機の

数段上を行く性能なのである。 

山本が散々文句を付けて開発中止を訴えても誰も反対する根拠がなかったのであった。

むしろ、航空機主戦論者のである山本が十三試艦爆以降の開発を中止するのを納得

してしまうのであった。



3.



 麻生が航空機改造にかかりっきりの時、山本は軍令部に働きかけ、軍令部総長の

伏見宮に軍備を承認させる為に説得していた。 軍令部総長の伏見宮は親ドイツ派で

同盟賛成者であったが、米英開戦の為の軍備の必要性を理解していなかった。


 「もし三国同盟が締結されれば、米国との戦争は避けられません。 その時になって

海軍は戦争する気がないので準備していませんでしたでは通りません。」


 「しかし、米国が戦争を仕掛けてくるとは思えないのだが。」


 「いえ、入手した情報では、米国は影でドイツを煽り、ヨーロッパ各国には

ベルサイユ条約を理由にドイツを締め付けるように工作しています。」


 「そんなことをしたらまたドイツが戦争を起こすではないか!」


 「米国の狙いはヨーロッパで戦争を起こして、列強の力を弱めることにあるのです。

もし、三国同盟が締結されれば米国は我が国にも戦争を仕掛けてくるでしょう。」


 「それなら三国同盟を締結しなければいいのだな?」


 「いえ、仮に三国同盟が締結されなくても、米国の真の狙いはヨーロッパ列強の

力を弱め、アジアの利権を奪う事にありますので、事変の解決がこのまま着かなければ

それを理由に戦争を仕掛けてきます。

 もし今後、事変が解決したとしてもアジアの利権を奪おうとする米国は必ず我が国に

戦争を仕掛けてきます。」


 「本当かね、それは。」


 「はい、確かな筋からの情報です。」


 「そうか、そう言えば次官はスパイの大本締めの様な所にいたんだったな。」


 海軍省次官の山本はこの時、内閣情報部長も兼任していた。

陸軍の様にスパイの専門学校までは作りはしなかったが、それでもスペインや米国等に

武官として派遣した部下はスパイ活動をしていた。


 このとき、軍令部次官の古賀 峯一も口を開いた。 古賀は山本と同期ではあるが

航空機主戦論者の山本と対立する考え方を持つ、ガチガチの艦隊主戦論者であった。


 「私も軍備に賛成です。 万一、米国が戦争を仕掛けてこなくても、それはそれで

いいではないですか。 航空機などは事変の早期解決にも役立つと思いますが。」


 「海相はどう考えているのかな。」


 「米内海相も軍備に賛成されています。」


 「そうか、皆が軍備に賛成ならば私は反対する理由はない。」


 軍令部総長の伏見宮は積極性が無く、周りの意見が一致すればそれで良いという

性格で、自分の意見というものをあまり言わない、いわば御神輿の様なタイプであった。

こうして、軍令部は対米戦を意識した軍備を始めたのであった。



 麻生の努力により各機種とも、試作機作成に入り式制採用は遅くても来年初頭になる

所までめどが立ち、麻生は次に艦艇の改装案を考えていた。

 そんなとき、山本五十六が相談したいと行って来た。 山本の執務室に入ると

米内光政海相が来ていた。


 「麻生君、困ったことになったよ。」


 切り出したのは米内だった。


 「君の言うとうり大和級戦艦の建造を中止しようとしているのだが、鉄砲屋の連中に

反対されて進まないのだよ。 

それどころか人事部にまで根回しをして儂を予備役にしてでも作ると息巻いて

いるのだよ。」


 「そうですか、ようするに何らかの形で大和級戦艦ができればいいのですね?

それではその鉄砲屋の連中に言って下さい。 日本で作るよりも早く、安く最新の技術を

駆使した戦艦ができるので日本で大和を作るのを中止し、外国に発注するのだと。」


 鉄砲屋とは巨大な大砲を巨大な船に積みこみ、主砲の優劣こそが艦隊決戦を決する

ものだと信じる一派であった。 

大艦巨砲主義者とも言われ、この頃は何処の国の海軍もこの大艦巨砲路線をとっていた。

 この当時、戦艦を持つということは、現代でいえば核兵器を持つのと同じぐらいの

国際影響力があったので、航空機の優位性に目を向ける者は少なかったのである。

しかも、大和級戦艦の建造は彼らの悲願であった。

 だが、太平洋戦争では『敵艦見ゆ』の報告を受ける前に航空機で決着が付いている

場合がほとんどであり、真珠湾攻撃以降、大艦巨砲主義は時代の流れから過去のものに

なるのであった。


 「その様な国があるのかね?」


 「大和の設計図を貸して下さい。 私が大和を作ります。 ただし大部分は設計図を

参考にしますが、内装や諸設備、対空火器等はこちらで変更させてもらいます。」


 「大和の建造中止しろと言った君が大和を作るとはどう言うことだね?」


 「私が言ったのは大和の建造に国力を傾けるのを止めて、航空機に力を注いで

ほしいと言ったのです。 

私が戦艦を作る分にはあまり国力を使わなくてすみますからね。

 私が大和級戦艦を建造するには1艦当たり金塊20kgが電子装備の材料として

必要です。 ま、大和と武蔵併せて40kgの金塊で最先端の技術で作られるのですから

安い物でしょう。 

米内閣下は組閣されたらつじつま合わせの為に、太平洋上に新たに島を発見したので、

ラムウ国という独立国家として承認して下さい。」


 「何だねそのラムウ国とは。」


 「私がハワイとヤルートの間で作った人工島です。 ここで大和を建造します。」


 「人工島? そういえば初めてあったときは潜水艦の中だったな。」


 「はい、なにせ時間移動するには膨大な設備が必要ですので。」


 と麻生は適当に地下工場の事をごまかした。


 「そうだ、国内では駆逐艦の燃料タンクを大きくして航行距離をのばす工事と輸送船,

タンカーの製造を優先して下さい。 戦艦,重巡,空母はラムウ国で改装します。」


 「ありがたい、そうしてくれるか。 津波の影響で太平洋岸の工廠は軒並みやられて

しまっていて、君の言うような改装はとても開戦までに間に合わないと思っていた

所なんだ。」


 「できれば、ハワイ奇襲時の長距離無線封鎖航海の練習も兼ねてラムウ国まで

航行して下さい。」


 麻生は今の状況下で地下工場の事を話すには人類はまだ早すぎると思った。

もし、ここが太古の超科学工場という秘密を明かした場合、ただの超兵器製造工場と

なる事を恐れたのである。 

したがって、艦艇の改装や造船に用いる技術は麻生の時代の科学力レベルに合わせよう

と思った。 そうすれば、今の日本軍でも操作は習熟できるし、時代を一歩先取りした

兵器を使うので対米戦も有利に戦えると考えたのだった。


 そして現在、太平洋上の小さな島になっている地下工場を独立国家とし、日本のみと

交易をするようにして、地下工場の秘密を他国に漏らさないように考えた。

 それも交信は東条,米内,山本としかせず、彼らの依頼する物しか製造しないと

決めた。 

こうすることにより、麻生の存在と地下工場の秘密は守られると考えた。


 ちなみに、ラムウ国という名前は1万5千年前に地下工場を造ったラムウ帝国から

とったものである。


 また、麻生は鉄砲屋が反対することは内心予想していた。 麻生にとって大和を

自分の手で作れる事はうれしかった。

自分知識と地下工場の実力をもってすれば航空機に強い戦艦にする自信があった。


 「ところで、水上機の改造はしないのかね?」


 「史実では艦艇搭載型の水上機はこれといった活躍の場がありません。 ただ、軽巡を

旗艦とした駆逐艦で構成される水雷戦隊には、軽巡に搭載できる水偵が必要に

なりますね。

判りました、艦載兼用の水偵を開発しましょう。」


 麻生は潜水艦狩りもできるような仕様で水上機偵察機(水偵)の仕様を煮詰め、愛知に

赴きアンドロイドに、後の零式水上偵察機となる十二試三座水偵の機体の設計を変更

させた。 

この水偵の場合、設計変更というよりも、新規設計と言った方が正しいぐらいの

変更がされた。



4.



 航空機改良に一段落がついたときは5月8日になっていた。 


 麻生は艦艇改装のため、地下工場に帰って改装・生産の指示をしていた。 

麻生が帰ってきたときに出迎えてきたのは『アフロ』が作ったアンドロイドであった。 

 『アフロ』が地下工場の持てる技術の粋を集めて作ったと豪語するだけあった。 

通常の半有機質製アンドロイドでさえ人間と見分けがつかないのである。 

ましてや完全有機質製で技術の粋を集めて作られては、本物の人間と思うのは

無理がなかった。 


 『アフロ』の作ったアンドロイドは息を飲むくらい美人で秘書機能はずば抜けており

場合によっては地下工場の全てのコンピュータとリンクして情報分析すら出来た。

 護衛も格闘,暗殺等全ての戦闘行為ができた。 家事ももちろんだが、性処理に

おいてはあらゆる男の欲望を満たすことができた。 

このアンドロイドのおかげで、日本にいる間に溜まった麻生の精神的疲れが癒されて

いった。

麻生はこのアンドロイドを『ルナ』と名付け、何処に行くにも連れて行った。


 11日になってノモンハンで武力衝突が起きた。 東条の制止を振り切って関東軍が

暴走したのであった。 東条からどうすればいいか相談の通信がきた。


 「そうですね、天皇陛下の大命でもあればいいのですが取り合ってくれない

でしょうね。 ここは命令を聞く部隊は極力後方に退避させ、戦力の温存を図る以外に

ないですね。 

後は、スパイを使って独ソ不可侵条約の正確な情報を関東軍に突きつける方法をとって

見て下さい。 

とにかく28日には反撃がありますので、それまでに平沼首相に言って早期停戦を

働きかけて下さい。」


 「ふむ、君に指摘されて目下、諜報部の強化を図っていたところだ。 丁度良い

機会だから我がスパイ陣の実力を試してみよう。 首相にもすぐに進言しよう。」


 「どうせ辻参謀の仕業でしょう? もし、独ソ不可侵条約の情報を突き付けても

言うことを聞かない場合は近く米国と開戦すると伝えて強引に内地に引き戻してみては

いかがですか?」


 「しかし、それでは米国との開戦準備を敵に悟られる可能性があるぞ。 

とりあえず、独ソ不可侵条約の事を伝えてみよう。」


 東条はスパイを使い、独ソ不可侵条約の確証をつかむことを決めた。 

もっとも、麻生はスパイをあてにしなかった。


 まったく陸軍は自己中心的で頭の固い頑固な連中が多いものだと麻生は憤りを感じた。

中央の指示を聞かず暴走する陸軍の体質をどの様に改善するか麻生は悩んだ。


 東条のスパイによるドイツとソ連の不可侵条約の証拠が関東軍に示され、関東軍は

戦闘を控えた。 また、東条に依頼された平沼首相はすぐさまソ連とノモンハン事件での

停戦を打診し停戦協定が締結された。 

 ただ、28日のソ連・モンゴル軍の反抗には間に合わず、関東軍は多大な犠牲者を

出したのであった。

 麻生はこの事を利用して陸軍の兵器改造をするつもりで米内,山本に追求するように

要請した。

 そこで海軍はこの失態を責め、装甲が薄くても大口径砲を搭載した砲戦車の生産を

要請した。 同じ様な要請は陸軍の戦車学校からも上がっており参謀本部は砲戦車の

開発・生産に取りかかった。



5.



 再び山本五十六から連絡があった。 超長波を使った通信は通信装置が生産し辛く、

全ての艦船に設置できそうもないということだった。 超長波での通信は、通常の

通信機では傍受できず、更に陸海上から海中の潜水艦にも通信ができるのである。

通常の電波では海中の潜水艦との連携は不可能なのだが超長波なら可能なのである。

 麻生はトランジスターの特性,生産方法を書いた書類と原子爆弾の基本的な構造と

理論を書いた書類を山本に託した。

 山本は原爆を仁科理科学研究所に研究を依頼し、トランジスターは海軍で生産に

着手した。


 翌月にはトランジスターを使った近接信管、電算機、通信機などの開発のめどが

ついていた。

麻生は船舶の装甲に理想的なヒヒイロ合金の製造を日本でも作らせようとしたが、

日本の製鉄技術では不可能である事が判って諦めた。


 最初にラムウ国に改装のためやってきたのは戦艦金剛,空母赤城であった。 

乗組員はラムウ国の海上にできている工廠に金剛,赤城を入渠させると、随伴してきた

輸送船で帰国した。 

改装が終わる頃、再び別の戦艦と空母,重巡でやってきて改装の終わった金剛,赤城

に移り、訓練を兼ねて帰国する手はずになっていた。

このラムウ国までの航海で山本はハワイ攻略の成功の可能性を見出し、研究を始めた。



 8月22日には独ソ不可侵条約が締結され、平沼内閣が総辞職した。

 9月1日に独軍がポーランドに電撃侵攻し、ここに第二次大戦は勃発した。 

独軍の破竹の連勝で国内世論は独軍がヨーロッパを席巻するという盲信が広まった。

 ドイツの勝ち馬に乗り、あわよくばヨーロッパ列強が持っている太平洋の植民地を

頂こうというのであった。

 冷静に報道し、理性を持った社説を掲載しなければならないマスコミが戦争を煽って

いるのである。 

日本が侵略国家に成り下がるのも時間の問題のように麻生には感じられた。


 この頃になると、東条の働きかけもあり、山本の元に三国同盟締結の直談判してくる

陸軍若手将校の数がめっきり減っていた。

米内,山本は口裏を合わせて、海軍は次の条件が満たされれば三国同盟に協力すると

したのであった。

 1.対米戦を意識した武器弾薬の備蓄と新兵器の共同開発。

   ただし、既に開発中の兵器は陸海軍で性能試験を行い優秀なものを共通の兵器

   として採用する。

 2.同盟締結の条件は海軍が懸念する事項を全て解決しておくこと。

 3.対米戦の折りには戦闘の大半が海上となるので、陸軍は海軍の作戦に協力する

   こと。

である。

海軍の作戦に協力せよとは統帥権の侵犯だという声もあったが、結局、海外で作戦を

実行するに当たって、海軍が補給路を確保してくれない限り戦争ができないので渋々

了承したのであった。

そして1番の項目のただし書きに相当するのが陸軍のキ-四三(後の隼)と海軍の

十二試艦戦の事であった。

これについては毎年1月に行われる陸海軍の航空機比較競技の結果、優秀な機種を

採用することに決まった。



 10月のある日、麻生は東条と通信をとった。


 「東条閣下にお願いがあります。」


 「なんだね? 戦闘機を陸海軍共通機種にするというのなら来年の1月まで待って

もらいたいが。」


 「いえ、戦闘機ではなく、今日は辻参謀の様な中央の命令を勝手に解釈して、無茶な

作戦行動を取る参謀や将軍達についてです。」


 「どうしろというのだ? まさか予備役にでもしてしまえとでも言うのかね?」


 「いいえ。 彼らの身分を隠し、極秘に米国の工場や油田の視察に行かせてはどうか

という提案です。 海軍は米国の工場や油田を見ていてその工業力の差を十分に

認識していますが、陸軍はそうではありません。

 場合によっては米陸軍の視察をするのも良いかもしれません。

敵を知り、己を知れば百戦危うからずといいます。 いかがでしょう?」


 「確かにな。 ノモンハンの事件もソ連の戦車の性能を知らずに暴走し、大打撃を

受けたのだ。

米国の知識が無いのにどうやって戦って良いのか判らんな。 

よし、早速参謀本部を説き伏せて視察に行かせよう。」


 「それと従軍慰安婦の事ですが、占領した町から従軍慰安婦という名目で子女を娼婦

として拉致するのは止めて下さい。 我が国の信頼を地におとしめることになります。」


 「あれは儂も反対だったんだ。 第一、性病の心配が高いし、将兵からは慰安婦の

接待の態度が悪くて、なけなしの金を巻き上げられた気がするという報告もある。

ともかく、従軍慰安婦は廃止するように働きかけよう。」


 東条は三国同盟を締結するつもりなら米国との戦争は避けられないから今から敵情を

視察に行くべきだと参謀本部を説得した。

 かくて、陸軍の佐官以上の将校は身分を隠し、時間をずらし、米国の5大湖付近の

工場やテキサス,カリフォルニアの油田,大西洋岸の軍事基地を秘密裏に視察に向かった。

 東条は視察する場所を決めるに当たって、2回の米駐在経験を持つ山本に視察場所の

候補を出してもらった。

 海軍と仲の悪い陸軍の中核にいる東条は、最初、海軍次官の山本に視察場所の候補を

聞きに行くことにかなりの抵抗があったが、部下を無駄死にさせたくないと言う思いが

彼を突き動かし、山本に教えを請うたのであった。


 視察の第1陣のメンバーの中に東条がいたのは当然である。

 部下思いの東条は、麻生に地図上で作戦を考えて、現地の視察を怠ったために病魔と

食糧難から戦力が戦わずして半減したことを聞いていたので、積極的であった。

 陸軍の参謀本部はドイツ留学者が大半を占めており、何らかの形で米国に行ったことの

ある人間は一人もいなかったのである。 これでは敵を知らず作戦を起てるので成功する

事などあり得るはずがないのである。

この視察のおかげで、陸軍は米軍との彼我の戦力差をいやというほど認識したので

あった。 特に参謀本部の受けた衝撃は大きかった。


 東条でさえ米国との戦争となれば勝てる見込みがない事を認識させられて、改めて

麻生のもつ知識と技術の必要性を認識したのであった。

この視察以後、東条は海軍に対し協力的になった。


 そして、参謀本部は東条の要請道理、性病感染の確立が高く作戦に支障をきたす恐れが

あるとして、従軍慰安婦を廃止した。 この事は、朝鮮には好意的に受け取られたが、

国内では不評であった。 貧乏なため食い扶持を減らし、家族に金を工面できる方法が

無くなったからであった。



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