パラマス号⑤
パラマス号のライバルとケサキレイナのお話
パラマス号は次の目的地へ向かうため、近くの戦艦波止場で停泊していた──
バウンス美沙子は波止場の管制と交信を終え出向の準備が整った、パラマス号はゆっくりアンカーを巻き上げ始めた。
メカニック技師、小森達夫はケサキレイナに手を焼いていた。
培養液(加塩ソーダ重液)に入ってくれないからだ。幾ら説得してもケサキレイナはH₂Oのシャワーで済ましてしまう。
ケサキレイナは人間でも機械でもない存在。
光の粒子を具現化して作られた物体に、科学世界で生まれた現影魂が宿ることで、形作された。
自己治癒能力の存在があることを理由に、もっとも最適に作られた小森の培養液にはその頑固さゆえ完全拒否を貫いていた。
「小森さん、あたし絶対あなたの培養液には入りませんからね」と口を尖らせて拒否する。
小森の説明の暇も作らせてくれない。
小森は、思春期の娘に手を焼く父親のように、ケサキレイナがいつか入ってくれること信じてケサキレイナの言い分を心のなかで咀嚼した。シャワーを終えたあとに飲めるように、自己治癒能力が向上する特製ドリンクを机に置いて、部屋を出た──
デッキにけたたましい、警戒音声が響く。
それが瞬時に最大警戒音に変わり、デッキの光は暗闇の中にそれを浮かばせた。
主モニターにはパラマス号に似た戦艦が対峙し、行く手を阻むようにして"やらしく"鎮座する。
モニターに通信が割り込む
「我々のライバル、パラマス号の諸君、久しぶりだな」安物のメッキ銀の仮面を付けて、まるでコミケから飛び出してきたような、"デオチ"のような格好をした人物が作られたセリフ調に話す。
艦長の星崎一世は、天を仰ぎ口を真一文字にして唇を噛み締め、帽子の鍔を下げて腕組みして
聞きあきた口上を心で反芻する。
「この一年の屈辱、我等一同パラマス号へ勝利するためだけに再構築してきた。それが今日だ!今こそ我々ダイマルク号はおまえ達パラマス号を業火の炎の渦のなかに葬ってあげようではないか」
星崎一世は、この陳腐なセリフを完全に覚えている、これはまだ序盤でまだ、安物のコスプレイヤーはヴェテラン声優の脂っこい声で誇らしげに続けるのである。
バウンス美沙子は艦長の、くるりと回した手首を確認して、頷きと同時に弱火力まで落とした。対空砲をダイマルク号に向け発射した。
ダイマルク号は弱々しく墜落していく。
灰色の幕煙を突き抜けパラマス号は前進して黒き空間に消えていった。
ダイマルクの通信がモゴモゴと溺れる声のように途切れた。
ケサキレイナは白いモコモコ生地で水分を一気に吸収してくれそうな、バスガウンに包まれて、
机にあった小森の特製ドリンクを当たり前のように手に取った、生意気な小娘のツンとした表情からぐにゅっと崩れた幼い顔に戻り、ドリンクをプクッと血色のいい唇で吸い込んだ。ストローをトロピカルな色が光って渇いた喉を潤した。
星崎一世はゆっくりデッキを見回し、帽子を頭から少しあげ労った。
そして、次のダイマルク号の出現を指折り数えてみたのであった。
おわり
【あとがき】
思い付いたので書きました。
パラマス号の話の輪郭を少しずつですが形にできたらと思っています。
読んでくれてありがとうございました。
また思い付いたら書きます。




