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パラマス号④です光の概念哲学的お話

「宇宙というものは不思議だねえ」

そう話すのは、パラマス号で一番のベテラン、マヤス・ハルダスだ。

浅黒い肌に、白く輝く薄い髪。無精髭がよく似合う男だった。

マヤスはパラマス号の整備士をしている。

彼は今、艦長の星崎一世イッセイと、束の間の平和な時間を過ごしていた。

テーブルに置かれた将棋に似たルールの『パータン』を打ちながら、二人の会話は進む。


「宇宙が不思議、ですか?」

当たり前のようなことを言うマヤスに、星崎は少し引っかかった。

「その昔、光より速いものはないと言われていたのは知っておいでだろう? あれは光の意思によって、自分より速く動くものを、自分より遅くさせていた……。光には意思がある、と皆が信じていた時代があったんじゃ」


「『光意思説』……大昔の説ですね」

「それが?」と星崎が先を促す。


「“本当に真っ直ぐなヤツ”を、光のような男だと言うだろう……。わしは、意思疎通をしない光の無言の抵抗が、この『光意思説』の正体なんだろうと思っているんじゃよ」


「ではマヤスさんは、光には本当に意思があると?」

「ああ、そうさ……」とマヤスは答えた。

「パラマス号のバリアは光の反射技術を応用しているが、実は超微量ながら、反射しない粒子をバリア自身が吸収しているんじゃ」


「おお!? それで──」

星崎が少年のように目を輝かせた。


「その粒子を分析したら、光の残骸だったんじゃよ」


「光の残骸? 光には質量がないはずでは──」


「本来はない。光とはただの光るもの。実体は存在しないはずじゃ。……だが、その残骸は意思の痕跡、すなわち『魂』なんじゃよ」


残るはずのない残骸が、光の意思。星崎はマヤスの話を自分なりに解釈しようと試みた。

「残骸は、光からのメッセージということですか」


マヤスは深く頷いた。

そして、持っていた小さな科学用ケースから、ひとつの丸い物体を取り出した。


「そこに、光の残骸がある」


マヤスはそれを星崎に手渡した。

丸い物体には覗き穴のようなものが付いていた。星崎は片目をつむって、その中を覗き込んだ。


「……ん? 真っ暗だ」

「マヤスさん、俺には暗くて何も見えませんよ」


「艦長、目で見るのではない。『心の目で見てみなされ』。己の“今”が見えるはずじゃ」


星崎は言わんとすることが完全には理解できなかったが、精神を研ぎ澄ませ、呼吸を整えて再び覗いた。

すると、さっきまで暗闇だったその空間に、星崎一世の若かりし姿が現れた。


(これは……!)


星崎がとうに忘れていた記憶のスイッチが、鮮烈に甦る。

「これは……一回目の輪廻転生時の俺か? 引き継いだ業ごうに不安を抱きながらも、それを受けるにふさわしい現世での行いに、自信をみなぎらせている……」

「どういうことだ? なぜ光の残骸が俺を知っている。それも、俺自身さえ忘れていた記憶を……」


星崎はこれ以上の深追いに躊躇し、意識のテリトリーから抜け出した。

冷や汗で額が濡れている。

目の前には、微笑んでいるマヤスが立っていた。


「艦長、それは艦長の『心の残骸』ですよ」

マヤスが静かに言った。

「光の残骸とは、即ち“残す意味を持つもの”なんじゃ」

「他言は無用。己の中にしまっておきなされ。艦長にとって、残す意味のあるものが映し出された……ということなんじゃから」


星崎はマヤスの言葉を噛み締め、テーブルの水分を一気に飲み干した。

「マヤスさんと話すと本当に楽しい。俺の知らないことを山ほど知っている」

少年が興奮を抑えきれずに早口で話すような、そんな笑顔で伝えた。

マヤスもまた、笑って答えた。

「ただ年を取っているだけの老いぼれですよ。面白い話を、艦長より少し多く持っているだけじゃ」


「星崎艦長は、もっと面白い話をお持ちかな?」


「そうじゃな……」

マヤスはそう言い残し、仕事に戻ると言ってデッキを後にした。




おわり



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