パラマス号②
「秒で落とすって、レイナちゃん、ちょっと格好つけすぎじゃない? 相手は最高のAIを持つパリオネア星団のコロニーで、しかも超不沈防衛バリア持ちなんだけど……」
呆れたような光希の声に、レイナは不敵な笑みを浮かべた。
「あら……? 光希くん、もしかして本気じゃないの?」
いつも強気なはずの相棒が見せた、わずかな躊躇。レイナはそれを聞き逃さなかった。
「俺はいつだって本気だぜ」
「だよね。じゃあ、光希くんはパリオネア星団が怖いの?」
「怖くはないけどさ。……『秒』はちょっと盛りすぎかなって」
「なになに! 今の私、ちょっと『カチン』と来たんだけど?」
レイナの瞳に、勝気な光が宿る。
「私の勝算算出オーバーレイには、勝率99.999%。撃破までの所要時間は『59秒』って出てるんだけど?」
光希はレイナを信頼していた。
しかし、彼女が淡々と告げた秒単位の予測値は、
その信頼を「絶対の確信」へと変えるには十分すぎるほどだった。
「ほい! それそれ。俺が欲しかったのは、その言葉だよ」
光希の覚醒ブーストにスイッチが入った。
レイナは光希のバックアップだが、彼を真の意味で『覚醒』させられるのは、世界にただ一人、レイナだけなのだ。
レイナもそれを深く理解していた。
(……光希くんって、こういうところ、かわいいんだから)
「撃破予測、57秒に短縮可能」
「十分だ」
「覚醒ブースト、全開!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
美沙子が迅速にオペレーションデータを転送する。
「パリオネア星団、不沈バリア展開を確認。自律迎撃体バイオロイドユニット放出──敵ユニット数、解析……」
コンソールの数値を読み取った美沙子の顔が、
驚愕に引きつった。
「敵ユニット数1万……っ! え、ちょっと……多すぎない!?」
だが、通信機から返ってきたのは、拍子抜けするほど軽い声だった。
「みさっち、心配無用。これくらい楽勝だよな、レイナちゃん」
「勝算99.999%。問題ないわ、美沙子」
パリオネア星団のバリア内。放出された無数のバイオユニット群が、紅蓮に輝くフルアーマーカイザンクを幾重にも包囲する。
しかし、次の瞬間──光希の掌からブーストがほとばしり、レイナの勝算オーバーレイが秒単位で激しく点滅した。
「──行くぞ!」
赤く燃えるカイザンクは、レイナのサイコキネシスによるAI自動制御を受け、敵の挙動をコンマ数秒先まで完全計算。
そこに光希の空間認知能力
『ゼロ・ラグ(無遅延認識)』が加わり、1万の軍勢を羽虫のごとく易々と殲滅していく。
「……全機、リンク完了! 同期率、測定不能……限界突破オーバーリミットしています!」
美沙子の報告が響くのと同時に、巨大モニターの赤一色だった戦況マップが、猛烈な勢いで青く塗り替えられていった。
艦長の星崎一世は、椅子に深く腰掛けたまま、その光景に静かに呟く。
「ゼロ・ラグ……恐ろしい能力だな。不沈バリアと自律迎撃体を相手に、一瞬で戦況をひっくり返すとは。速すぎる……」
「パリオネア星団、バリア消滅を確認! 中枢ロック解除、主制御システム露出!」
巨大モニターに、パリオネア星団の心臓部──中枢AIが映し出された。
「光希隊員、パラマス号のバックアップを受けつつカイザンクを中枢に接続! レイナ准尉を干渉させてハッキングを開始して。準備完了次第、同期ブースト全開で!」
カイザンクは静かに中枢のパーソナルエリアへと侵入した。
すでに攻撃ユニットは沈黙し、光希たちを温かく迎え入れるかのように道を開けている。
そこには静かな威圧感と、慈しみがあった。
パリオネア星団のAI──それは単なるシステムではない、意志を持った唯一無二の存在だった。
レイナの意識が干渉し、同期が始まる。
紅い輝きは、いつしか清らかな青白い光へと変わっていた。機内で、光希とレイナは静かに目を閉じ、同期解除の瞬間を待つ。
「同期解除を確認。中枢AI、安定稼働中。……問題ありません」
「やったね、レイナちゃん!」
「うん。想定通り、57秒ジャスト」
レイナは光希に向かって、晴れやかな笑みを浮かべた。
光希とレイナ、二人の規格外な活躍により、パリオネア星団は新たな希望の管理下へと移行した。




