パラマス号始動
巨大コロニーの前に、我々はなすすべを失っていた。
敵の総攻撃は予測をはるかに上回り、自艦隊の戦力はすでに85%を失っている。
「……データミス?」
その小さな呟きを、艦長・星崎一世は聞き逃さなかった。
「ミスだと?」
低く、しかし張りつめた声で聞き返す。
戦略指揮官のバウンス美沙子一尉は、はっとして口元に手を当てた。
ブリッジにいた全員の視線が、彼女に集まる。
超未来戦艦パラマス号の船内は、異様なほど静まり返っていた。
そこへ──
リラックススーツ姿のまま、寝ぼけ眼の横島田光希がブリッジに入ってくる。
「あれー、なんすかこの状況。ガタガタじゃないっすか。っていうか……ほぼ壊滅」
巨大モニターに映し出された赤一色の戦況を眺め、他人事のように言った。
次の瞬間、艦長席から怒声が飛ぶ。
「横島田光希! それがお前が冷凍催眠で寝ている間の有様だ」
「我が軍のエースが、一番重要なときに催眠なんぞにかかりおって!」
美沙子が一歩前に出る。
「……すべて、私のミスです。光希隊員の冷凍スイッチをセットしたのも私。
パリオネア星団コロニー防衛装置のデータミスも……私です」
彼女は静かに頭を下げた。
「軍律の裁きを、甘んじて受けます。ここで処分を」
重苦しい沈黙が落ちる。
その中で、先週発売されたゲームに夢中になっていたケサキレイナが、シミュレーションBOXから姿を現した。
さすがに異変を察した彼女は、ブリッジを見渡し、
巨大モニターに目を向けて声を上げる。
「……イヤだ。光希君が居ると思ってたのに、なにこの状況?ボロボロじゃない」
光希は肩をすくめて答えた。
「俺もさ、レイナちゃんがサイコキネシスでAIを爆盛りチートしてくれてると思ってたんだけど……」
そう──
この最悪の状況を作り出したのは、
互いの力を信頼しきったがゆえの、
この二人の軽率で無責任な行動だった。
艦長の星崎一世は、二人を睨みつけて怒鳴った。
「お前たち二人は、今月は報酬無しだ!」
「それがイヤならさっさと片付けてこい!」
「報酬なし──!?」
光希とレイナは同時に飛び跳ねた。
「そりゃないっすよ、艦長!」
「イヤだ、今月ピンチなんだから。それはムリ!」
「みさっち、バックアップお願い。相手のデータをインタフェースに直接入れて、レイナっちを俺に同期してくれたら──1分でコロニー落とせるから」
「レイナちゃん、それでいいよね?」
返事はすでに届いていた。
レイナは光希のインタフェースに侵入し、同期信号を送る。
「光希くん。1分もいらないわ。秒で落とす」
艦長の合図を待つこともなく、
エース機──フルアーマーカイザンクは轟音とともに発進した。
星崎一世は、椅子に深く座り直し、小さく息を吐く。
「……チート過ぎるからな。あの二人は、負け発進じゃないと本気を出さない」
「美沙子一尉。お芝居、ご苦労だった」
おわり




