第四話 ピンクのフリルと黒のゴスロリ、愛の共同戦線
魔法少女となった中学一年生の柚宮佳乃は、悪の組織との戦いに追われ、忙しい日々を送っていた。変身する際は、人目を避けて物陰に身を潜めるのが彼女の鉄則だ。不特定多数に下着姿を見せる「サービスシーン」なんて知ったことか。自分を守る方が優先だ。
そんな日々のなか、学校では文化祭が近づき、佳乃は資材の買い出し係に選ばれた。そして、もう一人はクラスメイトの春樹。くじ引きで決まったのだ。
買い出しの日、佳乃の心は密かに弾んでいた。学校行事とはいえ、二人きり。これは事実上の、人生初のデートだと浮かれていた。
当然、今日の下着は違った。スポーツ用の機能的なものではなく、ライトグリーンの生地にピンク色のレースやリボンがあしらわれた、可愛くも少し大人びた下着を着用していた。気分もそれに合わせて高揚する。
だが、待ち合わせ場所であるホームセンターの入口に、春樹は現れなかったLIMEを送っても、既読すらつかない。一時間ほど経過すると、佳乃の気分は次第に沈み込み、もう諦めて帰ろうかと考え始めていた。
その時、背後から聞き覚えのある声がした。
「待たせたな」
佳乃が驚いて振り向くと、そこに立っていたのは春樹だった。しかし、その姿は異様だった。黒と白のフリルが大量にあしらわれた、ゴスロリ風のドレスに身を包み、右手には佳乃と同じ、見慣れた魔法のフライパンを握っていた。
「ど、どうしたの春樹!?その格好!」
「彼は我々の手によって新しい力に目覚めたのだよ。そう、魔法少女ならぬ、魔法ショタとしてね。」
春樹の背後から、長身のイケメンが顔を出した。悪の組織のラスボスだ。佳乃は、以前自分が拉致された事件の張本人、母が倒したはずの彼の姿に戦慄した。
「そ、そんな…」
「やあ、佳乃君、久しぶりだね。お母さんは元気かな?」
あの時の恐怖が蘇る。
「春樹に、何をしたの!!」
「我々は以前から魔法少女の力に適合する人間を探していてね。最初は幸子の娘である君に目をつけていたんだが、まさかこんな近くに素晴らしい素体がいるとは。それも男性の適合者とはね。ハハハ、私も想定外だったよ」
春樹は実験により、魔法少女の力を植え付けられていたのだ。
「さあ魔法ショタ春樹よ、この魔法少女を倒すのだ」
「かしこまりました」
どこか機械的な声で応じる春樹。黒と白のフリルのゴスロリ姿は妙に似合っていて滑稽だが、笑ってる場合ではない。その気迫に佳乃の背筋は凍った。
「くっ…!」
咄嗟に距離を取る佳乃。戦うためには変身するしかない。だが、今日の下着はーーー
「ふはははは!どうした魔法少女!早く変身しないと危ないのではないか?」
ラスボスの挑発に焦りを感じながらも、佳乃は意を決して、必死で物陰を探し、駐車場の車と車の隙間に体を滑り込ませた。
心の中で呪文を唱え、変身する。服が光の粒子となり、強制的にライトグリーンの下着姿になるが、ここなら誰にもみられない。変身を終えた佳乃は、すぐに物陰から飛び出した。
「ようやく本気というわけか」
ラスボスに突撃しようとする佳乃を、春樹が遮る。
「春樹!どいて!そいつを倒さないと!!」
「ラスボス様は我が主人。まずは俺を倒してからにしてもらおうか!」
奥歯を噛み締める佳乃。
「クハハハ!お前が春樹を好いていることは知っているぞ!故に戦えまい!!」
しかし佳乃は、以前、記憶を消すために全力で春樹の頭をぶっ叩いた経験があった。
「ふん!大丈夫よ!春樹は頑丈だし、前も大丈夫だったから!」
佳乃は、春樹の頭を目がけてフライパンを振りかぶった。
「なっ!?貴様、こいつを好きなのではなかったのか!?」
ラスボスが驚愕する中、全力で春樹の頭を狙いに行く佳乃に対し、春樹の方がためらっているようだった。
ゴワンッ!!
何度かの攻防の後、ついに佳乃のフライパンが春樹の頭をとらえた。一際大きなたんこぶが出来上がり、春樹は失神した。
ラスボスの方に向き直る。
「よくも春樹を!絶対許さないから!」
「貴様が叩いたのだろうが!?全く躊躇なく叩くとは…」
チィ、と舌打ちするが、さすがはラスボス。佳乃の攻撃は当たらない。最小限の動きで回避し、的確に反撃してくる。最初こそ威勢は良かったが、次第にラスボスに押され始めた。
それもそのはず、佳乃の攻撃は一振り一振りが大振りで、回避も大袈裟に左右に飛び跳ね、無駄にスタミナを消費していた。中学生の佳乃は圧倒的に戦闘経験が足りなかったのだ。
ついにラスボスの攻撃を防ぎきれず、蹴りが腹部に命中する。
「ゲホッ!!」
いくら魔法少女の力があっても、中身は中学生。佳乃は軽々と吹き飛んでいった。駐車場を転がり、フリルが汚れる。
起き上がろうとした瞬間、首元のフリルを乱暴に掴まれ、腕だけで持ち上げられた。そのまま何度も殴られ、力が抜けていく。フライパンだけは離すまいと必死で握りしめていた。
「ははは!どうした魔法少女!母親の方がよほど強かったぞ!」
「うぐっ…!!」
「そろそろトドメと行こうか」
本気の拳が迫ってくるが、フリルを掴まれていて逃げられない。
「やめろぉおお!!」
背後から春樹が、ふらつきながら突撃してきた。魔法のフライパンを振るうが、軽々と避けられ、佳乃に向くはずだった拳を叩き込まれる。
「ガハッ!!」
直撃。春樹は一撃で吹き飛ばされ、地にひれ伏した。
「春樹っ!!!」
佳乃が叫び暴れるが、拘束は解けない。
「チッ、洗脳が解けたか…まあいい。そら、トドメだ!」
腰が入った一撃。顔に拳がめり込み、その勢いで掴んでいたフリルが破れ、地面を転がり、春樹の隣まで吹き飛ばされた。
「ぐ…大丈夫か、佳乃…」
「は…春樹…うん、なんとか」
折れかけた心に、春樹の声が力を与える。
「俺が隙を作るから、佳乃、でかいの一発頼む」
「でも、どうやって…」
「時間差の攻撃だ。先に俺が飛び込む。反撃されると思うけど、その直後なら隙があるはずだ」
バスケ部ならではの、一瞬の隙を突く連携プレイの提案だった。
「まだ息があるのか。存外にしぶといな」
ラスボスがゆっくりと近づいてくる。
「考えてる時間はない、行くぞ!!」
「うん!」
黒と白のゴスロリ服を翻し、ラスボスに飛び込む春樹。
「うおおおおおお!!」
「ふん、玉砕覚悟か。だが!」
春樹のフライパンが斜めに振り下ろされるが、ラスボスは体を捻り躱す。そのまま体を回転させ、勢いを乗せた拳の反撃が飛んでくる。
「ゲハッ!!…ぐっ、今だ佳乃!!いけえええ!」
直後に飛び込む佳乃。フライパンを両手で持ち、全力の一撃を振るう。しかし、ラスボスの手が佳乃のフリルを掴んだ。時間差は完全に読まれていた。
「甘い」
引っ張ろうとしたその瞬間、佳乃は叫んだ。
「変身、解除!!」
フリルは光の粒子となって消え、ラスボスの手が空を切った。
「なにぃ!?」
驚いたラスボスに生じたわずかな隙ーーー
下着姿になった佳乃は、渾身の力を込めてフライパンを振り下ろす。空気を切り裂く音。刹那、フライパンの底がラスボスの頭にめり込む。
「やぁあああああああ!!!」
ゴワーーーン!!
大きな鈍い音が響き、ラスボスの頭には巨大なたんこぶが出来た。
「そんな…バ…バカな……」
ファミリーサイズのお菓子が大量にドロップし、ラスボスはついに光の粒子となって消滅した。佳乃の服は元に戻っていた。
「やっぱり、あの夢のフリフリは佳乃だったんだな」
戦闘が終わり、落ち着いた頃、春樹が語りかけてきた。
「うん、本当は嫌なんだけど、強制的にあの服になっちゃうの…」
「て言うか、春樹も魔法少女になったんだ??」
黒と白のゴスロリ姿の春樹を眺める。
「ちょ、俺だって好きでなったんじゃないって!!」
「わかってる、わかってる。ふふふふ」
安心したからか、春樹の微妙に似合っている、場違いなゴスロリ姿に笑いが込み上げてくる。
「そっちだって、容赦なく頭ぶっ叩いたくせに!!」
「ごめんって、ふふふふ」
満身創痍ながらも、笑顔で支え合い、帰路に着く二人。ちなみに、春樹も変身を解き、服も元に戻った。しばらく歩いた後、ふと立ち止まり、顔を合わせ、同時に思い出した。
「「あ、文化祭の買い出し…」」
同時に同じことを言い合って、再び笑い合う。
買い出しを終えた別れ際、春樹が笑顔で全く必要のない、完全なる余計な一言を佳乃に言った。
「そういえば佳乃、今日の下着、可愛かっt
ゴワンッ!!!
いつのまにか握られていたフライパンと腫れ上がる春樹の頭。意識を失う直前、春樹が見たのは、顔を真っ赤にして走り去る佳乃だった。
ーーー夜、この街に現れる悪の組織をぶっ叩く二つの影があった。一人はピンクと白のフリル姿、もう一人は黒と白のゴスロリ姿。二人がいる限り、この街に悪が栄えることはないだろうーーー




