乙女ゲームの蚊帳の外で……
今日は朝から騒がしい。
大通りを馬車の行列が出来ていて、それを周囲の人達が歩道で見ている。
「これ、なんですか?」
私は周囲の人に聞いてみた。
「お嬢ちゃん、知らないのかい?」
「はい、私最近こちらに引っ越して来たもので」
「今日は貴族学院に入学式でね、この馬車達は学院に向かっているのさ」
おじさんから話を聞いて私の脳内に突然『ある記憶』が入って来た。
(あれ? もしかしてこの世界て私がやっていたあのゲームの世界では?)
私は慌てて店のガラスを見て自分の顔を見る。
(うわ、私ヒロインになってるっ!?)
金髪で可愛らしい顔、どう見ても生前に嵌っていた乙女ゲームのヒロインに私はなっていたのだ。
私は生前は日本でブラックな会社で働いていたんだけど無理が祟って体を壊してしまい入院していた。
結局、そのまま体調は治らなくて死んじゃったんだけど、学生の頃にやっていたのがこのゲームだ。
本来ならば私はとある男爵家に養女として貰われ貴族学院に入学、そこで王太子やその取り巻き達と恋愛やら青春やらの日々を過ごしている筈だった。
しかし、実際の私は孤児院で育ちある程度の年齢になった時点で独立して仕事を求めて王都にやって来たただの平民だ。
男爵家の養女の話なんて勿論無いし聖女みたいな特殊な力も無い。
(確か最終的には聖女の力が覚醒するんだけどその鍵になるのは愛の力なんだよね、攻略対象の好感度が100%になったら覚醒する筈なんだよね)
ゲームの内容を思い出しながら私は馬車の行列を見ていた。
そこで私はある事に気付いた。
私が養女になる予定の男爵家の家紋が入った馬車が見当たらないのだ。
どうしちゃったんだろう、と思ったんだけど調べる手がない。
頭の中がモヤモヤしながら私は仕事を見つける為に職業紹介所に向かった。
此処は私みたいな孤児出身の平民に仕事を斡旋してくれる所だ。
掲示板には主に下働きとかメイドや使用人の募集の紙が貼ってある。
でも、今日はなんだか探す意欲にはならない。
そんな時にある話が耳に入って来た。
「貴女も災難ね、せっかくメイドとして入ったのに数カ月で男爵家が取り潰しになるなんて」
「そうなのよ、いつの間にか借金が膨らんで首が回らない状態になっていたみたい」
「でも、異変はあったんでしょ?」
「男爵様に子供がいないから孤児院から女の子を引き取ったんだけどその日からその女の子中心になっちゃったのよ、その子が我儘を叶えて上げた結果、破綻しちゃったのよ」
「その女の子はどうなったの?」
「騎士団に捕まっちゃったらしいわ、なんか悪い魔法を使用していた疑惑があるらしくて……」
(なるほど、私の変わりに別の子が養女として迎えられたのか)
多分、その子は私と同じ転生者だったんだろう、そして魅了の力を持っていたんだろう。
そういえばこのゲームて続編があって、ヒロインと同じ孤児院出身の子がライバルとして出てくるんだけどもしかしてその子かな?
どっちにしても受け入れる家が無かったら乙女ゲームなんて夢のまた夢だ。
私はしっかりと現実を見て地に足をつけて暮らしていこう。
その後、何故か聖女の力が覚醒したんだけど騒がれるのも面倒だったので小さな町に引っ越して治療院を作ってそこで村人の治療に専念して感謝される事になった。