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転生後は女の子で、魔族の王に攫われた。初手詰みだし彼らの仲間として暮らします(諦)  作者: 稲山 裕


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十三、それは優しさ


 僕の胸が大きくなるまで、アイシアと一緒に寝ることになった。

 一晩で十分だったのに、彼女は彼女で言い出したら聞かないところがある。今から訓練してもらう誰かさんもだな。と、ありがた半分な結果に頭が重い。


 朝の掃除時間が、何も考えずに出来て体を動かせて、一人の時間もあって過ごしやすかった。

 頭をからっぽにして、落ち葉や雑草にだけ集中していたら良いから。


 魔族の皆は好きだけど、今みたいに一人になりたい時に、少し困る。


 この昼食も大食堂だし、夕食もそうだ。それに僕は、歌も期待されてしまうから。

 だからいつも通りのフリをして、アイシアと普通にお喋りもする。


 でも、またここまで気持ちが沈んでしまうと、皆と居るのが苦痛に感じてしまう。

 変な方に思考が向かって、人間の僕は居なくなっても大丈夫だろうから、どこかに行ってしまおうかと考えてしまう。


 このお城から、出たことはないけれど。どうなったっていい。

 僕には、野垂れ死にがお似合いだ。


「なんだルスティ。顔色が悪いな」


 昼食を済ませて訓練場に行くと、陛下がすでに待っていた。

 僕をからかってやろうという、少し悪い顔をしていたのに……掛けられた言葉と態度は、なんだか優しかった。

 いつも通りの陛下なら、いつもみたいに振舞えたはずなのに。


「陛下の……せいですよ」


 今の僕は変だ。こんなことを人に言ったことなんて、無かったのに。

 落ち込んでいても、全部を心の内側にクシャクシャに丸めて、何でもないフリをして来たのに。


「うん? 聞き捨てならんな」

「だって……不器用で優しくて、傍若無人だけ頼りになる人で……だから、僕の弱い部分が、爆発しちゃったんです」


 こうして面倒臭いことを言えば、鬱陶しいと言って追放してくれるかもしれない。

 もういらない。そう言ってくれたら楽になる。


「……そうか」

「辛いことを、たくさん思い出してしまいました。全部、陛下のせいです」


 誰のせいでもない。僕の中にある憎悪が、渦を巻いているだけで。

 だからこれは、ただの八つ当たりだ。

 みっともない八つ当たり。感情を表に出すなんて、僕の一番嫌いなゴミがすることだ。

 でも今だけ、陛下にだけ――。


「そうか」


 どうして、そうかとしか言ってくれないんだろう。

「僕は……ここで、皆さんに優しくしてもらえるような、そんな人間じゃないんです。だから」

「――だから何だ。貴様は我の所有物だ。忘れたか?」


 やっと、陛下は怒った声を出してくれた。だけど、その言葉は僕を追い出そうとも、殺そうともしないものだ。

 それだと、困る。


「でも……陛下にとって、煩わしい存在にしか、ならないかと」

「所有物ごときが、我に意見する気か。貴様はただ大人しく、我に従っていればいい。口答えをするな」

「でも!」


 こんなに面倒な、くだらない憎悪でいっぱいの人間が、ここに居て良いはずがない。


「……愚か者め。飛ぶぞ、ついて来い」

「え。あの!」


 反論する間もなく、陛下は真上に飛び上がって行った。

 ……ついて行って、話を聞いてもらわないと。

 そして、かなり高くまで行くので凍えながら飛んでいると、陛下が片腕で僕を抱えた。

 相変わらず雑ではあるけど、背中があったかい。


「貴様はウサ晴らしを知らんらしい! 見よ。こうするのだ!」


 そう言って陛下は、もう片方の手を伸ばした。

 その手の平から、赤い光がビュンと飛んだ。

 刹那、はるか遠方の空が真っ赤に染まった。


「……は? え?」

「あそこはな、噴火があった場所で生物がおらん。好き放題に暴れられるぞ」

「え、え?」


 意味が分からなかった。

 何をどうしたら、暴れられるぞと、勧められるんだろう。


「ふん。相変わらず間抜けな事だ」


 陛下は不服そうに、僕を抱えたまま赤く染まった場所へと、猛烈な速度で飛んだ。

 風を切るとかではなく、弾丸にでもなったような気分だった。

 空気が爆発したような音を置き去りにして、脳も内臓も手も足も、一緒に置いて行かれるような重圧を受けた。

 受けた瞬間に、それが消えた。


「忘れておったわ」


 何かの防御魔法で、重力加速度を受けなくしてくれたらしい。

 そんなことを思っている間も、景色は走馬灯のように移り変わっては、後方へと流れて行く。


「よし、着いた。貴様も全力で撃て」

「え、あの」


 眼下には、陛下の魔法で赤く燃えてはいるけれど、巨大な火山と、溶岩だけで形成された陸があった。どこかに繋がる大陸ではないけれど、かなり大きな島だ。


「炎でも何でもいい。撃て」

 陛下の腕の中から顔を見上げると、早くしろと言わんばかりに、冷たく僕を見下ろしていた。


「はい……撃ちます。えっと……炎!」


 まだ制御しきれない魔法も、全力でぶちかますだけなら問題ないと教わっていた。

 言われた通りに――出せる最大の魔力を注いで――撃つと、直径数十メートルはある巨大な炎球が、一直線に火山へと飛んだ。

 直撃すると、それは轟々と炎を広げ、火山の一画を火の海に変えてしまった。


「その程度か? 魔力だけは十分に備えておろう! こうやって撃つのだ!」


 どこか嬉しそうに叫んだ陛下は、腕を横に払った。

 すると、僕が出した炎球よりもさらに巨大なものが、十個以上も現れて凄まじい速度で火山を貫いていった。

 爆発する前に、本当に穴を穿った。そして中にめり込みきってからの、大爆発。


「ひぃぃぃ!」

 木っ端に噴き上がった火山だった岩と、そこら中の溶岩の塊が四方八方に爆散したのだ!


「ハッハッハ! ちゃんと防いでおるわ!」

 こちらに飛んで来る岩々が、当たる直前で弾かれ、また別の方向に吹き飛んでいく。


「な、なんで楽しそうなんですか~!」

 さすがに叫んだ。叫んで非難した。


「破壊は、衝動のひとつだ。それを満たしてやるのよ。怒りも憎悪も消し飛ぶだろうさ」

「えぇ……?」

「いいから撃て! どんどん撃て!」

「うぅ……も~! 知らないですからね!」


 陛下の魔法の威力を見て、僕も同じことが出来ないかと、目一杯に撃った。

 魔力量も何もかも滅茶苦茶に、ありったけの力を込めて何度も撃ち続けた。


 そして、数分もしないうちに魔力が枯渇した。

 陛下のようには出来なかったし、表面が燃えるだけで貫通も爆発もしなかった。


 だけど、ヘトヘトになったお陰か、さっきまでの陰鬱な気持ちはどこかに消えていた。


「どうだ。単純だろう。貴様は素直だからな、こういうのが一番だ」

「……どうせ僕は、単純ですよ」

「良いではないか。貴様はどれだけ傷付けられても、己の中に治めて来たのだろう? その優しさを誇れ。怒りも憎しみも当然のものだ。それ自体は悪いものではない」


「でも……」

「想像するくらいは自由だ。殺してやりたかったのだろう? だがしなかった。その耐えた分の捌け口くらい、こうして作ってやらねばな」

「……陛下って」


 優しいですねと、言いそうになってしまった。

 あと、こうして甘えていることに、何かクセになるような快感を覚えてしまったことも。

 特にこれは、絶対に言わないことに決めた。


「何だ」

「やっぱり何でもありません」


「我に隠し事をするか。いいだろう、ここに捨てていってやる」

「そ、それはずるいですよ!」

「素直さが貴様の取り柄だ。言え」

「くぅ……。内緒です」

「ふっ。どうせ、お人好しな貴様の事だ。我の優しさを実感したとか、その程度だろうよ」

 陛下にも、アイシアにも、どうしてバレてしまうんだろう。

「えっと……。しらないです」


 顔が熱い。

 もしかして、赤くなっている?

 これを見られたら、そうだと言っているようなものだ。

 そう思って僕は、両手で顔を隠した。

 泣いているとでも、思ってくれればいいんだ。


「耳が赤いぞ。間抜けめ」

 これは、いじわるを楽しむ声。


「あぁぁぁぁ、なんで見てるんですか……。もう、早くお城に戻ってください」

「指図するな。たわけが」

 これは、ちょっと本気で怒った声。


「ひぃ。ごめんなさい」


 陛下がなぜ優しくしてくれるのか、それは分からないけれど。

 お陰で、僕の中にあったどす黒いものが、今はどこかに居なくなっていた。



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