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転生後は女の子で、魔族の王に攫われた。初手詰みだし彼らの仲間として暮らします(諦)  作者: 稲山 裕


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十、首輪の呪い


 アイシアに抱きしめられたお陰で、僕は少し元気になった気がする。

 陛下との個人レッスンに、なんとか臨めそうだから。


 いや、今日こそ浮けるように、そして飛べるようになってみせる。と、訓練場に着いた僕は少し意気込んだ。

 なにせ、僕は転生によるチート能力持ちの、優れた魔法使いのハズだから。

 ……一体どんな能力に長けているのか、全く分からない手探りという状況なのを除いて。


「今日は待たせるじゃないか。良い度胸をしている。肝が据わってきたか?」


 突如、上から声を掛けられた。

 訓練場には、陛下はまだお出でではないと思って油断していた。


「へ、陛下。そんなところに。遅くなってすみません」

「ふん。早速始めるぞ。基礎が使えねば、戦闘など出来んからな」

「えっ……? 僕、戦うんですか?」


 お城で働くために、便利な魔法を教わっているのだと思っていた。


「何だと思っておったのだ」

「い、いえ……。でも、戦うならもっとこう、火炎とか氷とか、電撃とかの魔法を覚えるべきなのでは」

「阿呆が。優位な位置取りに始まり、常に敵に捉われ難い移動を心掛けるのが基本だ。地べたを這いつくばるだけでは、勝てるものも勝てんぞ」

「あぁ……なるほど」


 空中を自在に移動出来るなら、常に上から攻撃出来るわけだ。


「貴様、安直な事を考えておるだろう。目に止まらぬ速度、且つ、不規則な動きでなければ意味がない。ただの的になるからな」

「たしかに」


 それだけ自由に飛べたら、かなり有利だ。


「馬鹿が……。敵も飛べぬと、なぜ思う」

「えぇっ? 敵も飛べるんですか? というか敵って誰ですか?」

「とぼけるのか、人間」

「ど、どういう……意味でしょうか」

「貴様の種族が相手だと言っている」


 上から見下ろされながら、敵だと言われた気分だ。

 というか、今までどんなつもりで、僕をここに置いていたんだろう。


「……え、じゃあ僕、やっぱり殺されるんですか?」

「フッ。場合による」

「い、嫌です! せっかく皆さんと楽しく暮らせているのに、殺さないでください」


 殺されるのも、追い出されるのも嫌だ。


「ハッハッハ。貴様がそのままなら、殺しはせん。まぁ、たぶん大丈夫だろう」

「たぶんって? 何か禁止している事があったら先に教えてくださいよ! あ、あれですよ! 裏切ったりなんて、絶対しませんから!」


「ほう。魔族の一員になると?」

「なります! 別に僕、種族にこだわりとか無いですし!」

「さすがは転生者、と言ったところか。種族に対する愛着は無いのだな」

「え、ええ……」


 ――あれ、これって、もしかしてダメな答えを言ってしまってる?


「良いだろう。だが裏切らぬように、首輪の呪いを掛けるぞ?」

 いや、大丈夫そうだ。悪く取られたりは、していないらしい。


「呪いって何ですか? 何か怖そうですけど……害はないんですか?」

「魔族を裏切れば死ぬ」

「それだけです?」

「ああ、そうだ」

「ならいいですよ。全然問題ありません」


 どんな恐ろしいことを言われるのかと思った。

 このまま魔族の皆と過ごすだけだから、その呪いがあっても気にならない。


「……本当に、変わったヤツだ」

「え、何ですか? 何か怖いこと仰いました?」

「いいや。では、我の血を飲め。それで済む」


 そう言いながら陛下は、浮遊を解いて地面に降りた。


「え……なんかそれ、気持ち悪くないですか? 他の方法とか無いんですか?」

「うるさい奴め。我の手首にわずかな傷をつくり、それを舐める程度だ」


 心底から面倒くさそうに、僕の様子を見ることもなく、陛下はシャツの袖を捲って腕を出そうとしている。

 ――血かぁ。

 急にこういうところだけ、呪いっぽい話になってしまった。


「僕、血を見るのニガテなんですよね……なのに、それを舐めるなんて……。他の方法があるなら、そっちがいいです」

 本当に苦手で、見ただけで体のどこかが、痛い気がしてしまう。


「……他は、貴様なら我と交わる事で可能だが。気が乗らぬ」

「ふぇ? そ、そそそそれはよくないと思います!」


 ありそうでなかった話が急に出てきた!

 陛下がロリコンじゃなくて、本当に良かった。彼は、本心から気乗りしないという顔をしている。

 もし乗り気になる人なら、僕はこの流れで貞操を失っていたかもしれない。


「だから血を舐めろと言っている。阿呆が」

「うぅぅ。相手が僕ではなくて、男だった時の方法はないんですか?」

「しつこいな。我の血を無理矢理ねじ込む事になるだけだ。貴様の体に穴を空けて、血を垂らすので良いならそうしよう」

「イタタタタ。そんな怖いのイヤです。痛いじゃないですか」


 想像しただけで、おなか全体が嫌な感じで痛くなってしまった。

 激痛の妄想と、それに伴う、中身をかき混ぜられるような感触。


「有無を言わせず穴を空けてやれば良かったな。時間を無駄にした」

「す、すみません! 舐めます。陛下の血を舐めさせてください!」


 絶対に痛い。今の陛下は本当にやりそうだし、もっと懇願しなくては!

 そう思って、僕は必死になって陛下の腕にしがみついた。

 そのつもりだったはずの、袖を(まく)った腕に。


「お願いします! 舐めさせてください!」

「ええい! 妙な言い方をするな! クソガキめ」

「ひぃぃ」


 鬼のような形相で睨みつけられて、怯んで腕を離してしまった。

 元の世界で、こんなに怖い人を見たことがない。

 本物の殺気を伴う怒り方というのは、体が勝手にすくんでしまうのだと、身をもって知ってしまった。


「ほら、この血を飲み込め。いちいちうるさくなったな貴様は」


 怒らせてしまった――。

 滅茶苦茶機嫌が悪い陛下の腕に、そのぷっくりと出てきている真っ赤な血に、恐る恐る口を付けた。


(人の血を舐めるなんて……やっぱり気持ち悪い)


 生ぬるくて、ぬっとりとした血の味。

 独特のぬめりが、舌と上あごに絡みながら喉を通っていく。


「うぇぇぇ」

 しかも、何だか体が熱くなったような。


「色々と無礼だぞ貴様!」

「ご、ごめんなさい!」


 だけど本当に、声に出るくらい嫌なものだった。謝ったものの、理不尽だ。

 それに僕も、いたって真面目に聞きたかっただけなのに。陛下が言うことには、何か裏があるんじゃないかと(いぶか)ってしまう。だからあれこれと、しつこく聞いてしまったのだ。


 次からはなるべく、無心になって素直に応じよう。絶対にそうしよう。



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