目指すべきは
仕事当日、小屋からウィン渓谷まで20分ほど走れば着くぐらいの距離があるので、下調べも兼ねて少し早めに出発した。
日が沈んですぐぐらいに出発したので、まだ若干明るく見える。
依頼主のドン・ココンという男は過去に一度ドラゴンを撃退したという逸話が残っている。
冒険者界隈では誰もが耳にしたことがあるとかないとか。
撃退と言っても、致命傷を食らわせた訳ではなくドラゴンがバランスを崩して自傷していた所をドンが見つけ、追い払ったという。
ドラゴンという脅威から守ったというのはどういう形であれ、偉大な功績だ。
裏の世界では、弱い冒険者から金品を奪い取り、反抗した女だけを殺しているらしい。
俺お得意の情報屋が言ってたことだから恐らく真実なのだろう。
「ナト、こないだの話は覚えてるな?」
「うん、雛を回収、親鳥は何してもいい。」
「そうだ。そして今回の報酬は二択。金かお前だ。」
「その依頼主さんは悪趣味で危険な奴っていう話をおじさんから聞いたんだけどそうなの?」
「まぁ、その通りだな。別に俺はお前がどうなったとしても手出しはしない。反抗しようが受け入れようがお前が決めろ。金ならいっぱいある。捨てたいほどにな。」
「いつものことね。わかってますよぉ。」
軽く雑談をしてる間にウィン渓谷付近に着いた。
昔、ここは小さめの川が流れる浅めの渓谷だったが、今では川は蒸発し草木が枯れ魔物が住み着くようになっている。渓谷と言うよりも峡谷と言った方が正しいな。
ここを通るうえで誰もが知っているのがエール通りという道だ。
エール通りはここで唯一の常識的な道で有名だ。
魔物も出ない、湧き水もある、渓谷を抜けるならここを通るしかないと言うほどの道だ。
夜、としか聞いていないが、ここらへんで見張っておけば分かるだろう。
昼間と違い夜にここを通るのは滅多にいないので見つけやすいはずだ。
「ナト、プランは?」
「うんとね、あそこの木に短剣を投擲して倒壊させる。道を封鎖したら魔法で困惑させて誘拐!」
「相手が攻撃してきた場合は?」
「平等パンチ!」
「正解だ。そのプランで行こう。想定外が起きたときは俺を頼れ。」
「いつも通り、ナトが主役となればいいんでしょ?任せな!」
弟子の成長のため、実践ではナトに大まかな作戦と実行を任せている。
決して体を動かしたり、頭を使うのがめんどくさいからといったことではない。決してな......。
小腹がすいてきたので持ってきたジャーキーをナトと分けながら食していたところ、思ったよりも早く雛が迷い込んできた。
「ナト、行ってこい。」
「了解であります!」