第一歩
「北に10メートル、東に5メートル......そこだ。」
まっすぐ飛んで行ったナイフはイノシシの首に突き刺さった。
イノシシは大きな音を立て血を吹き出しながら倒れた。
「今日と明日の分の食料とお金はこれで足りそうだな。」
「ですね!いやー、頑張った。」
「お前は特に何もしてないだろが!」
「イテッ!」
軽く頭を叩いた。
「ナト、何もしてないお前に仕事を与えよう。そこのイノシシを処理してこい。」
「またですかぁ?師匠、こういうのに・が・て?」
「頭に岩を落とされたいみたいだな?」
「行ってきまーす!!」
街からそう遠くない森で俺、クロナと弟子のナトと一緒に仕事をして暮らしている。
仕事は街からある一定のタイミングで依頼される。
それをこなしていくのだ。
情報の漏洩を回避するべく、依頼時には毎回新しい契約魔法が用いられる。
依頼を達成すれば巨額の金が、失敗すれば蒸発する。
正直金なんていらない。
腐るほど持っているのだ。
今は、癪だがこの弟子と日々鍛錬を怠らない、健康的な日々を送ってければいいと思っている。
だが、仕事はそうにはしてくれない。
「おーい、二人とも”赤い薔薇”は好きかい?」
街に住んでいる、武器屋のおじさんが来ていた。
なぜそんな質問をしにだけこんなとこ来ているのかというと、勿論仕事の話があるからだ。
このおじさんはやたらと隠語を使うのが特徴的で色が絡む植物の場合、緊急の要件があることを意味している。
「ナト、イノシシは放っておけ。こっちに来なさい。」
「放置で良いの?」
「あぁ、自然と消えるさ。」
森から離れ、街と森の間にある小さな小屋、俺たちが住んでいる家へ入った。
「今回なんだが、ちとめんどくさくてな。」
「いつもめんどくさいでしょ?」
「はははっ!それはその通りなんだがな!」
「ナト、お茶を入れなさい。」
「はい。」
後ろでナトがお茶を入れる音が聞こえてくる。
「それで?」
「あぁ、依頼主は傭兵、ドン・ココンだ。知ってるか?」
「勿論。表では孤児院に支援をしている冒険者、裏では悪趣味な殺戮者だろ?」
「うむ。で、依頼内容はこうだ。」
『可哀想な雛を、救出し献上せよ。血肉は我の魂に結び付くであろう。』
「なんだこの依頼文は、なんだかむかつくな。」
「同感だ。報酬なんだが、二択ある。」
「ほう、珍しいな。」
「一つは金、もう一つはそちらの子だそうだ。」
「...冗談か?」
「さぁな。お前たちに喧嘩を売らない方が良いってのはこの世界の常識といっても過言ではない。」
「まぁ、とりあえず受けるさ。日時は?」
「明後日の夜、ここから北西に540メートル離れたところにある、ウィン渓谷に雛が逃亡してくるらしい。それを回収しろ。親鳥はそちらの判断に任せる。以上だ。」
「了解した。ナト、その茶葉は古い奴だ。すまんなおっさん、帰ってくれ。」
「ほどほどにな。じゃあな嬢ちゃん。また来るさ。」
そう言っておじさんは街へと帰っていった。
せっかくいれたのに無駄になったお茶を飲んで苦そうな顔をしているナトは俺の方を向いた。
「確かに苦いね。古い茶葉って言ってくれてもよかったのに...。」
「今朝お前が飲んだお茶は、旨かったか?」
「うん!まるで新茶みたいな味がし...た......。あっ。」
俺はナトを家からつまみ出し、こう言った。
「茶葉買ってこいや!!!」
「行ってきますぅ!!!」