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事件?事故?

 露店街には宝石商や古物商、いい匂いのする売店などで賑わっていた。

宝石商の前をさっと通ってみたが、あまり質のいい宝石は無くおもちゃと言っても過言ではないほどの物だった。子供が宝石を見つめ親が困った顔をしていた。


「駄目よ。うちには宝石を買うようなお金はありません。ほら、行くわよ。」

「綺麗な宝石...。」

「お?嬢ちゃん、お目が高いな。お母さんも、ほらこれお似合いだぜ。」


 宝石商は思っても無さそうなことを言い、商売を始めた。


「実は今嬢ちゃんが見てる宝石、最近取れた宝石の中で一番加工に苦労した物なんだ。いい輝きを放ってるだろ?」

「うん!すごい綺麗。」

「まぁその分、値段もそれ相応の値になっちまうがな。」

「そうですよねぇ。」

「こんな宝石身に着けてみたいよな?」

「うん!」

「でも、傷つけてしまったら...。」

「いいタイミングで来たのよそれが!ほらこれを見てみな。」


 そう言って店主が奥から持ってきたものはさっきと同じ色と形をしたやや小さめの宝石。


「同じ鉱山で採れた宝石で、こっちは純度がやや低いが、さっきの物と同等レベルの宝石だ。今ならお得にまけちゃってもいいかな?」

「えぇ!おじさんいいの!?」

「あぁ!もちろん、嬢ちゃんにはこの宝石がよく似合いそうだ!」

「ちょっと、すみませんが、うちにはお金が無くて...。」

「ママ!今を逃しちゃったらこの先帰るか分からないよ...?」

「今限定ですから!」


 すっかり宝石の虜になってしまった子を引き離す為、手を引っ張っていこうとした。

しかし、少女は離れたくなかったのか咄嗟に箱にしがみついた。

そして、バランスを崩してしまい、しがみついた箱は宙を舞った。箱だけでなく高値で売られていた先ほどの宝石やその他の品物も多く舞った。その時を待っていたかと言わんばかりに店主は口角を上げていた。大きな物音を立て土埃が舞う。


「あぁ!そんなぁ!うちの大切な商品が!!」

「メイちゃん!大丈夫!?」


 箱やら板やらの下敷きになってしまった少女よりも自身の店の商品を優先させるこの店主、やはり最初からこのような機会を伺っていたようだ。大きな音を聞き人が集まってきた。


「おい!大丈夫か?」

「娘が!箱の下に!!」

「おいお前ら!事故だ!手が空いてるやつは手伝ってくれ!!」


 人命救助が行われている中店主は商品を杜撰に拾い、傷ついたでだろう宝石をじっくりと観察していた。箱の下にいた少女が救出されたが、頭からは出血をしており、呼吸が乱れていた。

今すぐ救命措置を行わないといけない状況の時店主が一言言い放った。


「今医者を呼んでくるから待っててくれ!」


 そう言って、宝石を抱え店主は走り去ってしまった。

その直後、街の警備員が駆け寄ってきた。


「何があった!」

「ここで事故が起きてこの嬢ちゃんの命が危ないんだ。」

「お願いです!うちのメイちゃんを助けてください!!」

「落ち着いて!幸いこの近くに聖女見習いの人たちがいる。呼んでくるから待っててくれ!」


 警備員は店主とは違う方向に走っていき、少ししたら女性を連れて戻ってきた。

聖女の象徴である潔白のドレスを身にまとった女性が息を切らしながら走ってきた。


「聖女見習いです。お怪我をされた子は?」

「この子を助けてください!!」

「今すぐ治します。少し離れててください。」


 怪我をした少女の頭に手を向けて祈りが行われた。

久しぶりに聖女らが使う奇跡とやらを見た。

少女の傷は見る見るうちに癒えていき、潰されていた右肩も風船に空気が入るかのように元通りに治っていった。


「...マ、マ。」

「っ!!!ありがとうございます!!!」

「まだ治りたてですのであまり身体は動かさないようにしてくださいね。」

「なんとお礼を申し上げたらいいのか...!?」

「お礼はいりません。神に感謝を。」


 と、一部始終を見ていた俺は目的のものがあるのかを確かめに来たので紙に事件のいきさつを簡潔に書いて、警備員に渡した。

この事件のおかげで人混みで溢れかえっていた場所がスムーズに通れるようになっていたので助かった。露店街をしばらく歩いていきお目当ての物を見つけることが出来た。

そこには古臭い本が並べられ、やる気のない爺さんが眠そうに座っていた。


「爺さん、店やってるか?」

「んぁ?見てわからねぇのか?」

「見てわからなかったから聞いてるんだ。で、どうなんだ?」

「今から営業開始だ。」


 めんどくさそうに頭を掻きながら姿勢を正した。


「この本をくれ。いくらだ?」

「若い兄ちゃんには似合わない本だな?」

「いいから、値段は?」

「そうだな、いくらがいい?」

「?」

「この本にお前はどんな価値を付ける?」


 この本は俺がコレクションしているシリーズの一冊である、『道楽者:ケーロット』【第三節 虹の滝】だ。このような御伽噺を集めている者は少ないだろう。一般的に見たら価値のない古本だが俺からすれば喉から手が出るほど欲しい本だ。


「そうだな、俺の持ってる金全てを使うほどの価値だな。」

「ほう。」

「俺にはそのぐらいの価値のある本に見える。」

「そうか、俺は何歳に見える?」

「そうだな、人で数えた方が良いか?」

「!?」


 明らかな動揺を見せた。


「初老を装ってる魔人と言ったところか。うまく擬態しているな。」

「まさか、見破られるとは。いいだろう、この本くれてやる。」

「いいのか?」

「あぁ。今この瞬間をもって俺の役目は終わった。」

「よく分からないが、良いのならばありがたく頂戴する。じゃあな。」

「おい、いいのか?」

「何がだ?」

「人ではない生き物が街にいるのだぞ?」

「なんだ?死にたいのか?」

「いや、そうじゃ無くてな...。」

「俺は気にしない。待ち人がいるんでな失礼する。」

「そうか、俺はモルッツェ、500年生きた魔人だ。」

「俺はクロナ。では。」


 探していたものも手に入ったのでそろそろ片付いたであろうあの家に戻ることにした。

店から離れる時、小さな声で「とんでもない化け物もいたもんだ...。」なんて聞こえたが、気のせいだろうか。


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